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虚幻のディアノイア  作者: 神宮寺飛鳥
第三章『女王の神剣』
43/126

学園祭の日(3)


「アイオーン・ケイオスですね? 申し訳ありませんが、少々お話を伺いたいのですが」


シャングリラの町を一人歩くアイオーン。上着のポケットに両手を突っ込んだまま振り返り、声の主を見つめる。

そこに立っていたのは小柄な少女だった。少女であるという判断の由来はその体格と声であり、顔は仮面で覆われている。境界の特殊礼服に身を包んだ少女はアイオーンに歩み寄り、胸から提げた特殊な十字架を掲げる。


「用件は言わずともお分かりでしょう。先のオルヴェンブルム攻防戦時、貴方がどこで何をしていたのか知りたいのです」


「――執行者、か。ボクはずっとこの街に居たよ。どこにだって行ってはいない」


「それを証明出来る人間はいますか?」


アイオーンは答えなかった。正直に言えば、アリバイならば存在する。彼女は毎日ユーフォニウムに出入りしていたのだ。夜だけとは言え、オルヴェンブルムは日帰りで戻ってこられるような距離には存在しない。充分なアリバイと成る事を承知の上でアイオーンは黙り続ける。

何故か? シンプルな事である。既に教会が自分を捕らえる目的でやって来ている事を彼女は理解していた。最初から事情を聞くつもりなどないのだ。そうである以上、『証拠がある』といえば執行者はその『証拠』を消しにかかる。大聖堂執行者とはそういう存在なのだ。

溜息を漏らし、目を閉じるアイオーン。その正面、少女は両手に短剣を構え、アイオーンへと歩み寄る。赤髪の女は顔を上げ、手を翳す。


「大人しく大聖堂に連衡されなさい。さすれば神の恩赦が与えられる事でしょう」


「この世界の神にまともなものなんていないんだよ。その事実なら、この身が証明出来る」


拒絶と見なし、少女は片手を上げる。同時に周囲から同様の服装の執行者が飛び出し、アイオーンへと襲い掛かった。

それを特に何をするでもなく、腕を組んだまま待つアイオーン。切りかかった執行者全員が同時に空中で弾き飛ばされ、道端に転がった。

何をされたのかは誰にも理解出来なかった。上着の胸ポケットから煙草を取り出し、火をつける。余裕の態度で煙を吐き出すアイオーンに執行者たちは一度後退し、隊列を整える。

人だらけの学園祭に浮かれた街の中、ぽっかりと彼女たちを避けるように空間が開かれる。人目だらけの中、執行者たちはじっとアイオーンを見つめていた。


「急がなくとも良いだろう? 学園祭は長いんだ。ボクも今すぐ連れて行かれるわけには行かなくてね――。約束を交わしてしまったんだ。そうである以上、それを果たすまでこの町を去るわけには行かない」


「……それは大聖堂に歯向かうという意味ですか?」


「最初から大聖堂に頭を垂れた覚えはないよ。立ち去るなら、この身は残り二つの朝を越えればお約束しよう。しかし今事を構えるのであれば、無限の術式がお相手する」


「――『龍殺し』、アイオーン。いいでしょう。貴方の過去の大聖堂への貢献に免じて一時の猶予を与えます。ただし、学園祭最終日の夕暮れまでには確実に」


「心得たよ、小さな執行者君。何、こう見えても――約束は守る女だよ、ボクは」


目を細め、ゆっくりと笑うアイオーン。その不適な笑顔に執行者たちは息を呑み、街中へと姿を消して行く。

それを見送り、アイオーンは寂しげに微笑んだ。心の中、どうでもいいと思っていた少年との約束を果たそうとしている自分が酷く馬鹿馬鹿しかった。



⇒学園祭の日(3)



『さぁ〜〜やってまいりました!! 英雄学園ディアノイア学園祭恒例行事、チームマッチバトル〜〜ッ!! 何だか最近ずっと実況していなかった気がするのですが、実況はお馴染み……? わたくしマイクが勤めさせていただきますっ!!』


