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虚幻のディアノイア  作者: 神宮寺飛鳥
第二章『ブレイブクラン』
17/126

不吉な予感の日(1)


『原書』――。

それは幻想の世界の出来事を記した預言書であり、世界の運命を決定付ける物……俺は勝手にそう解釈していた。

だが、どうだ。リリアをゲルトの剣が貫くというシーンを実際に目の当たりにして、俺はそこに違和感を抱いた。

剣で貫かれたリリアがその後どうなるのか、原書には全く記されていない。だというのに、既に次の物語が薄っすらと浮かびつつある。つまり原書は『物語の主人公が死ななかった』事を前提に話を進めている。

リリアはつまり、あのシーンで死ぬ予定は無かったのだ。ただ剣で貫かれるという事実だけが重要なファクターであり、リリアの生死そのものには関わらない。『リリア・ライトフィールドは死んだ』という明確な表記が無い限り、多少何が起きても結果的に物語りは続くということ。

だがだとすればリリアが大剣で刺されるという致死的なダメージを受けても当たり前のように物語が続いているというこの事実をはどうなるのか。この世界そのものの運命が、リリアの暴走を予期していたとしか思えない。

しかしその後のリリアの暴走は原書には記されて居ないという矛盾点が発生する。つまりあれは、『リリアは死なない』という未来と同時に、『何故死ななかったのか』という理由はイレギュラーであり、表記されなかったということになる。

原書そのものに記される事が無い、世界の筋書きには存在しない要素。それは物語上多少不自然でも認知され、現実としてこの世界に受け入れられる。しかしあくまでもイレギュラーである為、原書はそれを記さない。

ではイレギュラーとは何か。そう、俺の事だ。俺はこの世界にとってのイレギュラー要素。この世界の運命を記した原書でさえ、俺の行動を記す事は出来ない。しかし原書は俺の存在を、干渉を認識する。何故ならば俺が介入しなければあの二人の戦いでどちらかは命を落としていたはずだから。

まさに俺が介入したシーンで物語が途切れてしまっている事が証明しているように、俺の干渉はこの世界にイレギュラー要素を盛り込む原因になってしまうということ。

必要以上にこの世界に干渉すれば、筋書きは滅茶苦茶になり原書の内容は崩壊しかねない。それだけはなんとか避けねばならないだろう。

つまり、原書の予知は絶対ではないのだ。しかも内容が書き変わるのは完全に未来が大幅に変更されるのが確定した瞬間のみ。目前に在る未来でさえ、確実な予知が出来るとは言えない。

しかし俺の行動が確実である場合、それを盛り込んだ内容を予知してくるというご丁寧さ……。一体原書の何を信じればいいというのか……。

俺の存在がイレギュラー要素であり、俺の行動がイレギュラーを呼ぶというのであれば、原書に記される事のないリリアの暴走した力は俺の所為だとでも言うのか。それとも、俺以外にこの世界にイレギュラーな影響を与える事の出来る人間がいるのか……。

ともかく目の前にある問題はリリアのリインフォースだ。あれがどうして封じられている物なのか、ついでに言えばリリアの暴走した力はなんだったのか……。

わけのわからない事実が続く。一先ず目の前の危機はどうにか乗り越えたものの、リインフォースの謎が解けない限りは安心は出来ない。

ナナシも俺の質問には必要最低限しか答えようとしないが、そもそも奴は何者なのか。使い魔だのなんだのと名乗ってはいるものの、本当に俺の味方なのか?

