music2
自由に書くとは言ったけど……自由すぎたかも。
「おはよー、タピオカー」
「うっす、タピオカ」
「おはよう。タピオカ君」
「…………」
朝、教室に入った俺が一番最初に聞いた声は、まだ4月だというのに俺を5月病にさせた。
“タピオカ”とは、高1の時にクラスメイトから付けられた俺のあだ名である。
俺の苗字である『瀧丘』と『タピオカ』が似ているからという、ものすんごい安直な理由で付けられた。
だが、当然ながら俺はこれを認めてはいない。
つまりは非公式なあだ名ということになる。
しかし、何故かこのあだ名は広まってしまった。
高校2年になって間もないというのに、すでに同学年6クラスに広まっていた。
俺の通っている高校、『私立 邦籐大学付属高等学校』は一学年に8クラスある。
普通科5クラス、特進科1クラス、商業科1クラス、工業科1クラス、といった感じだ。
校舎は、二棟を渡り廊下で繋いだ形になっている。
東棟に普通科と特進科、西棟に商業科と工業科の教室がある。。
西棟にだけ2クラスしかないじゃないか!と思うだろうが、こちらには音楽室やら科学室やらの特殊な教室があるせいだ。
俺のあだ名は東棟、つまり同学年の普通科と特進科に広がっていた。
しかも、俺が知らない間に……。
それを知ったのは2年の授業開始日。
朝に突然、廊下で「おいーす、タピオカ!」と言われた時は、俺の繊細な心臓が爆発するかと思った。
だって、挨拶してきたのは俺のまったく知らない奴だったから。
恐らく違うクラスの奴だろう。
何故にホワイ!?と思った俺は、2年連続で俺と同じクラスになった悪友3人に訊いてみた。
「―――なあ、俺さっき知らない奴に挨拶されたんだけど……しかも俺のあだ名を知ってたし」
「「「ああ、それ俺(僕)ら」」」
お前らかよっ!?
……まあ、そんなオチだとは思っていましたけどねっ!
俺が悪友だと思っているこの3人。
こいつらとは、2週間に一度くらいのペースでつるんで遊んでる仲だ。
でも、恐らく普通の友達とは言えない。
英語にすると良く分かる。
一緒に遊ぶけれども、フレンドリーかと言われれば答えは『NO!』だ。
こいつらと“フレンドリー”……?
ぷぷっ、ごはっ、ばふぉふぉふぉふぉっ!
思わず笑ってしまったぜ。
友情という言葉がこんなに似合わない奴らを俺は知らない。
「なあなあ、昨日のアレ見たか?」
「ああ、見た見た!」
「何がですか?」
「「“ポロリだよ!? 水着美女集合っ!”に決まってるだろっ!!!」」
決まってんのか……。
彼らが言っているのは、毎週水曜日26時から放送する深夜番組のことである。
様々な水着を着た今をときめくアイドルやら、ちょっと落ち目のアイドルやら、ちょっと痛い自称アイドルやら、20年前はアイドルだったとかが集まって、チームに別れて色々な競技を行って優勝を目指すというコテコテな番組だ。
だが、司会やゲスト含め全員が水着を着ているにも関わらず、プール系の競技が無いというのはいかがなものか……。
「タピオカー、お前もモチロン見たんだろ?」
悪友の1人が訊いてくる。
バッカお前、俺様がそんな低俗なものを見てるはずが、
「当 た り 前 だ ー !」
はい、見てます。すみません。
というか、見てなかったら説明出来ねーよっ!
思わず、泣いてる仲間に向かって叫ぶ麦わら帽子さん的な返事をしちまったよ。
ポロ水を見たせいで今日は寝不足だ。だからか? 微妙にハイになってるみたいだ。
まあ、そんなことは置いておいて。
かなり遅れたが、ここで俺の悪友3人を紹介しておこう。
これからちょくちょく出てくるサブキャラなので。←メタ
まず、教室の真中の列の後ろから2番目が俺の席だ。
俺の席の右隣には、鼻メガネをかけて……あ、ごめん間違えた。
鼻メガネと見まごうほど大きな鼻に眼鏡をかけている五分刈りの男。
こいつの名は…………あれ!? なんだっけ!?
やばい、マジでド忘れった!
