第8両・来るもん
終電。
小林トレインにも終電はある。
さすがに24時間走るのはやってません。
寝ないとね。
そう。夜は帰って寝る。
けれど、今夜はどーにもまだ寝れそうにない。
それは。。。
駅員の水口は自分のホームから出発する終電を見送った。
『ふうっ。よし、きょーはこれでおしまいっ』
仕事が終わった後、その日の気分でツマミを買い、好きな映画やドラマを見ながら一杯やるのが水口の楽しみなのだ。
が、しかし、終電が終わったにも関わらず、ホームのベンチに誰かがまだ座ってうつむいていた。
ぱっと見、若い女のようだ。
(誰だろ?酔っぱらいかな?)
そう思いながら水口はその女の子に近づいて声をかけた。
『あのー、お客さん。もう終電終わっちゃったんですけど』
けど、その女はうつむいたままだ。
『あの、お客さん?もう終電終わっちゃったんで、改札閉めますよ。出てもらってもいいですかね?』
けど、尚も女はうつむいたままだ。
水口も少しイラついた。
そして
『あの、すいません。聞こえてます?
もう終電終わっちゃったんで出てもらっていいですか?❗』
と、ちょっと強く言った瞬間、女はガバッと顔を上げた。
そして直後
『来るもん❗待ってるんだから❗』
と、叫んだ
不意に言われて水口も動揺したが、気を取り直して話した
『いや、来るって。。。もう終電終わっちゃったんですって。どなたと待ち合わせか分からないですけど、もうこのホームには今日は誰も来ませんよ』
けどその女は
『来るもん。約束したんだから』
と、譲らない。
水口は、何なんだと思いながらもその女をホームから出そうと説得を試みるが、女は頑として
『来るもん。だから待ってるの』
と、これしか言わない。
『あの、でしたら尋きますけど、どなたをお待ちしてるんですか?話聞きますから』
そー言っても、今度は何も話さない
水口がほとほと困り果てていると、ちょっと離れた所から
『どーしたの?水口?』
と、運転手の茂田から尋かれた
『いやシゲさん、あのこの女の人ですね。。。』
と、水口が事情を説明しようとしたら、その女が急に
『水口さんに話したくて❗ちょっと私の話聞いてよ❗聞いてくれるって言ったでしょ❗』
と、大声で言うもんだからたまらない。
茂田も勘違いして
『水口。自分の女ならなんとかしろよ。何か訳ありみたいだし、今日はこのまま帰っていいからその女と一緒に出ろよ❗』
なんて言う始末
『違っ❗シゲさん、この人は。。。』
と、水口は茂田に事情を伝えようとするが
『お前の女だろ。だったらお前がなんとかしろ。それにもし関係ねーとしても、お前を頼ってんだろ?男ならなんとかしてやれよ』
と言って、取り合ってくれない
『あー、マジでどーして。。。』
水口の前から旨い酒とツマミ。それと、観たいドラマが遠のいていくのを感じた。
水口は観念して
『じゃあ、話聞きますから、とりあえず一緒に外出てくれます?』
と、その女に尋くと、女はうなずいてようやく椅子から腰を上げた
(ドラマを観たかったのに、今のコレ、俺が主演じゃね?どーなんのマジで?)
水口は仕事で疲れきった頭でそんな事を考えながら、その女と駅から出た。
自分が主演だと思ったドラマの予期せぬ結末を、かすかにすら想像出来ないまま。。。