この世界に俺以外に干渉できる存在が居るとすれば、ナナシかアルセリアしか俺には思いつかない。しかし今の所二人に怪しい動きはないし、ナナシはこの間の事件で俺に鎖を投げ渡してくれもした。

となると俺の思い違いなのか。いや、原書に記される事実が確定するよりも前、普段の俺の行動が重要なのだ。いざ問題が起きてからでは全てが遅すぎる。

原書を預言書か何かだと考え過信はしない事。自分自身の行動がイレギュラー効果を持つという事。兎に角この二つを肝に刻まねばならない。


「…………しかし、なぁ」


ベッドの上で原書眺める。

この本はそもそも冬香が記したもの――そもそも原書と呼ばれるだけあり、この世界の元になった本だ。その内容がバシバシ書き換えられているというのは、如何なものなのだろうか。

そもそも俺はこの本を知っているはず。つまりこの世界に起きる大きな事件くらいは事前に理解出来るはずなのだ。だというのに思い出せないのは何故なのか。

ファンタジックな世界観に馴染むのに戸惑って今まで考える余裕も無かったが、いよいよもって俺は自分の役割に疑問を抱くようになっていた。

救世主という言葉の意味。冬香はいったい、俺にこの世界の何を救わせようとしていたのだろうか――――。



⇒勇者ご一行様の日(1)



「メリーベル、いるか…………」


メリーベルの研究室を訪れた俺は扉を開いた瞬間唖然としていた。中では相変わらずの様子で猫に囲まれているメリーベルと、その周囲をせっせとモップがけするゲルトの姿があったからである。

ゲルトはモップを両手で抱えたまま目をぱちくりさせている。勿論俺もぱちくりする。何故ならゲルトはその衣装がどう見てもおかしかったからである。

やたらとスカートの丈の短いエプロンドレスを装着し、頭にはネコミミが生えている。所謂ネコミミメイドというやつである。ゲルトとは全く縁の無さそうなその外見……いやそもそも何故ここにゲルトがいるのか。疑問は尽きなかったが、俺はとりあえず腕を組んで口元に手を当てる。


「ち、違うんです……これは……」


「いや、そういう趣味があっても別にいいと思うんだ、俺は……。誰にも言い触らしたりしないからさ……」


「違うと言っているでしょうっ!?」


ゲルトは顔を真っ赤にしながら俺の首筋にモップを突きつける。が、別に剣でもないものを首筋に突きつけられても怖くもなんともない……というか、こいつこれ癖だよな多分……。

メリーベルは俺の疑惑の視線に応えるように腰に手を当て、小さな薬品の入った小瓶をちらつかせる。ゲルトはそれを恨めしそうにじいっと見つめ、黙って掃除に戻った。


「お前、ゲルトに何したんだ……?」


「別に、弁償してもらってるだけ。この間実験を台無しにされたし、高価な物も派手にぶっ壊してくれたから。本人が頭下げてどうしたら許してくれるかっていうから、一週間ネコミミメイド姿でご奉仕しなさいって言っただけ。正当な取引」


とは言うものの、ゲルトが逃げ出さないようにとネコミミを解除する薬品――俺も見覚えがある――を預かり、わざわざ目の前でちらつかせているらしい。

ゲルトは顔を真っ赤にしながらせっせと床掃除を続けている。ゲルトをメイドとしてこき使っているせいか、研究室は以前より格段に綺麗に片付いていた。


「それで、御用は?」


白衣のポケットに両手を突っ込み、メリーベルは首を傾げる。俺は勝手に借りたままだったルーンナックルをメリーベルに差し出した。


「いや、借りたままだったから返そうと思って」


「んー、別に良かったのに。どうせもう使う予定も無いし……事前に魔術を込めないと一般人には使えないから、突然襲撃されたりすると無意味だし」


「……」


何かを抗議するかのようにゲルトがメリーベルを見つめる。これは完全にメリーベルに頭が上がらなくなっているらしい。だからといって性格的に約束を反故にするようなことはしないだろうし、残念だがゲルトはもう暫くこの格好のままだろう……。

