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虚幻のディアノイア  作者: 神宮寺飛鳥
第二章『ブレイブクラン』
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不吉な予感の日(2)


もうこちらの世界にきてどれくらい時間が経ったのだろうか。

学園の授業に出席する事も当たり前となり、毎日切磋琢磨しているお陰か大分魔力のコントロールも様になってきた。

ルーンナックルの完成を待つ間、学園の生徒として色々と学んでみたが、俺は自分自身の特性についてようやく理解し始めていた。

まず、俺はアクセル同様魔力を放出する技術が圧倒的に苦手であるということ。そもそも魔力というものを生まれ持って操る事が出来るこの世界の人間と比べ、俺はこの十七歳の冬になるまで全く魔力の存在に触れる事がなかった。以下に体内に膨大な量の魔力を蓄積していたとしても、魔法として放出するのはやはり難しいのだ。

初歩的な魔法でさえ放つ事が出来ない。いや、放つ事が出来ないわけではないが、魔法を撃とうとすると膨大な魔力量が邪魔をし、下手をすると暴発して手元で爆発したりするのである。

自分の中に仮に百万の力が渦巻いているとして、その螺旋の中から正確に放出分の百程度の力を切り分けて放つのが兎に角苦手だった。

それに魔法を覚えるのには時間がかかるもの。この学園の生徒たちでさえ年単位の時間を費やして新しい術式を学んでいく。そもそも魔術というやつは一子相伝……親から子へと自然に受け継がれる物。それがない以上、そのそも最初から魔法に対する適正はないと言えるのかもしれない。

魔法の大変な所はそれだけではない。術式を発動させる為の適正。道具、或いは自らの意思による術式の構築。放出に至るまでの魔力の均一化、移動……。何故ゲルトやリリアはあんな簡単に魔法を使えたのか逆に理解出来ない。それこそ天才という事なのだろうか。

まあ兎も角俺は天才ではなかったということらしい。いくら膨大な魔力量があったとしても、それをカタチに出来ないのでは意味が無い。一先ず自分の身体能力の向上と動作に合わせた精密な力のコントロールを覚える事で、戦士タイプに特化させる方針で行く事にした。


「まあ、戦士だからといって魔法が使えないという訳でもない!」


俺が相談を持ちかけたのは戦士科の教師、ソウル・イグラート先生だった。ムッキムキの筋肉質の男で、やたらと身体にピッチリと合う布地の服装を好む、暑苦しい男だ。ここ数日は先生に色々と師事を仰いでいる。そもそも近場に有能な教師がいるのだから、それに頼らない手はない。

アクセルに相談するのもいいのだが、アクセルはあくまで剣士だ。俺は剣を使わない格闘スタイルに進みたいので、本質がそもそも異なる。もう基本的な魔力がどうこうというレベルではないのだから、教師に聞くのが一番早いだろう。尤もこうして教師の話を聞いて普通に相談できるのはアクセルに基礎を教わったお陰なのだが。


「例えば、武器そのものに術式を刻んだ物を使用するという手がある。剣や槍などの刀身にあらかじめ術式を刻んでおき、魔力を通して発動するだけで即座に術を発動出来るようにする、とかな」


ゲルトの魔剣やリリアの聖剣はそのタイプらしい。刀身に薄っすら刻まれている溝に魔力を通す事で、刃に紋章が浮かび上がり術式が発動するのだ。


「放出だけに使う必要はないぞ! 他にも自分の身体を強化する術式を刻んでおくとかもアリだ」


それはメリーベルのタイプ。ただしこちらは事前に魔力を込めるなど工夫をしないと、常時自分の力を増幅していてもいずれは枯渇してしまう。つまり短期決戦用のドーピング魔法のようなものだ。


「若い内は色々やっておくもんだ。俺も若い頃は、剣やら槍やら斧やら色々と使ってみたもんだ。自分に合う武器を探すのが一番だな、ハッハッハ!!」


「それで、結局先生はどの武器が最強だと思ったんですか?」


「あん? そうだな……最強の武器は……ハルバードの先端に刀つけたりしたら強いんじゃね?」


かなり適当な事を言っては豪快に笑っているソウル先生。つーかそれ、あんたが今言った武器全部くっつけただけじゃねえか。

しかし結局の所彼の結論は『素手が一番つええ』だそうで、あらゆる武器を使いこなせるのは勿論彼は素手が一番強いと信じているらしい。

同じ格闘スタイルの先人としては見習う所もあるのだが、いかんせん若干馬鹿なのがどうにもならない。リリアも確か戦士科だったはずだから、こいつの授業を毎日受けているのか。頭が悪くなりそうだ。


