第二話
「ふぅ。有り難うございます。動物に纏わり付かれるのは神族の特性ですね。まぁ悪い気はしませんが。動きづらくはなります」
「でも可愛いじゃないですか」
「ピィ!」
ほら、ひな鳥も同意してる。小動物は可愛い。可愛いは正義。どこも間違いは無い。
引き離した小動物たちはというと、地面に置いてもフェイメルの足にすり寄ってくるのでもうそこは諦めた。どうやら離れたくないらしい。
「まぁ、仕方ありません。穢れの無い神族に動物は無警戒ですからね」
ため息をついた彼女は腕に抱いていた猫を下ろした。穢れが一体何の事をさしているのかはわからないけれど、ともかく今は彼女の話を聞く事が大切だろう。
「さて、そろそろ話を進めましょう英雄の右腕」
「やっぱり神様からの使いだったのね……。その呼び方やめない?」
先ほどのは気のせいだったのではだなんて思って無視していたけどやっぱりそうかと、がっくしと肩を落とした。
「呼び方、ですか? 仕方ないではないですか。今の貴女には名前がないのですから」
「え? いや、俺の名前は真一ってちゃんと……」
「それは前世の名前でしょう?」
うっ、と言葉を詰まらせる。確かにこれは前世の名前、と言う事になるのだろう。
あぁだからか。さっき名前欄が空欄になってたのはそのせいか。
「別に一緒でいいんじゃないのか?」
「ダメです。精神はともかく、外見は立派な10歳の女の子。そんな女の子が真一なんて言う名前なんか許しませんし、おかしいですよ?」
「う、ぐ……そ、そうだ! なんで女の子になってんだよ俺!? 精神男だってわかってんならわざわざ女にする必要なんて無いはずだろ!?」
「いえ、それには理由があるそうなんです」
「理由?」
首を傾げる。対して俺を女にする理由なんかは無いはずだ。俺がなりたいなんて言ったわけじゃないし、なりたくもなかった。
一体どんな理由でと待っていると、フェイメルが指を立てた。
「まず、勇者が魔王を倒すまでに貴女が死んでもらうのは困ります。この事はわかりますね?」
「まぁ一応」
「つまり女の体にしておけば、精神が体へと引っ張られていずれ女の子が好きになると言う事が無くなるかもしれないと言う神様の気遣いです。そうすれば、貴女自身は男を否定しますから問題ないと」
「え? でも女に引っ張られるなら男を好きになる可能性だってあるんじゃ?」
「男に抱かれたいのですか?」
「死んでも断る」
ベッドに押し倒され、微笑みながら迫ってくる男を想像して全身に悪寒が走って全身を両手で抱くように包み込む。それならまだ女に押し倒された方が……いやいや、なんで襲われる方になってんだ俺。
「ですから女になったんですよ。貴女が好む人でなければ自分の命を粗末にするような事は無いだろうと言う神様の配慮です」
今までの死因が好意を持った人を守るべくとかって理由なら確かに女にされても文句は言えない、のかn――
「あと、本音は? と聞いた所、趣味だそうです」
「全言撤回!! 死ねクソ神!! テメェなんて事してくれてんだよ!!」
「それはもうドンマイとしか。……私だってまさか下界に落とされるなんて思ってもいなかったのだし」
ぼそぼそと呟くフェイメル。何か嫌な事でもあったのだろうか、その表情は暗い。苦労してんだなぁ。なんだか同情心がわき上がる。
あの神様、俺以外にもいろいろとやってんのか? 次あったらただじゃおかねぇ。協力してもらえるかな。
などと駄神への復讐を誓っていると、フェイメルは話を続けた。
「ともかく、貴女はもう女の子なんです。名前は……シオンちゃんとかどうですか? これなら男の貴女でも許せる名前でしょう?」
「ん? んー。いいんじゃないか?」
==========
名前:シオン
種族:人族・神族
性別:♀
年齢:0
レベル:1(175)
==========
どうやらちゃんと名前として登録されたらしい。これからはシオンと名乗らなきゃ行けないのか。呼ばれたときちゃんと反応できるかどうかは別だ。
