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虚幻のディアノイア  作者: 神宮寺飛鳥
第三章『女王の神剣』
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勇者の資格の日(1)


全て燃えてしまった――。

全て朽ち果て、全てが殺された。何もかもがなくなってしまった世界の中、少年は一人で歩いていた。

心の中に渦巻いていたのは後悔の念。ただ一人、生き残ってしまった自分への。そしてもう一人、生き残らせてしまった彼女への。

炎の街を一人で走りぬけた。彼がその破壊を免れたのは単なる偶然だった。そう、普段ならありえないような行動の先に不幸が続いた、なんてことは無いただの偶然――。

そうしたものを運命だったのだと定義するのならば、それは紛れも無い運命の結果だった。そのどうしようもない二文字の宿命に準え、彼の世界は燃え落ちた。


「親父……! お袋っ!!」


燃える我が家の扉を開けば、そこには無残に食い荒らされた両親の姿がある。それはもう判っていたはずなのに、信じたくはなかった。

戦争中だから、どんなことがあるかわからない。だから、毎日後悔しないで生きていけるように頑張ろう――。それは、彼の父の言葉だった。母はそんな父を信じ、決して裕福ではなかったものの、幸せな暮らしが続いていた。

戦争の足音は遠く、まだ聞こえなかった。だからそれはまるで遠い世界の出来事のようで現実味もなかった。だが、確かにそれは近づいていたのだ。誰にも気づかれない速さで。

父は母を守るようにして抱きしめて死んでいた。首から上はなかった。両足もなかった。ただ二つの腕がせめて彼女だけはと守ろうとした事を物語っていた。なのに、結局首から上を一緒に貪られ、あっけなく命は尽きてしまった。

炎の中、後退する少年。認めたくない現実の中、振り返ったそこには巨大な魔物が立っていた。魔物は少年を捕らえようと腕を伸ばし、弾かれるようにして少年は駆け出した。

まだここで死ぬわけには行かない。まだ死んではいけない。この景色を見せてはいけない。だから走らなければいけない。止まってはいけない。いけない。いけない。

何度も言い聞かせる言葉もむなしく、張り裂けそうな心臓の音さえ凍り付く。周囲をぐるりと取り囲んだのは魔物の群れだった。どこにも逃げられない。そう認識した瞬間、少年は転がっていた棒切れを手にした。

戦うつもりだった。そんなことが無理だということは良くわかっていた。それでも戦うつもりだった。守る為には戦わねばならない事もあると、父は言っていたから。

それを実行して死んだ父に、ここで逃げ出す姿を見せたくはなかった。泣き喚いて不幸を叫び、それで無様に死んでいく様など、絶対に見せたくはなかったのだ。


「――よお、ぼうず。その数の魔物を相手に一人で大立ち回りか? カッチョイ〜じゃねえか。だが、そいつは待った、だ」


声は上から聞こえた。頭上を見上げ、少年は目を見開いた。

舞い降りてくる男は白いマントを棚引かせ、巨大な剣を片手に降り立つ。ふわりと舞うその白の色彩は翼にようにさえ見える。少年は、そう……『お迎え』が来たのだと思った程に。

しかし男は巨大な剣を肩に乗せ、少年の頭をぐりぐり撫でて笑う。そうして言うのだ。まるで冗談のように。


「お前が今から村の仇討ちしようってえのに、邪魔して悪いな。だが、ここは俺に譲ってくれよ――な?」


少年が見つめる大剣の刀身に紋章が浮かび上がる。その輝きを片手に男は目にも留まらぬ速さで駆け出した。

一瞬で魔物を両断する力、返り血一つ浴びない優雅さ、そして何よりも――戦いの中で尚、その男は笑顔を絶やさなかった。

全ては瞬く間。数十匹の魔物を切り伏せ、何て事は無い、少し道端に転がっていた石が邪魔だったから蹴ってどかした程度の態度で。男は魔物を皆殺しにして少年の前に片膝を着いた。


