第三話 魔導演習場で
――あれから季節は巡り、学園でのいろんな行事を乗り越えて、とうとう四年生の冬を迎えた。あと数日で今年も終わり、三月には卒業式だ。あっという間の学園生活も、終盤に差し掛かっていた。
この四年間一度でいいから、学力テストで一位を獲ってみたかったが、努力もむなしくメリッサは二位止まり。
これまで、メリッサが一位を取ってきたのが、魔獣生物学Ⅲ、歴史学Ⅲと地理学Ⅲ、あと、シリウスの専攻していない植物学Ⅲを合わせて四つ。
それに対してシリウスは、数学Ⅲ、魔法理論学Ⅳ、魔法円陣理論Ⅳ、マナー講習、外国語Ⅳ、メリッサが専攻していない政治学Ⅲの六つが一位で、総合では堂々の首位に立ち続けている。
来年、一月に学園最後の学力テストが始まる。図書館で学力テストの予習をしつつも気もそぞろに、ぼんやりと窓辺に目をやる。冷たい北風が吹き抜け、舞い上がる枯葉を眺めながら、深いため息をついていた。
(この学園生活も、もうすぐ終わりか……結局、シリウスには勝てる気がしない)
『お前は俺を超えることはできない』
傲慢で優秀なシリウスに勝てないことに、メリッサの心に焦りと悔しさが増す一方だった。
卒業までには一度でいいから学年一位を獲りたい。無理でも足掻きたい!!でも、他の令嬢からは、「二位ばかりで、本当はシリウス様の隣にいたいだけなんじゃない?」と嫌味まで言われる始末。
そんな中、大逆転のチャンスが訪れた。魔法学の授業の一環で行われる「魔法勝ち抜き戦」に優勝すると、次の学力テストで特別点が加算されるというのだ。つまりは、ボーナスチャンス!
メリッサにとって、大逆転の可能性がある負けられない「最後の戦い」になる。
❇❇❇❇
――魔法勝ち抜き戦、当日。薄曇りの空の下、朝早くから魔導演習場には特進クラス20人が集まった。
AからDブロックの4つに分けて、予選試合が始まった。メリッサはBブロックで勝ち残り、お昼休みを挟んで午後から準決勝が行われた。
そして、準決勝でも駒を進めたメリッサは、Cブロックの覇者シリウスと決勝戦をすることに……。
いつものようにシリウスの周りには『シリウス親衛隊』が黄色い声援を送っている。
(この戦い、絶対に負けられない!!)
❇❇❇❇
「お前たち、どちらかが参ったと言えば、攻撃を中止しろよ?分かったな?これは試合で、殺し合いではないんだからな!!一応、医務室の先生が待機してるからな」
担任と副担任の先生方は私たちに警告をした。
こうしてメリッサとシリウス、氷VS植物の魔法の戦いが始まった。
―――決戦の時。緊張感が高まる。
「凍てつく氷の矢。フローズン・スピア」
シリウスの周りにいくつかの魔法円陣が浮かび上がり、氷の槍が宙に浮く。
「バンブー・スピア召喚!!」
メリッサは無数の竹を召喚し、魔力コントロールで「竹の槍」に変形させる。
「「行け!!」」
《ドガガガガガガガガ、バキィィィン!!!》
魔力が練られた無数の竹の槍と氷の槍が高速でぶつかり合う。耳をつんざくようなすざましい破裂音で、氷と竹の破片が四方八方へ激しく飛び散り、即座に張った結界で破片を防ぐ。
「食らいつけ、氷の白狼。フローズンウルフ」
「グリーンブライアー召喚!!捕獲せよ!!」
シリウスの両手から白い魔力が渦巻くと、そこから白い狼が姿を現した。これは魔力を狼に具現化させたもの。しかも一頭だけじゃない。次々と狼が出てきて合計十三頭も現れた。
《ワオォォォーン!!!》
白狼の群れが一斉に遠吠えをしたあと、逃さないと言わんばかりにメリッサを囲い込む。『グルルル〜〜』と唸りながら、一頭の白狼がゆっくりとこちらの間合いを詰めてくる。
――来た!!
