終わってる世界、終わりゆく仮面舞踏会
壁に背を預け、音の方へ視線を投げる。目に映る不気味な仮面ときらびやかな笑顔、衣装。見劣りしないものを着てきたのにどこか質素に見えてしまう。
「踊ってみたかったな……」
トボトボと出口を目指す。また家に戻るのか。
意図せず目に入る自分の靴。夫からのプレゼント。昔はいい人だったのに。
ストン、と誰かの背中に吸い込まれた。
「失礼。怪我はないかな? ご婦人」
慌てて顔を上げた。そっくりだった。夫に。声も姿形も仮面から見えるその口もとも。
言葉を生み出せない。
「この場に言葉など不要だね」
彼が私の手をとる。強引に抱き寄せられる。音が背中を押し始めた。
揺れる。流れるように。時には荒れるように。紳士の割にダンスは苦手みたい。時折みせる苦笑が愛らしかった。
音の中で言葉を交わし合った。いくつかして話題は私の世界についてへ移り行く。
「昔はよい夫だったの。時を重ねるにつれて別人みたいに」
彼は黙ってうなずいてくれた。
「我慢すれば済むと思ってた。私だけが辛いなら良かったの。でも、そうじゃなくなってしまって……」
ポツリと言葉が返ってくる。
「優しい方だ。きっとあなたに罪はないよ」
会場の曲が盛りあがる。終わりが近いのだろう。
ずっと続けばいいのに。思いがあふれ出る。
「終わりまで一緒に踊らない?」
言葉は返ってこない。
永久に思えた二人の沈黙。破ったのは彼だった。
「一つだけお願いを聞いてほしい」
お願い。私の世界から抹消された言葉。
「日の沈む場所へついてきてほしい」
意味はわからなかった。でも、大きくうなずいた。
古城の窓から差す月明かりが二人を照らす。眼下の家々もまた温かく灯っていた。
「勝手に入っていいの?」
「私とならば問題のないことだよ」
ならいいか。軽々しく結論付ける。
「ここが日の沈む場所?」
「あの言葉に意味はないよ。ただ二人で抜け出したかっただけ。笑うかい?」
子どものように笑う彼へ笑顔を返す。ずっと続けばいいのに。
でも、ここを離れれば私を待つのは……。言葉がこぼれ落ちる。
「……帰りたくない」
「ならば行こう。どこか日の昇る場所へ」
「そしてまた日の沈む場所へ。連れていって?」
「あなたと私の思うままに」
仮面越しに見た日の出はいつもより輝いて見えた。
供養。その内イラストつけたいなあ。つけたら1,000字超えるけど。
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