「後は任せときな、チビッコ英雄さん。残りの魔物は――おっさんの手下がぶっ飛ばしてやっから」


「誰が手下ですか、フェイト……。僕は貴方の手下になった覚えは無い。パーティーに上下関係などあるものか」


少年の背後、ぞろぞろと現れる数人の仲間たち。黒い剣を持った青年が白い剣の青年と並び、少年の前に立つ。


「生存者か……」


「ああ。ゲインはフェンリルと鶴来を連れて左から殲滅してくれ。俺はソウルと右から行く。おーい、そこの見習い騎士ー」


男の声に呼ばれて走ってきたのは槍を手にした子供の騎士だった。まさに見習いと行った様子で、騎士は少年の傍に立つ。


「お前の担当はこいつな。無闇に動かずここで待機。すぐ行って戻ってくっから、ちょっくら待っててくれ」


「了解です、フェイトさん」


少年はその男が何者なのかを理解していた。少年の前に立ち、炎の海へと歩みを進めて行く者達。勇者とその仲間、通称勇者部隊ブレイブクラン――。

だから、勇者に憧れた。その白い剣を自らも担える存在になりたかった。それが実現できない夢だったとしても。

ならばせめてそれを守る英雄になりたかった。その剣と共にありたかった。例えそれが、どんな方法だったとしても――。



⇒勇者の資格の日(1)



「……つつ、流石に一人で救世主相手は辛いもんがあったな……」


電撃を受け、焼け焦げたホームの中でアクセルは立ち上がった。既に秋斗の姿はどこにもない。ただ、増援部隊が彼を追いかけて行った事だけは確かであり、その点で言えばアクセルは充分に役目を果たしたと言える。

傷だらけの身体で剣を風で手繰り寄せ、纏めて鞘に収める。そんなアクセルの背後から執行者の装備で身を固めたレンが駆け寄った。


「大丈夫!? お兄ちゃん、いくらなんでも一人では無茶よ!」


「レンか。あー、そうらしかったな……。流石は『原典』を奪取した賊だ。伊達に一年間も聖騎士団から逃げ切ってるわけじゃねえな」


アクセルの傷を回復魔法で癒しながらレンは仮面を外す。傷だらけの兄の横顔はもう遠いどこかを見ていて、自分の事など見ていないように思えた。


「そうだ……。お兄ちゃん、アイオーン・ケイオスとリリア・ライトフィールドが拘束されました。それと状況説明の為に救世主様も……」


「オルヴェンブルムに連衡されたのか!? アイオーンは兎も角、どうしてリリアちゃんが……」


「時間がないので私はもう行きます。アリア姫が、例の救世主一派に拉致されたんです」


「……さっきの救世主の仲間か……。原典の次はアリア姫……狙いはなんなんだか。わかった、気をつけて行けよ」


レンは頷き、仮面をつけて走り去る。疲れた身体で溜息を漏らし、アクセルは駅の線路の向こうに広がるトンネルの闇を見つめてた。



ヨト信仰はクィリアダリアにとってただの国教では無く、政治にも深く根差している物だ。

正規軍である聖騎士団もヨト信仰の信者で構成され、特にリア・テイルの城の中は信者以外は基本立ち入り禁止されているほどである。

女王が統治する国家であると同時に、裏側から国に強力な影響力を持つ組織が存在する。それが通称『大聖堂』――。聖騎士よりも上位の存在、聖堂騎士によって構成される組織であり、少数精鋭の特殊戦闘能力を持つ。

聖騎士団が正規軍であるならば、聖堂騎士はそれらの上位に存在する特殊階級であり、厳密には軍ではない。聖騎士団とは異なり、国の為だけではなく世界で延々と続く太古からの神話を伝承する存在である。

女王以上に国に影響力を持つ元老院をトップに、その元老院により著しくヨト教に対する貢献度の高い騎士を聖堂騎士とし、その中でも図抜けた能力を持つ存在は大聖堂騎士となる。

