雪の夜に
この作品は【お題】を元に書きました。
どんなお題かは後書きに記します。
それは小雪が、ちらつき始めた深夜のことだったわ。
【スナック白猫】の看板の灯りが消えると、店のドアから男がよろけるように飛び出したの。
ホステスが男の腕をつかんで何か話してる。
男はホステスに二言、三言返してから、こちらへ向かって来たわ。
「うわっ」
その男は、信号のない車道を横断して来たのよ。だけど縁石に足を引っ掛けて、前のめりに転んじゃったの。
お酒に酔うのはいいけど、足がもつれるまで呑むのはバカなのよ。
反射的に歩道に手をついたので怪我は免れたようだわ。
立って、手に付いた泥を落としてる。
三十歳ぐらいかしら?
歩道橋があるのだから、それを使えば良さそうなものを、横着をするからよ。
バカの上に横着なんだから救いがないわね。
あたしは歩道橋の下に置かれたベンチに座っていたから、偶然その様子を目にしたのだけど、特段、その男に興味を持った訳ではないの。
なのに、その男は馴れ馴れしく、あたしに話しかけて来たわ。
「やあっ、ここに座っていいかい?」
あたしは、興味がないから返事しなかったの。挨拶も、まともに出来ないのね。ったく……話しかけるにしても最初は《こんばんは》でしょ? そんなことだから出世できないのよ。
「やっぱり雪になっちゃったね」
ふんっ! だから何なのよっ! 気安く近寄らないでよねっ。口にはしなかったけど、そっぽ向いてやったわ。
男は、ポケットをあっちこっち探ってタバコを取り出したわ。
なあにっ? 居座るつもり?
あたしが顔を背けているのに、この酔っ払いときたら、性懲りもなく、タバコの煙りを吹き上げながらまた話しかけて来るの。
「寒くない?」
うっさいわねっ! 寒いわよ。当たり前でしょっ! 雪なんだからっ!
あたしは、よっぽど、そう言ってやろうかと思ったけど、やめといたわ。
あたしは、こういう、どこの馬の骨か判らないような男とは口をきかないことにしてるの。
男は酒臭い顔を近づけて来たわ。
「こういう寒い晩は躰を寄せ合って温め合わないか?」
あたしが、そっぽ向いて取り合わないのに、この鈍感な男は、ニヤけた顔で誘って来たのよ。
ミャッ!《いやっ!》
「えっ?」
ミャミャッ! ミャーッ ミャミャミャーッ!
《うっさいわねっ! あたしを口説いてどうしようってのよっ! あなたの相手は出来ないわよっ! あたしは、ただの白猫なんだからっ》
―了―
お題は
【白猫】でした。