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クローズドβテスト モンスター召喚とコミュ障プレイヤー

作者: マサキ樹

街と町の違いがわからなくてごめんな。


 VRゲーム溢れる昨今に置いて、彼は珍しくVRゲーム未経験のプレイヤーであった。


 新作のネットゲームの初日というものは、大抵なかなかログインできなかったり、エラーが特盛りではじかれたり、廃人にあたるプレイヤー達がスタートダッシュをしたりとなかなか忙しい。

 そんななか私は事前情報を集めどうプレイするのかあらかじめ決めておき、実際にそうプレイできるようにまったりやるというのがいつものゲームにおけるプレイスタイルだった。

 だが今回は気まぐれに応募したVRネットゲームのクローズドβテストの抽選に当たり、事前情報ゼロの状態でゲームをプレイすることになった。

 手さぐり状態でプレイするのなんて何時以来だろうか。

 プレイ期間は七日間。クローズドβテストだから作ったキャラはリセットされるだろうし、色々試してオープンまでに方向性だけは決めておくか。


●プレイ1日目


◇この世界であなたはスピリットを召喚して、共に敵対する魔物と戦い町や砦などを防衛するのが通常の役割になります。

◇まずは街で情報を集めましょう。


 ゲーム開始直後、画面に簡単な説明文が表示された。

 短い。

 自分は今、最初の街であろう広場のような場所にいる。とりあえず自分のステータスを確認するか。まずは自分が何をできるかを確認しないとプレイしようがないからな。


◆ステータス

【LV:1】

【装備:なし】

【所持スピリット:なし】


 な、何もない。

 ……いやいやいや、こういうのって普通初心者用のアイテムとか装備とか、何を意味してるのかわからないステータスとかあるでしょ。しかもヘルプの類も無い。

まわりを見ると自分の他にも唖然としていたり、困惑していたりと首をかしげているプレイヤーがいるのが確認できる。

うーん、これが最初に言われた情報を集めましょうってやつなのだろうか。

 

 しばらく情報収集のため街中を歩いて気づいた。

 誰に話しかけていいかわからない。

 一昔前のゲームならNPCはカーソル合わせて選択すれば話を聞けた。だが、このVRゲームの場合現実と同じように話しかけなければいけないらしい。

 なぜ気づいたか。それは他人の行動を盗み見したからだ。というか、考えれば当たり前かもしれない。

 リアル描写を望むならカーソルで話しかけるとかはしないわな。

 自分は人見知りだ。知らない人に突然声をかけられることはあっても逆はそうそう無い。このままではゲームがプレイできない。かといってNPCとはいえ人間そっくりにできている相手に話しかけることなんて難易度が高すぎる。第一声はなんて言えばいいんだ。「どうすればいいんですか?」か? 「どこへ行けばいいんですか?」か? ……わからない。つらい、なんでまだちゃんとプレイしてないのにこんなことで悩まなければならないのか……。


 普段外を歩くように、死んだ魚のような目をしてうろついていると行列のある場所を発見した。と、とりあえず並んでみるか? いや、もし並んだとして、だ。自分の後ろに並ぶ人が来たとき「なんの行列ですか?」なんて聞いてきたらどうする。答えられないぞ。

 ……しょうがない。行列の先に行って確認してこよう。

 行列は長かった。途中で店なんかがあったら営業妨害以外の何物でもないが、行列は壁に沿って続いていた。そして先頭らしきものが見え、自分はそのまま通り過ぎ、ちょっと進んだ所で物陰に隠れ、聞き耳を立てた。

 どうやらプレイヤーがNPCらしき人と話しているようだ。何々。

「ではこちらの名簿に名前を記入してください。……はい、結構です。それではくじを引いてください。……はい、三番ですね。こちらになります」

 くじ引き? 何のくじなんだろう。

 プレイヤーはくじ引きの景品? の札のようなものを使用したようだ。すると札は空中で淡く光り、中から小さな狐が姿を現した。

 プレイヤーは「おっしゃっ!」と言うと、知り合いなのか他のプレイヤーに自慢しているようだった。

 すごいなぁ。もう友達作っちゃってまぁ。

 それからもプレイヤーたちのくじ引きは続いた。一人一回みたいらしく、貰える景品はすべて札だった。それをすぐ使う人、懐に入れてその場から離れる者様々だ。

 これはあれだな。ログインボーナスとかのアイテムが貰える素敵なイベントだな。早速自分も並ぼうと思ったが、一度通り過ぎた列を逆に移動するのはまずい。誰かが自分のことを覚えていて指さされて何か言われたり笑われたりするかもしれない。そうならないために近くの道を通り、最初の列のあった場所までいかなければ。




 なんとか最初の行列のあった場所までたどりついたが、行列はすでになかった。随分と進んだようだ。これならあまり待たなくても済むな、と思って行列の最後尾を目指して歩きだす。

 ……最後尾が見えてこない。不安を抱えながらさらに歩いていくとくじ引きをしてくれるNPCが立っていた。当然プレイヤーの姿はなし。

 誰かが先にくじを引いていれば流れで自分も引きにいける。だが、誰もいないところで自分がくじを引きに行くなんて難易度が高い。辛い。お腹痛い。

 どうしよう……うぅむ、列が消えたってことはもしかしたら今インしている大抵のプレイヤーは用事をすませたかもしれない。もしくは列に並ぶのが面倒で先に街の中を見て回って、空くのを待つというスタイルかな。

 失敗したか。

 並ぶ、か。並ばない、か。

 ……今誰かが並びに入ったとして、列はできない。ならば列ができるまで街中をブラブラ、いや、道を覚えよう。

 さっきは当て所もなく歩いていたけど、今度はどの道がどこの道へ続いているか、どんな建物がどこにあるか、近道はどこか、色々と頭に突っ込もう。とくに人目を避けられる道は必要だ。