青空を花火が彩る中、歓声に包まれた超満員の闘技場は盛り上がりに盛り上がっていた。

ディアノイア闘技場での試合は基本的に一対一であるのがルール。そのルールを破って戦う事が出来る変則的なマッチバトルが学園祭では許されており、通常のランクを超えた真剣勝負が一つの見せ所となっていた。

闘技場は普段から解放された娯楽として人気があり、今日はそのシャングリラ名物でも在る闘技場でイベントがあるとなり、席は満席、立ち見は当然と言った大盛況を見せている。

そんな中、大会に参加する事になった生徒たちはフィールドの前に並んでいた。やたらと意気込むアクセルと聖剣を握り締めて何やら笑っているリリアが夏流に視線を送っていたが、本人は知らず存ぜずを通すつもりで無視を決め込んでいた。


『ルールは簡単っ!! 時間無制限のトーナメントバトル!! ただし! 仲間の内片方だけでもやられてしまえば敗北となるので注意が必要です! それ以外に特に特殊なルールは存在しませんっ!!』


「……は、始まってしまった……」


「そう肩を落とさずとも……。こう成った以上は勝ちに行きましょう。目指すは優勝ですよ、ナツル」


「どうしてそんなにやる気なんだ? アクセルは兎も角、リインフォースで武装してるリリアはヘタしたら障壁ぶち抜いて殺されるんだぞ……?」


「リリアはそんな事をする子ではありません! わたしは……リリアを信じていますから」


純粋な眼差しで夏流に微笑むゲルト。しかし夏流にはそんなゲルトの言葉はどうにも信用出来そうになかった。

肩を並べて立つ二人の様子にさらにリリアとアクセルが不機嫌になっているのだが、夏流はそれに気づいていない。冷や汗を流しながら肩を落とし続ける夏流と気合を入れるゲルト。対照的な二人を他所に大会は進んでイク。

結局アイオーンを見つける事は出来なかった彼にとって、とにかくこの予定を切り抜けなければ他の予定がどうにもならない。なんとしても生存しなければならないのだ。


「ていうか、トーナメントならキリのいいところで負けておけばいいんじゃ……」


「わざと負けるなど勇者の恥です! そんな事をするくらいなら、自殺します!」


「……そうか、そういえば、ゲルトはこういうやつだったんだ……。誘うならメリーベルあたりにしておくべきだった……」


「片方が敗北すればそれでアウトなのですから、気合を入れてもらわねば困ります……聞いているんですか?」


「わかってる、わかってるから……くそう、もうやるしかねぇ」


真面目な表情で夏流に語りかけるゲルト。自分自身を鼓舞し、何とか戦いにやる気を見出してみる。

しかし、不毛極まりない争いである事に夏流は気づいてしまっていた。涙を流しながら笑う夏流の正面、マイクが声を上げる。


『それでは、今回の大会開催に当たってアルセリア学園長と、戦闘系学科の教師であるソウル先生から一言ずつお言葉を頂戴します! どうぞ!!』


『お前らあああああっ!! ディアノイア最強が誰なのか知りたいか――ッ!?』


「「 うおおおおおおっ!! 」」


『お前らあああああっ!! 普段では実現できない夢のタッグマッチの結末が知りたいか――ッ!?』


「「 うおおおおおおっ!! 」」


『お前らあああああ……もう後は特にいう事はないが、うおおおおおっ!!』


「「 うおおおおおおっ!! 」」


盛り上がっているのはリリアもアクセルも他の参加者も同じだった。まさかとは思い隣を見ると、ゲルトも無邪気に笑いながら手を挙げている。それをじっと冷めた視線で見つめていると、ゲルトはすぐに手を引っ込めた。

