計略入学 その1
「えー昨夜未明、指定暴力団の蔵雁組の組員全員が
殺害される事件がありました。被害者は皆、
胸の部分に直径15cmほどの穴が空いており
更にくり抜かれたと思われる被害者達の心臓
は1つも見つからないとのことで…」
ニュースでは昨日あった暴力団の皆殺し事件の
ことについて取り上げられていた
そう、昨日俺が暴力団のやつらを全員殺したやつだ
黒スーツの男を殺した後、俺はあの建物にいた
他の暴力団員も全員殺した
ヒーロー気取りするつもりはないが
一人でも残していたら
俺みたいな被害者が出ると思ってのことだった
しかし、怪しいと思って探りを入れていたが
結局そこまで大したものじゃなかった
路地裏で取引していたのはどうやら違法薬物
の取引だったようで他には何もなかった
別に違法薬物がいいと言う訳じゃないが、
ああいう暴力団なんかにはもっとやばいのを
取引している場合もある
これは噂や都市伝説等でなく
紛れもない体験談である
俺は今まで暴力団をいくつも潰して来た
片っ端から見つけた暴力団を潰していた訳ではなく
やばい取引をしてるやつらや昨日の奴らのような
罪の無い人間を拷問し苦しめて殺す屑どもを
俺はこの能力で殺してきた
最初は証拠なんかが残って捕まらないかなんて
心配してたこともあったが、この能力のことを
知るやつは限りなく少ない
まず、この殺し方なら証拠どころか
穴の空いている部分が完全に消滅する
捕まる心配もない、もし捕まっても逃げられる
ただ俺は殺人が趣味な訳ではない
ただ被害者を増やしたくない一心で
俺は害のある人間を殺している
ただの偽善だとか屑だとか思われるかもしれないが
俺は自分を屑だと思ってるし、半分自己満足で
やっているのでそんなこと気にしてはいない
それと頻繁に人を殺している訳でもない
危険な人間以外には手を出さないし
第一にそんな人間が沢山いるわけではない
この街は治安が悪いが、殺すほど酷いやつは稀だ
「この事件は2年前に起きた男子三人の
風穴事件の内容と酷似しており、被害者が全て
何かしら凄惨な事件を引き起こしていると言う
共通点もあることから、恐らく犯人は同一犯
であると思われます…」
風穴事件か…これも俺がやったやつだ
17年前、ある事件の犯人が捕まった
その事件の内容は、小学生から高校生までの女子を
捕え、強姦と暴力を何度も繰り返えされ
挙げ句の果には足をコンクリで固めてそれを重石に
生きたまま海に沈められて殺されると言う
いつ聞いても胸糞悪い事件である
普通ならこんな事件の犯人は即死刑でも
おかしくないはずなのだが、その男子三人は
まだ学生であったために数年投獄されただけで
また社会に放たれてしまった
しかし、その男達は一度捕まったにもかかわらず
また同じ事を繰り返した
だが、その男達が女をさらう瞬間を俺は
偶然見ていた
そしてどこに連れて行ったかを突き止め
そして能力を駆使して、殺した
昨日の暴力団達と同じやり方で
死体の胸にはポッカリと穴が空いていたため
その事件は風穴事件と呼ばれるようになった
それにしても、2年前のときといい昨日といい
俺は殺すことになんの躊躇もなかった
それどころか、殺すのになんの感情も抱かなかった
いつからだろうか…俺が殺人を無心で行うように
なったのは
ピンポ〜ン♪
昔の事を思い出していたらインターホンが鳴った
どうせうちに来るのはセールスか宗教勧誘くらいだろ
そんなこと思って、しぶしぶ俺は玄関へ向かった
ため息をわざと大きく吐きながら俺はドアを開けた
立っていたのは白髪の80くらいに見える爺だった
「なんすか?宗教ならもう間に合ってますけど?」
若干怒りを交えて言った言葉に対して
その老人は俺を嘲笑うかのように少し口角を上げ
そして鼻で笑った
「あ?何おかしいの?要はなんだよ?」
少しイラッとして口調が強くなってしまった
しかしそんな俺に老人は
「覚えてないかシント
まあワシは老けたし無理もないか」
予想外の一言だった
俺はその老人を始めてみたつもりだったが
どうやら知り合いらしい
「え?えっと、誰…だっけ?」
首を傾げながら目を細め俺はその老人を見た
そういえば、何か見たことあるような気がする
なんというかどこかで、見覚えがあるような…
「ハッハッハ、まあ分からんでも仕方ないよな
ワシだよ、タカヨシだ」
タカヨシ…聞いたことある…しかし誰だったか…
俺は頭の中をかき乱すように急いでタカヨシに
関する記憶を探し始めた
そして、その名前について俺は思い出してた
「え?タカヨシってお前もしかして、
前伯孝仁なのか!?」
前伯孝仁、こいつは俺が
まだ別の街に住んでいた頃に付き合っていた
友達みたいな関係の男だ
「おお!思い出したか!!そうそうワシだよ!
