第一話 特進クラスの教室で
――ある日の夕方。町はずれの小さな家に、運命を変える一通の封書が届いた。少女は配達員から封書を受け取ると、すぐに中身を確認した。
「あははっ、やった!合格だって!これで王都へ行ける!」
彼女は若葉色の髪を夕日になびかせ、庭先で喜びのダンスを踊っている。彼女の名前はメリッサ。ごく普通の平民だ。
彼女はさっそく、両親に【サージス魔法学園の合格通知】を見せるために家のなかへ入った。
「お母さん、お父さん、私合格したよ!しかも優良特待生だって。だからお金の心配はなくなったわ!」
普通、平民が学校に入学する際、最も懸念するのが金銭面だ。しかし、彼女は一切遊ぶことをせず、毎日勉学に励んだ。その結果、入学試験でニ位という好成績を収めた。メリッサは『優良特待生』という特権を勝ち取ったのだ。
通知に送付されていた案内用紙によると、学力テストは年に4回。全て三位内をキープ出来ると、『優良特待生』として、年間授業料は無料になる。しかも、優良特待生は寮費と食事代が半額という特典付き。
「あんた、よく頑張ったわね!」
「すごいぞ、メリッサ。父さんはお前を誇りに思うよ!」
メリッサは貧しくても、両親に愛されていた。メリッサの家は代々農家の家系だ。しかし、両親からは「その頭の良さを生かして別の道を歩むのもいいだろう」と許してくれた。そして彼女の合格を、長男のブレットも次男のアイクも自分のことのように喜んでくれた。
メリッサが勉強を始めたきっかけは、六歳の時。
魔力検査で膨大な魔力量と2つの特殊なギフトを持っていることが発覚。その才能に驚いた神父は、彼女にこう助言した。
『大きくなったら、王都にあるサージス魔法学園で植物学を極めなさい。その学園は貴族や平民に関係なく、実力主義の学校だと聞く。そこで学べば、きっと君の道は拓ける』
彼女は神父の教えに従い、七年間町の図書館へ通い続けた。特殊なギフトを生かして、冒険者ギルドに登録し、薬草採取をしてお金を稼いだ。
「七年間かけて貯めたお金で何とかやっていけそうだ!」
メリッサは期待を胸に、意気揚々とバーモント王都へ向かう旅支度をするのだった。
❇❇❇❇
「二位の席はここね」
サージス魔法学園の入学式も無事終わり、メリッサは特進クラスの教室で窓際から一つ隣の席に座ろうとした。すると、いきなり体格のいい男子生徒に腕を引っ張られ、押しのけられた。
「痛っ、なにするのよ!!」
「おい、そこの平民。誰がその席に座れと言った!!」
隣の席に視線を向けると、上品な雰囲気を持つ美しい少年が座っている。白銀色の髪は柔らかな日差しに反射して、サラリと風に揺れる。少し長い前髪の奥で、アイスブルーの瞳がうっすら光を帯びていた。
「お前だな? 平民のくせに学年二位を取った女というのは」
「あなた達は?」
「こちらにいらっしゃるのは、カンタルス辺境大公のご長男シリウス卿だ。代々北カンタルス山脈を領土としているので、その名をカンタルス辺境大公と呼ばれている」
偉そうな取り巻きがシリウス卿の自己紹介をした。
「私は、カンタルス大公の盾であるフロスト騎士団長の長男、ロイドだ」
こちらは、茶色の短髪に茶色の瞳。武骨な雰囲気の男だ。傷跡のある白い筋肉を見せつけたいのか、袖をまくっていた。
(ちっ、脳筋貴族か、面倒くさいなぁ~~)
「私は、メリッサ。スコティッシア州のカロテナ町からきた平民です。このサージス魔法学園は実力主義を方針とした学園です。平民や貴族に関係なく、授業が受けられると聞きました。入学試験で私は、学年で二位になりました。この席順は成績順なのでしょう?だから、退けと言われる筋合いはありません。ロイド卿が次の試験で二位を取れば、この席に座れるのでは?」
ロイド卿は、プライドを傷つけられたのか、顔を真っ赤にしてメリッサの服をひっぱった。
「なんだと!?生意気な平民だ!」
「ロイド卿。あなたの鍛えられた二頭筋は、弱い平民、しかも女の服を引っ張るためにあるの?少し、破廉恥すぎない?」
メリッサは鼻で笑った。
「なっ、なに!?この俺を破廉恥だと?」
「あなたみたいな脳筋貴族がいるから、平民のほとんどが貴族嫌いなのよ。第一、貴族と平民どちらの人口が多いと思っているの?圧倒的に平民が多いでしょ?平民が物流を回して、市場で商いをし、経済を回し、その血税で貴族が美味しいご飯を食べられているんでしょうが!!そもそも貴族だけで成り立っている国って聞いたことある?ないでしょ?平民という大衆に支えられて少数の貴族が成り立っているのよ。そんな常識も分からず、平民だからと見下して、歪んだ自尊心を満たすような脳筋貴族に、明るい未来はないわ」
