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終わってる世界、終わりゆく仮面舞踏会

作者: 新美りん
掲載日:2026/01/01

 壁に背を預け、音の方へ視線を投げる。目に映る不気味な仮面ときらびやかな笑顔、衣装。見劣りしないものを着てきたのにどこか質素に見えてしまう。


「踊ってみたかったな……」


 トボトボと出口を目指す。また家に戻るのか。

 意図せず目に入る自分の靴。夫からのプレゼント。昔はいい人だったのに。



 ストン、と誰かの背中に吸い込まれた。


「失礼。怪我はないかな? ご婦人」


 慌てて顔を上げた。そっくりだった。夫に。声も姿形も仮面から見えるその口もとも。

 言葉を生み出せない。


「この場に言葉など不要だね」


 彼が私の手をとる。強引に抱き寄せられる。音が背中を押し始めた。

 揺れる。流れるように。時には荒れるように。紳士の割にダンスは苦手みたい。時折みせる苦笑が愛らしかった。



 音の中で言葉を交わし合った。いくつかして話題は私の世界についてへ移り行く。


「昔はよい夫だったの。時を重ねるにつれて別人みたいに」


 彼は黙ってうなずいてくれた。


「我慢すれば済むと思ってた。私だけが辛いなら良かったの。でも、そうじゃなくなってしまって……」


 ポツリと言葉が返ってくる。


「優しい方だ。きっとあなたに罪はないよ」


 会場の曲が盛りあがる。終わりが近いのだろう。

 ずっと続けばいいのに。思いがあふれ出る。


「終わりまで一緒に踊らない?」


 言葉は返ってこない。

 永久に思えた二人の沈黙。破ったのは彼だった。


「一つだけお願いを聞いてほしい」


 お願い。私の世界から抹消された言葉。


「日の沈む場所へついてきてほしい」


 意味はわからなかった。でも、大きくうなずいた。



 古城の窓から差す月明かりが二人を照らす。眼下の家々もまた温かく灯っていた。


「勝手に入っていいの?」

「私とならば問題のないことだよ」


 ならいいか。軽々しく結論付ける。


「ここが日の沈む場所?」

「あの言葉に意味はないよ。ただ二人で抜け出したかっただけ。笑うかい?」


 子どものように笑う彼へ笑顔を返す。ずっと続けばいいのに。

 でも、ここを離れれば私を待つのは……。言葉がこぼれ落ちる。


「……帰りたくない」

「ならば行こう。どこか日の昇る場所へ」

「そしてまた日の沈む場所へ。連れていって?」

「あなたと私の思うままに」


 仮面越しに見た日の出はいつもより輝いて見えた。

供養。その内イラストつけたいなあ。つけたら1,000字超えるけど。

登場人物の名前を募集しています。

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― 新着の感想 ―
とってもいいお話ですね!めっちゃ好きな雰囲気ですし、この後とかこの前がどんな感じだったのかも想像が膨らみます。 名前つけるのもありだけど、ないのもそれはそれでなんかエモい気がする……!(一個人の意見で…
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