第七話
「そういえばシオン様。1つ、矯正したい事があります」
「な、なんだよ……」
1日目の、しかも午後から山奥に行くだなんてどうかしてると思いながらも未だ風が強く吹く空に居るときにフェイメルがその場にとどまった。
フェイメルに両手で抱かれているので、胸は邪魔だと思いつつもなんとか安心していた俺はじっとフェイメルを見つめる。さっさと下に降ろしてくれと思いながら。
「本当はその汚い言葉遣いも治したい所ですが……そこはまぁ個性と言う事でそのままにしておくとして、せめて一人称を『ボク』と変更するのはいかがでしょう?」
「はぁ? なんでわざわざ俺からボクだなんてわざとらしーーひぃ!?」
唐突にぎゅとフェイメルの首回りにしがみつく俺。
答えは簡単だ。フェイメルが笑顔のまま俺を抱いていた腕に込めていた力を緩めたのだ。その所為で落ちそうになり、慌ててしがみついた、と言う事だ。
「いつまでもシオン様みたいな美幼女が『俺』だなんて一人称はよくはないと思うのです。それならばまだ可愛げのある『ボク』に変更させるに決まってます」
「別に俺がどんにゃぁ!?」
ふふふと笑うフェイメル。楽しんでる。こいつ絶対俺の反応見て楽しんでる!?
「本当だったらその口調だって変えさせたいんです。でもさすがにそこまでさせると可哀想だからせめて一人称だけでもと思いまして」
「ぐ、ぬぬ……。わか、ったよ……。ボクね。ボク」
まぁ別に男がボクと言っても普通だし、これくらい別に問題ないか。じゃないといつまでも言われそうだというのは内緒だ。
しかし、金髪美幼女がボクっ娘か……。なんかいいかもしれない。髪もそこまで長くなく、肩までのセミショートだし。あれ? 結構好みかも。
そうと決まればあれだな。自分を……いや、この女の子を磨かないといけないな。女になったと言う事が屈辱ではあるが、この外見が男っぽく染まってしまうのも何と言うか、残念な気はする。
だからそう、これは自分を磨くのではなく、この女の子をプロデュースするのだ。そう考えたらちょっと気が楽になったかな。
「さて、つきましたよシオン様」
「お、おう。早く降りてくれ……」
「ピィィ……」
俺……ではなく、ボクとピヨ子の力ない声を聞いて、はいはいと困った風に笑いながらようやく降りてくれ地に足がついた。
前世で空を飛べたらきっと楽しいだろうななんて事を考えていたけど、さすがに前世の死因の事を思い出してしまって胸を抑えて座り込む。その際に自然とフェイメルから完全に離れれず、片手でしっかりと服を握ってしまっていた。
「もう大丈夫ですよ。ここにはシオン様が目覚めれば殺せるような魔物はここにはいませんから」
優しく抱きとめて頭を撫でてくれる。
落ち着いてくると、自分が割と恥ずかしい事をしていることに気がつきすかさず離れようとする。……が、フェイメルの腕が頭から背中へと回されて捕まえられてしまう。
さっきから俺へのスキンシップ近すぎない!? 同じ凛でもここまでの事なんてしなかったぞ!? あ、いや。小さい頃は良くしてたようなきがしたけど中学に上がってから恋人疑惑が発生した後からは全然しなくなったはずだ。だからさっきっから凛よりも大きくて柔らかいものに触り放題なのは役得だけどこのままではまた別の意味で心臓が――
「うぅ、やはりこのモチツヤ感が羨ましいです。なぜ神様は私も同じような年齢外見にせずにこのまま飛ばすなんて事を……」
…………。
「あの、フェイメル? 修行。修行」
「え? ……あぁ、修行ですね」
まるで忘れていたと言わんばかりだ。
辺りを見回してみると先ほどの泉の森よりもさらに木々が生い茂り、日の光を完全に遮っている。
視界は悪く、木々の所為で死角が作られやすい。ボクの持つ剣も少し振りにくい。
「修行は既にフェイズⅡです」
「フェイズはいくつあるんだ?」
「フェイズの予定はⅣまでありますね。今はただ、この森を抜ける事が第一です。それがフェイズⅡとなります」
フェイメルが指差す先は真っ暗で、ずっと奥の方まではどうなっているのかわからない。
「この先はどうなっているんだ?」
「この先は峡谷となっていて、その先にある山をのぼるのがフェイズⅢです。私はこの森ではシオン様を手助けしますが、峡谷では手助けをしません。理由は――ッ!」
「ふぇ?」