「おや、こんな所に居たんですかソウル。もう次の授業が始まりますよ。魔術学科と戦士学科の合同訓練なんだから、遅刻しないでくださいよ」


「お、ルーファウスじゃねえか! 相変わらず細いな……メシちゃんと食ってるか!?」


腕を組んだまま豪快に笑うソウル。ルーファウスはその姿に溜息を漏らしている。ふとその視線がこちらに向けられ、彼は俺の前に歩いてきた。


「こんにちは、本城夏流君。聞いたよ? 勇者同士の決闘紛いの行為を制止したとか」


一体どこで誰が見ていたのかは知らないが、リリアとゲルトの決闘は既に学園中の噂になりつつあった。勿論それを止めたのが俺だということも、である。

後で知ったことなのだが、生徒同士の決闘行為は基本的にご法度。故に闘技場という正式な決闘の場が用意されている。リリアとゲルトはその学園の法を破り、私利私欲のために力を使ってしまった。当然、何らかの処罰が降されるはずであった。

それを庇ってくれたのがこのルーファウス先生だという事をゲルトから俺は聞いていた。相変わらずメイド服姿のままメリーベルにこき使われているゲルトから事情を聞くのは至難だったが、お陰で恩人の名前を知る事が出来た。


「先生のお陰で二人とも罰せられずに済んだそうですね。俺からも礼を言わせてください」


「いやいや、いいんだよ。この世界の未来の平和を担う二人の経歴に傷をつけるわけにはいかないしね。それに二人とも僕たちの大事な生徒だから」


俺たちが真面目な話をしている背後でソウルが何故か腹筋を鍛え始めていた。俺はもう無視して話を進める。


「それにしても、よく二人の刃を止める事が出来たものだね。君も中々優秀な生徒だと聞き及んではいるものの、一体どうやって阻止を成しえたのか疑問では在るね」


「あぁ、たまたま……なんですよ。結局リリアのほうが気絶しちまって、後は運んだだけです」


咄嗟に嘘を付いた。だが大体間違ってはいないはずだ。俺はあの時二人の戦いをとめられなかった。問題はその後に起きたのだから。

ルーファウスは腕を組み、小さく頷いた。そうして俺たちの足元で懸命に筋トレしている暑苦しい男を足蹴にする。


「いつまでそうしているつもりですか、ソウル。さっさと行きますよ」


「いや、お前らが話している間鍛えてようと思ってな。時間さえあれば筋トレしてるからな、俺は」


「そんな事はどうでもいいんですよ。それじゃあ夏流君、また授業でお会いしましょう。尤も貴方は、魔術学科わたしのところにはあまり顔を出さないでしょうけれどね」


去っていく二人に会釈する。それにしても学園の教師ってのは随分と若いんだな。二人とも二十代後半くらいにしか見えない。

というか、この学園には全体的に若い人間しか存在しない気がする。それが過去に起きた戦いの所為なのかどうかは判らないが、先生たちも色々と大変なのだなあとそんなことだけは考えるのであった。



⇒不吉な予感の日(2)



先生二人を見送り、廊下を歩く。次に受けたい授業までは間があるので受付でランキング表でも見てこようかと思ったところ、ロビーに目立つ人の姿があった。

受付の前にメイド服のゲルトが立っている。あいつまさかあの格好で今まで授業に出ていたのかと思うと笑いを堪えきれなくなった。思わず噴出すと地獄耳に反応したゲルトが振り返る。