 しばらく街中を移動していると、最初にぶらついたときには見つけられなかった道具屋っぽい建物を発見した。

 距離を取り様子を窺う限り、人の流れが多くもなく少なくもなくほどよい感じだったので中へ。

 中の商品は見たところ、怪我の治療などに使うであろう薬や、何かの葉っぱ、何かの種っぽいもの、巻物などとりあえず見ただけではわからない品が満載だった。正直昔懐かし駄菓子屋みたいな感じだ。店内はちょっと広めだし、駄菓子はないけど。

 何に使うかわからない商品をぼーっと見て回る。

「何か探し物かい?」

 うっ、あるんだよなぁ、何気なく見ていると声をかけてくる店員。近くに自分以外に人がいるのに何故こっちに声をかけてくるのか。実際に何か探している時は声をかけてこないのに、眺めている時だけ声をかけてくるんだよなぁ。あれは一体何なんだろう。

「あ、いえ、眺め、眺めてただけ、なので」

 ペコペコ頭を下げながら距離を取る。

 そのまま少し商品を眺めてから店を出る。すぐに店を出ると感じが悪いからなぁ。でも、相手がNPCってことはそこらへん気にしなくてもよかったのかもしれない。




 さらに街中を移動していると、大きな剣と盾の絵が描かれた店を発見。おそらく武器、防具屋と思われる。

 今は素手、というか装備品なんてないからな。

 こちらも遠巻きに様子を窺ってから中へ。

 中の商品は最初の町らしくそこそこというか、まぁまぁというか、そんな品揃えだ。ただ、おかしな点をあげれば、商品が現品で置いてあるのではなく、クレジットカードほどの大きさのカードに商品の名前と絵があり、それがガラスケースに並べられている点だ。

 ガラス越しに触れると拡大して目の前に表示された。おお、なんかSFとかによくある浮いてる画面だ。

 いくつか見てみたが、どれも商品名と絵だけで、強さとかそういうステータス的なものは一切見られなかった。

 自分のステータスも表示されないぐらいだからこのゲームはそういう方向性でいくのかもしれない。

 うーん、だけど自分のステータスならともかく、武器の能力が分からないと何を買っていいかわからないな。見た目はすごい強そう、なのに高いのに使ってみたら弱かったじゃ話にならない。ここらへんは運営に要望出しておこう。

 そしてここで気が付いた。気が付いてしまった。所持金が一切ないことを。

 なんだろう。ひどい。こんなんでどうやってプレイしろというのか。

 最初は採取系のクエストで金でも稼いでそれから装備を整えていざ冒険へ行けというのだろうか。

 いやいや、まさかな。

 とりあえず、町の外へ行ってみよう。素手でも倒せる敵がいるかもしれない。




 結果。出られませんでした。

 外へ出られるっぽい門の前まで辿り着き、いざ、という所で門番らしき人に、

「装備もスピリットも所持していない方が外へ出ることは許可できません」

 と、言われてしまった。

 悲しい。どっかの博士なら外に出ても大丈夫なように何かくれるのに。

 門から離れて町中をゾンビのように徘徊しながら、今後のことを考える。

 町の外へ行きたい。装備もスピリットもないから駄目。装備が欲しい。金がない。金が欲しい。金策がない。じゃあスピリットを用意しよう。スピリットはどこで手に入るのん。というかスピリットって何?

「はぁ……」

 ため息が漏れる。

 視界に広場が見える。とりあえずこのまま歩き続けるのも何だから座ろう。

「………………」

 広場のすみにあるベンチに腰掛け、ただただ地面を見つめる。現実だったら蟻の行進を眺めているところだろう。……なんで蟻ってあの行列の長さで止まらないでずっと動き続けているんだろう。あれってかなり長い距離続いてるけど、人に換算したらかなり行列のできるなんとかな店とかになっちゃうんじゃ……あっ。

 思い出した。そういえばなんかくじ引きできる所があった。あれは、確か。




 記憶を辿ってくじ引きのできる場所まで足早に移動する。

 見覚えのある壁を見つけるとそれに沿って進む。すると行列はないが例のくじ引きNPCが立っていた。

 声を、声をかけねば。

 現状を打開するにはあのNPCに何かアイテムを貰ってそれを使うなり、なんなりしなければ。

 一歩一歩とゆっくりと近づいていく。

 伊達にクラスメイトの家に呼ばれた時にチャイム鳴らす、鳴らさないで悩んでたら、相手が中々こないのをおかしく思って外へ出た時に、門の前でチャイムを押そうと硬直している自分を発見して、「中々来ないから迎えに行くところだったぜ。それにしてもジャストタイミングじゃね?」とか言われたり、家電量販店で店員に声をかけなきゃ買えない物を買うのに六時間以上も決心出来ずうろついたり、就職の面接で電話の前で数日かける、かけないで悩んだりとかとかしていないのだ。

 相手はNPCだ。生の人間じゃない。普通に声をかければいいんだ。

 ……普通ってなんだ。

 別に誰かに情報を貰ったわけじゃない。偶然行列を発見して、何か貰えるらしいって知っただけだ。

 もしも、事前に他のNPCから情報を聞き出してフラグを立てなければいけないとかだったらどうする?

 他のNPCそれぞれに話かけなければならんぞ。

 そして何て声をかければいいかと数時間また悩む。

 このクローズドβテストは事前に七日間だけプレイ期間を設けると聞いている。

 七日間。たった七日間だ。最悪フラグが見つけられなくて悩み続ける期間が七日間だ。

 他のプレイヤーがどんどん進めて装備が整っていくなかで、自分だけが初期状態で町中をふらふらするのだ。

 辛いです。

 いくらなんでも七日間町中をうろうろして、不具合なりバグなり改善案なりをみつけるだけのVRゲームなんて……。

 日がたつにつれて他のプレイヤーに目をつけれることもあるだろう。正式サービスを迎えた時に「あの時の~」なんて指を指され笑われるかもしれない。

 くじ引きNPCまでの距離が徐々に縮まる。妄想している間にだいぶ近づいてしまった。どう声をかけるか。

 一瞬、自分の目を疑った。

 正面を向いていたくじ引きNPCがこちらを向いたのだ。

 これではこのまま前を通り過ぎて後でもう一回というわけにはいかなくなった。

 心臓の鼓動が速くなるのを感じる。

 今自分はどんな表情をしているだろう。こういう場合のポーカーフェイスには自信がある。なんせその場をスルーするために身に着けたスキルだ。何食わぬ顔でその場を通り過ぎるということは数え切れないほどやってきた。

 今回のように相手がこちらを見ている状態というのも今まで散々あった。できればスルーしてまたの機会にしたい。

 やるか?

