第9両・どっちが遅れてるんだ?わかんね
水口はその女と駅の外に出た。
その女は実は結構カワイイし、水口のタイプの女だ。
普段というか、こーゆー流れじゃなくてデートするなら、むしろ、なんというか。。。
楽しいっ w
が、しかし、今はその女の可愛さよりも、その女に対する不思議というか謎の気持ちの方が遥かに大きく、水口はどーしても楽しめる気持ちにならなかった。
疲れてたし、まあ、当たり前と言えば当たり前だが。
さっきまで
ドラマの主人公じゃね?
なんて考えてもいたが、そこは飽きっぽい水口。
正直もう
[帰りたーい]
って気持ちがいっぱいだった。
しかし、そんな水口の気持ちを見透かしたかのように女は言ってきた。
『ねぇ、水口さん。お腹減った。なんか食べたい』
と。
『えっ?晩ごはん食べてないの?』
『うん。お昼から食べてないの。だからお腹すいた』
『昼から?』
『うん。だってお昼からずっとあそこで待ってたから』
水口の心の警報が鳴る
[ヤバイよヤバイよヤバイよ。やっぱこの子ヤバいって❗ぜってーメンヘラーさんだって❗。。。逃げよう]
『いや、あのもうお店も空いてないし、お腹すいたならコンビニで何か買ってきなよ。で、いっぱい食べて寝る。そう。それがいい。いやー、これで解決だな。うん。それじゃ』
と、言って水口が逃げるように去ろうとすると
『空いてるよ。昨日出来たファミレス。あそこなら空いてるよ』
と、言ってきた。
[しまったー。そうだったー❗もう、なんで作るのよ。もー]
と、思ったが、
『そうだね。でももう帰らなきゃ。家で食べた方がいいっしょ?ね?だからもう今日は帰ろう』
と、なんとか切り抜けようと頑張った。
が、その瞬間
『嘘つき。水口さん、私の話聞いてくれるってさっき言ったじゃん❗』
そう言ってその女は泣き出してしまったからたまらない。
これが男なら無視して帰るんだが、女に泣かれるとどーにもこーにも弱い水口。
一瞬近づいた【水口のツマミと酒と映画の夜】はこの瞬間に完全にさよならしていった。
『分かったよ。じゃ、話聞くからファミレス行くか』
そう言うと、女の顔はパッと明るくなり
『うん。ありがとう、水口さん』
と、笑顔になった。
『いらっしゃいませーお二人様ですか?』
『禁煙喫煙は?』
『あっ、俺吸うけどキミは?』
『いいですよ。私吸わないですけどヘーキですから』
[ええ子やな]
『あっ、じゃ、喫煙で』
『かしこまりましたー、こちらへどうぞ』
そんな感じで席に着くと、水口はまず一服して、コーヒーを二人分頼んだ。
コーヒーはすぐに出てきた。
そして言った。
『で、どーしたの?』
と。
聞いてみると、やっぱりというか、思った通り、男の話だった。
聞けばこの子、今日昼に駅で待ち合わせをしたんだけど、その男は来なかったらしい。
ラインは既読になってるが、いわゆる既読スルーってヤツだ。
そしてその相手はどーやらかなりの遊び人らしい。
今までもさんざん都合よく利用されてるみたいだ。
吐いて捨てるほどよくある話。
『あのね、ナナちゃんだっけ?あのさ、俺もこの仕事始める前に色々あってさ、そういう話よく聞いたのよ。だから言うけど、それもう、辞めといた方がいいから。ね?』
話していく内に水口はだんだんこの子が不憫に思えてきて、いっぱい話して分かってもらおうとしたがナナは全然分かってくれない。
そして、かなり話こんだところでナナは言った。
『ねぇ。じゃあ、仮に水口さんの言う通りだとして、なんで嘘つくの?なんで、好きでもないのに好きとか言うの?』
と。
水口は答えに詰まったが、ナナはまだ続ける
『それは、人間だから嘘はつくときあるのは分かる。けど、好きだとか愛してるとか、そーゆーので嘘をつくのってなんで?私は好きだから好きって言うし、愛してるから愛してるって言うの。でもなんで?なんでそーじゃないのにそう言うの?何の意味があるの?ねえ?なんで?』
『それは。。。』
と、言おうとしたが、水口は答えに本当に詰まった。
自分が言おうとした事があまりにもイヤな内容だったからだ。
そして思った。
この子はメンヘラではない。
ただ当たり前の、ごくごく全うな事言ってるだけだ。
確かに俺らはなんで嘘をつくんだろう?
自分に有利に進めるため?
恋愛だけじゃない。
俺らは大人になるにつれて、いわゆる
【成長】ってヤツをすればする程、嘘が上手くなる。
自分にも他人にも。。。
この子はそれが出来ない。
いわゆる、少し知恵遅れかもしれない。
けど、俺らはその【成長】ってヤツをする際に、ただ、嘘を上手く使って心を鈍くしてるだけじゃないのか?
自分にも他人にも、ありのままの気持ちで生きる事をやめて。
そうやって純粋な気持ちを失っていくのが【成長】なのか?
だったら俺は。。。
そしてこの子は。。。
そう水口が考えていると、ナナは急に微笑んで言った。
『ありがとう。水口さん。私の話聞いてくれて。分かってるの。こーゆー考えじゃダメなんだって事』
『いやっ、ダメじゃないよ❗ナナは何も間違ってない。ナナの言う通りだよ』
『ううん。ダメなの。私はそーゆーの嘘つけないし、相手の言ってる事を信じちゃうから。これじゃ生きていけない。けど、変えれないの。だからもう疲れちゃった。だから決めたの』
『何を。。。?』
『あたし、明日線路に入る』
仰天する水口
だが、あまりのとっさの事に声が出ない
『ありがとうね。水口さん。話聞いてくれて。水口さんは何かあたしの好きな人に少し似てるから、話聞いてくれてとっても嬉しかったよ』
その言葉に水口は何度か深呼吸して答えた
『やめろ。ナナ。明日は、俺が運転する日なんだ』
『そっか。。。でも、止まらないんだもんね?小林トレインは。それにいいよ。水口さんになら。水口さん、私の話、真剣に聞いてくれたから。遅くまでありがとう。じゃあ。。。帰るね』
そう言ってナナはテーブルに1000円札を置いて店を出ていった。
動く事も、ましてや声も出せない水口を置いて。
『1000円じゃ足りねーんだよ、バカヤロウ。。。』
ナナが店から出た後、水口はそう呟いた。
水口の吸いかけてたタバコは、もう、灰となって消えていた。
まるで、これから消えていくナナのように。。。
気がつくと、今までで一番来てほしくない朝が、もうすぐそこまで来ていた




