第10両・背中は語る。誰の為に
朝、気がつくと、水口はベットの上にうつ伏せに寝ていた。
服は昨日のまま。
帰るなりベットに倒れこむように寝ていたらしい。
時計を見ると、まだ始業までには大分時間がある。
いつもより大分早く目が覚めたようだ。
『これから、仕事か。。。』
目覚めると共に、ナナの事を思い出した。
憂鬱だ。
今まで人を引き殺したのがない訳じゃない。
何度もある。
けど、それはいつも突然の事だったし、見ず知らずの他人だった。
けれど、今日は違う。
昨日知り合ったばかりとはいえ、面識ある人間。
しかも、あれだけ本音で語り合った人間。
それに、元々好みのタイプな上に、昨日ナナの心に触れて、水口はナナに愛しさを感じていたのだ。
そしてなにより、自分はこれからそんな愛しく想ってる人を突発ではなく、分かっていて引き殺すという事だ。
『イヤだ。。。』
水口はこの仕事を誇りを持って頑張っている。
けど、いや、だからこそ悩んだ。
[自ら線路に入るとはいえ、仕事であればナナを引き殺していいのか?]
[知ってるなら止めるべきじゃないのか?]
様々な思考が水口の全身を駆け巡る。
けれど、一向に答えは出ない。
そうこうしている内に、段々始業の時間が迫ってきた。
水口は悩んだまま、シャワーを浴びにいった。
そして思った。
[そう。昨日ナナに何も言えなかったのは、ナナのあの目を見たからだ。もう、何もかも悟り、全てを決めてしまったあの目を見たからだ。だとしたら俺は。。。]
駅員室に着いた水口は、先輩の茂田に話しかけた。
『シゲさん。おはようございます』
『おう。おはよう水口❗。。。あれ?どーしたの?なんか、元気無くね?』
『シゲさん。シゲさんは仕事中に、この線路でシゲさんの。。。知り合いを引き殺した事ってありますか?』
『。。。どーしたんだよ、水口?』
『シゲさん。すいません。俺、今日。。。乗りたくないです』
水口は沈痛な表情で話した。
そして、その表情を見て水口の心を悟った茂田は答えた。
『昨日の女か。。。水口。お前がどうしても今日乗りたくないならそれでもいい。俺が社長にクビ覚悟で土下座して頼んでやる。けどな、水口。お前は本当に今日のその運転。他のヤツに任せていいのか?その子に頼まれたのは、そいつの最後を託されたのは誰なんだ?』
『?❗』
『水口。お前は何を想ってこの仕事をしてる?そして、その子にお前は何が出来るんだ?。。。まだ、始業までには時間がある。他のこまけー事は俺がしとく。お前が今日どーするか決めたら俺に報告にこい』
茂田は水口にそう言って、駅員室の扉を開けた。
そして水口に背を向けたまま
『さっき水口が俺に言った質問の答えだけど。俺は。。。あるよ』
そう言って、茂田は駅員室を後にした。
『シゲさん。。。』
水口は茂田のその背中から目が離せなかった。
あまりにも、あまりにも哀しみに満ちたその背中から。
そして、扉は閉まった。