それは一応話には聞いていた。だがそれはややこしい政治の世界や宗教的な問題であって俺には関係のないことなのだと考えていた。そう、今日この時までは……。

大聖堂専用列車の一室。窓には鉄格子が付き、部屋そのものが封印素材で組まれた特殊な運送車輌の中、俺とアイオーンは手錠をつけられたまま向かい合っていた。列車の中で向かい合うのはこれで二度目だが、一度目とは様子が違いすぎる。


「君とデートをする予定がとんでもない事になってしまったね」


「……そんな暢気な事言ってる場合か? 問答無用で捕まっちまったんだぞ……?」


「そのようだね」


「あのなあ……。ていうか、どうして俺まで……」


「ふふ、それはまあ……色々あるんだろうさ。ただ、ボクはこれで良かったのだと思うよ」


「……どういう意味だ?」


微笑を浮かべたまま目を閉じるアイオーン。俺の質問には答えない。

アイオーンは先のオルヴェンブルム攻防戦で敵側についていたかも知れないという容疑がかけられている。だが、俺は一応救世主だ。救世主を問答無用で手錠つけて連衡するっていうのは、ちょっとどうなんだろう。

考えても仕方が無い。一緒に連れて行ってくれるのならばアイオーンについても弁解が出来るかもしれないし……そういう事ならこっちもついていく意味はある。結局連れて行かせないようにしようとしたのに、アイオーンは滅多に俺の前に姿を表さなくて一緒になんていられなかったし……。


「……悪かったなアイオーン。結局こういう事になって」


「いや、構わないよ。一応こういう約束にはなっていたしね……こっちの話だけれども」


「……何か怒ってます?」


「怒ってはいないさ。君にもなにやら色々あったらしいことはボクも聞いているからね」


やっぱり怒ってんじゃねえか。はあ……。まあいいや、兎に角話は大聖堂についてからだ。

列車に揺られる事数時間。辿り着いたオルヴェンブルムの駅で執行者たちに連行される俺たち。何となくぼんやりと振り返ると、何故か別の車輌からリリアも連れ出されてきたではないか。

それをリリアだと判断したのは隣に立つ執行者が聖剣を手にしていたからであり、リリアは全身を黒い縄のようなもので縛られ、顔には布を当てられて居た。俺たちよりも余程酷い拘束具合に歯向かいたくなったが、そんな馬鹿を出来る状況でもない。


「冷静になったらどうだい、夏流。問題はまだこれからなんだからね」


「……くそ、なんでリリアまで……」


ここまでくると流石になんだかおかしい気がしてくる。アイオーンの件だけでは俺もリリアも捕まるわけがないんだ。なら理由は他にあるはず――。

ヨツンヘイム大聖堂――それは、オルヴェンブルムの街の中に聳えたつ巨大な教会である。リア・テイルよりは大分小さいものの、そこらへんの城にだったら負けない巨大さだ。前回オルヴェンブルムに来た時には中に入ることはなかったが、俺たちはそこに連衡されていった。

中は聖堂というよりは正に城である。その城を地下へ地下へと進まされ、三人とも同じ部屋に連れて行かれた。それは地下にある礼拝堂で、闇の中に松明の光が頼りなく揺らいでいる。俺たちの正面、奥には一人の神官が立っており、俺たちの元へと歩み寄ってきた。


「良く来ましたね、救世主ナツル」


「……誰だ、あんた?」


「これは申し遅れを……。私は大神官ハムラビ……大聖堂元老院の一人です」


初老の男だった。白髪交じりの金髪をオールバックに固め、眼鏡の向こうから胡散臭い視線がこちらをのぞきこんでいる。それを胡散臭いと感じるのは、今こうして自分がわけもわからず拘束されているからなのか。