夏流の視線を受け、ゲルトは咳払いする。二人がそうして黙っているうちにソウルの挨拶は終了し、マイクは学園長へと手渡された。


『お集まりの皆さん、こんにちは。学園長のアルセリアです。まずは無事、学園祭を開催する事が出来た事に感謝します。これも全ては生徒有志の活動であり、学園側はほぼ全く関与しておりません。生徒の皆さんが自分で努力して生み出したこの忘れられない一瞬一瞬を、どうか胸に刻み楽しんでください』


学園長の真面目な言葉に会場が静まり返る。アルセリアはマイクを手放すと、どこからかトランプを取り出し、声を上げた。


「では、記念にマジックをします」


「「「 え 」」」


突然の出来事に誰もが静まり返る。しかし当の本人は至極真剣である。アルセリアの甲冑から魔力があふれ出し、その閃光は会場を明るく照らし上げる。

手にした小さなトランプを顔の前に掲げるアルセリア。そうして自らの兜に手を伸ばし、それを外してトランプを操った。


「口からトランプがー」


「「「 古っ!? 」」」


そして同時に誰もが驚嘆した。アルセリアの甲冑の中身は――何も無かったのである。

直ぐに兜は元に戻ってしまったものの、謎の学園長の甲冑の中身は空――その事実に会場は騒然としていた。それをマジックの感想だと受け取ったアルセリアは満足げに頷いた。


「それでは、怪我に気をつけて意義ある試合を」


一人で去って行くアルセリアを完全に会場は停止して見送っていた。少々戸惑いの空気が流れる中、大会は催される事となった。

ナツルチームとアクセルチームはそれぞれ別の試合を展開する。彼らの前に立ち塞がれる敵は存在せず、両チーム共に圧倒的な力で試合を制して行った。

そんな中、夏流は常にゲルトの様子を気にかけていた。魔剣の冴えは戻りつつある。忘れかけていた勇者としての力を思い出すように戦うゲルトだったが、呪いの事もあり心配は耐えない。

夏流の心配はどうあれ、ゲルトは一戦一戦、自らの身体を蝕む呪いについて考えながら戦っていた。確かに感じ取れる事は、魔力総量は以前より上がっているという事。しかしコントロールは難しくなり、今は魔剣を扱うのがやっとである。

呼吸を落ち着け、冷静に戦う。それさえ出来れば以前と同じように戦う事が出来る。魔力を出来る限り消費しないようにというメリーベルの忠告も、今の彼女の心には届かなかった。


「大丈夫か?」


「問題はありません。以前より調子がいいくらいです」


「……ヤバくなったら言うんだぞ? 無理だけはするな」


「……貴方はわたしの保護者ですか? 言われなくてもそんな事はわかっています! 貴方こそ、自分の身を案じたらどうですか?」


強気なゲルトの笑顔に肩を竦める夏流。二人は順調にその後も勝ち進み、そして戦いは運命の時を迎える。

リリアVSゲルト、そしてアクセルVS夏流の様相は激化を極める。聖剣と魔剣がうなりを上げ、会場に風が吹き荒れる。


『さあ!! 本大会一番の注目試合となっております今回の戦い!! 言わずもがな、ゲルト・シュヴァインは闘技場では名を馳せた黒の勇者! 対するリリア・ライトフィールドは以前は『へこたれ勇者』の名称で馬鹿にされていたノーマーク選手! しかし今回の試合は予想外に面白い展開になってきている――ッ!!』


黒白の勇者、黒白の大剣が上下から激突する。その暴風は大気を切り裂き、溢れる魔力は光の帯となって衝突面から溢れ舞う。

揺れ動く二つの刃を突き合わせ、二人は真剣な眼差しで相手を瞳に映していた。二人には最早互いの姿しか目には映っては居ない。透明な世界の中、水しぶきを上げながら二人は湖面で踊る。


