おやぶんとうじょう?
私は今、新居のお掃除をしています。
洞窟の隅っこの一メートル四方が私の縄張りです。
壁や地面に生えている海藻をちぎってくわえてはこんですてて。
きれいになりました。
もうここは誰にも渡しません。
私だけの縄張りです。
もしほかの方が攻めて来たら護ります。
そういう訳なのでまずはご近所さんに挨拶に行こうと思います。
もしものときはお互い協力しあえるようにするためです。
まずは貝殻を背負った海スライムさんです。
彼の縄張りには色とりどりの貝殻がたくさんおいてあります。
おしゃれです。
私も飾りつけの参考にしようと思います。
「ごめんくださーい」
「こっちくんな、毒スライム!」
水鉄砲をぶつけられました。
身体の色で思い切り誤解されてしまいました。
仕方のないことです。
お次はイソギンチャクと仲良しのカニさんのところです。
ここのイソギンチャクさんは自分で動き回って捕食行動をします。
そういう訳なので気を付けないと近づいて挨拶する前に食べられるかもしれません。
それにしても洞窟の中は入り組んでいて迷ってしまいました。
ヒカリゴケという発光するコケが生えているので真っ暗闇でないだけまだいいです。
でもほんとうにここはどこですか。
帰り道がわかりません。
迷路で迷ったときはどっちかの壁に沿って行けばいつか出られるといいますが、ここでは無理です。
彷徨い跳ねてはや数時間。
私は大きな毒スライムさんに遭遇しました。
バブリーキングです。
頭にシルクハットを乗せています。
かなりのご高齢とお見受けします。
「そち、何者じゃ」
「荒野の陸スライムです」
「はて、陸スライムで緑色はおらんかったはずじゃが」
「はいこれは『回復薬』の色です」
「そうか、ならば」
バブリーキングさんの大きな身体から触手のようなものが伸びてきました。
捕食行動です。
スライムは同族でない限りは基本的に食べて食べられる関係です。
私は食べられたくありません。
やっと見つけた我が家とさようならはまだできないのです。
「逃げるでない」
「嫌です!」
きっぱり断るのは基本です。
ノーと言えない人種もいるそうですが彼らはおかしいです。
「おとなしく食われよ」
にゅるりと音が聞こえ、振り向くと小さな毒スライムさんたちが逃げ道をふさいでいました。
こうなればやるしかありません。
私たちスライムに共通するのは水がないと生きていけない、乾燥攻撃に弱い、そして多量の水で溶けてしまうことです。
なので、非常に遺憾なのですが道を塞いでいる毒スライムさんたちに『アクア・シュート』で水弾をぶつけます。
するとどろりとした緑色のただのゼリー状の何かになって流れてしまいました。
私はすかさずその退路に突進しました。
しかし、バブリーキングの触手が道をふさいでしまいます。
逃げられません。
大ピンチです。
「よくも儂の孫たちを」
「わ、私だって食べられたくない」
ちなみに私たちは実際に言葉を発しません。
身体をぷるぷる震わせて意思疎通をします。
だから傍から見ればただぷるぷるしているようにしか見えません。
このせいで時々、僕は悪いスライムじゃないよと言った直後にスパッとやられていることがあります。
と、話しを戻しましょうか。
逃げ道がありません。
現在バブリーキングが身体をびよよ~んと伸ばして完全に私を包囲しようとしています。
まずいです。
ほんとにまずいです。
ああ、みなさん、もうほんとに私の冒険はここで終わりのようです。
さようなら。