「ホンジョウナツル!? 何故ここに!?」


「何故って……俺この学園の生徒だけど」


「いや、それはそうなんですが……くううっ! 笑うなっ!!」


ゲルトが首筋に箒を突きつける。一体それでどうするつもりなのだろうか。というかこいつ、フレグランスはどうした。

暫くの間ゲルトは箒を見つめて固まっていた。それから箒を手元に手繰り寄せ、真顔で俺を見つめる。


「……フレグランスじゃない!?」


「当たり前だろっ!? お前それ今まで魔剣だと思って持ち歩いてたのかっ!?」


「くっ……。つい、掃除の途中で学園に来てしまったせいでしょうか。全く忌々しい……」


ってことはこいつ、背中に箒さ担いで悠然とここまで歩いてきたってことか。滅茶苦茶かっこわるいな。

それにしても本当に真面目なやつだなあ。普通メイド服で登校してこないぞ。いくらメリーベルと約束したからってそこまでしなくてもいいものを。

ああ、もしかして本当にそういう趣味なのか。いや、いいんじゃないか。超ミニスカートを履きたくなるお年頃なんだろう。普段のロングスカートは流石に若い女の子にしては露出無さすぎだったもんな。しょうがないしょうがない。


「何を一人で勝手に納得しているんですか……?」


「いやいや、なんでもないよ。まあどっちにしろそんな格好してたら『あの』ゲルト・シュヴァインだとは誰も思わないだろうしな、うん」


腕を組んでそうやって納得していると背後から声が聞こえた。振り返るとリリアが猛然とした勢いでこちらに駆け寄ってくる。


「なーつーるーさーんー」


「おわあああああっ!? 足速っ!?」


「リリア・ライトフィ……ふぎゅっ!?」


そのまま駆け寄ってきたリリアに跳ね飛ばされ、受付の向こう側にぶっ飛んで行くゲルト。急ブレーキをかけたリリアの足元から焦げ付くような匂いがしている。どんな速さで駆け寄ってきたんだ。


「はあはあ……危ない危ない、また吹っ飛ぶ所でした!」


「いや、今お前人轢いたけど……いやもういいや。とりあえず魔力解放生活には慣れてきたか?」


ゲルトが吹っ飛ばされたのは、まあしょうがない。リリアが猛然と駆け寄ってくるのを見たら避けるか魔力防御しないといけないという事をそろそろやつも学んだ方がいい。というか、自分の身に危険が迫っている時にうっかり相手の名前をフルネームで叫ぼうとするからだ。


「慣れてきた……つもりなんですけど。ペンはすぐ折れちゃうし、目覚まし時計叩くと木っ端微塵になっちゃうし、なんだかリリア怪力ばかになったみたいですよう」


実際そうなった気がする。それに相変わらず魔力をガンガン消費しているせいですぐへこたれるし……。なんと燃費の悪い勇者戦車なんだこいつ。

瓦礫の山からようやくゲルトが起き上がってきた。そのままふらふらと俺たちのところに戻ってくると、リリアを箒でぶっ叩いた。しかし今のリリアは全身を強烈な魔力が容赦なく覆っているので、へし折れたのは箒の方でリリアは無傷だった。


「何をするんですか貴方は!? 廊下は走るなという基本的なルールさえ守れないんですか!?」


「あ、ゲルトちゃんだ……って、どうしたのその格好? かわいいねーっ! お人形さんみたい!」


「…………ああああああああああっ!!」


ゲルトはネコミミを抑えながら走り去って行った。途中で何人か生徒をぶっ飛ばしていく。こいつら結局同じレベルなんじゃないのかとリアルに感じる瞬間であった。


「ゲルトちゃん元気だなぁ……?」


「いや多分あれは元気なんじゃなくて、お前に会って恥ずかしかったんだと思うぞ」


「ふぇ? なんでですか?」


何でって……あいつは元々お前の事を物凄く意識しているのにあんな格好で学園をうろうろしていると知られたら恥ずかしいに決まっているだろう。

リリアにその辺の気持ちを理解してもらうのは難しいのかもしれない。『ゲルトちゃんかわいかったですねー』とかへらへらしながら言っている時点でどうも状況が把握出来ていない。


「お前もランキング表を見に来たのか?」


「えと、それもありますけど……そろそろ課外授業クエストの事も考えておこうと思って」


学園は兵士教育機関であると同時に、クィリアダリア王国から委託される幾つかの厄介ごとを解決する請負組織でもある。

学園はそもそもクィリアダリア王国に存在する聖騎士団直轄の教育機関である。聖騎士団とはクィリアダリアの国教であるヨト信仰の主神ヨトの名の下に平和を誓った騎士の武力組織であり、王国に存在する様々な荒事を武力で制圧する組織……と、授業で習った。