ゲルトを眺めてはニヤニヤしているメリーベル。こいつは本当に性格捻じ曲がってるな……。それにしてもスカートの丈短いな。ああ、短いとも。


「それで? ただ返す為だけに来たんじゃないんでしょ?」


流石に鋭い。俺は頷き、ルーンナックルを手にして言った。


「これ、俺にくれないか?」


「いいよ」


「ありがとう」


「……ちょっと待ってください。それ、ちょっと高価な代物じゃないんですか?」


余りにもスムーズに話が進みすぎたのが驚きだったのか、ゲルトが態々横から口を挟んできた。スカートの裾が短いのを気にしてか、内股になってもぞもぞしながら俺たちを見ている。二人して腕を組んでその姿にニヤニヤしていると、泣き出しそうな顔で台所に引っ込んでしまった。


「面白いなあ」


「面白いでしょ? まあ、それをあげるのは構わないけど……あくまでそれはあたしのための武器だから、サイズとかも合ってないだろうし……良ければナツルのために作ってあげてもいいけど」


「マジか? そりゃ助かる」


正直俺は剣とか武器を使うより素手で格闘する方が性に合っている。だが流石に素手で刃物と渡り合うのは難しいので、ルーンナックルは俺にとって理想的な武器なのだ。

メリーベルは早速俺の手足のサイズを測定し、それから俺の魔力総量や魔力性質について細かく訊いてきた。一度外に出て魔力解放したところ、目を丸くしていたのは言うまでも無い。


「その魔力総量、普通じゃないけど……でも、興味あるね。作り甲斐があった方が、燃える」


ということで、すっかりやる気になってくれたメリーベルは何やら研究そっちのけで俺のルーンナックル製作に取り掛かった。ひっついてくる猫たちを引っぺがしながらもてきぱきと設計図作りに励んでいた。

こうなるとメリーベルは周りの話が聞こえなくなるらしい。俺は後ろに突っ立っているだけ邪魔そうなので、一先ずお暇することにした。


「ま、待ってください! この事は他の人には……!」


「……どうしよっかなあ」


俺が視線を反らして笑うと、ゲルトは猛然と駆け寄ってきた。台所にあった包丁に闇の魔力を込め、俺に突撃してくる。

驚いてその腕を取り、ゲルトの背後に回って腕を固める。ぎりぎりと凄まじい力で暴れるゲルトを押さえつけながら俺は苦笑を浮かべた。


「おい……殺す気かお前……」


「貴方は一度くらい死んだ方が世の為です……そうに違いありません……」


「ふざけるなよ、包丁だってお前魔力込めたら普通に死ぬじゃねえか……」


「殺す気ですから当然でしょう。手を離してくださいよ……」


二人して笑いながら格闘する。しばらくそうしてジタバタしているとメリーベルが猫を投げつけ、顔面にそれが引っ付いたゲルトはその場でジタバタもがいていた。


「うるさい」


「……ごめんなさい、帰ります」


「んーっ!! んんんーっ!!!!」


猫を顔にくっつけたまま何かを抗議するゲルトを放置して部屋を出る。とりあえずこれで武器の心配は無さそうだが……さて、どうしたものか。

しかしゲルトも馬鹿正直なやつだ。メリーベルにわざわざ謝りに行ってこき使われているというのもあいつらしいといえばあいつらしいが、メリーベルも抜け目ないなあ……。

そんなわけで俺はリリアとアクセルが特訓をしている公園に向かった。公園ではリリアとアクセルがアイスを食べながらまったりしていた。


「お前ら修行してるんじゃなかったのかよ……」


「お、きたきた! いや、修行しようと思ったんだけどさぁ〜……」


さて、リリア・ライトフィールドが俺同様二重の封印で己を制していたのは前回の戦いでわかった。となれば、封印を解放した状態にまずは慣れねばならないだろう。

前回暴走行為に走ってしまったのも恐らくは魔力が制御できていなかったからだ。あれが俺の魔力解放時の爆発と類似するものかどうかはわからないが、とにかく慣れないことには始まらない。