男を睨み返していると、男はリリアを見つめて目を細めた。軽く手を挙げてハムラビが合図をすれば執行者たちがリリアの顔の布を取り払う。


「今回君達を呼びたてたのは、実は私の個人的な判断であり、大聖堂全体の意向ではない……。まずはその事を肝に銘じてほしい」


「個人的な意向で俺たち三人をしょっ引いたわけか」


「そうなるでしょう。ですがこれは神が与えた君たちへの希望でもあるのです……。勇者リリアよ、顔を上げなさい」


わけのわからない状況にリリアは完全に戸惑っていた。冷や汗を浮かべながら顔を上げたリリアに対し、ハムラビは聖書を片手に問い掛ける。


「私はこんな噂を耳にしました。『勇者リリアの中には、魔王ロギアが宿っている』、と――」


絶句した。一体どこからその話が漏れたのか。あの場には勇者部隊しか居なかったはず。その勇者部隊の中でも、魔王の話を知っているのは俺だけのはずだ。

俺は誰にも口にはしていない。ましてや大聖堂になんて報告するわけもない。しかしリリアは驚いた様子で俺を見つめた。そう、彼女だって判っているはずだ。ロギアの話を聞いているのは、俺しかいないのだという事を――。


「嘘偽りなく答えなさい。リリア・ライトフィールド……貴方はその身に魔王を宿す存在なのですか?」


揺れる瞳でリリアは考え込んでいた。唇を噛み締め、それから声もなく小さく頷く。リリアは嘘をつかなかった。嘘は付かない代わりに、自ら夢を手放そうとしていた。


「ちょっと待てっ!! 何を根拠にそんな話をしているんだ!? 勇者の中に魔王が入ってるなんて、そんな馬鹿みたいな話あるかっ!!」


「証拠はありませんが、洗礼の儀式を行えば邪悪な存在が憑依しているかどうかは判別出来るでしょう。ただし、密接な癒着関係にある物を取り払うには、彼女に強い負担をかけることになるでしょうが」


こいつ……何を言いたい? 何が目的なのか? 個人的な意向? 救い? いや、ロギアの話をどこから聞いたんだ。どうして俺をここにつれてきた……?


「悲しいことですが、魔王の存在はこの世界に在っては成らない物。それを宿すとなれば勇者は愚か、処刑されるのも必然でしょう」


「何だと……!?」


「ですが安心なさい。先ほども言ったように、私は個人的な意向で君たちを呼んだのです。リリア・ライトフィールドに救いを与える為に……」


首を傾げる。リリアを救う? 神官がか? いや、そんな事はどうでもいい。今はこいつの言うとおりにするしかない。ロギアの話が発覚すれば、リリアはそれで……お終いなのだから。


「この噂を払拭する為には、リリア・ライトフィールドが大聖堂からの信頼を得る事が必須です。つまり君たちには大聖堂の抱える幾つかの問題を解決していただきたいのです」


「問題……?」


「ええ。本当は別件で君たちの力を借りるつもりだったのですが――実はお忍びでシャングリラに出かけていたアリア・ウトピシュトナ様が賊に拉致されたとの事。君たちにはその奪還をお願いしたい」


「アリアが拉致!? 騎士が護衛についてたんじゃなかったのか!?」


「所詮は末端の聖騎士という事でしょう……。救世主ナツル、君はアイオーンを連れて賊を追うのです。君の貢献によっては、この話をここだけに留めても構いません」


つまり、リリアの事を黙っててやるから大聖堂の為にアリアを奪い返せということか。まるきり脅されているようなものだが、内容には文句はない。アリアが拉致られたなら助けるのは別に当然だし、それでリリアが救われるなら文句はない。

その条件そのものに全く文句はないのだが……脅されて、というのが何ともスッキリしない気分だ。だがそれでリリアが守れるなら、俺は……。


「ただし、リリア・ライトフィールドは君たちが無事にアリア様を連れ戻るまで、大聖堂の地下封印室に拘束します」


「何!?」


「まずは貴方たちがリリアをどれだけ信頼しているのかを見せてもらいましょう。それにリリアをそのまま放置するわけには行きません。魔王を宿す以上、彼女の身体を調べる必要があります」