 やっちまうか?

 相手に顔を見られ続けるというのはプレッシャーだ。威嚇だ。挑発だ。

 心臓だけではなく、胃がキリキリしているのを感じる。

 そうだ。今回はやめておこう。広場で休憩してまたタイミングを待てばいい。なんなら明日でもいい。

 スルーするのを決めたときに自分は気づいた。くじ引きNPCと自分との位置に。

 壁に対してくじ引きNPCと自分が平行の状態になっている。つまり、このまま自分が歩けば、今こちらを向いているくじ引きNPCの正面に立ってしまうのは確実。そうなればくじ引きNPCに話しかけなければ逃げる術はない。

 これを回避するには自分の進行方向をずらさなければ。そう、道路を歩いている際に向こう側から歩いてくる人と自分とが同じ左側を歩いていて、このままじゃぶつかっちゃうなー、じゃぁ右側にずれるかー。と道を開けるかのごとくずれなければ。

 だが、いきなり大きくずれるのはまずい。歩きながら少しずつ横へずれるのがいい。

 と、少しずつずれた時に時代は動いた。

 くじ引きNPCが動き始めた。しかもこちらを見ながらこちらと同じずれた分だけ調整するようにずれてきた。

 これは、昔プレイしたレトロゲーで出会った、NPCがプレイヤーの進行方向をふさぐ現象と同じ。

 NPCはランダムに動いているはずなのだが、なぜかこちらの動きを読んでいるかのように、NPCがプレイヤー側の動きに合わせて道をふさいでくるのだ。右、左、右、左と、時に上、下、上、下と、「あ゛―」とコントローラーを持つ手に力が入ってくると、進行を邪魔していたNPCはどうかしたんですか? とばかりに邪魔を止める。あれほどNPCに瞬間的に苛立ちを覚えることもないかもしれない。

 しかし、現実問題、進行先にいるくじ引きNPCはこちらを向いている。ということはあっちはこちらを認識している可能性があるかもしれない。

 試しに少しずれる。

 くじ引きNPCが進路をふさぐようにずれる。

 もう一度ずれてみる。

 くじ引きNPCが調整してずれる。

 くっ。

 これは、奴はこちらの進行を妨害している。広場で休憩しようと、話すのを止めるようとしている自分に立ちふさがっている。

 なんて恐ろしい相手だ。何度もずれを調整していたせいで距離がだいぶ近づいてきていた。

 だが、手がないわけではない。むしろこのまま相手の前まで気づかないフリをして近づく。

 そして、お見合い状態に持っていき、ぶつかりそうになった時にビクッと反応して、軽く頭を下げて横へ移動すればいい。

 これは若干高度だが、決まれば足早にその場から離れられる素晴らしいスキルだ。

「ようこそプレイヤーさん。旅のお供にスピリットくじはいかがですか」

 なっ!?

 ……失敗した。もう駄目だ。おしまいだ。頭痛い。なんであっちから声かけてくるんだちくしょーっ!!

「現在プレイヤーの皆さまに、初回プレイ用のスピリット配布を行っております」

 私が何をしたというのだろう。ただ新しいゲームをプレイしようとしていただけなのに。

「え、あ、その、結構です」

 反射的に断る。冷静に考えることができたのなら、相手から話しかけてきたんだし、こっちから話しかける必要がなくなったから、全然問題ないのだろうけど……。今はとりあえず、顎がガタガタ震える。

「え? ま、まぁそう言わずに。私はここでプレイヤーの皆さまにプレイに役立つアイテムなどを配布しているNPC……なのですが、現在は諸事情によりゲームマスターである自分がこのキャラを操作しています」

 ずっとただのNPCだと思ってたけど、ゲームマスターだったのか。そういえば、ここへ来る前もNPCにしてはやけにリアルな感じに動いているのがいたけど、あれもゲームマスターが操作していたのかな。

 てっきり、ヴァーチャルでリアルな世界だからNPCも普通の人間そっくりに動かしているのかと思っていた。実際にそういうAIを組み込んでいるというゲームの話も聞いたことはあるし。

「それでですね、あなた以外の現在インしているプレイヤーは全て、ここでスピリットを受け取ったのですが、ただ一人あなただけは中々来なくて難儀していた所なのです」

 すいません、あちこち徘徊してすいません。

「なので、さっさと受け取ってゲームを楽しんでください。こちらも他に色々な仕事があるので」

 と、呆然としている自分にゲームマスターは札とお金を渡してきた。

 あれ? 札はくじで決めるんじゃないのか。

「では、引き続きゲームを楽しんでプレイしてください。あ、意見や改良点もあれば報告してくださいね」

 そう言うとゲームマスターは手を振って私を送ってくれた。




 広場。椅子に腰かけ右手にある一枚の札を見る。

 確かこの札を使用すればスピリットが呼び出されるんだよな。

 札には魔法陣のようなものが書いてあり、その裏には何も書かれていない。

 まぁ、見つめていても始まらないし、使ってみるとしよう。

 札を使用すると他のプレイヤーがやっていように、札が淡い光を発し、中からまるまる太ったような、デフォルメされたサメが出てきた。大きさはソフトボールほどで、なぜか宙に浮いている。リアル寄りではなく、ファンシーな感じというか、ぬいぐるみのような愛嬌があって中々好印象だ。

「おう、お前がマスターか。俺様の足をひっぱるなよ」

 喋った。スピリットって喋るのか。いや、これは仲間になった時とか手に入れた時だけに発する自己紹介的なタイプのセリフだろう。流石にずっと喋っているということはないはず。