とりあえずあだ名だけ言っておく。
こいつのあだ名は『ヨシケン』だ。
本名は多分、『よしだけんいち』とか『よしおかけんさぶろう』とか、そんな感じだったと思う。
こいつの特徴は兎に角“イヤラシイ顔”!
ヨシケン自身エロいというのはモチロンだが、顔がイヤラシイんだ、これがっ!
普通に、エロいこと考えてるんじゃなくて、ふっつ~に笑うだけの顔がすっごくイヤラシイ。
笑顔の時の、半開きの三日月型の目がそのキモさを引き立てる。
まあ、これでも彼はいい奴なんです。
顔はイヤラシイけど、頭の中もイヤラシイけど、たまに妄想が口から出てるけど、これでもいい奴なんです。
どこが?って訊かれるとちょっと参っちまうけど……。
ま、気にしないで次に行きます。
次は、俺の真後ろの席にドデン!と座っているこいつ。
名前は……名前は……えー、そうっ『コンタ』!
コンタです。名前はコンタ。
ヒー ネイム イズ コンタ!
名前通り、『昭和タヌキ合戦ボンボゴ』に出てくるタヌキみたいな顔と体型をしている。
こんな体型でも、卓球部のレギュラーというんだから世の中色々と狂っている。
前に練習を見せてもらったが、タヌキが一生懸命反復横飛びしているみたいだったので、つい大爆笑してしまった。
そのせいで、卓球部は出入り禁止になってしまったが……。
まあ、過去は振り返りません。
そしてやっぱり、こいつもヨシケンと同じぐらいエロい。
そして顔もめっちゃイヤラシイ。
この2人に彼女が出来たらきっと地球が死ぬ。
……というか俺がコロス。
はい、では次。俺の悪友の最後の1人。
名前は『大友洋介』。
俺らの間では『ヨースケ』って呼んでいる。
席は俺の右斜め後ろ。
いつも笑みを絶やさない中性的な顔立ちの男。
常に敬語で、一人称を『僕』とか言っているいけ好かない奴だ。
しかし、こいつだけは俺ら4人の中でも一線を画いている。
何故なら……。
こいつには、“カノジョ”がいるからだーーーー!!!!
実際に会ったことはないが、ケータイの待ち受けにしているし、偶に昼休みに電話をしているのをよく見かける。
何でも、中学生の頃からの付き合いらしい。
1週間毎に、待ち受けが違う写メ(中身は同じ人)に変わるから、多分嘘ではないと思う。
え? 何でこいつの名前だけフルネームで覚えてるのかって?
それはこいつ、ヨースケが不愉快なことに成績優秀な優等生って奴だからだ。
いつも、テストの上位者に名前が載るから、嫌でも覚えた。
物腰が柔らかくて、先生やクラスメイトにも人気がある。
しかし、つるんでいる俺らには分かる。
ヨースケは、かなりの腹黒だ。
1年生の頃からヨースケは優等生だった。
だからか、ヨースケに課題を教えてもらおうとする奴(俺ら含む)が多かった。
俺とヨシケン、コンタは、ヨースケがその時に小さく呟いた言葉を偶然、聞いてしまった。
「――――ああ、ホントにウザいですね。この人たち」
顔はいつもと変わらない“優等生スマイル”。
だが、その口から出てきた言葉は、めっちゃ低いアルトヴォイスだった。
まあ、それからなんやかんやあって、俺らはつるむようになった。
2年生になっても、ヨシケンのイヤラシイ顔も、コンタのタヌキっぽさも、ヨースケの腹黒さも変わっていない。
まったく、唯一の常識人である俺はこいつらに振りまわされっぱなしだよ、ホント。
「なー、タピオカー」
「ん?」
ヨシケンがいきなり話しかけてきた。
しかし、こいつの鼻の大きさも全然変わらないな。むしろ、デカくなってる?
あだ名を「ヨシケン」から「鼻メガネ」に変えようかホントに悩むところだ。
「昨日のアレ、マジなのか?」
昨日のアレとは、3人の美少女に誘われて部活に入ると言ってしまった件だろう。
昨日、あの後は本当に大変だった。
襲い掛かる猛獣や、ゾンビを千切っては投げ、千切っては投げ。
リアルバイオハザードを体験してしまった。
「……ああ、マジだ」
そう、マジで俺は決めたんだ。絶対に、ハーレム王になってみせるとっ!