何より封印状態のリリアではどんなに頑張ったところで一般人以下なのだ。封印解放状態をいつでも発動可能に出来なければお話にならない。しかし、


「お前、この間リリアちゃんが剣を開放した時に鎖を封じたんだって?」


「ああ、そうだけど?」


「そうだけど、じゃねえよっ!! そしたらもうお前にしか封印解除出来ないだろうがっ!!」


あの時俺は思い切り自分の莫大な魔力を流し込んで封印の術式を発動した。術式そのものは元々鎖が所持していたが、そこに流し込まれる魔力の量で封印の密度が変わってくる。

自分で言うのもあれだが、客観的に判断して俺に匹敵する魔力の人間は学園内に数えるほどしかいない。そもそも封印の上書きなどそう容易い事ではないのだ。自分の魔力にかまけて何も考えずに思い切り発動してしまったせいで、もう俺以外の人間には封印の上書きも、解除も出来なくなってしまったらしい。


「……ってことは、何? 俺がいないとリリアは聖剣を解放出来ないって事……?」


二人が同時に頷いた。とりあえず事情はわかった。というか、それはそれで都合がいいのかもしれない。

リリアの剣が解放されればまたいつあの時のように暴れだすかわからないわけで。それを制する事が出来る人間が傍にいない状況で解放する事が無いように出来るのなら、まあそれはそれで構わないか。


「じゃあ俺がやるよ。普通に解除すればいいんだろ?」


鎖に手を当て、魔力を流し込む。俺の力そのものが鍵の役割を果たすようになっているらしく、錠はあっさりと落ちた。その途端にリリアの全身を凄まじい魔力が覆い、アクセルは思い切りのけぞった。


「うげ、マジで!? 話には聞いてたけど、まるで別人だな……」


白銀の光がリリアを覆っている。とりあえず剣を振ってみようという事でリインフォースを構えたリリア。思い切り剣を振り上げ、『よいしょ』とかいって振り下ろそうとする。その瞬間アクセルが剣を抜き、俺は背後からリリアの腕を押さえ込んだ。

耳を劈くような轟音が鳴り響き、アクセルの剣が風の力でリインフォースを大地に弾く。レンガにざっくりとつきささったリインフォースを前にリリアは目をぱちくりさせていた。


「――――っぶねえっ!! 街中でそんな思いっきり剣振り上げるやつがあるかっ!!」


「え? え? だって、いやあ……リリア、元々一生懸命力を込めないと剣持ち上がらなかったから……つい」


「あのねえ、リリアちゃん……。その威力で普通に振り下ろしたら、みんなの憩いの場所が消滅しちゃうから……」


俺は慌てて鎖を剣に巻きつけて封印した。リリアの頭を叩き、レンガの上に正座させる。

それから自分が以下に強い力の可能性を秘めているのかを延々と説教した。不用意に剣を振れば他の物を大きく傷付けてしまうという事。リリアは常に全力でちっぽけな力しか出せなかったせいか、剣を解放しても全力でしか振れないらしい。まずはその悪癖を何とかしなければ。

涙目になりながらコクコク頷いて俺の話を聞くリリア。もう一度聖剣を解放し、今度は剣を持たせないようにすることにした。


「とにかくお前は封印されてない状態での日常生活に慣れろ……。話はそれからだ」


「は、はい……」


自分の身体に違和感を覚えるのか、手を握ったり開いたりしながら眉を潜めているリリア。そもそもこんな修行を始めるきっかけになったのは、意外にもリリア自身の希望からだった。

聖剣の力を封じ続ける事がゲルトの気持ちを裏切る事になるのだと彼女も気づいたのかもしれない。そして何よりも、この間ゲルトに負けたのが相当悔しかったらしい。目を覚ましたその日にリリアは引き攣った笑みを浮かべながら、