「く……っ」


確かにその通りだ。大聖堂で調べてもらえるのならばそれ以上の場所もないだろう。だが、だからといってリリアをこんなところに一人でおいていくのか……。


「それに大聖堂の術を以ってすれば、その穢れた魂を浄化する方法も見つかるやもしれない」


「……しかし……」


「わかりました。リリア、ここに残ります」


俺とアイオーンがリリアへ視線を向けるも彼女はじっと神官の背後にある十字架を眺めていた。すっと目を細め、それから静かに立ち上がる。


「私を封印室へ」


「お、おい! リリア……!」


「これでいいんです。リリアは……リリアは、師匠のこと、信じてますから。だから……ちょっとだけ、お留守番してますから」


「リリア……」


話は纏まってしまった。しかし、リリアはきっと不安で仕方が無かったに違いない。こんな薄暗いじめじめした地下に押し込められ、魔王を調べられるという。それは彼女の内面そのものを覗き込まれる事に他ならない。それに付け加え、『誰がこの話を大聖堂に持ち込んだのか』という疑念も晴れては居ない。

それも含めてリリアは俺に言ったのだ。信じている、と。待っている、と。だから俺はもうとやかく言うべきではなかった。リリアは邪悪な存在なんかじゃない。だから俺は――彼女の善性を証明してみせる。


「……わかった。俺はアリアを拉致した奴らを追う。それで、アイオーンは?」


「彼女にかけられている嫌疑も、この行いで払拭出来るでしょう。アイオーン・ケイオス……いいですね? 貴方もクィリアダリアの為に働くのです。そう、昔のように」


アイオーンは全く答えなかった。ただ一度だけ俺に視線を送り、それから諦めるように肩を落とした。

こうして行きは三人で潜ったはずの大聖堂の門をアイオーンと二人で潜る。既に夜の闇が世界を支配していて、手首にまとわり付いた手錠の感触だけが奇妙なほどにはっきりと色づいていた。

外に出てしばらく街を歩くとアイオーンは立ち止まり、じっと俺の顔を覗き込んできた。何事かと思い首を傾げると、俺と同じようにアイオーンも自らの手首をぎゅっと握り締めていた。だがしかしそれは俺のように慣れない手錠の感触に違和感を覚えているのではなく、何かもっと違う……大きな見えないものに苛まれているかのようだった。

それがなんであるかはうまく表現出来ないが、しかし普段のアイオーンとも、ユーフォリアでピアノを弾く彼女ともその様子は異なっていた。その様子をじっと見詰めていると、アイオーンは深呼吸を一つついてそれから普段どおりの表情に戻った。


「魔王ロギアとリリアの関係性……ついに大聖堂にもバレてしまったか」


「……って、お前それを知ってたのか!?」


「大分昔からね……。まあ、色々とあるんだよ。ちなみに報告したのはボクじゃあない。もっと別のルートさ」


そりゃそうだろう。アイオーンはリリアの中のロギアが表に出てきたかどうかさえその場に居なかったのだから知らないはずだ。何故今このタイミングでロギアの情報が外に漏れ出したのかは謎だが、今は一先ず拉致されたアリア姫の救出に専念しなければ。一刻も早く街に戻り、リリアを牢獄から出してやる為にも……。


「くそ、楽しいはずの学園祭がとんでもない事になりやがった……」


「……まあ、そういう時期だったのだろうね。心配せずとも今回はボクも力を貸す……任務は直ぐに終わるさ」


「そうだな……アイオーンが居れば百人力だ。って、そういえばさっきの神官とあんた、知り合いだったのか? 何かそんな感じだったが……」


「知り合い……まあ、そんな所か。さて、とりあえずは明日の出発に備えよう」


その時アイオーンはまた見た事の無い表情を浮かべた。普段から笑顔を絶やさない、不気味ではあるものの笑っているはずのアイオーン。それが一瞬だけ見せた、本当に背筋も凍り付くような視線――。

