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虚幻のディアノイア  作者: 神宮寺飛鳥
第五章『アーク・リヴァイヴ』
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マナの手紙(3)


 拝啓、家族の皆様へ。

 大変な事になってしまいました。なんと、学園長の間違いで合格通知が届けられたらしく、わたしは実は不合格だったそうです。

 そりゃあ、そうですよね……。わたしみたいな才能もない田舎娘がそんな簡単にディアノイアに入学できたら誰も苦労はしません……。

 手紙になんて書けばいいのかわからず悩んでいましたが、とんでもない事になりました。なんと、あの伝説の英雄ゲルト・シュヴァインが学園長にとりなしてくれるそうなのです!

 それだけではありません。やっぱりユリアちゃんはリリアの娘でした。そしてなんでもゲルトさんと一緒に暮らす事になったんだとか……。

 ユリアちゃんは本当に物凄いエリートでした。バテンカイトスで生まれ育ったという時点でもうなんか凄いです。でもつい最近までザックブルムに居たんだとか。全然気づかなかった……。

 なんだか順序が逆になってしまった気がしますが、ディアノイアは本当にすごい所です。生徒もみんなエリートさんという感じで、入学できたとしてもついていける自信がありません。

 でも、あの伝説の英雄がこんなに間近に、しかも教師として色々教えてくれるというのだからこれはもう絶対に諦められません!!

 意地でも学園に入学して、維持でも英雄になってやろうと思います。それこそがわたしの目標であり、そして夢なのだから!

 と、意気込むのは手紙の中だけにしておきます。正直な所不安で一杯で、こうでも書かないと気持ちが揺らいでしまいそうです。


「少し待っていてね。もう直ぐ学園長も来ると思うから」


「は、はいっ!」


 学園長の部屋は…………きたないです。なんかトレーニング機器が沢山転がっています。どれも胡散臭いですがかなり使いこまれている感じです。

 ユリアちゃんは着替える為に更衣室に向かって、今ゲルト先生も居なくなりました。そうするとこの何だか汗臭い部屋の中に一人きり……。うう、学園長ってどういう性格の人なんでしょう?


「……机の上、プロテインばっかり」


 どういう事なんだろう。物凄いスポーツマン? それとも筋力強化オタク……? 何にせよ不安です。学園長がそんなにいかつい人だったらわたし、気絶してしまうかもしれません。

 ここに来て人見知りスキル発動です。そういえば学園長って誰だったっけ? たしか、ソウル・ブーストナッコォとか――。


「フ〜、いい汗かいたぜぇ!!」


「ひゃあっ!?」


 扉の方を見ていたら何故か背後の窓から人の声が。振り返るとそこには上半身裸のムッキムキのおじさんが立っていました。

 あれが学園長なんでしょうか。なんていうか……なんで入学式していたはずなのに『ハアハア』してるんでしょうか。すごい汗かいてるし。入学式してたんですよね? あれ?

 兎に角そんなわけで、ソウル学園長と出会う事になり、これから直訴する事になりました。家族の皆、幸運を祈っていてください。まあ、これが着く頃には結果が出ているのですが――。


 マナ・レイストーム。



⇒マナの手紙(3)



