第一話
つんつん。
「んん……」
つんつんつんつん。
「んん……まだねむい……」
何だろうか。先ほどからつつかれているかのような感覚。だが俺はまだ眠いのだ。悪いが起きやるわけにはいかない。
つんつんつんつんつんつん。
「後一時間待……」
ズガガガガガガガガガッ!!
「痛ってぇなこの野郎!?」
唐突に意識が覚醒する。頭をつつかれていたと思ったら急激に尖った何かで連続して攻撃されるとかどんな起こされ方だよ!? ガバッと体を起こして攻撃してきた対象を探す……が。
「あれ? ここどこ……?」
視界に映るのは木、木、木。朝日が差し込む光の森の中で起きた俺は目の前の状況に驚きつつ辺りを見回す。
すると、先ほどまで俺をつついた対象を知る事ができる。
「ピィ!」
「……鳥? ってかひな鳥じゃねぇか。一体なんでこんなとこに」
黄金に光る羽毛に、所々に赤く模様が入っているひな鳥がすぐ側にいたのだ。なるべく怖がらせないようにと手で包むように拾うが、人になれているのか怖がったり逃げたりするようなそぶりも無く俺の掌の内に収まる。
そこでふと疑問に思う。
「あれ? 俺の手こんなに小さかったっけ? ところなしか肌もふにふに……」
片腕でひな鳥を抱えると、自分の頬や体を触る。本来ならばもうちょっと筋肉質の硬い肉体に振れるはずなのだが、今はむしろ柔らかく、すべすべで、且つ胸の辺りがちょっと気持ちーー
「まてまてまてまて。一体何がどうなって……」
「ピィ!」
「あぁ? 何だ? お腹減ってるのか? って言っても俺食べ物も何も持ってないぞ……」
口を開けて鳴くひな鳥に少し頬が緩むけど仕方ないだろう。こんな可愛いものがいて緩まない奴なんて俺は許さない。
何か無いかと探してみるけど、あるのは近くにある泉のみ。ひな鳥って水飲むのかな。それでお腹がふくれるかどうかはわからないけど。
とりあえず、水でも呑ませようかと泉へと近づいてく。俺自身の状況確認? そんなの後でも良いだろう。まずはひな鳥が優先だッ!
「さてさて、飲める水かなぁ」
ひな鳥を抱えて立つ俺だったが、さらに疑問が浮かぶ。俺の身長ここまで低かったか? やけに目線が下に見える気がして、地面も近いような気がする。視線を下へと向けてもそれは変わらない。着ている服はどこかで見たことがあるような服だ。真っ白い布を体に撒いたような格好なので、これ脱いだら完全に裸になるんじゃないだろうか。
歩幅も小さい。まるで子供に戻ったかのような感覚。足取りは軽い。少し力を入れてジャンプでもしてみれば今ならギネス記録も狙える気がする。
泉の端へとたどり着くと、水を手ですくってまずは自分で呑んでみようと覗き込む。
すると、やけに可愛らしい幼子が同じく覗き込んできた。
「あ、ども」
見覚えのあるひな鳥を抱えた幼子へとする挨拶ではないが、何となく言ってみるけど、幼子も同じように返してくる。……俺と全く同じタイミングと鏡にした同じ動作で。
笑顔が固まる。幼子も固まる。
手を振ってみる。幼子も手を振る。
ジャンケンをしてみる。幼子も同じジャンケンをしてあいこだった。
次第に大量の汗と、俺の顔が自分でもよくわかるほどに引きつってきた。幼子も同じく汗と顔が引きつってきた。
「これは悪い夢だそうに違いないじゃ無ければあの水面に映るはずのものは俺の容姿なはずであってあの別段かっこ良くもない平凡などこにでもいそうな一般人の顔のはずだなのになぜ水面に映るのが幼子であってしかもちょっと可愛い女の子のような顔でひな鳥を抱えているのかわからないけれどとりあえず夢だ夢だそうに違いないハハハハハハ……」
「ピィ!」
「ハッ!?」
ブツブツと呟いていた所にひな鳥が心配そうに覗いてきて我に返る。俺はひな鳥の頭をなでる。気持ち良さそうに目を細めた。可愛い。
「いやいやほんわかしている状況じゃない。そう言えばさっきからやけに声も高いような気がしたのはそのせいか……」
まだぼ〜っとしてたから気のせいだろうと思って無視し続けていたのは良いが、まさかこんな事て……ま、待てよ? まだ男ならワンチャン!