 それにしてもサメか。動物型は見たことはあるけど、魚類型は見たことなかったな。

「おいお前」

 宙に浮いているサメを見たまま考えていると、サメはこちらを睨みながら話しかけてきた。

「ジロジロ見てんじゃねぇ、気色悪ぃ。俺様はな、男に見られて喜ぶような趣味はねぇんだ。用がないんならさっさと戻しやがれ。」

 うーん。すごい、喋ります。このサメ喋りますよ。どうしよう。

 用といっても、正直にどんなスピリットか確認したいだけに呼び出したと言えばいいのだろうか。なんかちょっと怒ってるっぽいしなぁ。それはそれでさらに怒りそうだ。いや、やっとスピリットが手に入ったんだし、この後フィールドに出て行って敵を倒しにいくか。

 今日は沢山町中を移動してかなり時間を使ってしまったけど、フィールドで少し戦う分の時間はまだある。

「あ、あの、です、ね」

 相手は生身の人間じゃない。サメだ。宙に浮いているサメ。何をどもっているんだ。普段脳内で喋っているように普通に喋ればいいんだ。

 町の外へ敵を倒しに行こう。これだ。シンプル。

「か、狩り、そ、外に、フィールドに、い、行って」

「なんだ! はっきり言え!」

「fhぉえあっ」

「うおぉっ?」

 …………どうやら意図しない言葉が出てしまったようです。

「……えっと、です、ね。町の外、行く。敵、倒す、行く」

「……お前……まぁいい。ほら、さっさと道案内しな。狩りに行くんだろ」

 なんとか通じたようだ。明らかに人間じゃない相手。しかもサメでただのAI相手に何でこんなにどもっているというか呂律が回っていないというか、はっきり喋れないんだろう。


 町の外へ先を歩く自分の後ろを、ふよふよとサメのスピリットが付いてくる。

 そういえば、このスピリットにはステータスとかあるのかな。

 とりあえず、自分のステータスを開くと、所持スピリットの欄に項目が増えていた。


◆ステータス

【LV:1】

【装備:なし】

【所持スピリット:ホワイト・シャーク[+]】


 あのサメはホワイト・シャークっていうのか。

 横にある「+」を選択するとホワイト・シャークのステータスが表示された。


【所持スピリット:ホワイト・シャーク[‐]】

・LV:1

・攻撃力:☆2

・防御力:☆1

・属性:水

・スキル:なし


 スピリットの方はプレイヤーより項目が多いけど、それでも少ないと思う。まぁ、細かいことはいいか。プレイし続けていれば何か分かることもあるかもしれないし。

 スピリットのステータスを閉じたところで外への門が見えてきた。

 そのまま進んだが門番さんには止められずにすんなりと外へ出れた。忘れてたけど、装備品とかはなくてもいいのか。

 外では他のプレイヤー達がモンスターを倒していた。

 目の届く範囲では獲物の奪い合いになりそうなので少し移動して、手ごろな場所を探さねばなるまい。

 そして、移動しながら他のプレイヤー達の戦闘を観察しておいた。

 まず、スピリットとモンスターが戦っている横で棒立ち状態のプレイヤー。

 次に、それにプラスしてスピリットに指示、または声援を送っているプレイヤー。

 最後に武器を持ってスピリットと一緒に戦っているプレイヤーがいた。

 自分は棒立ちになるだろうな。指示はともかく、声援なんてガラじゃないし。




 人が少なくなってきたところで前方にモンスターを発見。

 なんだか平べったいウサギがいた。

 では、初戦闘といきますか。

 ホワイト・シャークに戦闘の指示を出そうと後ろを向いた時、そこには誰もいなかった。右も左も上も下も周囲にはあの白くて丸いサメの姿はどこにも見当たらなかった。

「え~~……」

 思わず声が出てしまう。

 えっと、何所まで一緒にいたかな。

 確か道案内しろって言われて歩いたら後ろからついて来てたんだよな。それから後ろは確認しないでしばらく歩いたんだけど。そんなに急いで歩いたわけじゃないから、ついて来ていると思ったんだけど。しょうがない、来た道を戻るか。

「おい」

 ん? 声、ホワイト・シャークのか?

「札だよ。黙って歩いてるから面倒くさくなって戻ったんだよ」

 え、なんで勝手に戻ってんの、この子。

「あらよっと」

 声と共にホワイト・シャークが札の中から飛び出してきた。

「獲物はどいつだ。ついたんだろ」

 なんで、この子はこんな自由なんだろう。こういうのは普通プレイヤー側が呼び出したり、しまったり指示するものだと思うんだけど。一体なんなの。

「聞いてんのか、おい」

 ホワイト・シャークの顔が視界めいいっぱいに近づいて確認してくる。

 声も出せず何度か頷き、倒す予定の平べったいウサギのモンスターを指すと、ホワイト・シャークはそのモンスターに突撃をした。

「あいつか。よーし、行くぜ! 行くぜぇ!」

 あっという間に距離を詰めるとウサギに体当たりをしたホワイト・シャーク。ウサギは攻撃されたことで戦闘状態に入り、負けじと体当たりの仕返しをしてきた。

 ホワイト・シャークも体当たりやかみつきと、攻撃を繰り返して、こっちが見ている間に戦闘は終わってしまった。

 同時にシステムウィンドウが開いた。


【スリッパ・ウサギを倒した】

【<ウサギの毛>獲得】

 

 あのウサギは、スリッパ・ウサギっていうのか。平べったいだけでスリッパには見えなかったけど。

「ウサギ野郎にしちゃあ、そこそこやる奴だったな」

 ホワイト・シャークはそう言いながらふらふらと戻ってくると札の中へとスーッと入っていった。

 また勝手に戻った。なんなんだろう。

 疑問に思いながらふと、自分のステータスを確認すると、なぜか体力ゲージが減っていた。

 あれ? ダメージ受けたっけ? 思い当たるのはさっき顔を近づけたとき、かな。気づかずに触れていて、シャークっていうぐらいだから鮫肌でダメージ発生したとか。

 この場で考えてもわからないので、体力ゲージは常に確認しながら次の戦闘へと向かった。




 次のスリッパ・ウサギを見つけた所でホワイト・シャークを呼び出す。そこで気づいた。呼び出したと同時に体力ゲージが減った。どうやらスピリットを呼び出すことによりプレイヤーの体力は減るらしい。