「ゲルトちゃん、『必殺技』をリリアに直撃させたんですよ……ふふ、ふふふ……」


「あ、あのー? リリアさーん……?」


「お見舞いにも来ないし……この借りはいずれ返させてもらうもんね……」


まさか一日四回も見舞いに来てましたよーとは言えないしな……。いや、本人の希望だし、黙っていよう。そのほうがなんか、リリアもやる気出るみたいだし……。

そんなわけでリリアは退院するなりすぐに修行を再開した。そのやる気は以前にもまして燃え上がっているのだが、結局リリアは自分がゲルトを殺しかけた事を覚えていないらしかった。

わざわざ言うのもどうかと思い、結局言うタイミングを逃してしまったまま今になってしまったが、俺が鎖の封印権を持つのならば俺がしっかり管理すればいいだけのことか……。


「あのう、師匠」


「ん?」


「その鎖……師匠が預かっててくれませんか?」


リリアはこれからは封印の鎖に頼らず、解放状態で生活する事にしたらしい。そのほうが早く自分の力に慣れるだろうし、カンも取り戻せるだろう。概ね賛成だが、不安があるとすればリインフォースの事か……。


「じゃあ、鎖ついでにリインフォースも俺に預からせてくれ。どっちみち今のお前が持ち歩いてると、うっかり転んで投擲したりして町が破壊されそうだ」


あながちこれが冗談じゃないのだから笑えない。リリアは乾いた笑顔を浮かべながら視線を反らしていた。うん、やっぱり俺が預かろう。

リインフォースと鎖を預かる事にした俺はとりあえず鎖を……両腕に巻きつけて袖口に留める事にした。ちょっとした防具代わりというわけではないが、これで身に着けていても違和感はないだろう。

鎖を装備しているとリリアが顔を紅くしながら俺を見ている事に気づいた。首を傾げると、リリアは慌てた様子で笑いながら言う。


「いや、なんか、師匠とリリアを結んでる絆みたいですよね、その鎖」


「……お前よくそういう恥ずかしい事を平然と言えるな」


「え? え?」


「はいはい、いいからその状態で走って来い。はい、スタート」


「はい! って、わ、わわわ……あにゃあっ!?」


走り出そうとしたのだが、身体能力が急上昇しているのについていけなかったのか、すかさず自分の右足に左足を引っ掛け、派手に転倒――否、空中を吹っ飛んで行く。頭から木々に激突し、凄まじい轟音が鳴り響いた。


「リリアちゃん!? ちょ、どんだけ派手に転んでるんだよ!?」


そんなリリアを助けにアクセルが走っていく。折れかけた大木の前で気絶しているリリアを抱き起こし、アクセルが慌てているのを眺めながら鎖を見つめた。これからは俺がリリアの鎖になってやらねばならない。もうあんな事には二度とならないように……。


「先は長そうですが、勇者の強さは順調に上がっているようですね」


頭の上によじ登ったうさぎがそんな事を言う。確かにリリアは強くなっている……いや、ただ元通りになっただけなのだが。

立派な勇者というものがどんなものなのかはわからないが、ゲルトの存在がリリアに力を与えている。なんだかんだで二人はいいライバルで、お互いの存在がお互いの起爆剤になっているのだ。限度を過ぎた確執は一応消え去ったわけで、これからは正々堂々競い合う事が出来るだろう。

リリアはこのまま行けばゲルトに匹敵するくらいの力を手に入れる。そうなれば大分手がかからなくなるだろう。問題はその分、リリアが強くなったら強くなっただけ俺は彼女を止められるだけの力をつけなければならないという事だ。

そもそも、何故勇者なんてものが育つ必要があるのか。勇者が育たなければ世界がどうなってしまうのか……。頭の上のうさぎを抱き下ろし、地面に放り投げる。


「で、結局これから何が起こるんだ?」


「まあ、色々です。今は強くなること、そしてリリアに様々な経験を積ませる事です」


「……ゲルトはどうなんだ? あいつも勇者なんだろう?」


「お忘れですか? 勇者はどちらか一人のみ……そしてこの物語の主人公はリリア・ライトフィールドです。ゲルト・シュヴァインに肩入れすれば、それだけ貴方が辛くなるのではないですか?」


