アーロン殿下の誕生祭
誕生日パーティーは、煌びやかな装飾の中にも厳かな空気が満ちていた。
高い天井には無数のクリスタルが瞬き、赤と金を基調とした荘厳な空間は、王家の祝いにふさわしい雰囲気を漂わせている。
(アーロン様の誕生日は、兄であるシルビア殿下が準備されたはず……!さすが、シルビア殿下……完璧すぎますわ……)
ロゼリスは感動しつつ、アーロンと手を絡めたまま長い階段をゆっくりと降りていく。
アーロンの掌は熱く、指先が触れるたび胸が高鳴った。
階段を降り切ると、そこには手を取り合い、穏やかに微笑み合うルチアとシルビアがいた。
(……尊っっっ!!!!)
ロゼリスは全身で悶えた。
この二人の絵面が強すぎる。眼福……!
「ロゼリス、元気そうで安心したよ。」
優しい声に視線を上げると、シルビアが柔らかく微笑んでいた。
「君が無事で本当に良かった。
今やアーロンは君がいないと何もできないんだからね。あいつは不器用だから……これからも、そばにいて愛してやってほしい。」
その言葉と兄の慈愛に満ちた瞳に、ロゼリスは胸を撃ち抜かれる。
(シルビア殿下……弟を思うその眼差し……最高すぎますわ!!)
悶えながらも何とか笑顔を作り、
「もちろんですわ。」
と答えるロゼリス。
さて、サプライズケーキを準備するため移動しようとしたが。
アーロンの手が、腰にぴたりと巻き付いたまま離れない。
(こ、これではサプライズの準備ができませんわ……!?
なんとかアーロン様を説得しないと……!)
「あ、あの……アーロン様。その、準備に……」
「……そんな時間か。」
口ではそう言いながら、手は一切離れない。
(だ、駄目ですわ……!これでは永遠に準備に行けませんわ……!)
ロゼリスは意を決した。
くい、とアーロンの胸に手を添え、背伸びして唇に軽いキスを落とす。
「……っ!」
驚いてアーロンの手がわずかに緩む。
その隙にロゼリスは、ふわっと体を抜け出した。
「準備が終われば必ず戻ってきます。
少しだけ……待っていてくださいませ。」
微笑んで駆けていくロゼリスに、アーロンは完全に落ちていた。
その目は“絶対に戻って来いよ”と言っている。
***
ロゼリスが準備して運ばれてきたのは
甘さ控えめのビターチョコケーキと、薔薇の形に綺麗にまとめられたローストビーフ。
アーロンの瞳が一気に輝いた。
「これ……ロゼリスが作ったのか!?
すごい!美味しそうだ……!」
まるで子供のように嬉しそうな笑顔。
その表情を見たロゼリスは、胸がじんわりと温かくなる。
(アーロン様が楽しそうで……それが何より嬉しいですわ)
メイドたちがケーキを切り分けると、アーロンがニコニコしながら言った。
「ロゼリス、“あーん”してくれ。」
「ふふっ……では、アーロン様。はい、あーん♡」
ロゼリスが差し出すたび、アーロンは満足げに口を開ける。
ちなみに、ケーキは一切れも自分では食べず、すべてロゼリスの“あーん”で食べた。
ローストビーフも薔薇の形を崩さないよう慎重に口に運び、「これ……すごく綺麗で、美味い……!」
と心から喜んでいる。
そして、プレゼントの時間になった。
ロゼリスは小箱をそっとアーロンの手の上に置く。
「……っ。開けてもいいか?」
「はい!もちろんですわ!」
アーロンが箱を開ける。
中のルビーのカフスボタンを見た瞬間、アーロンの紅の瞳が一層柔らかく輝いた。
「アーロン様は、公務でスーツを着られることが多いので……
よければ、その時につけていただければ……嬉しいですわ……」
頬を赤らめるロゼリスに、アーロンはゆっくり笑う。
「……ありがとう。大切にする。」
その一言と微笑みに、ロゼリスの心臓は完全に撃ち抜かれた。
胸の中でぎゅうっと喜びがじわりと弾ける。
(アーロン様が……幸せそうで……本当に良かった……
今日、この日を迎えられて……心から幸せですわ……)
パーティー会場の灯りが、二人の姿をそっと包み込んでいた。




