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プロローグ

微妙に実体験が入っているハーフフィクションです。


まあ、書いていくうちにフィクション一色になるとは思いますが……。


自由に書いていこうと思います。

出来心だったんだ。


いや、こんな言い方をすると何か悪いことをしたみたいだけど違うんだ。


あの時の俺はちょっと、いやかなり調子に乗っていたんだと思う。


普段の俺を知っている奴らからしたら、そんなことは絶対にしないと口を揃えて言うだろう。


普段の俺。


まあ、簡単に言えば無気力だ。流される人生を送っている。


だってそうだろ?


自分には何も特殊な力なんて無いと分かっているし、思いっきり勉強してまで目指す将来の夢も、スポ根がしたいと思うような運動神経も無い。


ただ、一つだけこんな無気力な俺の16年間という人生の中で、10年も長続きしたものがある。


それは、“ヴァイオリン”だ。


そう、なんかセレブなお嬢様が髪をなびかせながら()いてるイメージのアレだ。


なんで、そんなものを俺が長年続けているかっていうと、初めは確か幼稚園の頃に、日曜の早朝にやっていたテレビ番組で見たヴァイオリンを()いている男の人が格好良かったからだっていうのを覚えている。


そして、2階でまだ寝ているであろう親に叫んだんだ。


「俺、“バイオリン”やりたい!」


ここでポイントなのは、『ヴァ』ではなく『バ』と言ってしまったところだ。


……ゴメン。正直どうでもいい。


俺の親は、俺がヴァイオリンを習うために条件を付けた。


あの時の俺は幼稚園児で、音楽の“お”の字も知らなかったから、まず家の近くでやっているエレクトーン教室に1年間通って楽譜の基礎を覚えてこいって言われた。


あの時の俺は頑張ったね。たった(いや、かなり苦労して)1年で楽譜を読むことを覚えたんだ。


まあ、まだ難しい符号なんてのは分からなかったけどな。


親は1年やらせりゃ俺が飽きると思っていたみたいだがところがどっこい。俺は1年後、親にこう言ってやったんだ。


「1年がんばったよ。バイオリンやらして!」


まあ結局、親が根負けしたらしく、エレクトーン教室を止めてヴァイオリン教室に通うことが出来たんだ。


だが、苦労はここからだった。


想像とは全然違い、ヴァイオリンはめっちゃ難しかった。


ヴァイオリンの先生が、教えるのが下手な偏屈な爺さんということもあって、ヴァイオリンの練習が次第に面倒になっていった。


それでも週に一回は必ず練習したんだぜ?


まあ、でもさ。やっぱり俺にヴァイオリンの才能は無かった。


無かったと思い込んだ。


だって自分より小さい子がめちゃめちゃすごい曲を弾いてたらヘコむだろ?


きっと、いっぱい練習したんだろうなと思ったよ。


でも、俺はそこまで熱心に練習することは出来なかった。


そんな中途半端なまま俺は成長した。


中学校に上がった頃にはもうヴァイオリン教室には行ってなかったけど、週一の練習は何故かちゃんとやっていた。


あるとき、ヴァイオリンの練習中にテレビから昔好きだったアニソンが流れてきた。


俺は何気なく指と弓を動かしただけだったんだが、楽譜を見たわけでもないのに、アニソンのメロディが弾けた。


おおおおおお!!?


と、思ったね。


練習は裏切らない!


と、叫びたくなったね。


調子に乗って少し難しい楽譜を出して弾いてみようとしたね。


全然弾けなかったね……。


あれ〜?と思い、テレビで流れている今人気のJポップの曲を何も見ないで弾いてみた。


普通に弾けた。


まあ、勿論メロディだけだけど。


それから色々と試した結果、あることが分かった。


あまり熱心に先生の話を聴かず、しかし、ず〜〜〜〜と弾くことは止めなかったから、俺は楽譜は全然読めないが、その曲を“聴くこと”で弾けるようになる、俗に言う“耳コピ”能力を手に入れたんだ!


…………まあ、だから何なんだって話なんだよね。


耳コピってちゃんとした楽譜と比べると全然違うし、ギターとかならまだしもヴァイオリンで耳コピって何に使えるの?って感じだ。


まあ、出来ないよりはましだろうと思い練習中に適当なアニソンやら流行の曲やらを弾いて自己満足に浸っていた。


だが、それがまさかあんなことになろうとは……。











高校1年の時の文化祭。


俺のクラスは、体育館の片隅に駄菓子屋を開いていた。


じゃんけんで負けてしまったので俺はクラスメイト3人と、午後から店番をしていた。


その時の俺はマスクをかぶっていた。


屋台で売っているような安物のゴムひもの白いマスクだ。


見た目だけならオペラ座の怪人っぽいマスクだった。


ウチの高校では、屋台やお化け屋敷みたいな通常の出し物とは別に、体育館の舞台を使った出し物を全学年全クラスやらなければならない。


毎年、3年伝統の漫才や、2年の伝統の演劇などの舞台ショーが行われている。


今年の俺のクラスの出し物は流行の歌に合わせて踊るダンスショーだった。


クラスから選出された15人の男たちが、一人ひとり違うマスクをかぶって激しくダンスるのだ。


そして、何故か俺もその一人だった。


ん? 女子はどうしたかって?