牙をむき出しにして、白狼が一斉に襲いかかってきた。
メリッサは、防御壁のように張り巡らせた複数のグリーンブライアーを魔力コントロールで自在に操る。近づいてきた白狼をグリーンブライアーで投網のように絡ませると、暴れる白狼を無数の鋭い棘で動けなくした。
白狼の群れは、怯むことなく次々とメリッサに襲いかかる。メリッサは、落ち着いて動線を読み取り、グリーンブライアーを動かしては一頭、また一頭、確実に潰していく。
こうして、メリッサは全ての白狼をグリーンブライアーで制圧した。
メリッサの植物系ギフト【植物大図鑑】は、二つ目のギフトである【亜空間収納】の中に保管してある。
この【植物大図鑑】に一度登録した植物は消費されずに、いくらでも複製植物を生み出し、召喚するというレアなギフト。但し、魔力切れを起こすと召喚はできない。
メリッサは入学するまでの七年間、野山を駆け回り、植物を採取しては【植物大図鑑】にたくさんの植物を登録していった。登録した元の植物は、大図鑑に収まっても枯れることなく、強い生命力を維持し続けている。
戦う際には、口頭で植物の名を召喚し、召喚した複製植物をメリッサの魔力で自在にコントロールするのだ。
「早々に降参と言え。そうすれば、痛い目には遭わせない」
「絶対に言わない!あんたを私が降参させる!」
「くっ、頑固者め!!」
シリウスは、地面に両手をつけた。
「囲い込め!!フローズン・ゲージ」
彼女の周りの空気が一気に冷たくなると、地面から氷が急速にせり上がり、あっという間にメリッサは氷の檻に閉じ込められた。
「これで降参しろ!!」
「しない。絶対に一位を取るの!!」
メリッサは檻のなかから叫んだ。
「シラクチカズラ召喚!!編み出せ、ギガントハンズ!!」
無数の複製の蔓が召喚され、縦横無尽に宙を舞う。糸を撚る様にぐるぐると忙しく動き回り、やがてアート作品のように手の形が作られ、三分もしないうちに「巨人の両手」が出来上がった。手のひらの幅は、およそニメートル以上ある。
その大きさに驚いたのか、外野がガヤガヤうるさく騒いでいる。
「ギガントハンズ、シリウスを捕らえて!!」
巨人の両手は、ハムスターを捕まえるかのように、シリウスを追い詰めるが、俊敏な動きで躱していった。いくら氷魔法で攻撃しても、氷で閉じ込めても、氷の剣で叩き斬ろうとしても、高密度のシラクチカズラで編み込まれた両手は、ぶ厚い氷を砕き、ものともしない。
「悪魔の実、召喚!!爆発せよ!!」
シリウスの行く手を阻むように、赤い実を粉砕爆発させた。この実はカプサイシン成分が多く含まれている。起爆させ、空気中に撒き散らすことで、目や鼻に突き刺すような刺激を与えるのだ。
涙と鼻水でむせ返えるシリウス。足が止まったシリウスをギガントハンズが見事に掴み取った。
「シリウス、早く降参すると言え!!」
「ゲフン、ゴホッ、お前、バカか。このぐらいで降参するわけないだろ!!――氷の剣山で押し潰せ ニードルトラップ!!」
メリッサが入っている氷の檻の天井から氷柱が幾つも現れた。しかもどんどん下へ降りてくる。
「ガジュマルの木、召喚!!氷の檻を打ち壊せ!!」
檻の中でガジュマルの木が召喚されると、その強靭な生命力を武器に異常な速さで急成長をする。氷に含まれる魔力と水分を吸い、膨張した枝と深緑の葉は、ぶ厚い氷に圧力をかけ続ける。限界に近いのか、氷の天井がミシミシと揺れ動いた。
「もう少しよ!頑張って」
メリッサの声に応えるように、ガジュマルの太い枝が豪快に氷の檻を打ち壊した。キラキラと勢いよく飛び散った氷の破片を、シリウスが目を丸くしてこちらを見ている。
メリッサは俊敏に幹に登り、枝を蹴るように外へ飛び出した。
「お前のその膨大な魔力と、馬鹿みたいな魔力コントロールが癪に触るんだ!!!」
シリウスが珍しく感情的に吠える。
(だいぶ焦ってるわね。シリウスをギガントハンズで捕らえているし。この勝負、私の勝ちね)
「早く、負けを認めて降参しなさい!!」
「ゴホッ、ゴホッ、するわけないだろ、馬鹿にするな!!俺は何が何でも1位をキープしなければならないんだ!!俺の底力はまだまだこんなもんじゃない……、こんなものじゃない!!!」
焦りで我を失ったのか、冷静沈着であるはずのシリウスの様子がおかしい。
ギガントハンズに捕まったシリウスは、片手を天に掲げた。すると、手の上で魔力の渦を作り出した。その渦の回転が加速度的に速くなり、それに比例して魔力が膨れ上がる。止まらない魔力暴走に一筋の閃光が走り、一瞬でこの空間全てが青白くなった。
(くっ!!何が起こったの!?)
瞳が焼けるほど眩しくて、周りがほとんど見えない。急激に気温が下がり、体の震えが止まらない。寒すぎて耳がちぎれそうだ。この異常事態に胸の鼓動が激しくなった。
「シリウスの魔力暴走だ。クソッ、魔力収束結界!!」
遠くで先生方の声が聞こえる。先生がシリウスの魔力に向けて何か仕掛けた直後、ガラスが激しく割れたような音が響いた。
「無理だ!!メリッサ、離れろ!!」
先生の悲鳴のような声が聞こえる。
視力を奪われ身動きできない。目を手で覆いつつ、指の隙間から目を細めてシリウスの方を見てみると、青白く輝く巨大な氷の結晶が見えた。
その結晶は、死の静寂を纏ってゆっくり地面に降りていく。その先端が土に触れたその瞬間、地面にドライアイスのような白い靄が四方へ一気に広がり、メリッサもその靄に飲み込まれた。
――メリッサの意識はここで途切れた。
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