「……ゲルトちゃんは、師匠の味方をするつもりなの!?」


「そういう事ではありません! あんな男、わたしにとってはどうでもいい!」


「嘘ばっか! ゲルトちゃん……師匠の事実は好きなんでしょ?」


ゲルトの剣が押し返され、黒の勇者が弾かれる。それはリリアの突然の発言に同様した為のもの。魔力制御を失いふらつく身体に剣を回転させながら突っ込んでくるリリア。


連続共鳴剣リインフォース・ストラス!」


「くっ!?」


回転するリインフォースは光の渦を巻き上げながらゲルトへ襲い掛かる。何度も連続で繰り返される斬撃。独楽のように回転するリリアの力にやがて耐え切れず、ゲルトは吹き飛ばされて壁目掛けて突っ込んで行く。

結界の障壁に着地したゲルトは空中で術式を構成する。その影から放たれる無数の矢をリインフォースで弾き飛ばし、リリアはにやりと笑った。


「ゲルトちゃん照れてる〜。かわいいなあ、もう〜♪」


「あ、貴方は……っ!! というか、全然好きじゃありませんから!! ふざけているんですか、リリア!」


「悪く思わないでね〜ゲルトちゃん……。リリアはこれから、師匠をとっちめねばならないのですよっ! とあっ!!」


迸る魔力の衝撃を叩き付けるリリア。ゲルトは歯を食いしばり、靡く髪の中リリアを見据えて剣を握り締めていた。


『試合はまさかのリリア・ライトフィールド優勢となっております!! 以前へんてこな試合をした彼女をわたくしも覚えておりますが……いやはや、まるで別人!! 白の勇者恐るべしっ!!』


その事実は誰よりも剣を交えているゲルトが理解していること。そう、リリアは強くなった。これからも強くなるだろう。

それは光の速さで突き抜けて行く衝撃。幼馴染であり、自分を守ろうとした少女であり、そして自分が目指したいと思った幻想点。その勇者は今目の前で自分と真剣に戦ってくれている。その事実がゲルトの中の闘争心を大きく煽るのだ。

さあ、刃を交えて舞い踊れと心が叫ぶ。その魂の衝動は以前よりもずっと強く、そしてこれからももっと強くなるだろう。リリアという少女が強くなればなるほど、ゲルトは己を高められる気がする。そう、それは二人の共鳴反応――。


「……うれしいです、リリア。貴方とこうして、きちんとやり合いたかった……ずっと!!」


刃を打ち合い、距離を離す二人。互いに必殺の構えを取り、聖剣から迸る金色の閃光と魔剣から舞い散る紅い花弁。その輝きが会場へと広がっていく。

二人の側面で刃を交えていたアクセルと夏流もそれに反応し、距離を離す。


「ゲルト……!? 技を放つつもりなのか!? そんな魔力を搾り出したら、ヤバいんじゃ……」


「リリアちゃんっ!! 夏流ごとぶった切るぞっ!!」


リリアの背後に立ったアクセルが風を巻き起こす。それはゲルトの花弁を吹き飛ばし、リリアの光を加速させる。必殺技の前段階を封じられたゲルトは眉を潜め、魔力の渦を剣に纏って構える。


「ゲルトの必殺技なら研究済みだ! 一度自分の身体で食らったからな――ッ!!」


「ゲルトッ!! 下がれ、俺が先に行く!!」


「夏流……!?」


リリアの光の剣は見る見る巨大化して行く。やがてその刀身の長さはフィールド全体をも超えるほどになり、太く、そして眩く輝く。溢れんばかりの力を込めた聖剣を肩に担ぎ、リリアは目を見開いて前に踏み込む。


「鳴り響け――ッ!! 断罪共鳴剣ジャッジメント・フォースッ!!」


神討つ一枝の魔剣レーヴァテインその力を我は担うコールライトニング……」


屈んだ姿勢で詠唱を行う夏流。その足に電撃が迸り、全ての障壁を両断する光の刃が迫る中、あえて前へと突進する。

ゲルトを守るように正面に立ち、リリアの断罪共鳴剣が振り下ろされる瞬間、電撃の魔力を帯びた足を振り抜く。


障害を討ち滅ぼす者ウルスラグナッ!!」


それは、互いの持つ最強の魔術障壁無効化術式。互いの魔力が正面から衝突し、夏流の足は衝撃でずたずたに引き裂かれた。血飛沫を目にしながらも、夏流は雄叫びと共に魔力を迸らせ、そして――。


