婚約破棄パーティー
「本当によろしいのですか?」
私の問いかけに彼は面倒くさそうに頷いた。
「ああ、そうだ。俺は、お前との婚約を破棄し、彼女と婚約する。」
ああ、なんてこと!
私は今、婚約を破棄されたのだ。
ずっと、ずっと、5歳のときから横にいた婚約者に。
あっ、もう元婚約者?
そんな・・・そんなのって・・・
「あ・・・あああ」
「そんなに動揺してみせても騙されないぞ。」
「そんな・・・あの、亮さま。本当に私との婚約を破棄されるのですか・・?」
確認しちゃうよね・・・だって5歳から、今の18歳までずっと婚約者だったのだもの。
「くどい!」
最初に言葉を投げつけられたときから身体の横にだらっとしたままだった腕を胸の前で組む。
そして万感の思いをこめて言った。
「おめでとうございます!そして、ありがとうございます。」
涙を滲ませて亮さまを見上げます。
「うむ。よかったな。俺もうれしいよ。」
亮さまの目にもうっすらと涙が。
「はい、亮さま、今までありがとうございました。あの、その方・・・申し訳ありません、お名前を存知あげないのですが・・・」
「ああ、由紀子だ。」
「そうですか、由紀子さま、ありがとうございます。お幸せに。」
「は?あの・・・え?」
目を丸くして私と亮さまの間をきょろきょろとみている彼女=由紀子さまに笑顔を見せます。
亮さまが由紀子さまの腰を抱き寄せてにっこりされました。
「俺の婚約者になるのだ。幸せになるに決まっているだろう。」
「も~う、亮さまったら、わかってらっしゃるくせに、お人が悪い。」
「そうだな、お前はよくやってくれたよ13年もすまなかったな。」
「いいえ~、大丈夫です。問題ありません。では。」
「ああ、婚約破棄パーティーは来週だ、せいぜい着飾ってこい。」
「はい。」
長かった~13年も続くと思わないで引き受けちゃったから私も亮さまもあせってたのだ。
このままじゃあ、20歳になってマジ、結婚しないといけなくなっちゃう。
それはお互いに避けたかった。
「カオル。日名子も呼んであるから。」
「あ・・ありがとうございます。では私はクリームイエローで。」
「ああ、では日名子にはラベンダー色の・・そうだなアメジストで飾ってやろう。」
「楽しみです。」
パーティー会場は華やかだった。
そしてお祝いムード一色だ。
怪訝そうな顔した由紀子さまをエスコートして亮さまが私を手招く。
私のクリームイエローの”スーツ”に由紀子さまが目を見開く。
失礼な似合っているはずだ。日名子さまのイメージカラーだぞ。
「みんな、今日は私とカオルの婚約破棄パーティーだ。存分に楽しんでくれ。13年もかかったが、こうやって由紀子という転生ヒロインを手に入れることができた。予言通り、腹黒で少しバカだが、かわいいオンナだ。宜しく頼む。それからカオルは妹の日名子との間にあらためて婚約を整えた。来週はそちらの祝賀パーティーも開く。ぜひ、参加してくれ。」
「カオルさま・・・」
「日名子・・・待たせたね。」
「いいえ、なかなかヒロインが現れないのがいけなかったのですわ。でもお兄様がこうして攻略されてくれましたから・・」
「うん。さすがは亮さまだ。よかったよかった。」
「はい、カオルさま、日名子はずっと信じてお待ちしておりました。」
「うん。私もだ。日名子だけを想っていたよ。」
はいはい、百合じゃないですよ・・・
私=カオルはれっきとした男子です。
攻略対象としてお生まれになってしまった亮さまのための悪役令嬢として婚約者に選ばれたのは5歳のとき。攻略対象者の家に代々伝わる予言書で亮さまが成人されるまでに転生ヒロインが現れて悪役令嬢が断罪されるかもしれないとあったため、かよわい婦女子では・・・と女子に見える男子の私が選ばれたのだ。
それからず~っと私たちは転生ヒロインを待った。
中学ではさすがに早いかと高校3年間待ち待ったが、ヒロインは現れなかった。
だが、やっと、やっと、念願の転生ヒロインが現れて亮さまを攻略してくださったのだ。
万歳!
「いや~本当に転生ヒロインがこんなに腹黒くてバカだなんて俺の夢見たとおりだよ。幸せだ。」
亮さまのセリフが由紀子さまをディスっているように聞こえるかもしれないが、違うのだ。
亮さまはそりゃあ、もう、予言書に書かれた転生ヒロインを待ち望んでいた。
腹黒い策略で攻略されるなんてサイコー!
オンナは少し計算高くないと。
こっちが騙されているとほくそ笑んでいるかと思うとそのバカさ加減に勃起するね。
まあ、そのなんだ・・・亮さまも相当アレなのだ・・・。
私は無事に悪役令嬢から解放され、愛する日名子と幸せになる。
もう、女装は不要。
私の名字である藤にちなんでラベンダー色のピアスとネックレスのセットで着飾った日名子は壮絶にかわいい。
日名子の日名は雛なのよって小さい頃に勘違いしていた日名子。
それ以来、彼女のイメージカラーはクリームイエローだ。
本当にかわいい。
「あの?一体・・・」
「いいのいいの。由紀子はそのままで。」
「そうですよ。ありがとうございます。本当にお待ちしていました。」
ちなみに亮さまがいうには計算高くうまくやったとほくそ笑んでいるところを叩き落すのが最高に愉しみだとか・・・
由紀子さま・・・お幸せに・・・。