music1
各話のタイトルは仮です。
何か良いタイトルを探している最中です。
俺は固まっていた。
目の前には3人の美少女がいる。
そう、美少女は3人いたのだ!
1人じゃなかった!
扉の影に2人隠れていやがったんだ!
いや、まぁわざとではないんだろうけど……。
「あの、……瀧丘文善先輩ですか?」
俺は現在、自分の机に座っている。
先ほどはつい立ってしまったが、周りから見たらちょっとオカシイ人だったと思う。
今、俺の前方、机を挟んだ位置に美少女といっても過言では無い3人の少女達がいる。
さっき叫んでしまったためにタゲられたみたいだ。
俺の正面に立つのは、最初に見た第一印象優等生な娘。
その右隣に立ってる1人は赤毛に近い茶髪をうなじ辺りで短い三つ編みにしている娘。
天真爛漫といった感じに輝いてる大きい瞳が印象的だ。
…………女ランマに似ている気がする。
逆側にいるのは……おおぅ外人さんですたい。
金髪デス。出るトコ出てマス。
腰まで伸びたボサボサに見える金髪だけど、何故かそれが不快ではない。
パツキンマジック!
「……あの?」
優等生さん(俺の脳中でのあだ名)が何時まで経っても返事をしない俺に困った顔をしている。
結構ツボだ。
「……じゃなくてっ」
「え?」
「あ、いや何でも……」
最近、脳内ノリツッコミが多くて返事とツッコミがごっちゃになってしまったようだ。
「えと、瀧丘文善先輩で良いんですよね?」
優等生さんが再度訊ねてくる。
いきなりのことで頭がフリーズしてたんだごめんさ。
「あ、ああ。そうだけど。お、俺が瀧丘文善で合ってる」
どもってしまった。
しかし、優等生さんは気にしていないように笑顔で話しかけてきた。
「ああ、逢えてよかったです。私達は瀧丘先輩を探していました」
え、何!? 何なの!? この展開!?
俺はこれから異世界に連れて行かれて、「あなたはこの世界の救世主なのです」とか言われちゃうの!?
「でも、二日目で見つかってよかったよ」
「ハーイ! そうデースね♪」
女ランマちゃん(脳内あだ名)とパツキンマジさん(脳内あだ名)が笑顔でそう言った。
女ランマちゃんの微妙にボーイッシュな声はちょっち以外だった。
もっと、良く言えば明るい、悪く言えばオツムの弱そうなイメージな声だと思ってた。
だけど、古の漫画に出てきそうな“デスマスイントネーションジャパニーズ”のパツキンマジさんの声は、マジ俺の想像通りなんですけど。
「あの、私達は瀧丘先輩にお願いしたいことがあって参りました」
優等生さんが言う。
俺の脳内で行われている様々な思考(主に妄想やノリツッコミ)には気付いていないようだ。
これからはポーカーフェイスで売っていくのも悪くないかもしれない。
「何か百面相してるけど、先輩大丈夫?」
と思ったら、女ランマちゃんに突っ込まれてしまった。
やはり、俺にポーカーフェイスはレベルがまだ28は早かったか……。
「あー、で?俺にお願いって何なんだ?」
何時までも妄想、もとい思考している訳にはいかないので、こちらがファシリテーターをしてみよう。
一応年上だし。
「あ、はい。お願いというのは」
「あー、その前に自己紹介を頼んでいいか?そっちは俺のこと知ってるみたいだけど」
「す、すみません。そうでした」
そんな90度も頭下げなくても良いんだよ?優等生さん。
だが、そんなトコも俺的にツボです。
「改めまして、私は水城 沙百合と申します。1年A組です」
「あたしは藤堂 灯!同じく1年A組だよ!先輩よろしく!」
「ワタシはミリアム・バレンシアといいマース!ミリーと呼んで下サイ。2人と同じA組デース。よろしくおねがいしマース!」
優等生さん → 水城沙百合さん
女ランマちゃん → 藤堂灯ちゃん
パツキンマジさん → ミリアム・バレンシアさん → ミリー
オゥケェ、脳内変換は完了した。
「あ、ああ、よろしくな」
ジャンルは違えど、3人が3人とも美少女であることには代わりはない。
3人に見つめられているような状態の俺は心臓ドキバクものだ。
俺は動揺を悟られぬように、努めて冷静に返事をした。
「ほうぇえ、お願いというのは?」
……努めて冷静に返事をした。
「はい」
スルー力が高いと思われる水城さんは一回深呼吸をしてから言った。
「あの、私達は部活を作ろうと思っているんです。ですので、その部活に入っていただけませんか?」
そ、その部はもしかして『ハーレ部』というやつですかっ!?
