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雑草女は負けず嫌い。傲慢貴族の鼻をへし折り、大逆転をしてみせます。  作者: 古晴


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第六話 月夜の小道で

 満天の星空と上弦の月の下、遠くから流れるワルツを聞きながら、一人で噴水の前まで歩いていたら、そこに一人の男がうつむいたまま座っていた。


(げっ、シリウスだ。違うルートから帰ろう)

向きを変え、気付かれないように、その場からそっと離れようとした。


「おい」

「……」

「おい、雑草女。無視するな」

「チッ、気づかないでよ。ご卒業おめでとうございます。では、さようなら」


 早々に引き返そうとしたら、両腕をがっちり捕まえられた。眉間に皺を寄せたシリウスに引きずられ、無理やり噴水の縁に座らされた。


「一体、なによ!!」

「なんで、ゼフィロスと一緒じゃないんだ?」

「……さっきまで、一緒だったよ。それで?」

「お前、あいつに求婚でもされたか?」

 

 妙にシリウスの圧が怖い。


「されたよ、求婚」

「……へぇ~、よかったじゃないか。で、なんで一人でいるんだ?」


 シリウスの言い方は尋問に近い。私、なにか悪いことでもした?


「……断ったの。求婚。だから、今から寮へ帰るの」


 シリウスは、体勢を崩して、すぐさまメリッサの顔をガン見した。あり得ないという驚いた顔をしている。


「お前、本当に馬鹿じゃないのか?お前みたいなドブスに言い寄る美男子なんて滅多にいないぞ」

「ドブスは余計でしょ?っていうか、傷心の私に対して失礼よ!フンッ!!」


 メリッサは、立ち上がって、帰ろうとした。しかし、つかさずシリウスがメリッサの腕を掴んで強く引っ張った。


「きゃっ!!」


 慣れないハイヒールでよろけてしまい、シリウスの胸に抱きつく形になってしまった。少年から大人へと成長したシリウスの体は意外としっかりして、ムスクの香りがした。


 イラッとしたメリッサは、両手で突っぱねた。


「ねぇ、さっきから、何なのよ?気持ち悪いわ!!」

「なぁ、なんで求婚を断ったんだ?」

「それは、シリウスには関係ない話でしょ!!」

「ある!大いにある。俺はお前にドレスを贈ったからな」


(そうだ、シリウスは、私に水色のドレスを贈ったんだ。アレ返さないと。配達代は払いたくないし)


「あっ、シリウス。今、時間があるんだったら私の寮まで来てよ。箱に入ったドレスをすぐに返すから」


 その途端、肩を落として項垂れるシリウス。


「とにかく、断った理由を歩きながら話すから、一緒に女子寮まで来てよね」



  ****



――春の夜はまだ寒く、街路樹の枝はまだたくさんの葉をつけてない。暗い外灯の下をメリッサとシリウスは並んで歩く。


 おもむろにメリッサは、パーティー会場での出来事を振り返る。


「ゼフィロスは、会場でダンスを踊っている時に、私に求婚をしてきたのよ。まだ恋人同士でもないのに、いきなりの求婚に戸惑ったわ」


「お前、ゼフィロスのドレスを着たくせに、なに言ってるんだ?いいか、男が女にドレスを贈るというのは、俺の所有物になってくれという意味があるんだぞ。あっ、平民には分からないか」


 カチンときたメリッサは、シリウスを睨みつけた。


「だって、知らないわよ。誰も教えてはくれなかったもの。手紙すら入ってなかったし」

「誰も教えないさ。貴族社会の常識だからな」


「私、どんなドレスを着ても、誰の所有物でもない。私は私だもの」

「あははっ。お前らしいな」


――メリッサは、さっそくパーティー会場での出来事を話し始めた。


「あのね、精霊国王が来賓として来てたのよ。その祝辞で精霊王が『()()()のゼフィロス王子が……』だって。そこで知ったのよ?初耳だよ?信じられる?ゼフィロスが自分で身分を教えてくれなかったのは、きっと私が口の軽い女だと信用してなかったからなのよ。はじめから信頼関係なんてなかったの」