「…………っづうっ!! 聖剣リインフォースか……! 敵に回すと、本当に厄介な武器だ……! 行け、ゲルトッ!!」


魔力を迸らせる竜巻の槍が放たれる。ゲルトは引き絞られた弓から放たれた矢のように一直線にリリアへと迫る。しかし聖剣は未だ夏流に押さえ込まれたまま。

黒と赤の渦が煌き、リリアに襲い掛かる。それを阻止しようと正面に出たアクセルが構える剣と激突し、ゲルトはありったけの魔力を込めて目を見開いた。


渦巻く闇の花弁メイルシュトローム――はあっ!!」


螺旋が加速し、アクセルの剣を弾き飛ばす。その身体を刺し貫いた魔剣を引き抜き、ゲルトは身体を反転させながら剣を側面に揮う。その先には、聖剣を振り被ったリリアの姿があった。

白と黒の剣は激突する。互いの必殺技を纏ったままの刃は激しく火花を散らし、二人は同時に弾き飛ばされて障壁に背中を強く打ち付けた。そうして二人が立ち上がり、再び刃を交えようとした時だった。


『ああ――っとおっ!? これは……!? お互いのチームの男性側が、同時にダウンしている――ッ!!』


実況の声で我に返り、二人はお互いのパートナーに目をやった。リリアの必殺技を受け止めた夏流の身体は焼け焦げ、無様に気を失って倒れている。同時に身体を貫かれたアクセルは血だらけになって完全に動けない状態になっていた。

二人とも重傷であることは明らかであり、二人の勇者は慌ててパートナーに駆け寄る。しかし起き上がれるようなダメージではなく、やむなく試合は引き分けとなった。


『試合終了――ッ!! こ、これ以上続けると色々危険そうでもありますので、ここで終了です!! 優勝候補のチームが二つ、同時にここで消え去りました!!』


マイクの声は二人には届いていなかった。お互いに顔を上げた勇者は苦笑を浮かべ、歩み寄る。


「ちょっとやりすぎてしまいましたね……」


「うん、そうだね〜。でも、師匠は少し痛い目に合って丁度良いくらいでしょ?」


「……まあ……そうなのでしょうね」


「……ま、まさかお前まで裏切るとは……ゲルト……さん……がくっ」


「うう……。レ、レン……。お兄ちゃんは……がくっ」


男性二人が倒れるのを見て慌てて回復魔法をかけながら医務室へと運び込む二人。決着は付かなかったものの、その表情はとても晴れやかだった。



「あーっ、楽しかったあ〜」


身体を大きく伸ばし、リリアはニッコリと微笑む。闘技場の喧騒も遠い選手控え室の前の通路でリリアとゲルトは壁に背を預けて立ち止まっていた。

当然のように医務室に運び込まれた夏流とアクセル。二人は腕の良い医術師の揃うこの会場で無事回復するであろう。しかしお互い負けは負けであり、引き分けは引き分け。それでも全力を尽くした事には変わり無い。

リリアの横顔を眺め、ゲルトは笑う。その優しげな視線に込められたものは沢山の思い。ずっとずっと、こうしたかったという願いそのもの。

そう、ずっと。こんな風に、お互いの力をぶつけ合いたかった。心の底からライバルだと思える存在に自分を認めて欲しかった。本当の意味でもう一人の勇者になりたかった。その願いは偶然にも、そしてささやかな結末として叶えられた。