「成る程成る程、話はわかった。つまり俺が馬鹿な所為で少年少女の夢を砕いてしまったわけか! そりゃあ申し訳なかったな!」


 ソウル・ブーストナッコォ。ディアノイアの学園長にして戦闘学科の現役教師でもある上半身裸の男は腕を組んで豪快に笑い飛ばす。

 正面に立ったマナは今にも泣き出しそうな顔をしている。ソウルは見た目がかなり厳つい上に学園長である。マナとしてはいつ怒られるかとビクビクしていた。


「ふむふむ、成る程な……。ホイ、これがお前の制服だ。余り物だが文句はないだろ?」


「えっ? い、いいんですか!?」


「おう! どうせ一人や二人増えたって誰も判らねえだろ? 大丈夫大丈夫、合格通知そのものは持っているんだしな」


「で、でも……わたし……」


「なんだ、嫌なのか? じゃあ返せ」


「返し、ませんっ!!」


 制服をぎゅっと抱きかかえ全力で後退するマナ。その様子を見てソウルは満足げに微笑んだ。

 二人がそんなやり取りをしていると学園長室の扉が開き、着替えを済ませたゲルトとユリアが入ってくる。ゲルトは代えのスーツに袖を通し、ユリアは制服に着替えている。


「お! お前がユリアか〜! いや〜、ママのちっちぇえ頃にソックリだなあ!!」


 豪快に笑いながらユリアに駆け寄っていくソウル。巨大な体躯を揺らし、迫る筋肉……。ユリアは目を真ん丸くしてゲルトの後ろに隠れてしまう。


「学園長!」


「おっと……。大丈夫だ、怖くないぞ? さあ、一緒に筋トレしようぜ」


 どうしてそうなるんだろう……マナは疑問を口にはしなかった。


「何はともあれ長旅ご苦労だったな。二人とももう休んでいいぞ。俺は筋トレで忙しいからな。ユリアの事はゲルトに任せる。じゃあな!」


 再び窓から飛び降りて行く学園長。学園長室――。そこは、ラ・フィリアという搭の中に存在する。校舎で言えば四階相当の高さからソウルは平然と飛び降りて行ったのである。その事実に気づき、マナが冷や汗を流す。

 そもそもここまでジャンプして昇って来たのか、それとも壁をよじ登ってきたのか……。学園長室に窓から侵入するというのは言うほど容易くないのである。


「だ、だからハアハアいってたのかな……」


 本人がいない今真偽を確かめる事は出来ない。マナは疑問を頭の中から掻き消すように首を振った。


「わたしの出る幕も無く入学できたようね。おめでとう、マナ」


「はいっ! ゲルトさん……じゃなくて、先生のお陰です!」


「そんな事はないわ。学園長はあれでも人を見る目はあるもの。貴方から何か特別な才能でもかぎつけたんじゃないかしら――って、ユリア!? 駄目よそれはお菓子じゃないの! プロテイン!!」


 二人が同時に振り返るとユリアは机の上のプロテインカプセルを口の中に放り込んでいた。美味しくなかったのか、涙目になりながら震えるユリアをゲルトが引き摺ってくる。


「もう、ちょっと目を離すとこの子は……っ! 良くパーシヴァルで一人ここまでこられたわね」


「あ、ずっとお菓子食べてたんですよ。すごく大人しかったです。メイドさんが沢山持ってきてくれて……あれ? 今思うと不思議ですね」


「……多分、レプレキアが気を使ってくれたんでしょうね」


 ゲルトが困った様子で溜息を漏らしている間、ユリアは小さく欠伸を浮かべていた。どうやら退屈らしく、眠たげに目を擦っている。


「……なんかユリアちゃん、行動が動物的ですね」


「そうね〜。犬リリアを思い出すわ……」


「い、犬リリア……? リリアファンのわたしですら知らない謎の単語が……」


「可愛いのよ〜、犬みたいで〜!」


 それが何であるのかは全く想像出来なかったが、なんとなくユリアの頭に犬の耳を乗せた妄想を浮かべ、マナは一人口元を抑えて笑っていた。

 ユリアは二人が妄想の世界に入り込んでいる間、頭の上に乗っていたうさぎを抱きかかえながらぼーっと窓の向こうを眺めている。そうしてしばらくするとユリアのおなかが音を鳴らした。


「……ゲルト、おなかすいた」


「え……。ここ来るまでにあんなに食べてたのに……」


「うるさいな。私がいつどこで何を食べようと勝手だろ……? 私は勇者で姫で、最強なんだからな」


 拗ねた様子でそんな事を口にして顔をうさぎで隠すユリア。何はともあれそれから三人はゲルトの家に向かう事になった。

 入学式で受け取るはずだった資料や説明などはもう受ける事が出来ない。丁度プログラム的にも昼休みの時間に入る事もあり、ゲルトの提案でマナも昼食をご馳走になる事になったのである。

 そのついで、歩きながらゲルトは学園についての説明を続ける。マナはそれを一生懸命に聞き取り、何度も相槌を打つ。二人の間、ゲルトと手を繋ぎながら歩くユリアはシャングリラの出店を見る度に涎を垂らしていた。