しかしエリート集団である聖騎士団に持ち込まれる市民からのごたごたは一つや二つではない。しかも今や世界最大の国家となったクィリアダリアの民の数は勿論世界一。問題の数も世界一である。そうした聖騎士団に持ち込まれる、しかしわざわざ聖騎士団が動くほどじゃないだろうと判断された依頼が学園に委託される事がある。これが所謂課外授業クエストである。

学園の生徒の有用性を世に示すと同時に世界で起きている実際の問題に生徒たちを介入させる事で経験を積ませる目的がある。いくら学園内で実践的な授業を行い闘技場で決闘を繰り返したところでつめない経験は山ほどある。生徒たちには授業のほかにもそうした課外授業をいくつか受ける事が義務付けられているのだ。

当然、俺やらリリアやらはここの所バタバタしていたせいでそんなものはやっていない。すっかり忘れていたのだが、早めに課外授業に出ないと他の生徒に取り残される事になる。


「師匠は何か受けるんですか?」


「いや、今の今まで完全に忘れてた……。悪い、一緒に探してもいいか?」


リリアと一緒に受付に向かう。クエストボードの方に案内され、一先ず課外授業を物色する事にした。

それにしても殆どのクエストは既に先約が入ってしまっている。それもそうだ、俺たちは後発なくらいだろうから……。確かにクエストは数限りなく毎日毎日増え続けてはいるものの、サクっとやってサクっと終わらせられるようなお手軽なのは当然他の生徒がキープしてしまっている。

となると、面倒くさくてややこしいものばかりが残っているわけで……。俺たちはクエストボードのメモを眺めながら眉を潜めていた。


「ドラゴン討伐してください……ドラゴンってなんだよ……」


「あ! これ面白そうですよ? 伝説の聖槍を見つけ出せ! 期限無期限だからずっと探せますよー」


「それ一生見つかるまで探し続ける事になるんじゃねえのか……」


二人してずっとクエストボードの前をウロウロし続ける。しばらくすると後ろに立っていた女子が俺とリリアを順番に蹴倒した。


「ちょっと!! いつまでクエストボードの前をウロウロしてんのよ!! 周りの迷惑考えなさいよね!」


俺とリリアは不意打ちで前に吹っ飛び、クエストボードに頭突きしてしまった。リリアは魔力が篭っていたせいで壁に減り込んでいる……。

額を擦りながら振り返るとそこには綺麗な青い髪の少女が立っていた。非常に強気な視線で俺たちをにらみつけるその傍らにはどこかで見覚えの在る雰囲気のメイドが立っていた。

どこで見覚えがあるのか暫く考えていたが、どうもこれは見覚えが在るわけではなく雰囲気が知り合い……どこぞの執事ロボに似ているだけらしかった。無機質な瞳で俺たちを見つめるメイドを眺めていると、隣に立つお嬢さんが俺の襟首に掴みかかってくる。


「何シカトしてんのよ!? 殺すわよっ!!」


「それより先にリリアを引っこ抜いてやってくれないか? 本当に死ぬぞ、あれ」


見るとリリアは壁に頭を突っ込んだままじたばたもがいている。恐らく呼吸が出来ないのだろう、次第にぐったりしてきたところで俺はリリアを引っこ抜いた。


「うぅぅ……。どうしてリリアがこんな目に……」


「ああっ!? アタシが受けようと目をつけていたクエストが壁の中に減り込んで取れなくなってるじゃない!? どうしてくれんのよ、この馬鹿っ!!」


「そんな事言われても、リリアは蹴っ飛ばされただけですよぉう」


「ただ蹴っ飛ばされて頭突きしただけで壁突き破る馬鹿がどこにいんのよ……って、アンタもしかしてへこたれてる方の勇者?」


「がーん!? へこたれてる方の勇者……まあ確かにそうですけどう……」


少女はリリアから身を離すを腕を組んでぎろりとリリアをにらみつける。さて、俺たちには初対面だと思うのだが、何故こうも暴力的なのか。見れば服装は珍しくこの学園の制服らしきものを着用している。殆どの生徒が好き勝手に私服を着用している中で一人だけ制服なその姿は逆に目立っていた。