ははは、そんな種族はいないさ。何故ならウチは“ 男 子 校 ”だからね。


男子校の文化祭なんて暑苦しいと思うだろう?


まあ、実際に暑苦しいんだけどな。


でもな、近くにな、“ 女 子 校 ”が、あるのだなぁこれが!


文化祭には、その女子校の生徒がわんさか来る。


男たちはキモいぐらい盛り上がって自分をアピールする。


俺のクラスは俺含めシャイな奴ばっかだったからマスクなんかかぶってしまった。


せっかくキレの良いダンスを踊っても誰が誰だか分からない。


まあ、そんなことがあって俺はダンスが終わっても、マスクをかぶったままで黄昏ていたんだ。


要するにヒマだった。


駄菓子屋だぜ?


「あ、これ懐かし〜」とか言って買っていってくれる人がちらほらいるだけで、ぶっちゃけ一人でもヒマ。


だからかな。


あんなことをしてしまったのは。


あの時のことは良く覚えていない。


だって、今考えてみても何故そんな行動をとったのか理解できないんだもん。


体育館の駄菓子屋スペースで座っていた俺は、いきなり立ち上がり、同じく店番だったクラスメイトをシカトして体育館を出た。


俺が向かったのは音楽室だった。


そこから状態の良いヴァイオリンを確認してその一つをケースに仕舞い、それを持って再び体育館に向かった。


道行く人が俺のことを唖然とした目で見ていたのは、今思えばマスクをかぶったままだったからの気がする。


体育館の駄菓子屋スペースに戻った俺は、クラスメイトの言葉にテキトーに返事をしつつ、持ってきたケースを開けた。


もう10年近くもやっているヴァイオリンを持つ。


(げん)の調律なんて5年前(遅い)に覚えた。


俺の様子にクラスメイトたちは驚いたように無言になってしまった。いや、マジすまんかったよ。


全ての絃の調律を終え、ヴァイオリンを構える。


俺のしていることに興味を持ったのか、文化祭に来ていた小さい子供が3,4人、俺の周りに集まっていた。


とりあえず、誰もが知っているアニソンでも弾いてみた。


火を噴いたり、電気を放ったり、氷を作り出したりするモンスターを、なんかハイテクなボールで捕まえて戦わせるアレの初代オープニング。


調子に乗って、弾きながら色々と動いてみた。


そして、弾き終わると歓声が聞こえた。


いつの間にか3,4人だったのが、十数人ぐらいになっていた。


ちょっと、ドキドキしていた。


俺の演奏で歓声を聞くことが出来るなんて夢にも思わなかったからだ。


俺は続けて、みんなが知ってそうなアニソンやら、流行の歌やら、懐かしの歌などを演奏した。


弾きながら下半身でリズムをとる。


それは段々大げさになっていって、ついにはヴァイオリンを演奏しながらステップを踏んでしまっていた。


気が付けば、俺の周りは人だらけだった。


楽しかった。


誰かに演奏を聞いてもらえるのが、こんなにも楽しいものなんて知らなかった。


気付けば、ここ数年で覚えた曲は全て弾き終わってしまった。


周りは、俺が次に何を演奏するのかを待っているようだった。


俺は、最後に自分のとっておきを演奏することにした。


作曲家ヨハン・パッフェルベルの『カノン』だ。


恐らく聞けば誰もが分かるだろう有名な曲だ。


テレビCMにも、何度も使われたことのあるクラシック曲。


ゲームや劇のBGMなど、色んな場所で使われ、アレンジ曲もいくつも作られた。


本来なら、ヴァイオリン3本以上と、チェロやコントラバスなどの低音楽器と一緒に演奏する曲ではあるのだが、俺は一人で演奏するアレンジを知っていた。


この曲は、俺が3年もかけてモノにした曲だ。


強弱や、テンポのアップダウンもほとんど完全に覚えている。


この場所に『カノン』の楽譜は無い。


元々、ここで演奏する気は全く無かったのだから持ってきているはずも無い。


だけど弾ける。


一回も楽譜を見ないで弾いたことはないけれど、それは確信できた。


俺は、周りの人垣に一礼して静かにさせた。


ヴァイオリンを構えたまま、心の準備をする。


胸を大きく膨らませるほど息を吸う。


それが、開始の合図だ。


息を吐きながら、同時に弓を滑らせる。


最初は、小さく小さく。


階段を上り下りしているような音の流れを奏でる。


そして、同じペースのまま、段々と音の階段を増やしていく。


次の瞬間、流れが変則に、かと思ったら規則的に。


流れるような弓の動きは変わっていないが、確かに変化をもたらしている。


そして、小さい小さい音から小さい音へ。


小さい音から普通の音へ。


普通の音から大きな音へ。


段々段々、大きくなり、段々段々、テンポが上がり、そしてメインの見せ場になる。


一弓で複数の音を奏でながら、何度も何度も素早く弓を往復させる。


慣れないうちは何度も指が()ることがあった。


しかし、その甲斐あって今では流れるようにそのメロディが弾ける。


上半身を、弓の動きと反対側に大きく振り、弓の摩擦を強くして音をさらに響かせる。


気が付かないうちに、足でもリズムを刻んでいた。