「ここがゲルト先生のお家ですか?」


「そうよ。元々は学生寮だったんだけど、今はディアノイアが管理する社宅って感じかしらね。どうぞ、上がって」


 そこは巨大なマンションのように見える。マナにしてみれば都会にしかない建造物、興奮するなという方が無理な話である。それがあの伝説の勇者、ゲルトの家だというのならば尚更だ。

 かちこちに緊張しながらマナはゲルトの部屋に上がる。そこはモノトーンで統一された落ち着いた空間。マンションにしては広々としたリビングに通され、そこで大きなテーブルに着く。


「いい暮らししてるなあ……」


 とは言わないつもりだったが、つい口にしてしまった。ゲルトはそれを聞いてか聞かずか一人台所に向かっていく。


「はい、とりあえずこれ」


 ゲルトが戸棚から持ち出して来たのは生クリームがたっぷり乗せられたショートケーキであった。ワンホールまるまるユリアの前に置くとユリアは目を輝かせる。


「とりあえずお祝いって事で買っておいたのよ。今日から一緒に住む事になるんだしね」


「そっか……。そういえば先生、その……どうして先生がユリアちゃんの面倒を……?」


 それは根本的な疑問であった。ゲルトは言ったのだ。ユリアはリリアの娘なのだ、と。

 然らばユリアを育てるのは母親であるリリアの役目のはず。ところがユリアの経歴の中に一つとして母の名が出てくる事はなかった。

 もしかしたら訊いてはいけない事だったのかもしれない。しかしリリアにずっと幼い頃から憧れてきたマナにとってこれはまたとないチャンスでもある。疑問を口にして、答えを得たい……。とても純粋な瞳でただそれを現実にするマナにゲルトも悪い気はしなかった。

 とてもまっすぐな目をしているマナ。その面影にどこかリリアに通じる物を感じる。いつでも真っ直ぐ、気弱だけれどどこかズレていて、へこたれてそれでも真っ直ぐなまま。


「……リリアは、行方不明なのよ」


 ゲルトはテーブルに着きそう切り出した。


「リリアはユリアを生んで直ぐに居なくなったの。本人はね、ちょっと買い物に行ってきますくらいの気持ちで出て行ったのかも知れない。でも、そんなこんなで結局リリアは戻らなかったわ」


 その後、出産に立ち合わせ住処を提供していたバテンカイトスのメリーベルがユリアを預かり育てる事になった。暫くしてずっとバテンカイトスの中というのも不憫と言うことで、外に連れ出せない体の不自由なメリーベルに変わってレプレキアが世話を名乗り出たのである。

 クィリアダリア女王であるアリア・ウトピシュトナもそれを申し出たものの、クィリアダリアは現在領土拡大と国境線での他国との小競り合い、その交渉で多忙である。結果、今となっては皮肉にも世界で一番平和な国となったザックブルムに預けられたのである。


「わたしもその頃は学園の仕事で忙しかったし、それに外部大陸とシャングリラを往復する生活だったから。そんな状態で子育てなんて出来ないもの」


 本当ならば自分が世話をしたかった……ゲルトの口調はそんな本音を垣間見せる。マナはその気持ちを汲み取りそれ以上追求する事はしなかった。


「こうしてディアノイアに入学する事になったのはユリア本人の希望なのよ。ね、ユリア――って、既にケーキワンホール消滅してる!?」


「げぷ」


「げぷって……そういう問題なのかな、ユリアちゃん……」


 口の周りを生クリームでベタベタにしてユリアは顔を上げる。その口元をゲルトがナプキンで拭い、苦笑を浮かべる。


「メリーベルもレプレキアもこの子に甘すぎなのよ。甘やかしてばっかりだから、お菓子しか食べない子になっちゃったじゃないの……もう」


「お菓子以外も食べるよ? 果物とか」


「……あ、それでも甘いの限定なんだね」


 三人の間に謎の沈黙が走る。それからユリアはうさぎを部屋の中に放ち、浅く椅子に腰掛けて視線を伏せる。


「……ママを探したいの。だから、ディアノイアで強くなる」


「ママを……? でもユリアちゃん、もう既に充分強いんじゃ」


「でも、もっと強くなるんだ。ママに追いつけるくらい、強くなる……。それで、ママを見つけ出す。絶対に」


 顔を上げたユリアは真っ直ぐな瞳でマナを見詰めた。オッドアイの瞳は見ていると吸い込まれそうな程無垢に輝いている。髪を揺らし、椅子から降りたマナは部屋の中をはねるうさぎを追い掛け始めた。