 そのままホワイト・シャークにはスリッパ・ウサギと戦闘してもらう。先ほどは戦闘そのものを見ていたので気づかなかったが、ホワイト・シャークにも体力ゲージが当然あり、現在の残りは六割ほどになっていた。

 戦闘を終わらせ札へと戻っていくホワイト・シャーク。そこでも自分の体力が減ったことを確認した。

 スピリットの呼び出しと戻しに体力が必要らしい。これ、出すときはいいけど、戻すときに体力がない時はどうするんだろう。

 調べてみたいけど、わざわざギリギリまで自分の体力減らすのも嫌だから当分はいいか。

 ……いや、そうじゃない。戻すのに体力必要とか厳しすぎないか?

 今はスピリット一体しかいないけど、状況によって出し入れする必要が出てきた時は大変じゃないか? 回復アイテム使って対応しろということか?

 個人的には戻すときに体力が減るのはいただけないので、これも要望として出しておこう。




 三度目の戦闘でさらに気づいたことがあった。

 ホワイト・シャークを呼び出すと、体力が前回の戦闘で減った状態のままだった。当然なんだろうけど、いちいち札の中に戻っているから回復してると思ってた。

「ウサギ野郎ばっか倒してもつまらねぇな」

 ホワイト・シャークはそう言っているが、残りの体力は二割ほどだった。

 これは、体力回復の方法を見つけないとなあ。

 そういえば、昔やったゲームではじっとしていたり、座った状態だと回復していたけど、これはどうなんだろう。

 近くにあった木のそばまで行き、試しに座って体力ゲージをじっと見つめる。

 ん、今回復したような……? 気のせいか。

 その後、しばらく体力ゲージを見ていたが、確かに座ることで回復している。ただ、その回復速度はかなり遅く、これはアイテムか他の何かを使わなければ今後きつくなるのは明らかだ。

 このまま木の影で座っていても他の回復方法は見つからないので、町へと向かうことにした。




 町へと戻ってきた自分が先に向かったのは道具屋だ。

 最初に覗いた時に色々見て、あの中のどれかが回復アイテムだろうと思ってのことだ。まあ道具屋に回復アイテムがあるのはゲームのお約束だけど。

 道具屋は武器屋のようなカード状態ではなく、現物が置いてある。それぞれのアイテムの下にはスーパーのお菓子売り場にあるような値札がそれぞれついていた。

 さて、目当ての物はどれかな。

「何か探し物かい?」

「ふぁっ」

 後ろから何者かに声をかけられる。この店の店員だろう。最初に来た時もいきなり声をかけられたんだった。

「え、あ、その……」

 頭が真っ白になり、さっきまで何をしようとしていたのかが吹き飛ぶ。

「おいおいだらしねーな。はっきり言えよ」

 横からホワイト・シャークが追い打ちをかける。

「いや、あの」

「んー、もしかして回復アイテムでもほしいのか?」

 店員はホワイト・シャークを見ると、そう言ってきた。なんでそんなことが分かるのだろう。

「不思議そうな顔してんな。まぁ、こんだけ疲れてるスピリットをみりゃあな」

 店員はそう言いながら飴玉のようなものを小袋に入れて持ってきた。

「こいつを食えば、疲れは取れるぜ。料金は10個で80だ」

 自分は頷きながら金を払った。

「おう、また来るぜ、ありがとな」

 ホワイト・シャークは店員にそう言って、体をくねらせた。

 自分はというとお辞儀をしながら道具屋を出た。

 



「お前さ、もっと、こう。普通に喋れないのか? 最初っからずっとモゴモゴしてよお。」

 道具屋を出た所でホワイト・シャークは小言を言ってきた。なんでNPC相手にこんなこと言われてるんだろう、自分。最近のAIはコミュ障の自分よりよっぽど上手に喋れるんだな。

 そのまま黙っていると、ホワイト・シャークは札の中へ戻っていった。

 …………。




 回復手段は手に入れた。このままフィールドに出て行くのもいいけど、前に買わなかった武器でも買いにいくか。

 そうして、到着した武器屋で自分は予算内で買える武器を眺めていた。

 短剣は安いけど、かなり接近しないといけないし、自分はそれほど動けるわけじゃないから無理だろうな。

 普通のサイズの剣は少し高い。短剣同様に接近は難しいし、体当たりやかみつき攻撃しているホワイト・シャークのことを考えると厳しいか。なら距離をとって攻撃する武器がいいか。

 距離を取った状態で攻撃する手段といえば、弓だけど。消耗品の矢はばかにならないだろうし、ゲームのシステムが命中補助をしてくれるか怪しい。金と命中の問題を考えるとなしだ。

 武器を持って戦うのは厳しいかな。

 あとは盾で相手の攻撃を防いでる間にホワイト・シャークに攻撃してもらうか。

 それとも罠を作って相手の動きを封じて、攻撃はホワイト・シャークにまかせるか。

 ……武器はいいかな。

 現状ではホワイト・シャークだけで問題ないし、お金が貯まれば、いい武器も買えるだろう。それまではいいか。他のプレイヤーの観察してれば何かいい武器が見つかるかもしれないし。




プレイ2日目


 フィールドでウサギ狩りを再開した。

 戦闘中の自分は体力回復のため座っている。立った場合でも回復しないか試したが、座った状態で回復した時間を過ぎても回復しなかったために、戦闘中は座ったままということになった。

 もちろんただ座っているだけじゃない。視界に入っているプレイヤーの戦闘を見て参考にしようとしている。現在は自分と同じように座っているプレイヤーか多い。昨日は見かけた武器持ちのプレイヤーたちは、先へ先へと行っているかもしれない。