「まさか、取って置きの必殺技が防がれるとは思わなかったよー……。うう、師匠はやっぱり強いなあ」


「アクセル・スキッドも中々の腕前です。あんな平凡な武装であれだけの立ち回りが出来るのですから……。尤も、そういう彼の力を隠すようなやり口は気に食わないのですが」


「あはは、まだアクセル君のこと苦手なんだ?」


「当然です! あんなふらふらした軟弱男……。そのくせ強いなんて、そんなのは……その、ずるい」


気まずそうに眉を潜めるゲルト。その表情を眺め、リリアは笑っていた。踊るように正面に立ったリリアはゲルトの手をそっと握り締める。


「まだ、ちゃんとゲルトちゃんに謝って無かったよね。ずっと避けてて、ごめん。辛い時、傍に居て上げられなくて……ごめんね」


「……そんなことですか。いいんですよ、わたしは別に貴方を頼っているわけではないのですから。それに……突き放してしまったのは、わたしの方です」


お互いの記憶を手繰り寄せれば、辿り着くのは同じ景色。

ゲインが死に、孤独な世界の中膝を抱えていたゲルト。そんな絶望の淵にいたゲルトを卑怯者の娘と蔑む子供たち。それに仕返しをしようと言ったリリアの手を払い除け、ゲルトは泣きながらリリアに罵声を浴びせた。

それは勿論本人の気持ちではなかった。しかしどうしようもない悲しみや憎しみ、そうした想いを抑えきれず、八つ当たりをしてしまった。そうしてゲルトはリリアに背を向けて走り去り、二人の関係はそれっきりこじれてしまった。

その後、リリア聖剣を持ち出し、子供たちの下に向かったのだが……その事をゲルトは知らない。リリアはその苦い記憶をも同時に思い返し、肩を落とした。


「ゲインと約束したんだ、私……。でも、ゲインが死んじゃって、ゲルトちゃんを助けられなくて……。あの時ほど大人になりたいって思った時もなかった」


「……リリア」


「ゲルトちゃんの事が大好きだったのに、傍に居られなかった……。きっと私も負い目があったんだと思う。だから突き放したのはそっちでも、逃げたのは私」


「では……おあいこ、ですね」


「うん、そだね。おあいこ、だね」


にっこりと微笑むリリア。その笑顔がゲルトの胸を打つ。その無邪気な、優しい、力強く、頼りになる、信じられるヒト。それをずっと求めていたのに、とても遠回りをしてしまった。


「わたしこそ、貴方に謝らなければ……。貴方の想いに、わたしは応え様としなかった。また背を向けようとした。貴方に、とても無礼な事をしてしまった」


「うん、無礼だね。ゲルトちゃんが夏休みに私の事突き放した時、すっごく寂しかったんだよ」


「う……っ。ご、ごめんなさい……」


「でも仕方ない、友達だから許してあげるっ! でも条件があります」


手を放したリリアはゲルトの前で両手を広げる。その様子に首を傾げるゲルト。リリアは昔と変わらない様子で告げた。


「だっこ」


「……へっ?」


「だから、はぐはぐさせて? 昔泣いてるゲルトちゃんを良くだっこしてあげたじゃない」


「そ、そんな昔の事は忘れました……!」


「でもリリアは忘れてないんだなあ。ほらほら、れっつはぐはぐ」


「………………」


しばらくそのリリアの目をじっと見つめていたゲルト。しかし観念したのか、そっとリリアの腕の中に飛び込んだ。

二人はそうしてしばらくの間抱き合っていた。お互いの間にあった溝を埋めるように、長い間止まっていた時計の針を回すように、ゆっくりと、時間をかけて。


「……懐かしいなあ、ゲルトちゃんのにおい。うん、そうだった。ゲルトちゃんは、薔薇の香りがするんだ」


目を閉じ、ゲルトの頭を撫でながらリリアは優しく語る。その仕草だけでもう泣いてしまいそうだった。ずっと堪えていたものが崩れてしまいそうで、ゲルトは必死にそれを堪えた。優しい手、優しい温もり、声……。求めていた自分の心にめぐり合えたような気がしていた。


「もう二度と放さない。ゲルトちゃんがどんなに嫌がっても、絶対に傍に居る。君が泣いていたら直ぐに駆けつける。君を傷付ける物から守ってあげる。約束は今でも変わらないよ、ゲルトちゃん。リリアはずっと、ゲルトちゃんの騎士だから」