「……ユリアは、外部大陸に居るんじゃないかって言われているの」


「外部大陸……? えっと、それじゃあ……?」


「ええ。今の所、外部大陸は未開の地多いわ。外部との連絡を取り持つのはディアノイアの重要な役割でもあるの。何しろ英雄学園計画残りの二校は外部大陸にあるんだから」


 外部大陸――未開の地。長らくこの世界は北と南、二つの大陸だけが人の暮らす世界だと言われ、そこより外側に目が向けられる事はなかった。

 しかし魔王大戦、第三次勇者聖戦が終了し、人々は世界を復興させ平和の為に努めるようになった。一人一人の目はお互いの憎しみだけではなく、もっと世界へ……外へ。人類の視野は今も広がり続けている。

 お互いを憎しみ合うだけの時代では叶わなかった願いが、新たな手を握り締める事が出来る人々の住む世界へと続いて行く。リリアはそれを望み、そして世界の果てへと旅に出たという。


「噂話の域を出ないんだけどね。でもあの子ならそんな事になっていてもおかしくないもの。だからユリアも行くって聞かないの」


「――“世界の果て”に、ですか?」


 母の姿を求め、ユリアはより強く、そしていつかは世界の果てを目指して行く。今はこの小さな部屋の中、小さなうさぎを追い掛け回す小さな少女……。しかしその素質は母親であるリリアさえ軽々と凌駕する。

 いつかは世界最強の勇者になるかもしれない……その可能性は二人とも感じ取れるから。だから小さな少女の大きな夢をせめて応援したいと願うのだ。とても自然に、真っ直ぐな気持ちで。


「難しい……でも、素敵な夢ですね」


「出来ればあんまり危険な事はさせたくないんだけど……。でも、そんなものよ。わたしたちも貴方達くらいの年頃の時は、無茶だって判っていても自分の胸の熱さに真っ直ぐに生きていたわ。それを邪魔してしまうのは、大人としてやってはいけない事だから」


「…………素敵ですね、そういうの。なんか……わかる気がします」


 無駄だとわかっていた。無謀なのは百も承知だった。それでも入学試験を受けた。

 奇跡のような合格。裏切られた夢……。それでも諦められなくて、それでも小さな頃、夢見た勇者の姿に追いつきたくて……今もここで燻っている。


「わたしもディアノイアで、強くなれるんでしょうか」


「なれるわよ、きっと。この学園はね、力と知識だけじゃない……。きっと皆に、“夢”を与えてる。もっと遠く、遥か彼方……。今は目に見えない、手の届かないような理想だって、いつかは実現できる。きっと、一人じゃなくて仲間が居るなら、貴方にもね」