「そ、その部はもしかしてハッ、くっ……む」
あっぶな!? あっぶな!?
思考が口から漏れるのは俺が若いからだと思いたい。
「沙百合ちゃん、沙百合ちゃん、まだ何て言う部活なのか言ってないよ」
藤堂さんが言うと、慌てた様に水城さんが言い直した。
「あ、す、すみません。説明不足でしたね。えと、私達が作ろうとしているのは“弦楽部”です。ヴァイオリン中心の弦楽器の部活を作りたいと思ったんです。この学校には吹奏楽部や軽音楽部はありますが、弦楽器専門の部活はありませんでしたので」
心底嬉しそう?楽しそう?に説明している水城さんを見ながら俺は、彼女達が俺を誘った理由について予測がつき始めていた。
弦楽器、ヴァイオリン、俺、とくりゃ去年の文化祭でのことが関係しているのだろう。
「あー、俺を誘うってことは去年の文化祭のことを誰かに聞いたってことか?」
俺がヴァイオリンをやっていることは、あの時まで俺と家族と習っていた先生しか知らなかったことだ。
つまり、誰かに去年のことを聞きでもしなきゃ俺がヴァイオリンをやっているなんて今年の一年が知っているわけは無い。
「いえ、違います」
あれー?
完璧だと思っていた俺の推理がいきなり外れただと!?
「去年の文化祭に私達も来ていたんです。それで、瀧丘先輩の演奏を聞きました」
あ、そういうことね……。
「ん? でもあの時は確か俺、マスクをかぶっていたよな? それに名前なんて言ってなかったと思うけど……?」
もしや、ストーカーされていたとか!?
「あ、それは昨日2年の先輩に、去年の文化祭の時に体育館で仮面かぶって演奏してたのは誰ですかー?って聞いたら一発で教えてくれました」
あ、そうですか……。
「その時にお名前とクラスを教えてもらったんですけど、もうお昼休み半分を切っていたので、日を改めてお伺いしようということになって今日来ました」
藤堂さんの説明に水城さんが追記する。
ミリーさんは横でニコニコしている。
「なるほど、俺のことを知っている理由は理解できた。……でも、それだけで、俺がヴァイオリンを演奏していたからってだけで俺を誘うっていうのはちょっと納得がいかないっていうか」
去年の件で、俺がヴァイオリンを演奏出来るってのは分かったのだろう。
だけど、部活をわざわざ作ろうってんだから気心の知れる仲間で始めるのが当然じゃないだろうか?
なのに、演奏出来るって理由だけで俺を誘うのはちょっと違う気がする。
まあ、真面目に部活をしたいなら演奏出来る人間が少しでも多くいて欲しいというのはあるだろうが……。
だが、そんな俺の疑問は予想していたのだろう。
水城さんは特に動揺無く、言ってきた。
「瀧丘先輩。私達は先輩の演奏に感動したんです。この部活を作ろうとしたのも先輩の演奏を聴いたからなんですよ?出来れば先輩も私達の部活に入って欲しいんです」
「うんうん! あたしも同じ! 去年の先輩の演奏はすごかった! 楽しいって気持ちが溢れ出てた! あたしはヴァイオリンってやったこと無いんだけど、先輩の演奏を見てやってみたいと思ったんだ!」
「ハーイ! ワタシもデース! タキオカ先輩の演奏はベリベリィエキサイティングでした!」
な、なんなんですかこれは……。
3人の美少女が俺のことリスペークトしていますよ?
ついつい敬語になってしまうくらいの驚きです。
「待って、ちょい待って。えーと、3人の中でヴァイオリンやってる人は?」
「はい」
「ハーイ」
水城さんと、ミリーさんが手を挙げる。
「……だったら分かっただろ? 俺の演奏なんて、あまり練習していない下手くそな演奏だってことが……」
ちょっと不貞腐れたように言ってしまった俺。
根暗っぽい感じだったかもしれない。
フラグがぁ~ フラグがぁ~
「……確かに」
「そうデスネ。あんまり上手ではなかったデス」
…………グッフ。
「ん~~でも、あたしはよく分かんないけど、良い演奏だったと思ったよ?」
経験者2人の言葉の後に、藤堂さんがそう言ってくれる。
慰めが身に染みるぜぃ。
「ええ。確かに技術的な面ではお世辞にも上手とは言えませんでしたが……」
水城さんや、優しげな顔とは裏腹に結構キツイねキミ……。
「……それでも演奏を、音楽を心から楽しんでいるということが伝わってくる演奏でした!」
「ハーイ! それデス! それが言いたかったんデース!」
落とされてから、持ち上げられた。
こいつらは俺の扱いをすでに知っているというのか……っ!?
