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小林トレイン【コバトレ】  作者: ジュン・ガリアーノ
7/19

第7両 救護するなら

『ただ今急病人のお客様の救護の為、運転を見合せております』




よく聞くよね。このアナウンス。


これね、実は運転手がわざわざホームに下りて介護してるからこーなるんだ。


俺としては、ワザワザ運転手がしなくてもいいんじゃないかと思うんだけど。。。



けどまあ、それも昔の話。


今はそんな意味不明のアナウンスは消えたよ。



じゃあ、駅で急病人出た場合どーすんのかって?


それは。。。








その男は今猛烈に仕事で成果を上げていた。


会社創設以来、難攻不落と言われていた商談先を、研ぎ澄ました営業力と連日に渡る商談で次々に口説き落としていた。


今やその男は、部署に、いや、その会社にとって無くてはならない存在になっていた。


しかし、それと同時に彼にかかる周囲からの期待と責任は日に日に大きくなり、彼はその期待にさらに応える為にさらに自分を追い込み仕事をしていった。


その成果の反動として、その男の体は限界にきていたにも関わらず。。。


さらに連日に渡る接待で、もう何日も家に帰っていなかった。


たまに家に帰っても、朝早くからまた家を出る為、家族とは大体は行きに一言二言交わすだけ。


『パパ、今日は早く帰ってくる?遊びたい』


と、息子が無邪気な笑顔で問いかけてくる。


『うーん。今日も遅いかもしれないんだ。ごめんな』


男は息子にすまなさそうに答えた。


『そっか。。。じゃあ、帰ってきたら遊ぼうね』


無邪気に答える息子。


『ああ。分かったよ。遊ぼうな』


男は息子の頭を撫でながら答えた。


『○○、あんまり無理し過ぎないでね。体調が心配だよ』


妻も心配そうに言う。


『ありがとう。でも大丈夫。』


何とか笑顔で妻に答える。本当はもう体は辛くてたまらないにも関わらず。


『本当に?○○も知ってるように、私のパパは私が小さい頃に倒れたの。そしてそのまま。。。』


『心配し過ぎだよ。そー簡単には倒れないって。見ろこの筋肉っ w』


『そーゆー事じゃなくて w』


辛いはずなのに心配かけないように、わざとちゃらけてみせる夫の姿に妻は切なさと一抹の恐怖を感じた。

幼い頃、倒れた父の姿が夫に重なったからだ。


妻の父は、妻がまだ幼い頃、駅のホームでいきなり倒れた。

急性の脳梗塞だった。

助からなかった。

朝のラッシュ時で駅員も忙しく、救護が少し遅れてしまったらしい。

医師いわく、後、もう少し早ければ。。。


と、いう事だった。


母の目から大粒の涙が溢れていた記憶が妻の脳裏に甦った。


そして妻はとある事を思い出し部屋に戻ると大急ぎで戻ってきて


『○○。無理し過ぎないでねって言ってもアナタは頑張ってしまうよね。だからせめて駅にいる時はこれを常に手に持ってて。そして、本当に体辛くなったらコレのボタンをすぐ押して。それだけはお願いね』


そう言って夫にそれを渡した。

そして、


『それはね、』


と、妻が説明しようとしたが彼は


『分かった。時間無いからもう行ってくる❗』


と、説明を聞かぬまま家を飛び出した。



そしてその日だった。





その男が駅で倒れたのは





男が電車を待っていると、強烈な頭痛がした。


後ろから頭を殴られたような痛さだ。


『頭が痛い。俺は死ぬのか?❗』



直後、意識が消えていくのが分かる。


同時に男のそれまでの人生が走馬灯のように蘇る


仕事は確かに誰よりも頑張っていた。


けど、そのせいで減ってしまった家族との時間。


家族を幸せにしようと頑張ったハズなのに。。。❗




『まだ、死ねない。俺はアイツらを幸せに。。。』


その瞬間男は手に持っていたボタンを押した。


そしてホームに倒れ、男の意識は消えた。。。





意識が戻ると、男はベットに寝ていた。

どうやら、どこかの医務室みたいだが



『ここは。。。?』



男が目を覚ましてほんの少し経った時、

ガラッと、医務室の扉を空ける音と共に、その男の妻と息子が飛び込んできた。

そして妻は夫に駆け寄った



『○○っ❗大丈夫っ?❗』


『ああ、大丈夫だ。けど、どうしてここが?』


『駅員の人が知らせてくれたの』


『駅員さんが?どーやって?。。。あっ』



そう。小林トレインの発行するブザーを購入する際、【緊急連絡先】も登録出来るようになっているのだ。


そしてそのブザーは、押すと駅の医務室のランプが光り、場所もGPS機能で、その人がどこで倒れてるかすぐに分かるようになっているのだ。




『いやー、でも○○さんがちゃんとブザー購入してくれてて助かりましたよ。もし、救護が後少し遅かったら手遅れになるところでしたから』


と、医者が安堵した表情で言った


『ありがとうございます❗

もしこのブザーが無かったら。。。』


そう言った妻の目からは、大粒の涙がこぼれ落ちていた。


けれど、それはかつて妻が見た悲しみの涙ではなく、夫の無事を確認出来た喜びと安堵の涙だった。


その妻の隣では息子が


『パパ、疲れたから寝てるの?遊びたいけど、ゆっくり寝ていいよ』


と、僕はエライんだぞ。


みたいな顔をして言った。


『ありがとうな。ちょっと休みもらうから、3人でどっか出かけよう』



男は妻と息子に久々の、心からの安堵した笑顔でそう言った。







救護人、助く電車に遅延無し。か。。。



運転手の平田はそう言って微笑んだ

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