手が股間の間へと滑り込む。突起物のようなものは見当たらない。むしろ何かの割れ目のようなモノがあってーー
顔が真っ青になる。冷や汗が永遠と垂れ流しにされている気分だ。
ふるふると震えた俺に対し、ひな鳥が首を傾げた直後、俺は叫んだ。
「うがぁぁぁぁぁああああああああ!!!! なんじゃこりゃぁぁぁああああ!?!? なんで女の子になってんだよぉぉぉぉおおおおおおお!?!?」
頭を抱え込んだ俺はこの世の終わりとばかりに叫び続けたが、そんな俺に放り出されたひな鳥は綺麗に着地。小さな翼を広げると光の粒子が纏い、空を飛んだひな鳥が俺の頭の上へと着陸した。そして、まるでよしよしとばかりに翼で俺の頭をなでる。
フワフワとした感触に俺は心地よさを感じ、ちょっとずつではあるが理性を取り戻してきた。
「うぅ……ぐすっ。お前、良い奴だな……」
涙目でひな鳥をなでる俺はさぞかし滑稽に見えるだろう。前世の姿としていれば。
気を取り直して泉へと再び顔を見せる。
ちょっと泣いた所為で赤くなった頬と鼻がSっ気のある人ならきゅんとしてしまうだろうが俺は違う。瞳は蒼く、ツリ目で頬は少しふっくらとしていて子供らしい顔つきをしている。髪は肩ぐらいまでのショートヘヤで光を輝かせる煌びやかな金髪に所々に白く銀色に光っている部分がある。これ町中歩くだけでも十分に目立ちそうな色だな。
ただし、髪色だけが目立つのではない。……頭の上にある金の輪っかと、背中に見える片翼の純白の翼が見えるのだ。
「な、何だこれは……? ひゃっ!?」
金の輪っかは触る事ができなかったが、片翼の翼は触れた。というか触った感触がくすぐったい。お陰で変な声が出てしまった。その後、我慢しながらちょっと引っ張ってみれば背中が痛い。
「ま、不味い。結構気持いいな、これ……って違う!! なんで天使の輪っかみたいなやつと翼があんのこれ!? 俺は人間だぞ!?」
「ピィ! ピィ!」
はっ!? そう言えばこの世界にはステータスがあるんだった!? ゲームみたいに映し出されるか?
ゲームのように画面に、というか視界に映るような想像をすると、静かに自分のステータスが映し出された。
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名前:
種族:人族・神族
性別:♀
年齢:0
レベル:1(175)
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「はいやっぱりただの人間男じゃ無かったよ!! え、なんで俺神族の仲間入りしてんの!? いや百歩譲ってそれは良いとして、なんで女になってんのさぁ!?」
「ピィ……」
ひな鳥がそれは良いのかよとジト目で鳴いた。その様子にとりあえず俺の体の事に関しては置いておく。そうだ。無視すれば良いんだ。無視すれば良いんだ。無視……。
「あんのクソ神じじいめぇぇぇええええええええええ!!!!」
「騒がしいですよ」
「!?」
誰もいないと思っていたので急に注意された事に驚き、声の主を捜す。だが人影どこにも確認できない。まさかひな鳥が喋ったわけじゃ。あり得ない事を妄想しつつひな鳥を手に取るがそちらではなかった。
目の前にもってきたひな鳥の奥側に、突如として人影が振ってきたのだ。
「ひっ」
「こんにちは勇者の右腕。今日から旅の道連れとなるフェイメルと申します」
空から降ってきたのは深紅。燃えるような長髪と瞳に、鋭い目つき。凹凸のしっかりしたボディラインに俺と同じく金の輪っかに両翼の生えた天使のようなかっこいい女性であった。
ただなぁ……。
「あの、フェイメル、さん? 大丈夫ですか?」
「…………すみません、この子達引き離すの手伝ってもらえますか?」
体中にリスやら猫やら鳥やらと様々な動物に纏わり付かれていた……。