第11両・血まみれのペンダント
扉が閉まった後、水口は茂田がさっき言った言葉を頭の中で何度も反芻していた。
そして、様々な想いが体を巡る。
時に早く、時にゆっくり。
その洪水のような想いの中、水口は考えに考え意を決した。
そして、水口は茂田に報告に行く為に、その扉を開けた。
その扉の向こうに待ち受けている運命を受け入れながら。。。❗
茂田は駅員室から大分離れた所にいた。
水口は茂田の少し離れた所まで行き、茂田の背中から声をかけた。
『シゲさん。』
茂田は振り向かずに答えた。
『水口。どーする事に決めたの?』
水口は大きく深呼吸してから答えた。
『俺。。。乗ります❗』
茂田は振り向きたくなかった。
泣いている水口を見たくなかったから。
けど、水口のその声に振り向かずにはいられなかった。
そして、水口のその顔を見た時に、振り向いた事を後悔せずにすんだ。
水口は全てを覚悟した男の顔になっていたからだ。
そしてその水口は言った。
『シゲさん。ありがとうございます。
俺はナナの想いに応えてきます❗』
と。
そして茂田は水口に
『分かった。行ってこい❗』
と、力強く言った。
そして準備をする為に茂田と共に一旦駅員室に戻っていると、途中で駅員の篠崎に会った。
そして篠崎は水口を見ると
『あっ、水口さん。さっき、確かナナっていう女性が水口さんに会いに来ましたよ』
と、言ってきた。
『シノピー、いつ?❗いつだ?❗』
水口は篠崎。通称シノピーに詰め寄った。
『えっ?ついさっき5分から10分ぐらい前ですけど、何かあったんすか?』
『その人は今どこにいる?駅員室か?』
『わ、分からないです。自分それからすぐに駅員室出たんで。。。』
『バカヤロウ❗』
水口にいきなりそう言われて篠崎は焦ったが、一番焦ったのは水口だ。
水口は全速力で駅員室に向かった。
ナナに会う為に。
さっき決意したばかりだが、まだナナと話せるチャンスが、止めれるチャンスがあるのなら、水口はナナを全力で止めたいと思っていた。
水口は駅員室の前に着くと扉を開け、飛び込むように中に入った。
けど、駅員室にナナの姿は見当たらなかった。
『ナナ。。。どこにいるんだ?❗』
水口がそう言って呆然としてると、後ろから茂田が入ってきた。
『水口。あの子は?』
水口はうつむいたたま
『いないです。。。』
と、答えた。
そして茂田が
『まだ駅構内にいる可能性も高い。探してこい❗』
と、言ったその時だった。
駅の運行電工掲示板の下と、駅員室の電工掲示板に
【先程線路に立ち入った女性がいましたが、支障なく運転しております。尚、この女性に心当たりのある方は身元確認と遺留品返品等がございますので、駅員室までお越しください】
と、メッセージが流れた。
水口も茂田も見慣れているいつものメッセージ。
けれど、今日のそのメッセージは水口の心を粉々にする絶望のメッセージだった。
水口はうっかりしていた。
今日は普段と少し違う運転手のシフトだったのだ。
そして、絶望している水口に茂田が言った。
『まだ、まだその子と決まったわけじゃねーだろ。。。探そう水口』
『そう。そうですね、シゲさん。まだ決まったわけじゃ』
水口がそう言った時、駅員室の電工掲示板に遺留品の写真が送られてきた。
遺族等が確認する為の物だ。
そしてそれを見た瞬間、水口は全身の力が抜け、その場にへたりこんだ。
そこには昨日、ナナがしていたナナがお気に入りだと言っていたイニャル入りのペンダントが。。。血まみれのペンダントが映っていたからだ。
そのペンダントは昨日、ナナが大好きな男からもらったと自慢していたペンダント。
寝る時もずっとつけてるんだとのろけていたペンダント。
ナナがその男から唯一もらったと大切にしていたペンダント。
もう、もらってから大分経つと言っていたのに、とっても大切に手入れもしていたから綺麗なままのナナのペンダントは、血にまみれてボロボロになっていた。
それはまるで、ナナの心、そのもののようだった。
水口は電工掲示板に映ったその血まみれのペンダントを、ずっと、見ていた。。。