メリッサは勢いよく早口でまくし立て、ロイド卿を論破した。
何も言い返せないのか相当悔しくてたまらないらしい。それを黙って見ていたシリウスがメリッサに反論し始めた。
「我々強者が弱者を取りまとめて何が悪い。諸外国の侵略を国境で食い止め、防衛しているのは貴族の仕事だ。外交や貿易の関税を取り決めているのも貴族の仕事。そして、領地を守り、公共工事の開発と経済の発展のために、法案を取り決めているのも少数派の貴族の仕事だ。つまりは領主の方針次第で、弱者の暮らしが変わる権力を持っているということを忘れるなよ」
「その領主が汚職にまみれてる欲深い貴族か、品行方正で民を正しく導くことができる貴族かにもよるでしょ?あなた達はどちら側の貴族でしょうね?」
「何だと!?偉そうなヤツめ!!」
いかにも殴りかかりそうなロイドをシリウスが止める。
「やめろ、ロイド。こんなおしゃべり雑草女にかまう暇などない」
『雑草女』という言葉に対して、怒りで握りこぶしが震えた。
「おしゃべり雑草女!?」
「お前の、その変な若葉色の髪はどう見ても、雑草にしか見えない。ロイドの剣で刈ってやろうか?」
(コノヤロ……!!)
確かにメリッサの若葉色の髪は珍しく、生まれた町でもあまり見られない。どうやら、ここでも珍しいようだ。
「おい、おしゃべり雑草女。随分偉そうだが、平民のお前が永久に一位を獲ることはない」
あまりの傲慢っぷりに、メリッサは怒りで顔が真っ赤になった。
「顔は綺麗だけど、中身は違うようね。次の試験は必ず一位を獲って、傲慢貴族の鼻を必ず、へし折ってやる!!」
――こうして、シリウス卿というとんでもない傲慢貴族と出会ってしまった。
シリウス・フォンド・パリストン。頭脳明晰、容姿端麗、歩く姿は氷の貴公子とまで呼ばれている。パリストン家は、氷魔法を得意とする家系らしい。そして彼がニコリと笑えば、学園中の女子たちがワーキャーうるさく騒ぎ立てるほどのモテっぷりだ。
だが、厄介なのは初日にメリッサとシリウスが言い合っていたのを、クラスの貴族令嬢は見ていたらしく、この日を境に、彼女はクラスの貴族令嬢に陰口や嫌がらせを受けるようになった。
シリウス様に近づくなとか、席を早く譲れと、あまりにもギャーギャーうるさく言われたものだから、メリッサは先生に席替えの相談をした。
しかし、先生は「ここは実力主義が基本の学校だから、貴族がそんなこと言っても関係ない」と笑いながら突っぱねられた。
以前、席替えをお願いするために貴族の生徒から、賄賂を受け取った教師がいたらしい。発覚後、その生徒と教師を校長が有無を言わさず退学、退職させたという。
――こうして、4年間に及ぶ波乱の学園生活が幕を開けた。
シリウスはいつも隙あらば、メリッサの足を引っ張ろうとしてくる。地理学の授業でも、先生が指摘した問題にメリッサが回答をしていたのに、わざと席を立ち、答えに補足を加えては、自分の頭の良さをアピールしたり……。
魔法理論Ⅰの演習では、わざと見えないところで彼女の背中に氷の飛礫を何度もぶつけてきたり……。
メリッサが休憩時間に一息つこうと、人が少ない東屋へ行くと、多くの女子に囲まれたシリウスが東屋を陣取ってお昼ご飯を食べていたり。
また、放課後図書館で外語の勉強をしていたら、『シリウスの親衛隊』に図書館の本を取られ、勉強の邪魔をされたり……。
数えたらきりがないほど、メリッサの学園生活はシリウスに振り回され、ストレスが蓄積されていった。
日が経つにつれ、今度はシリウス親衛隊の女子たちの行動がますます過激になり、面倒くさいことになった。
例えば、教科書が破られたり、板書したノートをゴミ箱に捨てられていたり、挙句の果てには女子トイレで訳も分からない因縁をつけられ、火炎魔法で脅されたり。
だが、こんなことで負けてはいられない。メリッサは、得意の植物魔法で相手を受け流し、難を逃れる日々を過ごす。
教科書は常に亜空間収納の中に隠しておき、板書ノートは常にスペアを作って置くなどの対処をする。因縁をつけられた時のために、攻撃魔法や防御魔法について深く考え、いかに瞬時に魔法を発動できるかを寮の部屋で研究をした。
読んで頂きありがとうございます。(θ‿θ)