本来なら『カノン』という曲は、3つのヴァイオリンからなる時間差のメロディが印象的な曲だ。


カエルの歌を思い浮かべてくれると分かりやすいかも知れない。


「カエルの歌が〜♪


        カエルの歌が〜♪


               カエルの歌が〜♪」


このように、始まりをズラした3つのメロディの調和が美しいのが、『カノン』という曲だ。


この例えだと、微妙だが……。


今回の演奏は俺一人しかいない。


だからこそ、激しく、かつ正確に演奏することが要求される。


3人分の音量を出すつもりで全力を出す。




――――辛い。




―――――――指がキツイ。




――――――――――――すでに、手のひらの筋肉が引きつっている、




いくら長年やっているっていっても、週に一回だ。


そんなに激しい曲を長時間を演奏するなんてことは無かった。


人前で演奏するのもこれが初めてだ。


指が攣りそうな気配を感じる。


でも、なんでだろうな。






俺は―――――





――――――――――笑っていた。






辛いのに、キツイのに、指が攣りそうなのに。


ヴァイオリンを演奏することが楽しかった。


自分の演奏を人に聞いてもらうということが嬉しかった。


難しい曲を弾けているということに興奮した。


結論から言うとこの時の俺は、脳内麻薬ドバドバ状態だった。


もう、クラスメイトに後から聞いたら、赤面しまくってしまうほど俺はノリノリだったらしい。


演奏が終わると、周りの人からたくさん賞賛を受けた。


それがただのバカ騒ぎなのか、本当に俺の演奏に感動してくれたのかは分からないが、楽しんではくれたと思う。


問題は、それで俺は燃え尽きてしまったってことだ。


演奏が終わってから色々あったんだと思うが、良く覚えていない。


あの興奮が冷めて、俺は廃人になってしまったようだ。








そして、廃人な俺のまま月日は経ち……。








俺は高校2年に進級した。


俺が廃人になっている間、学校は色々と変わった。


今年から共学になったらしい。


え、俺のクラス?


当然、男だけですよー。


今年の1年はいいね、クラスに女子がいるんだから。


まあ、部活にも入ってない俺には関係無いんだけどね。


何か部活に入っていれば接点も出来たかも知れないけどな。


1年生の女子との接点が全く無いっス。


部活での青春も、恋愛での青春も、俺には全く関係無いですよ。


…………関係無いと、思ってたんだよね〜。









それは、4月の第二週の水曜日だった。


昼休みになったので、俺は家から持ってきた弁当を食べて机に突っ伏していたんだ。


周りでクラスメイトがバカ話をしているのが聞こえる。


俺は目をつぶって、寝るでもなく、ぼーっとしていた。




その時、



「すみません」



クラスメイトの野太い声ではない、教室中に響いたのではないかと錯覚するほどに透き通った高音の声。

女生徒にしかありえない声だ。


だが、この学校に女子は1年生にしかいない。




「あの、こちらに……」




誰かを探しているようだ。


もう、一年の女の子とお近づきになった奴がいるというのか。


こんな綺麗な声の持ち主に探されるなんて、なんて羨ましい奴だ。


俺は机に突っ伏して目をつぶりながら、心の中で悪態を吐く。


ていうか、このクラスに女っ気のある奴っていたっけなーと思っていると、





「“瀧丘(たきおか) 文善(ふみよし)”先輩はいらっしゃいますか?」





声の主である少女が、探し人の名前を告げた。


たきおか、ふみよし、ね。


そんな名前の奴なんて、俺以外にいたっけな。








「……っていうか、俺ええええ!!!??」








ガバッと顔を持ち上げて、声の持ち主を見る。


つい叫んでしまった俺に気付いたようにこちらを見る少女。


美少女だった。


濡れたように艶やかな漆黒の長髪。


皺の一つもない制服の着こなし。


背筋がまっすぐな正しい姿勢。


第一印象は、優等生。


大和撫子というのも合うと思うが、俺は優等生という言葉がぴったりだと思った。


俺と少女の目が合う。




ニコッ



「!?」




少女は俺を見て確かに微笑んだ。






人生には分岐点がある。


俺の分岐点はどこだっただろう?


ヴァイオリンを始めた時?


文化祭で勢いで演奏してしまった時?


それとも、名前も知らない美少女と目があって微笑みかけられた時?


全く分からないが、二つだけ分かることがある。


一つは、どれが欠けても恐らくダメだっただろうということ。


もう一つは―――――








―――――――これから、俺の人生は大きく変わっていくんだろうということだ。







この小説の更新は不定期になります。


今はちょっと優先している作品があるので。


感想、質問、指摘、ありましたらお願いいたします。

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