「くっそ~、何でお前みたいな廃人があんな可愛い子たちに!?」
「廃人はもう止めた。これからは真剣で行く」
「フフ、どうせ真剣でハーレムを狙ってるーとかでしょう? タピオカ君は」
「あっはっはっ。ハーレム!? ハーレムておまっ、タピオカにゃレベル高すぎだろ!?」
な、何で俺の考えが分かったんだ? ヨースケの野郎……。
やはり、こいつだけは侮れねえ。
つか、コンタは笑いすぎだコラ。
「アホ。そんなんじゃねーよ」
嘘です。そんなんです。
「んじゃあ、何でまたいきなり部活なんだよ? 今までずっと無所属だったろ?」
「そうですよね。去年の文化祭の時、いきなり体育館で演奏し始めたのは驚きましたが……今回もそれと同じくらいの驚きですよ?」
「お前がー、エロ関係以外でー、ハッスルする訳がー、ん無いっ!」
失礼な。
俺だって色々考えてるんだっつーの。
主に、ハーレムとか、ハーレムとか、ハーレムとか……って、あれ?
「そんな訳無いだろ。1年生が2年生のクラスにまで尋ねて来たんだぞ? そんな健気さに報いたいと思うのは先輩としてトーゼンだろ?」
脳内思考とはまったく逆のことを言う。これが建前ってやつだね。
「ふーん」
「へーー」
「ふふ」
バカ3人は、半目になって俺を見てくる。
止めろ! そんな目で俺を見るなっ! 見ないでくれ~っ!
「……別にいいだろ。どんな理由だってよ」
あ、失言かも。これでは、さっき以外の理由があると言っているようなものじゃないか?
「フフフ、まあ、タピオカ君がそう言うなら良いんですけどね」
ヨースケの笑顔は何を考えているか分からないから不気味だ。
その点、ヨシケンとコンタは……うん。エロいこと考えてる顔だ。間違い無い。
「そういや、あの娘達、今日の放課後にまた来るんだって言ってたよな? あ、そん時に俺らのこと紹介してくれよ!」
な、なんて図々しいんだ。この鼻メガネは……。
「いや、紹介できるほど俺も彼女らのこと知らないし」
フッ、お前らなんぞに紹介なんてしてやるものかっ!
あの娘達が穢れるわっ!
身の程を知れっ!
「それじゃあ、紹介できるほど彼女達のことを知ったら紹介してくださいね?」
オ・ノ・レ、ヨースケめっ!
俺が紹介したくないことを分かっていて、そんなことをほざいてやがるな!
そんな顔をしてやがるっ。
「……まあ、いずれな」
でも、最後にはそう言ってしまう俺は、とても優しい心の持ち主じゃないだろうか……?
「よーし! じゃあ、あの娘達誘ってみんなでカラオケ行こーぜ!」
「いやいやいや、気が早すぎだろっ! まだ、紹介する段階にも行ってないしっ!」
「まあまあ、幸せはみんなで分かち合うものですよ?」
「お前、すでに彼女いるだろ!?」
「ああ、これはただの嫌がらせです」
「ホント、最悪だよお前っ!!」
「……(パラッ、パラッ)」
「って、いやに静かだと思ったら勝手に人のカバン開けて漫画読むなよコンタ!」
「タピオカ君。いつもツッコミお疲れ様です(ニコッ)」
「うぜぇ~、その笑顔うっぜぇ~」
こんな感じなのが俺の日常だ。
……いや、違うな。
昨日の出来事があってから、俺はちょっと活性化してる気がする。
いつもなら途中でツッコミ疲れて机に伏せってるのに、今日は最後までツッコンでしまった。
美少女というものは、どんだけの効能があるのだろうか?
俺はこれから、そんな効能だらけの美少女達に囲まれて部活動をするんだ。
めっちゃ健康体になりそうだな俺。
さ~て、今までならテキトーに聞き流していた授業なのだが、今日は真面目に受けてみるかな……。
……はい、無理でしたー。
真面目に授業を受ける?
プップー!
そんな考えにウケちまったよっ!
…………すまん。俺、ホント馬鹿だった。
いや、これからだ。
もうすぐ放課後、つまりあの娘達が来る!