 ホワイト・シャークは「ウサギばっか倒してもつまんねぇ」と文句を言うが、周辺にはウサギばかりで他のモンスターがいない。

 何度目かの戦闘終了後、自分の体力が後2,3回分の召喚が可能なところまで減っていることを確認して、昨日買った回復アイテムを使用する。

 自分が見た範囲ではこのゲームはパラメータのような数字で表記されることはあまりないらしい。ステータスはLV以外数値は見えないし、体力はゲージで表示され、武器なども

、『攻撃力+10』みたいな表示は一切なかった。

 それは回復アイテムも同じらしく、2割ほどまで体力が減ったホワイト・シャークに回復アイテムを食べさせると6割ほど回復した。だが回復アイテム自体には、体力をどの程度回復するかの表示は一切出なかった。

 そんなわけで、この回復アイテムが自分の体力をどれほど回復するのか確認するために、わざわざギリギリまで減らしたのだ。どの程度回復するか、これから自分で戦闘するにしても見ているだけにしても数値で確認できない以上は使って確認していくしかない。

「うぉおええぇぇぇぇっ」

 まずい。

 この回復アイテムまずい。

 なんだろう、錠剤の薬を飲みこまないでそのまま口の中で溶かしたような苦味が広がり、次に胃酸のような臭いと、口の中には砂のような食感が残る。

 思わず全部口から出してしまった。

「おいおい、もったいねぇな」

 吐いている自分を見てホワイト・シャークが残念そうに言ってきた。このサメ、よくこんなまずい物が食えるな。

「それはお前たち人間の食うもんじゃねぇよ。俺みたいな魚類系スピリットの食いもんだ」

 は? 

「あの店員、俺を見てそれくれたろ? つまりはそーいうこった」

 く、くそう……。回復アイテムといっても使う相手によってそれぞれ種類があるのか。うぅ、気持ち悪い。体力ゲージが減り、もうちょい、1ミリか、それ以下ぐらいまで減っていく。

 サメの餌を食って死ぬとか絶対に嫌だぞ。

 そのまま草の上に倒れ点滅が速くなっていく体力ゲージを睨みつける。

 そういえばデスペナルティとかあるんだろうか。あっても、数値が見えないんじゃぁ気づかないかもな。

 そう思いながら自分の視界は、端から中心までゆっくりと白くなっていった。


   


 気が付くと初日にログインした広場にいた。

 ……あれが死ぬってことか。なんか昔気を失った時と同じ感じだった。あんまりリアル寄せたら現実の体に影響とか出るんじゃないのだろうか。後で要望出しておこう。

 それはそれとして、自分用の回復アイテム買わないと。

 スピリット専用の回復アイテムなのはまぁいい。だが、プレイヤーが使うと死ぬとか。体力がギリギリまで減ってる状態で使ったから結果的に死んでしまったとかさ。なんつうか、はぁ……ちゃんと自分で聞かなかったのも悪いけど、あの店員には何かおかえしを差し上げたい。NPCだから無理か。

 



 道具屋についた。

 まずはウサギを倒して手に入れたアイテムを売ることにした。

 カウンターにアイテムを出して、

「う、これ、売り、えっと、売却で」

 と、売却の意を示した。店員は出されたアイテムを確認すると、売却額であろう金をカウンターの上に置いた。軽くおじぎをして金を懐に入れる。

 次の目的。ここから自分は回復アイテムを買わなくてはならない。

「あ、え、っと。回復の、回復アイテム、欲し、いんですけ……ど」

「ん? ああ回復のアイテムね。それなら色々あるけど。人間用、スピリット用、戦闘用、補助用とね。人間用は人間専用で、スピリットには使えなかったり、使えてもダメージ受けちゃったりするのがあるね。スピリット用はその逆で、どちらも基本的に口に入れるタイプでおやつみたいなのが多い。

 戦闘用は戦闘中にすぐに使うことができて効果もすぐ表れる。液体型が多くて、飲んでも体にかけても大丈夫。

 補助用は、使うことでしばらく効果が持続するタイプで、例えば体力が回復する速度があがったりとかね。形は様々。で、どれをお求めかな?」

 ……最初に買ったとき、そんな説明なかったぞ。

 うぅむ。そういえばあの時の店員ってこのNPCだったっけ? なんか違う気がするけど。元々相手の顔なんてあんま見ないし、覚えないからな。まぁいいか、目当ての物を買おう。

「え、じゃ、と、人用の」

「はい、人間用ね。ワンセット5個で金100になります」

 サメの餌より高いけど、しょうがないか。

 金を払って道具屋を後にする。




 フィールドにて引き続きウサギを狩り続け、そろそろ同じ相手との戦闘を見てるのも慣れてきた。

 ホワイト・シャークも面倒くさそうにウサギを狩り続けている。

 ひたすらウサギ狩りをしていたおかげで、ホワイト・シャークのLVも12まで上がっている。ウサギも最初のころとは違ってノーダメージで倒せることもあり、強くなっているという感じがする。

 だが、自分のLVは今だ1のままだ。

 何がいけないんだろう。

 スピリットに倒させて自分は何もしていないのがいけないのだろうか。ウサギ狩りのドロップ品は随分と集まったし、武器を買って戦ってみるか。

 それともプレイヤーのLVはウサギ狩りのように、敵を倒しているだけでは上がらないのか。どこかにLV上げ用のクエストとかアイテムとかあるのかしら。

 さっぱりわからない。

 まあ、このまま戦闘を眺めているだけってのもつまらないから、さすがに武器でも買うか。何がいいのかな。




 街に戻りまずは道具屋まで行き、ドロップ品を売って回復薬の補充をした。

 そして武器屋にて、購入したのは棍。六尺棒とも言うらしい。

 今までさんざん悩んで、棍なら接近しすぎず、離れず攻撃できるだろうということで選んだ。

 槍でもいいような気がするけど、刺さったまま抜けなくなることがあるかもしれないし、スピリットに誤って攻撃して傷つけてもいけない。なにより、振り回した時に自分が刃の部分でダメージを負う可能性を考えて棍を使うことに決めた。