急に肩を抱かれた事に慌てて変な声が出てしまったと思うのと同時に耳元で風を斬る音。
次の瞬間にはドスッと何かを刺したような音と、獣の悲鳴が聞こえたのだ。フェイメルの腕がボクを解放すると、恐る恐る音のした方向を向いてみる。
そこには厳つい顔をした猿のような敵が鋭い爪をボクへと突き立ててきていたのだ。
だがその爪はボクに届く事はなく、その腹部をフェイメルの剣によって貫かれている。猿はピクピクとひくついていると次第に力が入らなくなったのか、その腕と顔をだらりとぶら下げた。
「気がつかれていましたか?」
ぶんぶんと首を横へと振る。
「この森には不意打ちを得意とする魔物しかいません。正面きっての個は強くはありませんが、やたらと知性があるために不意打ち、奇襲、強襲を得意とします。油断していると……」
貫いている剣を引き抜いたかと思うと、今までだらりとぶら下がっていた猿が急に目を輝かせて飛びかかってきた所を狙って空を裂く勢いで首を切り落とした。
「殺されてしまいますよ」
冷や汗が垂れる。おそらくボクだけでこの場所に来ていたらとっくに死んでいただろう。ベヒーモス戦では運が良かっただけなのだ。
心配そうにボクを見てくるピヨ子の頭を撫でて、大丈夫だと伝える。安心したのか、不安がっていた表情が少し和らいだ。
「頑張ります……」
「あ、頑張らなくても良いですからね?」
「へ?」
冷たい視線を猿に向けていたと思ったら、一転してボクへと笑顔を見せてくれる。
そうか、安心させてくれているのか。フェイメルはこのフェイスⅡなら手助けしてくれると言っていたし、それならきっとボクが死ぬ事は無いだろう。
でもいつまでもフェイメルに無理はさせれないし、いざというときにできなかったら意味が無い。一体どんな理由で頑張らなくていいと言うのかボクにはさっぱりであった。
「そのかわり不意打ち、奇襲、強襲を自力で退けない限り、罰として一回毎にあんな事やこんな事しちゃいますから♪」
…………はい?
◆
「う、く……んぁ」
「シオン様。どうですか? 気持ちいいですか?」
「べ、べつ……に……き、きもち……よくな……んぁ!」
「ふふっ。抑えなくても大丈夫ですよ。私に身を任せて頂ければ……」
「お、抑え……てなん、か……ぁ……」
「でも体は正直。ほら、普段の強気の態度からは考えられないほどの弱々しく、それでいてあられもない姿に……」
「こ……これ以上、は……らめぇぇぇえええええ!!」
「あらら」
なめらかな魔の手から無理矢理抜けて木を背に座り込んだ。
頬は仄かに赤く染まり、荒い息を整えようと両腕と片翼で自分を守るように抱きながらフェイメルを睨みつけた。
当のフェイメルはと言うと、その手はまだまだ触り足りないと言った様に少し不満げに、だが顔はとても満足したと言っているかのように高揚していた。
「はぁ……。普通の女の子には無いとても純粋な反応。若く、それでいて流されては行けないと必死に押さえ込むその仕草……ッ! 可愛らしすぎて何度やってもたまりません……。シオン様の体はとても敏感なのですねぇ……」
「ほっとけ!!」
件の猿に何度も不意打ちをくらい、その度に俺……じゃなくてボクはフェイメルに助けられる。そして罰ゲームが遂行されてしまうのだ。
一回目は仕方が無いと甘んじて受けた。……いきなり太ももなんて触られるとは思わなかったけど。
フェイメルはとても優しい手つきでボクの太ももを這い、ぞわぞわとした感覚が襲ってきて必死に押さえ込んだ。逃げようとは……した。だが体を完全に押さえ込まれてしまったので体感的に長い時間帯をそのぞわぞわとした感覚を味わってしまい、しかも最後には唇を唇で塞ぐと言う好意までされたのだ。終った頃には暫くの間立ち上がる事すらできなかった。
二回目からはそれはもう必死に逃げようとした。だがフェイメルは森を知り尽くしているかのごとく素早い動きと反応でボクを捉え、太もも、二の腕、お腹、お尻、翼、翼の付け根等を優しくなで上げる。
出発した時から繰り返し行われる罰ゲーム。実はこれでもう五回目。
まだまだ森は長く感じる。太陽はまだまだ傾かない。
…………ボク。森を抜けきる自信が無くなってきた気がする。
今回でストック分は終了です。次からは少し投稿期間が延びてしまうかもしれませんが、ご了承ください。