全く持ってその通りなのだが……。いや、あまり考えすぎないようにしよう。考えれば考えるだけドツボにはまる。今はリリアの剣を封じる事だけ考えよう。


「いやぁ、見違える程リリアは強くなったようだね。尤も、あの姿こそ彼女の本質なのだろうけど」


「ああ……。って、アイオーン!? いつからそこに!?」


振り返るとそこにアイオーンが立っていた。こいつ、普通に声をかけてくるって事が出来ないんだろうか。

真紅の髪を揺らし、嫌な笑顔を浮かべながら俺を見つめている。それにしてもこいつも只者じゃないな……。自分でも感覚は鋭くなってきたと思うのだが、こいつの登場だけは一切見抜けない。


「いつからって、ずっとだよ。ボクはね、夏流? 君の事をずうっと見つめているのさ。ふふ、ふふふ」


「おっかない事を言うな……。それで、何か用か?」


「用が無ければ君に会いに来てはいけないのかい?」


胸に手をあて、笑うアイオーン。本当にコイツと話していると疲れる……。


「ボクは君自身に興味があるんだ。だから君ともっと仲良くなりたいだけなんだよ。勇者やら何やらなんてどうでも良くてね……。どうだい? 一緒に食事でも」


「なんか胡散臭くて正直一緒にメシ食う気はしないんだが……。俺の何がそんなに興味をそそるんだ?」


「決まっているじゃないか。全てだよ、夏流。君の存在、君の言葉、君の想い……。今ボクの興味は君一点に注がれている。君も色々知りたいんじゃないかい? この世界の秘密、とか……」


「――何だと?」


俺はこの世界にとってイレギュラーな存在……原書のルールにそぐわない者。だが、それを知っているのは学園長かうさぎだけのはず……。

こいつは俺の何を知っているっていうんだ。世界の秘密……? 何の事を言っているんだ? 全く判らない。挑発的な笑顔だけがじりじりと俺の疑念を焦がして行く。


「知りたいかい? 喉から手が出るほど知りたいって顔をしているよ。そんなにがっつかなくても教えてあげるさ。ただし、条件がある」


「……何だ?」


「簡単な事だよ。ボクと戦って欲しいんだ、夏流。闘技場でね」


それそのものは確かに問題ではない。俺たちは同じ学園の生徒……試合という形式ならば間違いもそう起こらないだろう。

だが、確かアイオーンはゲルトと同格のはず。登録さえしていない俺が彼女と戦う事など出来るはずも無い。


「大丈夫だよ。決まった時間に事前申請しておけば、練習試合に使う事も出来るんだ。ランキングは関係なく、ね」


確かにそれもそうだ。一日中ランキングバトルが行われているわけではない。授業も行われるし、勿論練習にも使われるだろう。

だがそこまでして俺と戦いたいという理由はなんなのか。俺の魔力総量のせいか? それとも本当に俺の素性について何かを知っているのか……。

だめだ、考えてもわからない。だが少なくともこの胡散臭い女の本心を少しだけでも探っておきたいのは事実。


「……判った、条件を飲む。約束を反故にするなよ、死術使いネクロマンサー


「ふふ、心得たよ。それじゃあ連絡は追って。『武器もまだ仕上がっていない』だろうしね……ふふ」


まさか本当に俺のあとを付回していたとでもいうのか。背筋がぞくりとする感覚を残し、アイオーンは立ち去っていく。


「なにやら大変な事になりましたね」


うさぎの他人行儀な言葉に溜息を漏らした。

この世界の謎……。やはり、そうなのか?