いや〜覚えててくれてるなんて嬉しいよ!」
しかし、まさかこんな老けてるなんて…
でもおかしな話ではないのは事実だ
なんせこのタカヨシと友達だったのは
約40年ほど前のことで、寧ろおかしいのは俺の方だ
「いや〜しかし、お前は文字通り全然変わって
ないな。やっぱその能力のせいか」
「ああ、そうだな…」
俺は能力の関係上、基本的に目に見えてわかるほど
老いることはない
俺は死んで蘇る能力で蘇る時、大体の場合は
今ぐらいの18歳の時の姿で蘇る
別に他の年齢の時の姿で蘇ることもできるが
特に意識せずに能力任せに蘇ると
今のような18程度の姿で蘇るようになっている
つまり、普通に暮らしていれば他の人間のように
成長して老いていくのだが、死んで何も考えず
蘇っているので、この18ら辺をウロウロしている
感じである
「それでさ、何の要?」
まだ見慣れないタカヨシに対し、少し冷たく
当たってしまった
やはりこういうのは全然慣れない
能力のせいで擬似的に不老の状態にある俺は
知り合いがいつの間にか老人になってた
なんて話はよくあるが、いっとき見ないうちに
いつの間にか知り合いが見知らぬ老人になって
俺の前に現れるのは正直気味の悪いものである
「いやぁねニュース見てさ…昨日の暴力団の事件
あれ、お前だろ」
「あ、あぁ…」
俺の能力について知ってるやつは限り少ないのだが
タカヨシはその限り少ない一人だ
どうせすでにバレていて嘘をついても無駄なのは
なんとなく分かっていた
なので素直に答えたしまった
「だよな、あんな殺し方するのお前くらい
のもんだろ」
「通報するのか?」
捕まるのは怖くなかった
ただタカヨシが俺をどう思うか、そう考えると
どこからか不安がこみ上げてきた
「いや?お前が意味もなく人を殺すとは
思ってないし、まあお前が正しいとは言わんが」
「え?じゃあ俺を軽蔑しないのか?」
「罪の無いやつらを殺した訳じゃないんだろ?
ワシはお前がそんなことするやつじゃないこと
くらい分かってるよ」
はっきり言って嬉しかった
俺のためでもないかもしれなかったが
それでも嬉しいのは変わらなかった
「それでよ、ちょっといいかシント」
心の中で感激していた俺に、タカヨシは
怪しい目をして俺に言ってきた
「黙っとくからさ、ワシの頼み聞いてくれるか?」
「頼み?俺にできることならなんでも」
ほんとになんでもするつもりだったが、
タカヨシは俺が予想してなかったことを頼みだした
「ワシ実は今高校の校長やってんのね」
「へ?校長!?すげぇな!!」
「あぁそれで、ワシが校長を務める高校にさ、
お前にも来てほしいわけ」
「…………へ?」
まさしく一瞬声が出なかった
タカヨシが校長になったってのも驚きだが、
まさかその友達が務める学校に来てくれなんて
「学校…に?俺が入学?するの?俺が?マジで?」
「まあ入学でもいいが先生としてもいいぞ?
歴史を自ら体験したお前なら社会科にぴったりだ」
「え?生徒でも先生でもいいって…どゆこと?」
「ワシにとっちゃとりあえずお前がうちに来て
くれればそれでいいんだ、どんな形であれ、な」
さっぱり意味がわからなかった
とりあえず学校に来てほしい?どういうことか
俺には検討もつかなかった
「なぁ、なんで俺に学校に来てほしいと?」
とりあえず聞くだけ聞いてみた
俺的には学校に行くのは決まりだが、なぜ
そこまで俺に学校に来てほしいのか
その疑問だけは晴らしておきたかった
「うちの学校はさ、生徒同士の決闘を認めている
ところなんだ」
「ってことは、ここらで唯一の戦校の雅笈高校か?」
この世界では学校は男女で別けられるだけでなく
条件を満たせば生徒同士の能力での決闘を
認めるか否かでも分けられている
条件はそれぞれの学校で違うが、基本的には
もしものことがないよう教師の同伴が
条件となっている事が多い
決闘を認める学校は戦校とも呼ばれており
そこには必然的戦闘に特化した能力を持つものが
多く集まる
「そんなところに俺が必要なの?」
「あぁ、うちの学校には血の気のあるやつが
沢山いてな。
うちでも教師同伴の元でなら決闘を
許しているんだが、どうも隠れて決闘するやつが
かなり多いようでな。
そのせいで毎月の重傷者
の数が他の戦校と比べてダントツで多いんだ。
もちろん違反だからそれを止めるべく強い能力
を持った教師や生徒会役員達を見回ってもらって
いるんだが、その違反者も相当強くて
結果止められなかったという事態が多発していてな
そこで、お前に手伝ってほしいという訳だ」
「つまり俺にその違反者達のためのサンドバッグ
になれと?」
「まあそれがいいと思うならそれでもいいが、
とにかく校則を無視して決闘している輩を
お前に止めてほしいわけだ。
様々な修羅場をくぐりぬけてきたお前とっては
なんてことないことだろう?
どんな能力を相手が持っていようと、お前の
その能力と莫大な経験による知恵があれば
止めのはなんてことないはずだ」
タカヨシは随分俺を信頼しているようだが
俺にだって相性はある
相性が悪ければ簡単には止められないだろう
まあそんな意見言ったところで結論は変わらないが
「簡単そうに言ってくれるな。まあでも手伝うよ」
「おお!助かるよ!それで?
どういう立場でうちの学校に来る?」
生徒が校則を破ってないかを見るにはどうすれば
いいか、答えは明白だった
「同じ立場に立つったことで、生徒として
行かせてもらうよ」
「そうか生徒か、確かにそれなら違反者も見つけ
やすいかもな。
なら明後日の朝8時半までにうちに来て、
そしてまず校長室に来てくれ。
お前は転校生って程で入学させるが、
その前に制服や教科書も準備しなければ
ならないからな。
それじゃまた明後日に。」
「おう、じゃあな」
学生か…学校には何度か通ったことあるが
それも結構昔のことだ
友達とかできればいいが
そういえばいつまで学生続けるんだ?
そんなことを考えながら時は過ぎ、制服も教科書
も俺のもとに来た(どちらも校長のおごりだ)
そしてあっという間に俺が雅笈高校に
初登校する日がやってきた来た
これから俺のスクールライフが始まるわけだ