なぜ神は勇者を召喚したのか
神が魔王を直接退治せず異世界の人間に押し付ける理由を思いついたので書いてみました。
「滅びろ魔王っ!!」
「ウボアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
とある世界のとある魔王城。
地球より召喚された勇者が世界に戦乱を振りまいた魔王をその刃にて打倒した。
「ふう、やっと始末してくれたか」
昨今珍しくないその光景を天上より見下ろす存在が一人――いや、一柱。
この世界の最高神である。
「これで世界に平和が戻る」
自らの世界を荒らしまわっていた魔王の最期に会心の笑みを浮かべる最高神。
彼は勝利した勇者を地球に送り返すとさっそく他の神々に魔王の死を伝えた。
その”訃報”を受け最高神の元に次々と神が現れる。
最初は、最高神の妻である地母神リベンザだ。
「あ、あなた! ウォーズちゃんが殺されたとはどういうことっ!?」
次は、最高神の長女である豊穣神ラーガ。
「父上、ウォーズ兄上が殺されたなんて嘘でしょ!」
最高神の末息子で終末神ジャノス。
「父さま、誰が僕の兄様を!」
ぞくぞくと現れる神々は魔王――最高神の長男にして戦乱神ウォーズの死を驚き悲しんだ。
『オレは親父を超える』とか叫んで天から地に降り、魔王を自称して暴れていても息子や兄の死を嘆かない家族はいない。
一柱を除いては……
その一柱――最高神は、本心を隠し沈痛な面持ちで家族に事情を説明する。
「一部の人間――魔法使い達がウォーズの与える戦乱に耐えかね。異世界より勇者を呼び寄せたのだ」
ただし最高神自身が神託として勇者召喚の方法を教えたことは省いて。
勇者に神殺しの力を授けたことなどおくびにも出さない。
「許せない」
「魔法使いどもめ」
「神に逆らうどころか殺すなんて」
「人間如きが」
戦乱神が地上に降りてたった百年。
地上で少しやんちゃしていただけなのに殺された。
血の繋がった家族を殺した勇者と勇者を召喚した魔法使い達に神々は怒った。
即座に勇者召喚を行った愚か者に神罰を下す。
血気盛んな一部の神は、勇者が逃走した異世界――地球に侵攻し勇者にも報復するべきだと叫ぶ。
慈愛神の末娘や平和神である次男など人間に同情的な神もいるが家族を失った悲しみを理解できるため本気で止めることはしない。
「……………」
最高神は、神々の怒りに自らの選択の正しさを痛感する。
魔王――彼の長男である戦乱神ウォーズは余りにも暴れ殺し過ぎた。
それこそ人間たちが魔王を崇めだすほど。
逆らうことのできぬ運命として頭を垂れただただ祈る。
本来は最高神たる彼に捧げられる祈りが奪われ始めたのだ。
このままでは最高神の地位が危ういと彼は焦った。
自由気ままに愛人を作ったり地上の女を攫ったりできなくなると。
しかし最高神である彼が直接干渉するのは躊躇われた。
実力なら彼のほうが上だが手加減はできない。
恐らく殺し合いになる。
だが他の神の力を借りては最高神の面子が潰れる。
そして何より妻や子供たちに”息子を殺した父”として見られるのが耐えられない。
神の寿命は永遠だ。
滅ぼされない限り無限に続く。
子殺しの神として過ごすのは何としても避けたい。
彼は慈悲深い父であり続ける手段として勇者を召喚した。
息子の殺害という汚れ仕事を肩代わりさせるために。
この世界の人間にやらせても良かったが、それではその人間が第二のウォーズになる可能性もある。
「殺すだけでは生ぬるい。地獄で無限の苦しみを与えてやる!」
予想通り勇者への報復始まる中、最高神はその場を離れ残りの後始末をする。
勇者がこの世界にばら撒いた変化の種を潰すのだ。
火薬の製法を筆頭に異世界の知識など必要ない。
戦乱の無い平和な世界が待っている。