疑念は払拭できないがそれでも今は構っている余裕はない。そうして二人で歩いていると、正面からいくつか見覚えのある顔が走ってくるのが見えた。


「ブレイド……それに、メリーベルとゲルトか」


三人と合流すると、慌てた様子でゲルトとブレイドが同時に話しかけてきた。わけがわからないのでとりあえず落ち着かせ、一人ずつ話を聞く事にする。


「ニーチャン! アリアが誘拐されたってホントか!?」


「ああ。明日、追撃隊が出る。俺とアイオーンの他、何名か騎士と執行者が同行するらしい」


「リリアは……!? 彼女はどこに!?」


「……大聖堂地下封印室だ。色々と事情がややこしくてな……」


リリアの中に魔王が居る事を他のメンバーは知らないのだ。だから最も肝心な理由を語る事が出来ない。それを口にしないままゲルトに説明するのは至難の業……。兎に角俺は力押しでゲルトを説得した。


「とにかく、アリアを救出出来ればリリアは解放されるはずだ。だから俺たちが奪い返してくる」


「では、わたしも同行しますっ!」


「駄目だ! お前、自分がどういう状態なのか分かって無いだろ!? 執行者も同行するんだ、リリアが助けられてもお前が捕まったんじゃ意味ないだろ!!」


「ですが……っ!!」


「勇者のネーチャンはシャングリラで待ってろよ。代わりにおいらが一緒に行く」


ゲルトを押しのけて前に出たブレイド。その表情はいつに無く真剣だった。


「アリアは知らない仲じゃないし、いずれはブレイド盗賊団の団員になるかもしれないヤツなんだ。仲間をほっとくわけにはいかない……。ニーチャンだったら一人くらい増援として連れて行っても問題ないだろ?」


「まあ、一人くらいなら問題ないか……事情も話せないぞ?」


「理由なんて関係ない! それでリリアのネーチャンもアリアも助かるんなら全然構わない!」


随分と熱くなっている様子のブレイド。振り返ってアイオーンに視線で問い掛けると、


「腕は保障するよ。もしかしたらこの子は――君よりも強いかもしれないからね」


「マジか……?」


そういえばブレイドはアイオーンに次ぐ学園の実力者だったはず。あまりその能力の全容がわかっていないだけに正直計りかねている部分はあるが――アイオーンのお墨付きなら戦闘力は問題ないか。それに何より友達を助けたいといっているんだ、わざわざオルヴェンブルムまで追ってきたのを無下に追い返すのも心苦しい、か。


「わかった。ブレイドはパーティーに入れ。ゲルトはシャングリラに戻るんだ。メリーベル、後頼む」


「で、でも……っ」


「俺たちを信じてくれ、ゲルト。リリアが戻ってきてもお前がいなかったらリリアは同じ事をするぞ。それじゃどっちも助からないだろうが……」


ゲルトの肩を叩き、じっと瞳を覗き込む。しばらくすると諦めてくれたのか、ゲルトは小さく頷いてメリーベルの隣に下がった。


「ナツル……。リリアの事を御願します」


「任せてくれ。メリーベル、悪いな」


「ん、構わない。シャングリラじゃ手に入らない買い物でもして悠々自適に帰るから」


余裕な様子で頷くメリーベル。本当にありがたい性格をしている。さて、あとは……ゲルトの期待を裏切らない為にもアリアを奪還しなければ。


「出発は明朝だ。各員装備の確認、準備を怠るな。状況がややこしいが、一応勇者部隊ブレイブクランとして行動する」


「あいよ、ニーチャン! 一緒にまた頑張ろうぜ!」


ブレイドと拳をあわせる。その間もアイオーンは遠い空を眺め、夜の星に明日を映して憂鬱そうに溜息を漏らしていた。

そしてそのアイオーンが見ていた未来の憂鬱の意味を、俺は直ぐに思い知らされる事になるのであった――。


〜ディアノイア劇場〜


*いよいよ後半に突入するのか編*


夏流「あー……。もう半分かー」


リリア「え? どうかしたんですか? アンケートで二十票連打されてゲルトちゃんに追いつきつつある本城夏流さん?」


夏流「おま……なにその完璧な発音……。『本城夏流』って言えないから馬鹿っぽく『なつるさーん』って言ってたんじゃないのか?」


リリア「そんな事はどうでもいいんですよ師匠! もう五十部なんでーすよーうっ!!」


夏流「……え? こないだ四十部とか言ってなかったっけ?」


リリア「……まあ、五十部っていってもこのペースだと一週間ちょっとで十部更新されるから別にめでたくはないんですけどね」


夏流「はあ。これでさ、週一回とかの更新なら感動も一入なんだろうなあ」


リリア「……そうですねえ。何はともあれ、今日は師匠とがっつり朝までおこたつトークをするのですよ。師匠はどうやってコタツ入りますか? リリアは中までもぐるのが大好きなのですよー」