あの娘達が来てから、俺は本気を出すんだよ!
……うーん、3バカといつも一緒にいるから俺にもダメ人間成分が浸透してきたのかも。
あ、そうこう考えているうちに帰りのHRが終わってしまった。
やべぇ、なんかドキドキしてきた。
大丈夫だろうか?
きっと今日は、残りのメンバーを合わせた全員での顔見せだ。
残りのメンバーが最初の3人と同様に美少女とは限らないけど(そうであっては欲しい)、女の子に囲まれて部活動をするってことは間違いないだろう。
……ううぅ、緊張してきた。
そもそも、俺ってば繊細な男だったんだよ。
ああ、何であんなこと言っちまったかなぁ。
確かに“ハーレム”ってやつには憧れるけど、実際問題女子の中に俺だけ男子ってのはキツいんじゃないのか?
なんていうか、所在なさげにしている未来の俺が見える気がする。
くぉおおお、腹痛くなってきた~。
「ひっひっふ~、ひっひっふ~」
「何でラマーズ法?」
「お産気なのでしょう」
「なるほど」
3バカの発言にすらツッコめなくなる俺。
俺は腹を抱えて机に突っ伏した。
くっ……俺ともあろう者が、こんなとこで死にそうになるなんて……。
そして、苦しむ俺のまま、運命の時は来た。
「―――すみません。瀧丘先輩はいらっしゃいますか?」
ドクンッ
水城さんの声だ。
どうしよう?
だが、無視なんて出来ない。出来る訳が無い。
仕方なく、俺は苦しみに顔を歪めながら水城さんを見た。
パアァァァ~~……
あ、あれ? 何? この効果音。
って、おお!? さっきまでの苦しみが無くなっている!?
俺のバットステータスが一気に回復しただと!?
水城さんを見ただけで、俺の体は苦しみから解き放たれた。
いや、むしろ体が軽くさえなっているかもしれない。
美少女パワー恐るべし。
「あ、瀧丘先輩っ」
水城さんは俺に気付いて近づいてくる。
流石の3バカも、水城さんの美少女オーラに中てられたのか、今は沈黙している。
「おす」
俺は片手を上げて挨拶をする。
今日は、フレンドリー先輩路線で攻めてみよう。
「はい。こんにちはっ(ニコッ)」
うわ、眩すぃーーっ!
汚れきった俺には、水城さんの天使の笑顔は眩し過ぎるぜ。
今日は水城さん、1人で来たようだ。
上級生の教室に1人で、なんて勇気あるなぁ。
「今日は、昨日お話した残りの2人を紹介します。部室で待っているので、ご案内しますね」
ふむ、やはり思ったとおりだったか。
……って、え? 部室?
「部室? 昨日の今日で部室を貰ったのか?」
どんだけ早い行動力ですか。
ていうか俺、まだ入部届け的なものも書いた覚えは無いんだけど……。
「あ、はい。実は昨日の時点で、すでに部活は出来ていたんです。部室も決まっていました。先輩にもご都合があると思いまして、一日開けてからご招待しようと思ったんですが……すみません。説明不足でしたね……」
ああ、水城さんが悲しそうな顔をしてしまった。
「い、いや、ちょっとビックリしただけだから、気にしてないよ。それより、早速その部室への案内を頼んでいいか?」
紳士的に言った。断じて変態紳士的ではない。
「あ、は、はいっ。それではご案内しますね」
よし。とりあえず、水城さんの悲しそうな顔は回避出来たようだ。
ふーむ、部室かぁ。さあ、いざ本丸へ!って感じだ。
グサッ グサッ グサッ グサッ
水城さんの後に続いて教室を出ようとしている俺の背中に、モテない男達の“嫉妬の視線”という名の刃が刺さる。
クハハハハハハ!!
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁあ!!!
無駄なのだよっっっ!!!
今の俺にそんなものは効かんよっ!
ふっふふ~♪
さあ、待っててくれよ~、俺のハーーーーーーーーレムッ!
俺は、栄光に向けて歩き出した。
どんどん、主人公がアレな感じになっていくな……。
アレな主人公が、彼女達と過ごしていくうちにどう変わっていくのか。
そこも、このお話の見所です。
ご感想、ご質問、ご指摘、ありましたらお願いいたします。