「では、わたしも誓いましょう。わたしも貴方がそうであるように、貴方を守る騎士になる。貴方が悲しみに暮れている時は、いつでも駆けつける。そう、直ぐに……」


笑いあう二人の影。壁に立てかけられた白と黒の剣が交わり、その様子を見守るように刃を輝かせていた。


〜ディアノイア劇場〜


*アンケートの投票内容が若干面白いのでいくつか勝手に返答してみようのコーナー編*


リリア「コーナー編ってなに?」


ゲルト「さあ……。とにかく前回の劇場では出番がありませんでしたからね。次回に続くとか言って終わりましたし。今回は何をするんですか?」


夏流「うん。なんだか最近、コメントとかがみんなぶっちゃけた物になりつつあるから、せっかくなのでいくつか取り上げて見ようかと思って」


リリア「……師匠、素直にこのコーナーのネタが思いつかないって言ったらどうですか?」


夏流「さて、ちょっとだけ人気投票率について紹介してみようか。ここで何言ってるのかわからない人はアンケートをチェックしてこよう」



〜お気に入りのキャラクターは?〜


【一位】 投票率41.7% ゲルト・シュヴァイン

【二位】 投票率18.8% アイオーン・ケイオス

【三位】 投票率10.4% メリーベル・テオドランド



夏流「というのが、アンケート開始から一週間ちょっと経った現在の投票率だ」


リリア「……あの、師匠? リリアと師匠、どこにも居ないんですけど……」


夏流「……いないなあ」


ゲルト「で、でも票数同じで四位じゃないですか! さすが主人公とメインヒロインですね!」


夏流「主人公とか(笑)」


リリア「メインヒロイン(笑)」


ゲルト「ひい……っ」


リリア「よんじゅういちパーって、何? 二位のアイオーンさんでさえ18パーなのに……。ほぼ半分ゲルトちゃんってどういうこと」


夏流「……なんでゲルトこんなに人気なんだ? ここまで圧倒的である理由がいまいちわからないんだが……」


ゲルト「う、うーん、どうしてなんでしょう」


夏流「というわけで、投票理由で面白かったものを少し取り上げてみよう」



〜投票理由〜


ツンデレ――【ゲルト】

ツンデレ――【ゲルト】

ツンデレ――【ゲルト】

ツンデレ――【ゲルト】

ツンデレ…――【ゲルト】

ツンツンデレデレ――【ゲルト】


リリア「おまえらそんなにツンデレ好きかっ!!!! うがあああああっ!!」


夏流「他にもツンデレって単語が入ってる理由はいくつもあったが、単純に【ツン】と【デレ】だけで構成されている感想はこれだけあった」


リリア「他にもっと言う事がないんですかね――」


夏流「いや、あれじゃないか? アンケート開始直後に『ツンデレ一言でまとめられたー』って劇場で言ってたから、皆ノったとか……」


リリア「そこまでみんな詳しく読んでないと思いますよ?」


夏流「それが意外とコアなコメントもある。『ツンツンデレデレ』は本編かどこかでリリアが言っていたセリフだしな。他にはこんなものがあったぞ」


あんりみてっど、まんせー――【アイオーン】

うっかりぶっさされたい――【ゲルト】


夏流「全体的にアイオーンとゲルトのコメントは若干おかしい」


リリア「そうみたいですね……」


夏流「特にアイオーンは変なコメントが多いんだな、これが。【踏まれたい】的なのも来る」


リリア「『小説家になろう』も随分ラフになりましたね――」


夏流「さて、特に選択式にはしなかったが嫌いなキャラクターについてのコーナーなんてのもあったな。誰の事を言っているのかよく判らないのも多いのが特徴だ」



〜嫌いなキャラクターについて一言〜


フェンリルうぜぇー――【フェンリル】

犬うざい――【フェンリル】

この犬が!!――【フェンリル】

犬畜生キライ――【フェンリル】


夏流「フェンリルの不人気具合は異常」


