第三話
「それにしてもフェイメル。これからどこに向かうの?」
「まずは近くの町に行って、食料、旅道具等を買おうかと。私たちは他には何も持っていませんし」
「装備一式は持ってたのに!?」
「えぇ。私も急遽落とされたので何の準備もせず手持ちの武器お金ぐらいしか。はぁ……。あのクソ神様、帰ったらどうしてくれようか……。私の剣の錆に……いえ、それだけではつまらないですね……。モーニングスター……三角木馬……アイアンメイデンも面白そうですね……ふふふふふ……」
あ、あれ? なんか空気がいきなり重く……?
隣を歩くフェイメルからいつもと同じような雰囲気を感じない。
「え、えっと、フェイメル……さん?」
「はい? 何でしょう?」
ボクの声に反応して微笑んでくるフェイメルだが、どこかその笑みは暗いオーラのようなものを纏っているような気がするのでなるべく気がつかないようにする。
触れたら後々面倒な事になりそうなので尚更だ。
「とりあえずこっちの方面でいいの?」
「えぇ。まずは森を抜ける事を最優先にしましょう。なんでしたら私がはこ――」
「さぁて歩くか」
奥の森よりは明るい日差しが森を照らす。少し薄暗いだけだけどこれくらいならば余裕で何があるのかわかる。今なら真っ暗な場所でも把握できそうで、ここ四年間で成長したものだ。
そういえば今自分の姿だけど、白いワンピースの胸に花柄レースのあしらった姿だ。ただ、それを着ていると、どうやら隠蔽作用があるらしく現在あるはずの頭の上の天使の輪っかと片翼が触る事はできても見えなくなっている。
それから暫く森の外へと向かっていると、何やら慌ただしい声が聞こえてくる。
初めは気のせいかなと思ったのだが、その声がやけに近くなってきていて気のせいではない事を知る。
「なんだろ?」
「さぁ? 少なくとも、何やら慌てている様子です。少し様子を見てきましょうか?」
「……いや、ボクも行くよ」
もし戦闘になると嫌だし、アイテムボックスを思い浮かべて中からリボルバーの大剣を取り出した。
そう言えば一度もリボルバーの部分を使っていないような気がするが、まぁそのうち使うだろう。……使い方知らないけど。
息を潜めて素早く、でもなるべく音を立てないように近づいて行く。
すると、木々の向こう側に二人の子供が居た。その二人の子供の視線の先には電気を使う狼が丸まって何かをかこっているようだ。
一体なんだろうといぶかしんでいると狼達の方に動きがあり、手前側に居た二人の子供の内、女の子の法が悲鳴を上げた。
「ライナぁ!!」
「ダメだディーナ! 早く逃げないと!」
「でも! ライナが! ライナが!」
ふむ。狼達が囲んでいるのは一人の子供って所かな?
だとしたら早く助けて安心させてあげるのが大人のつとめって奴だよね。……今四歳児だけど。せ、精神は! 精神は大人だから! そこ! 前世中学生のお前が何を言ってるんだとか言わない!
「さてと」
「助けるのですか?」
「当然だよ。こんな現場見ておいて、見逃せるわけ無いじゃん」
ボクがそう言うと、フェイメルは安心したように微笑んだ。ちょっと可愛いと思いがちだけど、無視無視。今は目の前の事に集中しないと。
「それじゃ……ピヨ子。いつもの所にね」
「ピィ!」
今まで静かだったピヨ子が肩に停まる。森の中だからってずっと張り切ってそこら編を飛んでいたのだ。
目に見える範囲だったから特に注意もしなかったのだけれど。
ボクは木の影から走り出した。
それと同時に狼達も動き始めたようだ。ここからでは中の様子が良く分からない。
だが中に居ると思われる子供だけに狙いを定めたわけではないようだ。手前側に居る子供達にも狼は襲いかかってきた。
予定変更だ。まずは二人の子供達に迫ろうとしている狼を瞬殺。その後にまっすぐ突っ込んで中にいるらしい子供を助ける。後は勇力使えば一瞬かな。
このボクの勇力。使っている最中は自分が身につけている物以外、人や物を動かせないと言った弱点がある。それさえ無ければ初めから使ってしまえば良いんだけれど。
子供達の隣を通り過ぎると同時に迫ってきていた狼達を一刀両断。
二人には風が通り過ぎたと思ったのだろうか。自然に2つに裂けた狼を見て二人はただ驚いた顔をしていただけだ。
次に囲っていた狼の内の一部に一閃。
死角から現れたボクに気づきもせずに命を散らした。
ようやく中の様子が見る事ができると、そこには今にも子供を喰らおうとする狼の姿が。
これは不味いと思ったボクはそのまま地面に亀裂を走らせると低い姿勢で跳躍。子供と狼の間に割り込んで狼を大剣で殴りつけるように斬り裂いた。
一息つけて子供が無事か確かめると、目をつむったまま動こうとしない。
よくよく見てみると、その手には果物ナイフが握られており少し血がついている。
応戦でもしたのだろうか。勇気のある子か、はたまた覚悟を決めてか……。そんな少年にボクは声をかけた。
「ナイスガッツだ。死んでないだろうね?」
「え……?」
少年が顔を上げる。
驚いた顔をしているが、どこもケガらしいケガは無いようだ。その事に安堵したボクは未だに囲ってくる残りの狼を見据えた。
「さて、さっさとこいつら片付けるか。行くよピヨ子。すぐにけりを付ける」
「ピィィ!!」
ピヨ子が淡く光る。それと同時に世界が停止してボクだけの世界となる。
後はもう簡単だ。動かない狼相手に大剣をなぞるだけ。
すべて斬り伏せると、少年がぼーっとボクの事を見続けてくるので腰を抜かしたのかと思って手を差し伸べた。
「大丈夫? ほら、いつまでも座ってるとズボン汚れるよ」
「は、ふぁい!」
焦ったようにボクの手を借りずに急いで立ち上がったようだが結局腰を抜かして地面にへたり込んだ姿にちょっと笑ってしまった。
「あははっ。ほら、ちゃんと掴みなよ」
「あ、うん……」
恥ずかしげにしながらボクに立たされた少年のズボンに土がついていたので叩いて落としたところで腕から血が出ていた事に気がついた。
狼と対峙した時にケガをしたのだろう。
ボクはワンピースに着替える前の白い布を引き裂いて丁寧に撒いた。
よく凛がケガをして泣いていた時にハンカチ等でやっていたために慣れていたのが幸いして綺麗に撒く事ができた。
「これでよしっと」
「ぁ……ぅ……」
「?」
何かを言いたそうにしていたけどその前にフェイメルが他の少年少女を連れてきたのでそちらに視線を移した。
少年にはどこもケガは無いように見受けられるが、少女は膝を擦りむいていた為に少年と同じように白い布でしっかりと撒いてあげた。
ただ、その際にやけに熱を帯びた視線を感じた気がしたがとりあえず気がついていない振りをした。
「お見事でしたよ、シオン様」
「えっと……ありがと?」
勇力を使った力技なのだが……。
そんなボクであったが、なんとか人を救うというテンプレな展開ではあったが達成できてよかったと思ってる。
だが今のボクには案内がいるし、本来ならば一緒に村に行くなんて事はしなくても良いと思うが……。
子供だけじゃぁ不安だよなぁ。