俺以外にも、この世界に干渉できる存在が……俺の存在を知る人間が、他にも……。

考えても仕方がない。今はせめて少しでもアイオーンに太刀打ちできるように、自分の力をコントロール出来るよう努力するだけだ――。



〜ディアノイア劇場〜


*明日は休みだ編*



『メインヒロイン(笑)』


アクセル「メインヒロインって誰だと思う?」


リリア「うん。まず、その質問を正面から堂々とリリアにする時点でものすごお〜く失礼だと思うんですけど、それはどうなんですか?」


アクセル「いや、へこたれ勇者様が一応メインヒロインなのはわかるんだけどさ。結局の所ヒロインとして認められているのは誰なのかって話で」


リリア「勿論それはリリアですよ〜。ツンデレなんて目じゃないですよ〜。最近の業界は何でもかんでもツンデレにしすぎなんですよ! 今だからこそアホの子が見直されるべきなのですよ!」


アクセル「まあ確かに……リリアちゃん以外の女の子は全部ツンデレな気もする……っていうかリリアちゃんも意外とツンデレなんじゃ」


リリア「ツンデレとかいうなあっ! ゲルトちゃんはどうせ同人誌とかで本がいっぱい出る感じの脇役なんだから、せめてリリアは王道ヒロインなのーっ!!」


アクセル「……ああ、いるよね。メインヒロインより明らかに人気のあるサブキャラとか……」



『二人の相性』


アクセル「あ、ゲルト」


ゲルト「うっ……。アクセル・スキッドですか……。何か用ですか?」


アクセル「顔見ただけで嫌そうな顔するなよー」


ゲルト「貴方は何だか苦手なんですよ……。恐らく相性的によくないんでしょう」


アクセル「そんなことはないぞ? 属性的に一番相性が悪いはずのリリアにデレデレじゃないか、お前」


ゲルト「…………うっかりぶっ刺されたいんですか、貴方は」



『二人の相性その2』


メリーベル「あ、ゲルト」


ゲルト「ひいっ!? め、メリーベル・テオドランド……。何か用ですか?」


メリーベル「顔を見ただけで悲鳴を上げるとはこれいかに」


ゲルト「貴方だけはもう二度と敵に回したくありません……。というか、女の子にあんな格好をさせて嬉しいんですか?」


メリーベル「嬉しいし、楽しいし。それに写真は金になるから」


ゲルト「…………あの、その写真は、いくら出せば全て買い取れますか……」



『中ニ病(笑)』


メリーベル「ナックルの試着をしてもらおうと思ったら、なんだかナツルすごい格好になってるね」


夏流「ん、この鎖か? だって他につけるとこないんだもんしょうがないだろ。それに魔力通ってる鎖だから防御力高いんだぞ」


メリーベル「じゃらじゃら鎖ついてると急激に安っぽく見えるのはあたしだけ? まあしょうがない、鎖に繋げるナックルにしてあげるけどさ」


夏流「ああ、そりゃどうも。でもそんな事言ったら聖剣解放とかでパワーアップしたりするへこたれ勇者さまとかのほうが余程中ニ病じゃないか」


リリア「あのう、リリア十五歳……中三ですよう? 知ってましたか……?」



『必殺技』


リリア「渦巻く闇の花弁メイルシュトローム


ゲルト「…………」


リリア「渦巻く闇の花弁メイルシュトローム(笑)」


ゲルト「うがあああああああああっ!!」


リリア「めいるしゅとろ〜〜む〜〜♪」


ゲルト「絶対叫ばないもん! 絶対叫ばないもんんんんっ!!」



『強さ』


アクセル「結局この話、キャラの強さがよくわかんねえよ。もっとわかりやすく例えてくれないかなあ」


夏流「そうだな……。俺がアバン先生だとすると」


アクセル「もう既によくわかんねえじゃねえか」


夏流「リリアは……アムロ・レイくらいか。そうするとゲルトはシャアくらい……」


アクセル「俺は?」


夏流「…………DSライトくらい?」


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