リリア「ぬー……。同じ犬科として笑えない所が……」


夏流「そういえばフェンリルの次に嫌われてるの多分お前だぞ」


リリア「ほえ?」


リリア。バカすぎ――【リリア】

ロリは帰れ――【リリア】

ぺたんこ――【リリア】

夏流のへたれ!――【夏流】

夏流好きだけどへたれてるから嫌い――【夏流】

救世主活躍してない――【夏流】


リリア「――って、師匠も不人気じゃないですかっ!!」


夏流「…………これに対し、ゲルト嫌いというコメントは一切存在しないのだ、ハハハ」


リリア「バカとかロリとかぺたんことか……。こ、心が折れる……。へこたれざるを得ない……」


夏流「ほら、あれだ。俺は主人公だから……。これから活躍するから…………多分……」


ゲルト「ふ、二人とも大丈夫ですか……? いくら図星だからってそんなに落ち込まなくても……」


リリア「泣くよ? 泣くよ?」


夏流「本編で入院してるし、丁度いいから少し休暇を貰って現実に帰るわ……」


リリア「リリアもカザネルラに帰らせてもらいます……。ロリは帰れっていわれてるし……」


ゲルト「ちょ、ちょっと二人とも!? こ、こんなあとがきに一人で残されてもどうしようもないじゃありませんかっ!!」


ナナシ「仕方が無いですね。せっかく一位だったんですし、ここからは貴方が話を進めてください。次は一位だったゲルトの投票理由への特別返答です。名づけてゲルト一問一答」


ゲルト「え? え?」



〜ゲルト一問一答〜


何もかも凄く可愛らしいから――【ゲルト】


ゲルト「……どう答えればいいんですか?」


弄られている彼女が可愛―――――いえ可哀想で………――【ゲルト】

良ツンデレ。いじめたいです――【ゲルト】

不幸な所とツンデレな所――【ゲルト】

リリアにいじられて可愛い――【ゲルト】


ゲルト「弄られてるのがそんなにいいんですか……? というか、別にそんな言われるほどいじられてません! あとツンデレってなんですか?」


メインヒロインっぽいから――【ゲルト】

メインヒロイン――【ゲルト】

リリアよりヒロインらしい――【ゲルト】


ゲルト「……メインヒロインはリリアですっ!! 彼女を侮辱すると許しませんよ!!」


妹ツンデレ属性――【ゲルト】


ゲルト「……属性? 妹……?」


色々とツボです。ぜひ仲良くなりたい子――【ゲルト】


ゲルト「わたしには別に友人は必要ありませんが……変なコメントじゃないのもあると何だかほっとしますね」


理由はない――【ゲルト】

理由なんていらない!――【ゲルト】

今更理由が必要であろうか? いや、ない!!――【ゲルト】


ゲルト「なんだか怖いんですが……特に最後の人……名前書いてあるし……」



ナナシ「沢山のコメントありがとうございました」


ゲルト「うう……。なんだか票が入っていても、喜ぶべきなのかどうかわからないですね。リリアを怒らせてしまったし……」


ナナシ「あの二人の不人気具合は凄まじいですね。ワタクシでさえ彼らくらいは票入ってますが」


ゲルト「……出番滅多にないのに、ですか?」


ナナシ「そうですね。というわけで、何が人気に繋がるのかわからないディアノイアですが、これからもどうぞ宜しく御願します」


ゲルト「特に本編には関係ないけど一言、はいいんですか?」


ナナシ「長いものが多いのでここで解説するのはどうかと。あと勝手にやって怒られたらいやだから」


ゲルト「というわけで、機会があれば続くかもしれません」


ナナシ「それではさよなら〜!」


ゲルト「……じゃ、わたしカザネルラでリリアと二人きりでビーチを満喫してきますね」


百合――【ゲルト】


ナナシ「……成る程」


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