転移蘇生
俺の住むこの街は少しばかり物騒だ
時々戦闘狂のやつが絡んでくるし
犯罪件数もトップレベルに高い
更にいうと暴力団のアジトまであると言う話である
(物騒な事件とかに絡まれなきゃいいけどなぁ…)
そんな事を考えて歩いていると…
目の前を黒いスーツを着て
アタッシュケースを持った怪しい男が通った
その男は店と店の間の路地裏に入っていった
やめておけばいいのは分かっていたが
好奇心が勝ってしまいその路地裏を覗きに行った
黒スーツの男は何やらもう一人いる白スーツの
男と話している。そしてアタッシュケースの
中には大量の札束が入っていた
(何だあの札束、あんなん何に使うんだ?
船とかジェット機とか買うのか?)
そんな余計な事を考えていた時だった
ゴンッ‼と言う鈍い音が頭の中に響き渡る
そして耳鳴りのようにキーンという音が聞こえる
同時に視界がぼやけてきて俺はそのまま気絶した
目が覚めたら見覚えのない場所にいた
薄暗くて、何か生臭い匂いがする
気分が悪くなりそうな悪い空気が漂っている
そして俺は椅子に座らされ両手を後ろで結ばれていた
そう、おそらく俺はあの怪しいやつらに捕まった
多分あの取引してたやつらの仲間にやられたんだろう
あのとき後ろから殴られたのか後頭部が痛い
どうやらあれでは気絶するだけで死ねてないみたいだ
俺はこれからどうするか考えた
ただ逃げだすだけなら簡単な話だ
しかしあの怪しいやつら
無視しておくにはあまりにも危険な気がする
それに俺を捕まえてるってことは
いずれここに来るはずだ
その時が来たら少し探りを入れてみよう
物静かな部屋に鉄が擦れる嫌な音が響く
どうやらやっと来たようだ
部屋に入ってきたやつらは5人
そのうち一人が手術をする時の道具を載せる台の
ようなものを押して入ってきた
案の定そこには拷問器具と思われる物が
ずらりと並べられていた
(拷問か、これじゃ話もできなそうだな
それに拷問だから相当いたよね、嫌だなぁ…)
そんな考えを巡らせていると一人の男が話し始めた
あの黒スーツだ、それによく見ると白スーツもいる
「おい、正直に吐いたほうが見のためだぞ
お前どこの差金だ?なんであそこで覗いてた?」
「別に、どこの差金でもないよ。たまたま怪しい
おっさんが路地裏に入ってったから見ただけだよ」
「嘘をつくなぁ!お前どこかの組のもんだろ!」
「だから違うって…」
そう言おうとした瞬間…
バギュッ!
という音と共に俺の足の親指が潰された
「あ…」
痛い、はっきり言って痛いめちゃめちゃ痛い
痛い…けど…でも…正直…この痛み…慣れた
こんなのは昔から嫌というほど味わった
だからもう飽きてしまってると言ってもいい
「お前、痛く…無いのか?」
「いや?すっげー痛いよ、マジで」
「え?それじゃあなんでそんなリアクションしか…」
「あーいやお構いなくw」
そう言うと拷問器具を運んできた白髪の男が
ペンチのような物を持ってきた
「じゃぁよぉ!?生爪剥がされてもよぉ?
痛くないって言えんのかねぇ!?」
「いや俺痛くないなんて一言も」
ブヂッ!
鈍い気持ちの悪い音が聞こえた頃には、俺の
手の人差し指の爪は剥がされていた
「どうだ!?どうだ!?痛い?ねぇ痛い!?」
「うんなかなか」
俺は素っ気なく答えたそれにしても痛い
て言うか爪を剥がされて痛くない人間は普通いない
まあリアクションのことは触れないで
「なんだよその態度はぁ…あぁ!?」
白髪の男が素っ気ない俺の態度が気に食わなかった
らしい、キレて俺に怒鳴りかけてきた
「いたぶられるお前がよぉお!?
ちゃんと痛がらないとよぉお!?
拷問してるこっちはよぉお!?