リリアを鼻で笑った彼女は人差し指を突き出し、リリアはびっくりして背後に飛びのいた。


「アンタ、フェイト・ライトフィールドの娘の癖にろくに戦えない駄目勇者らしいわね? 全く、アンタみたいなのがどうして勇者の資格を持っているのか疑問だわ!」


「うぅう……ごめんなさいです」


「こらこら、何故言い返さないんだリリア? そうやってへこたれてたらへこたれ勇者様って言われてもしょうがないだろうが」


「だ、だってぇ……」


涙目になってうじうじしているリリア。強くなってもこういう性格的なところは全く変わっていないらしい。とりあえずリリアがへこたれ勇者なのはいいとしても、そんなことを見ず知らずの人間に言われる筋合いはない。


「つーか、あんた誰だ? 名乗るくらいはしろよ」


「ア、アタシを知らないっていうわけ!? そう……よぉ〜く判ったわ。じゃあ一度だけしか名乗らないから、心して聞きなさい!」


少女の足元にメイドが台を設置し、片足をその上に乗せながら少女は片手を振り上げ、びしりと俺たちを指差して言った。


「英雄学園ディアノイア最大の出資者にして理事会長を勤めるコンコルディア家の一人娘! ベルヴェールとはアタシの事よ!!」


背後でメイドが花弁をばら撒いている。きらきら輝く台の上で満足げに笑っている少女に、リリアは小首を傾げて言った。


「だれですか?」


「がくーっ!! ア、アンタねえ……! コンコルディア財閥よ!? その一人娘、社長令嬢なのよ!? つーか、ランキングだって二十二位なんだから、有名人でしょうがっ!!」


「ご、ごめんなさいです……。リリア世間知らずだし、それにゲルトちゃん以外のランキングバトルには興味ないから……」


「き、興味ないぃい!? アンタ、覚悟は出来てんでしょうね……! アンタみたいなド田舎出身のへこたれ勇者にバカにされたんじゃコンコルディアの娘として恥じなのよ!! 徹底的にぶっ潰してあげるから、覚悟しなさいっ!!」


何やら一人でヒートアップしているベルヴェール。完全に呆気に取られているリリアに彼女が襲いかかろうとした瞬間、スカートの裾を引っ張って阻止するメイドの姿があった。

二人の勢いが余りにも派手すぎてベルヴェールのスカードは完全に敗れてしまう。可愛らしいフリル付きのおパンツが露出し、俺は無言で目を閉じて背を向けた。何も見てない、何も見てないぞっと……。


「な、なななななな……!?」


「お嬢様、そろそろ次の授業のお時間です」


メイドは主の足を掴み、ずるずる強引に引き摺っていく。パンツの破けたベルヴェールは引っくり返された屈辱的な姿勢のまま去っていく。


「ちょ、ちょっと!? まさかこのまま次の教室まで移動するつもり!? いやあああっ!! 最悪〜〜〜〜っ!!」


「……あのう、だ、大丈夫ですかー?」


「この屈辱は千倍返しにしてやるわ!! 覚悟しておきなさい、このへこたれ勇者あああああああっ!!」


何やら八つ当たりしながら去っていく二人。リリアは文字通りへこたれながらそれを見送っていた。


「あいつ……頭悪そうだな」


「そんななつるさん、思った事をズバっと言わなくても……」


そんなわけで再びクエストボードに向き合う。リリアが先程派手に頭突きしたせいでで穴が開いてしまっているが、これはいいんだろうか……。

しかし素人考えでクエストを眺めていても結局よく判らない。リリアに判断を仰ぐと、リリアは適当に隅っこのほうにあったメモを手に取り、とことこ受付に走っていく。

一体リリアが何を手にしたのか確認できないままクエストを受ける事になってしまった俺。その判断が当然間違いだった事を、俺は直ぐに思い知らされる事になる……。



ちなみに、その後アクセルに会い、


「え!? クエスト申請しちゃったの!? 俺まだしてないじゃん!! 一緒にしなきゃ同じの受けられないだろ!?」


とのことで、アクセルは一人仲間はずれになる事が決定したのであった。

えーと……次回に続く。


「一人ぼっちはいやあああああああっ!!」


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