二人きりの時間
パーティーが終わり、アーロンの自室に戻った瞬間から、ロゼリスの胸は、ずっと高鳴りっぱなしだった。
指先にきらりと光る婚約指輪を見るたび、先ほどのアーロンの言葉が蘇ってくる。
(“もう俺にはロゼリス以外愛せない”……って……っ!!)
思い出すだけで顔が熱くなる。
そんなロゼリスを、ソファに座ったアーロンが柔らかく呼んだ。
「こっち来い。ほら、ここ」
そう言うなり、ロゼリスはひょいっと膝の上へ誘導された。
「ひゃっ……!?で、殿下、じゃなくて、ア、アーロン様!
この体勢は、さすがに恥ずかしいですわっ!」
すぐそばにある体温。胸板の硬さ。
距離が近すぎて、鼓動がうるさいほど響いてくる。
「そうか……?
俺としては、こうやって“すぐに抱きしめられる”からいいと思うけどな」
アーロンの腕がそっと背中に回り、ぎゅっと優しく抱き寄せられる。
首元にふっとかかる息が、くすぐったくて、甘くて、ロゼリスの意識はどんどん蕩けていく。
「ロゼリス」
名前を呼ばれただけで胸が跳ねた。
「好きだ。愛してる。
俺は……自分の恋心に気づくのが遅すぎた」
ロゼリスは、はっと顔を上げる。
アーロンは後悔の色を隠さず、まっすぐにロゼリスを見ていた。
「そのせいで、お前に寂しい思いもさせたし、悲しい思いもさせた。婚約破棄を口にさせるほど辛い思いも……させた」
ロゼリスの胸がきゅっと痛む。
「10年も婚約してるのに、この有様だ。……情けないよな」
「アーロン様……」
けれど、アーロンは微笑む。
「だから、これから埋め合わせる。
その10年分いや、それ以上に、お前を愛す。
嫌って言うほどそばにいるから覚悟しろ」
腕の力が少し強くなる。
「悪いが、俺は嫉妬深いし、独占欲も強い。
でも……お前を愛してしまった以上、離すつもりはない」
そして。
アーロンはロゼリスの首筋に、
“ちゅ、ちゅ、ちゅっ”と続けざまにキスを落とした。
「ひゃめっ……!!
そ、それ以上は心臓が……爆発してしまいますわっ!
一気に愛の言葉を囁くなんてだめです!
もう恥ずかしすぎてアーロン様のお顔が見れませんっ!!」
顔を両手で覆い、悲鳴のような声を上げるロゼリス。
「おい、可愛い顔を見せろ」
アーロンはくすりと笑う。
「俺はこのスタンスを崩すつもりはないから、時間をかけて慣れてくれ」
「そっそそそそそそんなこと言われても、な、な慣れませんわ!!
だって日に日にアーロン様が好きになってしまって……
アーロン様がそばにいるだけで、心臓が……っ
おかしいくらいにドキドキするんですの……!
好きが積もるほど、もっと苦しいくらいドキドキしてしまいますわ……!」
涙目で真っ赤になりながら訴えるロゼリス。
その言葉に、アーロンは、一瞬だけ動きを止めた。
「………っ!
頼むから……それ以上俺を煽るようなこと言うな……」
アーロンは顔を手で覆い、小声でつぶやく。
「……婚前だし、学生だし……俺だって必死で我慢してるんだぞ……」
最後の部分は小さすぎてロゼリスには聞こえない。
「アーロン様……私は、どんな貴方も大好きで、愛しておりますよ?だから……私のこと、飽きないでくださいね……?」
しゅん、と不安げな顔で見上げてくる。
「自分をいっぱい磨いて……
アーロン様がずっと好きでいられる人でいますから……捨てないで……くださいね……?」
アーロンの眉がぴくりと跳ねた。
「……飽きるわけないだろ?
それにお前は今でも十分魅力的だ」
そしてロゼリスの頬を包み、じっと見つめる。
「これ以上魅力的になったら、男が群がりそうで……
俺の嫉妬が爆発するからやめてくれ」
低く甘い声で、真剣に言う。
「天と地がひっくり返っても……
お前を捨てるなんて、絶対にあり得ない」
次の瞬間、顎をそっと引き寄せられ、
深く、甘く、何度も角度を変えたキスが落とされる。
「んっ……ア……アーロンさ……」
ロゼリスはその甘さに耐えきれず
ばたん、とアーロンの胸に倒れ込み、そのまま気絶した。
「……お前は本当に、可愛すぎる」
アーロンは笑ってロゼリスを抱き上げ、ベッドに寝かせる。
◆ ◆ ◆
どれくらい眠ったのだろうか。
目を覚ますと、アーロンは浴室へ入っていた。
(私……アーロン様のキスで気を失ったの……!?
ぁぁもうっ、どうして私はこんなに恋愛耐性がないのですの……!
このままじゃ本当に飽きられてしまいますっ!!)
ベッドの上で転げ回るロゼリス。
そこへ、タオルで髪を拭きながらアーロンが出てきた。
「起きたか?……眠ってるお前も可愛いかったぞ」
「す、すみませ……っ
私、せっかくアーロン様とキスしていたのに……
心臓が限界突破してしまって……気を失ってしまって……!」
するとアーロンは優しく頭を撫でた。
「気にしてねぇよ。
お前のペースで進めていけばいい」
そして、ロゼリスの手を取って言う。
「そんなことで俺がお前に飽きるわけないだろ。
ほら、ゆっくり湯に浸かってこい」
ロゼリスはこくりと頷き、入浴へ向かった。
◆ ◆ ◆
入浴後、部屋へ戻ると、アーロンはベッドの上で、やや眠たげにうつらうつらしていた。
(ふふっ……ウトウトしてるアーロン様、可愛いですわ……)
そっと金色の髪に指を通すと、
「……もっと撫でてくれ。癒される」
目を閉じたまま素直に求められ、
ロゼリスはくすっと笑いながら撫で続ける。
やがてアーロンは、すやすやと寝息を立て始めた。
ロゼリスもそっと隣に寝転がり、その瞬間、ぎゅっ。
アーロンの腕が無意識にロゼリスを引き寄せ、抱きしめた。
離したくないと訴えるような、強くてあたたかな抱擁。
(……アーロン様……)
胸がいっぱいに満たされ、ロゼリスもそっと抱きしめ返す。
そして二人は、そのまま静かに眠りへと落ちていった。




