第一話
――死んだ。
俺の目の前に迫り来る地面を呆然と見つめながら、落ちる体を動かす事もせずに裏庭の地面へと背中から叩き付けられた。
(あれ……まだ意識がある……。最悪。即死できないとか、痛いのが続くだけじゃん……)
あまりの激痛に朦朧とする意識を保ってしまった事に内心舌打ちをする。落ちた場所がアスファストであればこんな事考える間もなく死ぬ事ができたのかな。
自分が落ちた場所。学校の屋上へと視線が移る。そこには人が一人は抜けられそうな穴があいているフェンスがある。さらにそのフェンス向こう側には制服を乱した格好をした、数人の同じ学年の男子達が我先にと震えながら去って行く。
「きゃぁぁぁあああああああ!!」
この状況を見れば誰もが男達が俺を落としたのだと簡単に推測する事ができるだろう。事実、裏庭だと言うのに、悲鳴を聞き、駆けつけてきた野次馬共が集まってきている。そうして人だかりが半分も掛かる事も無くできており、幾人かは上を見上げている。
…………ってか俺もう痛みとか全然ないんですけど。なんかやけに体が軽いんですけど。なんで未だに意識あるんですかね?
そこ、なんでそんな冷静なんだよとか言わない。
誰かが先生を呼んだのだろう。自分のクラスの先生だけでなく、校長、運動部の顧問などが同時にやってきて、急いで生徒達を教室に戻るように指示をして救急車を呼ぶ。
そんな中、一人だけ生徒の合間を割って俺へと近づいてきた生徒がいた。
「シン……? なん、で……シン!! シン!!」
「凛さん!? ダメです! 今すぐ教室に――」
自分をシンと呼び、抑えようとする先生を無理矢理にでも乱暴にどかして俺に縋り付いてくる女生徒。
「いや! シン!! 目を覚ましてよ!! シン!! シン!!」
何度も自分を愛称で呼んでくれるのは俺の幼馴染みの凛。自分たち二年生のアイドルで、今日もアイドルを崇拝する愚者の内の過激派どもに呼び出されて穴の開いたフェンスの向こう側に立たされる始末。
まぁ今日は風強かったのが原因でこうなったわけだが。
そんな幼馴染みは現在俺のもうすぐ死体になるだろうモノに必死に呼びかけている。髪は乱れ、涙を大量に流して表情をぐしゃぐしゃにして。
こら凛。担任の先生困ってるぞ。どうしたら良いのかわからず慌てふためいているぞ。
全くお前は昔から泣き虫だったな。今でこそ強がってるけどほんとは臆病なくせに。しかも隠すの上手くないから実は他の女子達にも気がつかれてたんだぞ。おかげで俺と違って友人も沢山できていたな。べ、別に羨ましくなんて無かったけどな!
……ごめんなさい嘘です俺学校の友人、凛以外いないです。だってあいつ等俺に対して鋭い目つきで睨んでくる奴らばっかりなんだよ。いくらなんでも理不尽だろ。
そうこう考えていると、救急車の音が聞こえてくる。ようやく到着したのだろう、救急隊の人たちが俺を確認する。真剣な目つきで凛を一瞥すると、肩を叩いて呼びかけても無意味と悟り、胸に手を当て、耳を口元に近づける。そして一層目を鋭くすると彼女をどかすようにして俺を運んできたベッド上に乗せて同時に救急隊員の人は俺の腹辺りに乗っかって、人工呼吸、心臓マッサージを始めた。
「あの、シンは!? シンは助かるんですか!?」
「…………」
凛の言葉に心臓マッサージを休まず続ける人だけではなく、その他の人まで苦虫を潰したような顔を見せる。
「ねぇ……助かります……よね? ねぇ!?」
俺の体を連れて救急隊員達と凛が離れてゆく。凛は未だに叫びながら俺に縋り付いたまま決して離れようとしない。
はぁ、俺の初キッスは男とかマジやめてほしいわぁ。そう何度もやられちゃうなんて俺ちょっとショックよ? いやファーストキスとしてはカウントしないけどね? ところでさ……。
――あの。未練とかないんすけど、俺これからどこに行けば良いんですか?