夏流「俺はコタツには普通に入るから。あと潜って相手の所に顔出したりするのは小学生だけにしろ」


リリア「と、いうわけで。もう二月ですよ〜(連載当時)。前半のおさらい的に何かまとめ話でもしますか?」


夏流「そうだなー……。今思ったんだが、全然話進んでないよな」


リリア「……言われて見るとそうですね。ほんとちまちまペースですね」


夏流「このペースでやっててもこんなに進まないと、一体どうすれば纏まるのか気が遠くなってくるな」


リリア「てか、ディアノイア劇場でやることがあんまりなくなってきましたよね。技とかキャラとかあんまりホイホイ増えないし、ある程度纏まらないと発表しないし」


夏流「そうだなー……。なんかアンケートに増やすか」


リリア「ディアノイア劇場のネタ募集ですか?」


夏流「んー……気が向いたらね。しかしこんなに続くとも、こんなハイペースで進むとも思わなかったな」


リリア「読者数が上がってきたり感想もらえるとやる気出ますもんね〜。単純にキルシュヴァッサーの四倍くらいの読者数なわけでー」


夏流「ファンタジーは恐ろしいものだな、リリアさん」


リリア「そうですねー」


(お茶を飲む二人)


リリア「もうここ無計画で書いてるからほんとめっちゃくちゃですね」


夏流「いいんだよどうせ本編も滅茶苦茶だからな、うん。しかし真面目になんか新しい取り組みを考えないとディアノイア劇場つぶれるな」


リリア「『れーばてっ!』とか」


夏流「それ誰もわかんないと思うぞ」


リリア「あ、ここでTRPG化するとか!」


夏流「見づらいことこの上ないな」


リリア「じゃあブログ化!」


夏流「そこまでマメに更新しないだろ」


リリア「うぅ……じゃあ師匠がネタ提案してくださいよー」


夏流「そうだな……。読書会……」


リリア「歯ぁ食いしばれ?」


夏流「……。お前そういうこと言ってるから人気無いんじゃねえの?」


リリア「はう!? へ、へこたれるー……。師匠の心無い一言でリリアは深く傷ついたのですよーう……」


夏流「まあそれは兎も角、ディアノイアも五十部だ。これも全ては見てくれている人のお陰だな」


リリア「夜中に見に来てる人がすごく多いのがビックリですよね。まあ更新いつも夜中ですけど」


夏流「学生の皆さんも社会人の皆さんも寝坊には気をつけてください」


リリア「開始直後と比べると全体的にキャラも変わってきましたよねー」


夏流「多分一番変わったのはリリアとゲルトだろうな。まあそういう話なんだけどさ」


リリア「そういえばゲルトちゃん可愛いですよね〜! ゲルトちゃんって虐めたくなるのはリリアだけですか?」


夏流「そういうさり気無くSな所をスラっと見せるから不人気なんじゃないか?」


リリア「不人気っていうな! うう、へ、へこたれるー……」


夏流「リリアは犬だが、ゲルトはうさぎって感じだな」


リリア「う? それは師匠の使い魔ってことですか?」


夏流「そうじゃないけどそんなようなもんなのか……」


リリア「うー。結局真面目な話しなかったですね」


夏流「……いやさ、結局コタツでダベってるとこうならないか?」


リリア「…………なる」


夏流「そんなわけで、ネタ急募です」


リリア「アンケートの下のほーに増やしておくかもなので、お暇な方は協力おねがいしまーす」


夏流「……毎度オチてねえな、このコーナー」


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