「私達は、楽しそうに演奏する先輩と一緒に演奏してみたいと思いました。瀧丘先輩、どうでしょうか? こんな理由ではダメでしょうか? 私達の部活に入ってはいただけないでしょうか?」
な ん だ こ れ は ~ ! ?
俺モテ期!? 俺モテ期なの!?
俺のステータスは混乱になった。
いや、ふざけてる場合じゃない。
ここは真面目さをアピールする場面だ!
「……いくつか訊いていいか?」
頑張れ俺!真面目なところをアッピールだ!!
「っ……何でしょう?」
俺の顔がいきなり真剣になったことに驚いたみたいだ。
「部活を作るには最初に用意するものがあるよな? 確か部員5人と顧問1人。ここには俺を含めても4人しかいないけど、そこはどうなってるんだ?」
我ながら鋭い切込みだ。
「はい。同じクラスにあと2人、入部してくれるっていう人がいます。顧問の先生については、深沢先生がなってくれるそうです」
淀みなく答える水城さん。
なるほど、一応俺が入らなくても部活を作れる人数は揃えてるのか。
もし4人しか揃えていなくて、俺の選択如何で決まってしまうんです!なんて言われなくて良かった。
これは恐らく、俺の逃げ道を用意してくれたということだろう。
あくまでもお願いであり、強制ではないという意思を感じる。
俺的にはこういう気遣いはプラス要素だ。
ティロリリーン♪
おっと俺の高感度が上がってしまった!
……なーんて、馬鹿やってる場合じゃない。
「そうか。って、深沢先生?深沢先生って確か剣道部の顧問じゃ……」
深沢先生とは、フルネーム深沢清、真ん中分けヘアーが特徴的の34歳独身の男である。
結構な熱血教師で、テスト前なんかは担当クラス全員を強制居残り勉強させることで有名・・・というかモロに現在の俺の担任だし。
「顧問の先生を探していたら、深沢先生が『音楽の指導は出来ないし、剣道部のこともあるからあまり顔は出せないが、それでも良いなら』と仰って引き受けてくれました」
天使ような笑顔で嬉しそうに言う水城さん。
深沢先生……まさか、コレにやられたんじゃ……?
「……なるほど。1つ目の質問は分かった。じゃあ2つ目の質問。この学校には弦楽器の部活は無い。つまり音楽室に置いてあるヴァイオリンが少ない。俺やキミ達みたいなすでに持っている人は自分のを持って来れば良いけど、持っていない人全員分のヴァイオリンを確保することは出来るのか? それに部活を開始したら入部希望者も来るかもしれない。そのための予備も確保しておく必要があるんじゃないか?」
3人は俺のことを、ポカンといった感じで見ている。
俺がこんなに鋭いことを言ってくるとは思わなかったんだろう。
ふふん。俺だってやる時はやるのだ。
「……実は私達で昨日、この学校にあるヴァイオリンの数を確かめたのですが、まともに使えるものは2台しかありませんでした」
「え? 確か4台はあったと思うが……」
去年の文化祭の時に見た時は4台だった気がする。
「はい。4台ありましたが、まともに使えるのが2台でした」
「ああ、そういうことか」
ふむ、確かに去年は使えるやつを探したけど、使えないやつをちゃんと確認してはいなかったな。
一番状態が良さそうなのを選んだだけだったからなぁ。
「それじゃ、どうする気なんだ? 持っているのが3人、使えるのが2つ、だけど俺含めて部員は6人だろ? 1つ足りないな」
需要は6台、しかし供給は5台。
さあ、どうするんだ!? さあ!?
「とりあえずは、私が3台持っているので1台を貸し出します」
「いや、だけどヴァイオリンは高価なものだろ。そんなものを他人に貸すなんてしていいのか?」
ピンキリだが、ヴァイオリンは安くても数万だ。
もし壊したりなんかしたら、いち高校生が弁償するにはキツイだろう。
だが、水城さんは笑顔で答えた。
「ありがとうございます。心配して下さって。でも大丈夫です。部員は全員、中等部からの仲の良い友人なんです。ちゃんと信頼出来る人達ですので」
なるほど、昔からの知り合いだったのか。
それなら……む?
「中等部? 中学校じゃなくて?」
中等部、という言葉に違和感。
エスカレーターな学校でしか使わないんじゃねーのか?
「あ、え、と、中学校のこと、私達の地元だとそう言ってたので……っ」
……なんか、あるな。
いや、分からないけどな。
「まあ、いいけど。それで? 新しく入ってくるかもしれない入部希望者についてはどうするんだ?」
まっじめ、まじめー。
真面目モ―――――――ド!
顔は真面目で、頭はカオス。それが俺!