 テーブルに頬杖をつき、ゲルトは優しき笑いかける。その笑顔に微笑み返し、マナは頷いた。


「……ところで、あのー。ユリアちゃんのお父さんは、今どこで何を……?」


 途端、ゲルトの表情が暗くなった。あさっての方向に視線を反らし、冷や汗を流している。


「な、なんか聞いちゃいけない事でしたか……?」


「い、いいのよ。いいんだけど……。いいんだけどね……。もう、昔のことだから……うぅ」


 一人どんよりとしてしまったゲルト。どうやら触れてはいけない過去に触れてしまったらしい。マナは一人あたふたしながらゲルトの肩を揺すり続けた。


「…………きっと、死んじゃいないのよ。リリアも、ナツルも……ね。今もこの世界のどこかで、あの子の事を待ってる」


 二人の視線の先、ユリアはうさぎを抱きかかえて微笑んでいた。天使のような笑顔を浮かべるユリア。マナはその姿を両目にしっかりと焼き付けた。



「わざわざここまで案内してくれてありがとうございました」


 食事を終え、校内の案内も済ませてマナは荷物を抱えゲルトに頭を下げていた。明日からはいよいよディアノイアでの生活が始まるのだ。

 学生寮まで案内を終えたゲルトは夕暮れを背に小さく頷く。マナは荷物を一度降ろし、ゲルトの隣に立つユリアに歩み寄る。


「ユリアちゃん」


「……ん?」


「明日から同じディアノイアの生徒として、一緒に頑張ろうね! よろしく、ユリアちゃんっ!」


 笑顔でそうして手を差し伸べる。ユリアは面を食らったように目をぱちくちさせ、それからおずおずと伸ばした小さな手で握手を交わした。

 二人の重なったシルエットが夕日の中に浮かび上がる。ユリアは初めてマナに笑顔を見せた。子供らしい、無邪気でしかしどこか大人びた笑顔だった。

 ゲルトとユリアが帰路に着く。その後姿が見えなくなるまでマナは寮の前で二人を見送っていた。やがて夕日の赤が掠れ、夜の闇が世界を包み込み始める中、少女は深呼吸をして空を見上げた。


「……お父さん、お母さん。ここがシャングリラです。ここでマナ・レイストームは、自分の夢を追い掛けます」


 とりあえずは迷わずに部屋まで向かう事。そして“ルームメイト”となんとか早く打ち解けること――。

 マナ・レイストームの生活は始まったばかり。そして彼女と勇者の物語は、きっとここから始まった――。





「お、おい……! あれを見ろ!」


 世界のどこか。見渡す限り砂と石に覆われた砂漠の大地、そこに浮かぶ陽炎が一つ。

 ディアノイアの蒼い制服とは異なり、紅い背服を身に纏う学園の生徒たちが指を指す先、そこには彼らがこれから討伐しようとしていた魔物の姿があった。

 巨大な龍の姿をした怪物――。それは全身を切り刻まれ、頭に巨大な剣を突き刺されて息絶えていた。その剣の大きさは余りにも巨大――。まるでそう、巨人が扱っていたかのような、聖なる剣。

 強すぎる太陽の光を浴びながら、龍の背の上に一人の女の姿があった。長い髪を風に揺らし、砂塵の中に生える。生徒達が唖然とするのを見下ろし、女は龍から飛び降りて砂を踏みしめる。


「――えっと、君たちってもしかしてガーグランドの……?」


 突然の質問に生徒達は顔を見合わせ、それからゆっくりと頷いた。


「そっか! よかった、このまま砂漠で死んじゃうのかと思ったよ。でも案外――結構イケるもんだね? 徒歩で砂漠横断、六十四日目っ♪」


 全身をスッポリと覆っていたマントを脱ぎ、女は光の下で大きく身体を伸ばす。空に嬉しそうに叫び声を上げ、生徒たちが完全に引いている中、彼女は満面の笑顔で言った。


「――で、さ。よかったら分けてくれないかな? ご飯と、それからお水――!」




「ユリア、友達が出来てよかったわね」


「……別に、友達じゃないもん」


「そう? でも、貴方にもいつか判る時が来るわ。一人では絶対に歩けない道でも、仲間と手を繋げば進めるって事」


「…………仲間?」


「そう、仲間。貴方にもきっと出来るわ。ここはそんな運命を引き入れる場所だから。ディアノイアは――きっと貴方の運命を祝福してくれるから」


 夕暮れの中を歩きながらユリアは頭の上のうさぎを下ろして腕に抱える。そうしてうさぎの頭を撫でながら目を細めた。


「……仲間、か。そしたらママにも会えるかな……? サイファー……」


 うさぎは何も応えない。ユリアが見上げる先。夕日の紅と夜の闇が交わる狭間、幻想的な月と太陽の光がシャングリラを見下ろしていた。


〜帰って来た! ディアノイア劇場リターンズ〜


*終了*


ユリア「え、これで終わり?」


マナ「終わりだよ?」


ユリア「……続かないの?」


マナ「んー、TRPG版に続く予定だよ」


ユリア「そういうのなんていうか知ってる。釣りっていうんだよ」


マナ「あははははははははは!!」


ユリア「笑ってごまかすなーっ!!」


マナ「というわけで、奇跡的にTRPG化が成功する事を祈っていてねー。それではまたどこかで!」


ユリア「ママー!!」


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