 棍での戦いをイメージしながら、フィールドへと戻ろうとすると、門の前に人だかりができていた。

 ……人が多い所には近づきたくないなぁ。

 移動速度を落とし何があったのか観察する。

 どうやら看板のようなものがあり、その内容を読もうとプレイヤー達が集まっているらしい。

 ある人は読み終わるとすぐにその場を離れた。

 ある人達は内容についてその場で色々と話しているようだった。

 自分が看板近くに到着するころには、プレイヤー達もまばらになっていた。

 看板の内容は、


●クローズドβテスト3日目の内容について。

 【レイジーオンライン(仮)】のクローズドβテストに参加していただきありがとうございます。

 本タイトル3日目のテスト内容ですが、野生のスピリットたちの襲撃イベントを行う予定です。

 これは特定の場所にて、多くのプレイヤーが同時戦闘を行った際に問題がないことを調べるための負荷テストになります。

 また、当日には開発スタッフがプレイヤーの皆さまに協力をお願いすることもあるかもしれませんので、その際にはよろしくお願いいたします。

 他にも襲撃イベント限定のNPCの配置やアイテムの配布なども予定しておりますので奮って参加してください。

 【レイジーオンライン(仮)】運営チーム 平


 内容は運営側の告知だった。なにもゲーム内で告知をしなくても、と思ったけど、中にはサイトを見ない人や、プレイに夢中で忘れている人とかとか色々いるからこういうのは必要なんだろうな。あとで「聞いてないぞ」って言われる可能性もあるし。

 襲撃イベントか。また、人が多く集まるん、だ、ろう、な。

 クローズドβテストだからどこぞのイベント会場のように視界いっぱいに人だらけというわけではないんだろうけど、当日は少し距離をとって参加するか。

 



 運営告知を読み終わり、フィールドへ移動する。

 さて、早速武器を使っての戦闘を始めますか。

 まずはスピリットには戦闘に参加させず自分だけでどこまでやれるかの確認をする。

 棍を握りしめ、獲物であるウサギの背後に移動して棍でおもいっきり叩く。

 ウサギは驚いて跳ねると、こちらを睨んで突進してきた。

 思わず棍で防御したが、細い棍には当たらずに自分の腹にクリーンヒットした。

「ぶぇっ」

 変な声がでて倒れてしまい、そこへウサギが追撃してきた。

「うおっ」

 とっさに転んで避け、棍を杖代わりにして立ち上がる。

 自分とウサギが睨みあいをし、リーチの長さを生かしてこちらから先に突きでの攻撃をしかける。

 ウサギはひょいっと避けるとまたも突進をしかけ、そのままこちらの足にあたり、またも地面へと倒されてしまう。

 そのままウサギはジャンプしてこちらへのしかかり、避けられずに顔へダメージを受けてしまう。

 なんとか立ち上がりウサギを攻撃しようとしたが、ウサギの姿は無く、その直後に後ろから腰への衝撃が走り、またも地面に倒れてしまう。そこへウサギの突進攻撃が脇腹へとつきささり体力がなくなってそのまま死んでしまった。




 …………無理ゲーだろ。

 ホワイト・シャークに戦いをまかせている時にウサギはあんな機敏に動いてはいなかった、はず。

 そもそもあんな動きをする相手に他のプレイヤーは対応できているのだろうか。

 まぁ、スピリットを使用しての戦闘は楽だし、わざわざスピリットを使わずにプレイヤーだけで戦う必要はないか。縛りプレイならありそうだけど。

 それでも、これから先の戦闘をスピリットだけにまかせて自分はのんびり観戦というわけにはいかないとは思う。

 ゲームとして、プレイヤー側は何かする必要はあるはず。ただ眺めているだけなら、プレイヤー用の武器なんてないだろうし、直接戦闘は無理だとしても、補助というか支援するための何かがきっとあるはず。

 次はスピリットと一緒に戦闘をしてみるか。




 フィールドにてウサギ狩りをしようとしたが、現段階ではウサギ相手では弱すぎて共闘できないことが発覚した。

 ホワイト・シャークに一撃与えてもらって、ターゲットを固定。その後自分が攻撃する、という流れにしようとしたが、一回攻撃しただけでウサギを倒してしまう。

 そろそろ次の狩場へと移動しないといけないのか。

 現在いるところは町近くの草原だが、遠目に木々が密集しているところが見えたのでそこへ向かうことにした。

 近くまでくると木はそれほど密集して生えているということはなく、日の光で中ははっきり見える。森林浴にはよさそうだ。

 中へ移動していくと大きな蝶が襲いかかってきた。

 すかさずホワイト・シャークを呼び出し応戦する。

「なんだぁ、新顔かぁ? いいぜ、かかってこいよ」

 空を飛ぶ蝶と宙に泳ぐサメ。こちらが棍で攻撃しようとしても、高さはもちろんだが、スピードにも追いつけず、そのままホワイト・シャークが倒してしまった。

「さすが俺様だな。あースッキリした」

 今までの敵とは違ってそれなりに手ごたえがある相手らしかったらしく、ホワイト・シャークはご機嫌で札の中へと戻っていった。

 その後、しばらく周辺で戦ってみたが、蝶ばかりが相手で全く戦闘に参加できなかった。

 もちろん自分のLVは上がらず、スピリットのLVはそれなりに上がっていた。

 このゲームって敵の数少ない気がする。今まで戦ったのはウサギと蝶だけ。もうちょっと、こう、王道的なのもいていいと思うんだけどなぁ。これについては報告しとくか。

 明日は襲撃イベントらしい。どうなるのかわからないけど、できれば一か所に人が集まり続けるようなのは勘弁願いたいものだ。




プレイ3日目


 この街にはフィールドへ続く門が主に4つある。

 普段フィールドへ行くのに使っているのは街の中央から見て西の門。今回襲撃イベントで使うのは南にある門らしい。

 南門周辺には既にプレイヤーが集まっていた。もちろん自分は距離をとって覗き見である。

 門近くに立て札を発見した。何か書かれているらしく他のプレイヤー達が見ている。

 昨日読んだのと同じやつかな?

