真冬の桜
その日のことはほとんど覚えていない。気が付いたらテントの中で寝かされていた。頭と右腕、左足には包帯が巻かれていたのを覚えている。回りには同じような人が何人もいる。中には全身包帯にくるめられている人さえいる。痛みをこらえながらなんとか立ち上がりテントの外を目指す。ファスナーを開き外へ出た。
そこは何でもないただの学校の校庭だった。………そう思えたのは一瞬だけだった。校舎こそかろうじて立っているものの周りの建物はすべて消えていた。その光景は日常ではありえないものだった。そこで、何かめまいがして意識が遠のいた。
目が覚めた時、近くには見たことのない大人たちが周りを囲んでいた。中には目に涙を浮かべてる人もいる。その人たちから聞いた話はあまりにも酷な話だった。昨日の地震でこの町の人間はほとんど死んだ、と。今この町にいる人間で生きているものは、このテントにいる人間が生き残ったものだともいわれた。それが信じられなかったけども無意識に周りを見てしまっていた。
そこには知り合いが一人としていなかった。友達も、先生も、近所のおばさんも、家族も………そんなわけないと首を振ると、優しそうなおじさんが方に手をかけてくれた。それがなんだかみじめで、すべてが本当のことなんだと、事実なんだと、悟ってしまった。
そのおじさんは、悲しそうな声でつづけた。自分と自分のお母さんが家の下敷きになっていたこと、お母さんが自分をかばっていたこと、自分が助けられたときにお母さんは息絶えてしまったこと。