全然…全然、全然全然全然全然全然全然全然全然全然
全然全然全然全然全然全然全然全然全然全全然全然
全然全然!お・も・し・ろ・くないんだよぉ!!!」
今ので確信した、この白髪は相当のイカレポンチだ
ネジがぶっ飛んでるというよりも
ネジが外れてそれが脳みそにぶっ刺さってる感じだ
「お前クソサドでイカレ野郎かよ
マジで救いようのない性癖してるな」
その言葉を聞いて白髪のやつが怒り心頭したのが
わかった
目が充血し額の血管が浮き出てピクピクしている
次に来るのは相当きついやつだろうということは
すぐに予想できた
「てめぇ!今俺のこぉとぉをぉぉぉぉぉ…
何つったオラァァァァァォォォ!!!!」
台の上にあったナタで思いっきり俺の首めがけて
スイングしてきた
俺の首は飛んでいっちまうかと思ったが
ナタはななめに入りザックリと左肩側から
心臓のあたりまで切り裂かれていた
「馬鹿野郎!だから手を出すなといったのに!!」
「どうするつもりだ!?情報源がなくなったぞ!」
「うるせぇんだよぉ!こいつはどうせ何も知らな
かった!こんなやつは死んで当然なんだよ!」
意識が薄れていく中で男たちの会話が聞こえていた
まあそんなことどうでもいいんだけど
なぜなら、俺はこれで死ねる
つまり、ここから出れる
でも、出るやらなきゃならないことがある
あいつらを全員殺す!
またこの力で人を殺すなんて正直やりたくないと
思っていたが、仕方ない
今回の俺に対する拷問からして、今まで
何人も殺してきているに違いない
久々にやるな…日頃は危なっかしくて
使ってなかったが、今なら思う存分使える!
いくぞ、[転移蘇生]
「全く…お前はマジでイカれてる、そういうとこ
直したほうがいいぞ」
「うるせぇ、俺は俺のやりたいようにやる!
俺のやり方に口出すなら下抜くぞこら」
「お前ってやつはほんっと…ぐぶふっ!?」
話の途中で突然白スーツの男が血を吹き出した
「な…おい、どうし…」
黒スーツ男はなぜ白スーツが血を吹き出したの
か理解できなかった
「な!お前はぁぁぁ!!!」
白髪も驚いていたが、白スーツが血を吹き出した
ことについては目もくれてなかった
本当に驚いたのは、白スーツの後ろにさっき
殺してまだ椅子に括り付けてあるはずの死体が
立っていたことだった
「お前ぇぇぇ、なんでぇぇ生きてぇぇぇ!?」
「俺って死んでも蘇ることができる能力持ってん
だよね、そして蘇る方法は3種類あるんだけど
お前らには[移転蘇生]
だけで十分みたいだな」
「あぁ!?何言ってんだてめぇ!!ぶっころ…」
「させねぇよ」ブシュッ!
そう言って俺は自分の首に深々とナイフを刺した
そしてまた死ぬ
「あ?は?ハハハハハハハハハハ?なんだぁ?
自分で死んで何がしたいんだぁあ?あははは
ははははははははははははは…」
「いや何がおかしいの?」
素手に白髪の心臓の部分には
ポッカリと穴が空いていた
「ブハッ!」
白髪の男は血を大量に吹き出し
やがて死んでしまった
「俺に自分を殺させることが
どれだけ致命的なのか分かってないだろ」
後は黒スーツ含む3人
少なくともこの部屋にいるのは
「ふ…勝てると思っているのか?
お前みたいなガキに?」
「あの二人には勝ったけどな」
「あれはまぐれさ、運が良かっただけだ
不意打ちにすき打ち、あんなのなら誰でも殺せる」
「なら止めてみろ、俺を」
「怯むな!3人でや…」
ブシュッ!
(ッ!?また自分で死にやがった!しかし
あれはフェイク、どこかにいるはずだ、どこだ…)
「ぐはっ!」「ぐぼっ!」
黒スーツのサイドに立っていた二人を俺は一気に
始末した
「ダブルキルいっちょあがりっと」
「う…うわぁぁぁぁーー!!!」
黒スーツの男は情けない声を出しながら
走り去ってしまった
「逃げれると思ってんのかねぇ」
再度自害する俺、俺の蘇生方法は3つあるが
その中でも唯一、[転移蘇生]は
死んだ場所とは違う場所で蘇れる蘇生方法
魂だけのまさに幽霊のような状態になって
好きな場所に行き、好きな場所で蘇ることができる
じゃあもし[転移蘇生]で移動して
蘇る際に体の部位のどこかが
何か実態のある物と重なっていたらどうなるのか
「お、いたいた。やっぱ逃げ切れんて」
黒スーツの男を見つけるやいなや
俺は霊体の状態で黒スーツの胸あたりに
自分の腕を貫通させた
そして…
「蘇生!」
「ブハッ!?」
答えは、物体の俺の体と重なった部分が消し飛ぶ。