急に名前が変わってすぐに反応できる人ってなかなか居なくね。俺は無理だ。うん。
「そういえば、ステータスって」
「あぁ、ちゃんと見れるんですね。それは神族、又は特殊な魔道具でしか見る事ができない自分のステータスです。名前、種族、性別、レベルが見れますね。レベルは産まれたばかりですから当然1です。ただし、貴女の場合は前々世の記憶、その実力を引き継いでさらに神様の加護、各種能力上昇していますから1の後に括弧で本来のレベルがかかれているはずです。私にはその括弧のレベルはどう見ようとしても見る事はできませんが。確かもの凄くおかしかった気がしますので、絶対に他人には言わないように」
「参考までに聞くけど百超えは普通なの?」
「百越え、ですか? 一番平均レベルが高い神族であっても大体30程度です。ただし、魔王軍は話は別ですが。戦闘を好み、大層な二つ名をもっているような人物は大体が100は超えているでしょう。もっとも、魔王ともなれば200は行くかもしれませんが」
「ちなみに前々世の俺が戦った魔王は?」
「確か、225だった覚えがあります」
前々世の俺よく勝てたなー。まぁ、勇者の相棒的な位置だったみたいだけど。そう考えると人数さえそろえば50上の敵でさえ倒せるのか。
「ちなみに当時の勇者は220でした。勇者だからこそ他の人物と違い、レベルが上がりやすいという特性を生かしたモノですから本来はここまで上がりません。50上の敵と一対十で戦っても勝てる見込みはゼロですから。余程の力を持っていなければ、残念な事に」
「ピィ!」
ゼロか。勇者VS魔王戦、完全に仲間だった俺等邪魔だったのではないかと疑問に思う。思い出せないから何とも言えないの状況ではあるが。
括弧内が俺の本来のレベルだとするならば、今から50以上は上げないと少し恐いな。
ただ、1つだけ不安な事がある。
「なぁ、俺。レベル上がるのか?」
「今はレベル1ですから簡単に上がりますよ? えぇそれはもう不自然に……」
「ちょっと待って。俺本来のレベル175よりなんだけど」
「えぇそうです。ですが、神様がレベルの上がり方は普段の方と同様の上がり方ですから。いえ、もしかしたら勇者並みに」
「え、それ、俺ぶっ壊れになるんじゃ……」
「……今回はそうでなくてはいけないかもしれませんね」
「え?」と返す俺だったが、フェイメルの表情は浮かない。なに、俺そんなヤバい奴らと戦わされんの。嫌よ? 俺ただの一般人よ?
ちなみにシオンのステータスを見たらこの世界の一般人が総じて「それはギャグか?」と言われておしまいである。
「さて、これからの事ですが、まずはこの場にて貴女のレベル上げ。戦闘の経験。前々世の剣を思い出す事の3つを目標としていきます。と言うわけでどうぞ」
「?」
不意にどこから取り出したのかわからない大剣を持ち出された。その大剣は俺の体よりも大きく、それでいて重そうだ。事実、彼女はその大剣を両手で持ってはいるが片刃の刀身が地面へと傷を付けている。柄は翼のようなデザインがされており、中心には天使の紋様があり、柄から刀身に向けてリボルバーがセッティングされている。銃口も無いのに一体どんな理由でつけてあるのか疑問に思う。
「前々世の貴女が使っていた物を強化したものです。重量が今の貴女用に強化されたものですので人の上に刀身を下にしておいただけでも簡単に骨ごと貫きます」
いやもてねーだろ!? と言った言葉は心の内に潜ませ、恐る恐るその大剣を両手で掴んで持ち上げてみる。
すると、両手はいらなかっただろうか。片手で持ち上げる事ができた。え、嘘。俺丁度いいんだけど。そんなに重かったのかな。
いや、重いんだろうな……。
試しに地面へと突き立てておいてみた所、刀身が半分以上も埋まった時は自分のこの細い腕のどこにそんな怪力があるのかと恐くなった。