「はい。新規入部希望者については、一人二人なら大丈夫ですが、やはり多くなったなら入部してもらう人は選ばなければならないと思っています。面接という形で現部員全員の多数決をもって決めます。でも、今からこんなことを決めても、捕らぬ狸のなんとやらの気がしますけどね……」
そう言って苦笑する水城さんは、マジ可愛いッス。
「なるほど。じゃあ最後の質問だ」
真面目モードは結構疲れる。
どんどんMPを使っているモードだから仕方ないと言えば仕方ないが。
「ど、どうぞ」
水城さんは少し緊張した面持ちだ。
ちょっとキツイことを訊きすぎただろうか……?
他2人も、ゴクンと生唾を飲み込んでいる。
「部活を作る。部員も顧問も揃った。ヴァイオリンも確保してある。なら……」
「なら?」
「奈良?」
傍観していた2人が繰り返して言う。
つーか、ミリ―さんの発音が、発音が!
「なら、後は部活の目標だ。ただヴァイオリンを持つ者の集まりってわけじゃないんだろ? グダグダな部活にしたくなければ何か目標が無ければならないと思う。この部活の目標について、何か考えているか?」
あれ? 結構良いこと言ってんじゃないか? 俺。
やべーよ。輝いてるよ。まいっちまうよ俺。
「言われると思っていました」
なんと、察されていたとは……。
俺もまだまだということか。
「この部活の目標は、8月末にある夏季音楽会と、12月にある冬季音楽会です。そこで実績を得られれば、部費を学校側に要求して、部活の今後のために、新しいヴァイオリンを増やすことが出来ると考えています」
ノリで言ったのに、マジで目標があったとは。
3人を見る。
3人とも瞳が真剣だった。
本気でやる気みたいだ。
そんなのを見せられちまうと、何故かこっちまでやる気になってくるから不思議だ。
これが暑苦しい男だったらきっと、同じ瞳をしていても『うわコイツ、ウゼェ』としか思わないのに。
美少女はお得だと思う。本気で。
「あの、このような答えでいいでしょうか?」
水城さんが恐る恐るといった感じで訊いてくる。
俺がくだらないことを考えているのを、さっきの質問のことで悩んでいると勘違いしたのだろう。
まあ、俺の答えは最初から決まっている。
長らく廃人だった俺だが、ここで頑張らなきゃ流石に男じゃないだろう。
廃人は、もう止めだ。
俺は美少女に囲まれてハーレムを作るんだ!
……ってあれ?
不意に気付いたが、男って他にいるのだろうか?
後2人いると言っていたが、それが全員女子だとは言っていない。
ハーレムではないかもしれない!?
でも、改めて考えてみるとそうだ。
いくら去年の文化祭の件があったとしても女子ばかりの部活に俺だけ誘うか?
どう考えても後の2人は男の可能性が高いぃぃぃ!!!
しかし、ここまで色々質問してやっぱ無理。なんて言える訳がない。
俺はもう、詰んでた。という訳か……。
フフ、フハハハハハハ
「分かった。俺もその部活に入るよ」
俺は……歯医者だ。
いや、敗者だ。
敗者は勝者に従おう。
「ほ、本当ですか!?」
「やったー!」
「YAHOOOO!!」
3人が喜んでいる。
1人、某検索サイトみたいな喜び方をしているような気がするが……。
まあ、喜んでくれたんならいいさ。
俺は本望ですよ。
例え、ハーレムじゃなくても……うぅ。
「早速、雨美ちゃんと楓ちゃんに知らせてあげなきゃ!」
そう言って藤堂さんは1人、駆け足で教室を出て行った。
…………ん?
ウミチャンとフウチャン?
も、もすかすて“女の子”れすか?
何だ、俺の中の何かが燃えているような気がしないでもない。
誰だよ!?
俺を廃人だなんて言ったのは!?
こんなに俺は燃えているじゃないか!
ハーレム。
こんなことが現実にあっていいのだろうか?
いや、いいよっ!
「瀧丘先輩、ではまた明日の放課後にこちら伺います。部活動の申請はこちらでしておきますので」
そう言って、水城さんとミリ―さんも教室を出ていった。
俺は暫らくぼーっとしていた。
それが現実の出来事だったのか、まだ理解出来ていなかったからだ。
しかし、すぐに現実だと思い知らされることとなる。
何故なら、
いつの間にか俺の周りには、血に飢えた獣のような眼をしたクラスメイトが、群がっていたからだ。
……俺は今日、無事に帰れるのだろうか?
主人公のキャラがアホ過ぎたかもしれない。
自由って素晴らしいですね。
感想、質問、指摘、ありましたら気軽にお願いいたします。