 そうして待っていると運営からのアナウンスが流れた。

「第2回襲撃イベント開催は10分後になります。参加者の皆さまは南門前まで集合してください」

 第2回……もう1回目は終わったのか。そういえば、イベント開催時間は記載されていなかった。時間帯別による負荷テストは、まぁ、ありっちゃあありなのか。丸一日襲撃され続けるのもプレイヤーの人数的に難しいだろうし。適度に区切って色々テストなりデータ取りをするんだろう。

 しばらく周りのプレイヤーを見ながら待っていると門が開いてイベントが開始された。すると、他のプレイヤーがものすごい勢いで前方へ突撃していった。

 襲撃イベントに用意されていたモンスターは突撃したプレイヤーの総攻撃を浴び、数ではモンスター側が多いにもかかわらず、だんだんとその数を消していった。

 その後時間経過と共に次々と湧くモンスターもピラニアのごとく襲い掛かるプレイヤーの前に、沸いた瞬間に即消えるという展開が続いて第2回襲撃イベントはこちらが門の前でぼーっとしている間に終わってしまった。


 第2回襲撃イベントが終わると、すぐに次のイベント開始の時間が立て札に記載された。

 第3回開始の時間までこれまた、ぼーっとして過ごした。今から他のフィールドに行って帰ってくるのは厳しいのもあるが、他のプレイヤーを観察して何か情報を仕入れたいというのもあった。

 特別新しい情報もなく、第3回襲撃イベントが開催される。

 今回は他のプレイヤーにまじり突撃してみた。一気に突撃、殲滅するようなプレイヤーの近くにいて自分が何かできるとも思えないが、情報収集の一環としてなら問題ないだろう。

 近すぎず離れすぎずの距離で観察していると、何人かスピリットを2体同時召喚しているプレイヤーがいた。やり方はわからないが、どうやらそんなことができるらしい。いまだ上がらないプレイヤーLVが関係しているのだろうか。

 他には、プレイヤー自身が魔法のようなものを使っていたり、スピリットを召喚せずに手持ちの武器だけで戦っている人などがいた。

 戦闘スタイルがプレイヤーによって違うのはゲームではよくあることだが、一体どうやってそのスタイルにたどりつけるのか見当もつかない。

 このイベント中は他プレイヤーを観察して終わった。


 その後何回か参加し、時折攻撃もしてみたが、このイベントってこのままただ戦うだけのイベントなんだろうか。

 他のプレイヤーがすごい勢いで敵を倒してしまうので、ドロップが期待できない。

 倒した敵の数によって何か褒賞が貰えるとしても、倒せないからそちらも期待できない。

 ただ、開始時に突撃して終わったら街へ戻ってくる。この繰り返しだ。

 ……他のプレイヤーの様子も見れたし、今日はもういいか。

 今回のイベントで、自分の今のスタイル。スピリットだけに攻撃をまかせているだけの状態じゃまずいということがわかった。

 何か手をうたないとな。


 その後のイベントは参加せずにフィールドへ移動した。




プレイ4日目


 何か手をうたないといけないことはわかる。だけど、手掛かりがあるわけでもなし、ひたすら戦闘を続ける。

 地味だ。

 そういえば、昨日のイベントのその後は町中で他プレイヤーの話を盗み聞きしたところ、後半に強い敵スピリットが出てきて門が壊されたらしい。

 今ではその門の近くで修理の素材を集めるクエストが受付中らしい。

 門の修理に必要な物といえば、木か? 今までそんなアイテムをドロップする敵はいなかっけど、先に行けば出るのか、それとも斧なりのこぎりなりで木を切り倒してくる必要があるのだろうか。

 まぁ今の自分には必要ないか。

 ひたすら倒してドロップを売りに行っての繰り返し。

 何かクエストとかイベント、は昨日やったか。7日間しかないんだからもっとやること欲しいな。

 ……NPCと会話することができたらクエストとか受けられたりするのか。

 うぅむ、ハードルが高いな。

 そろそろLVも上がり辛くなってきたから先のフィールドに進むかな。

 街へ戻り荷物を整理する。

 回復アイテムよし。武器防具、は必要なし。うーん、本当にやることがない。自動でクエスト発生とか欲しいな。要望だすか。

 

 フィールドを突き進み先ほどまで狩りをしていた森林浴ができそうな場所からさらに先。だんだん木も多く、岩もちらほら見えてきた場所でそれを見つけた。

「おおっ、お?」

 思わず声が出る。

 宙に浮く木を見つけた。

 地面から生えている木に囲まれているから一瞬わからなかったけど、変に一本だけ浮いている。

 きちんと根っこまで描写されているのに少し感心しつつ運営に報告する。

 こういうのがまだあるかもなぁ。

 戦闘もマンネリ化してきたし、テストプレイなんだからこういうのを探すのもいいだろう。

 木以外にもおかしな所はないか注意深く観察しながら進む。

 あまり先に進むと強い敵に遭遇する可能性もあるから蛇行したり、戻ったり、木や岩や地面を叩いたりしておかしい所がないか確認する。まるでデバッグだ。

 おかしいのは最初に見つけた木以外には見つからない。

 それはそれでいいんだろうけど。他にやることもな――

 歩いていると突然視界が黒くなった。

 身動きも取れない。

 視界には星のように白い物が時々見える。

 目を凝らしていると、視界の下から上に物が移動しているのがわかる。

 あぁ、これ、奈落落ち、だったか。マップの穴に落ちて無限に落ち続けるってやつ。

 細かい場所はわからないからこのまま運営に報告するか。

 

 その後、運営からの報告はなく、残りの時間ずっと土の中(?)にいることになった。



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