――メリッサの怒りの感情が再燃してきた。


「ゼフィロスも、ギリギリまで何も言わないって、何なのよ!!しかも、『害虫被害による小麦の品種改良の考案』の論文も共同で研究したはずなのに、ちゃっかり、ゼフィロス一人の手柄になってるし。色々ありすぎて、何だか逆にこのまま流されて結婚してはいけないって、直感で思ったわ」


「お前、まさか、ずっとゼフィロスの研究を手伝わされていたのか?」


「私は最初から『秘密の部員』にされていたの。だから、登録されていないんだって。いくら研究を頑張っても、『秘密の部員』には名誉は与えられないのよ」


「アイツから慰謝料を巻き上げたらどうだ?」


「まぁ、でも、三ヶ月分の授業料をゼフィロスが払ってくれたことで、そのことはチャラにしようかな」


 メリッサは、ホワイトミンクのショールを巻き直して、夜空の星を見上げた。


「……正直に言うとね。ゼフィロスと過ごした『秘密の部活動』の四年間は本当に楽しかった。三ヶ月前、私が入院していたときに、ゼフィロスから異性として見ているって告白をされたのよ?もう、凄く恥ずかしかった。だけど、物凄く嬉しかった。それから私も意識して、ゼフィロスのことを異性として見るようになった。好きになろうとした」


「へぇ~、それで?」

 シリウスがジト目でメリッサを見てくる。


「だけど、現実は、私から告白の返事もできなかった。普通、男の人から告白をしたら、女性の返事を待つものだと思っていた。けど、ゼフィロスは一方的に愛を告げて一人ですっきりした顔をしてる。デートらしいこともせず、何もアプローチもなく、私の気持ちが置き去りにされた気がしたんだ」


「でも、女子寮の前で見たお前は、ゼフィロスとよろしくやってたじゃないか!」


「言い方、どうにかしてよ。あの時は、まだ求婚を申し込まれる前!私が嬉しかったのは、ようやくゼフィロスへの告白の返事ができると思ったのよ。やっと恋人同士から始められると思ったのに、それをいきなり求婚だなんて……」


「お前、意外と順序を気にする女だったんだな」

「当たり前でしょ?大事なことよ」

「しかし、魚を釣ったことに満足をして、餌をやらなかったんだな。そして怒った魚は逃げ出した。全く馬鹿なやつだ」


「たぶん、ゼフィロスが惚れたのは、私じゃなくて、この若草色の髪。さっき知ったけど、精霊国の王族は髪の毛がほとんど若草色なんだって。……きっと私の髪を見て故郷を懐かしんでいただけ。それだけよ」


「だから、求婚を断ったのか」


「ゼフィロスが最初だったのよ。『雑草女』じゃなくて、メリッサって、ちゃんと名前で呼んでくれたのは。一人の人間として扱ってくれたことが嬉しくって。だから余計に信用しちゃった」



 話をしているうちに、女子寮の前までやってきた。一階は、ランプの明かりが灯っている。


「シリウス、ちょっと待っててね。すぐドレスを取りに行くから」


 女子寮のおばさんに挨拶をして、それから二階へ上がって行った。部屋の鍵を開けて暗い室内へ入る。ベッドの上に箱まま放置されていたシリウスの贈り物を持って部屋を出ようとした。


――コン、コン、コン


 窓からなにか当たる音が聞こえる。窓を開けると、楓の木に登っているシリウスがいた。指で中に入れろと合図をしている。


(なんで、入れないといけないのよ)


 ダメだと首を振っているが、シリウスはしつこい。根負けしたメリッサは、シリウスを部屋に招いた。




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― 新着の感想 ―
本作は髪の色にフォーカスを強く当てたのですね。 良いと思いますよ。 (「`・ω・)「
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