君を迎えに
アーロンの誕生日の朝。
ロゼリスは、そわそわと落ちつかない様子で台所に立っていた。
なぜなら、過保護なアーロンが今日も朝から一緒にいたら、サプライズの準備がまったくできないからだ。
だが幸いにも、今はアーロンが公務で王宮にいない。
「今がチャンスですわ……! この隙にケーキとローストビーフを完成させますわ!」
ロゼリスは袖をまくり、真剣な顔で材料に向き合う。
アーロンは甘いものが苦手。
だからビターなチョコを使い、甘さ控えめのケーキを静かに仕上げる。
次に、アーロンの大好物であるローストビーフを丁寧に焼き上げ、薄く切り、器用に薔薇の形に整えていく。
「ふふ……アーロン様、喜んでくれるといいですわね……」
そしてアーロンの部屋に戻ると、ロゼリスは小箱を取り出した。
その中にはルビーが光る上品なカフスボタン。
「公務でスーツをよく着られますものね……。身につけてくれたら嬉しいですわ……」
そう呟いてラッピングを済ませると、ロゼリスはドレスルームに向かった。
婚約式も兼ねた今日のために選んだのは、胸元と腰に薄紅の薔薇を散りばめた純白のドレス。
赤い髪を編み込み、すっきりと結い上げる。
しかし、そこでふと表情が曇る。
「……アーロン様にいただいたバレッタ……誘拐された時に落としてしまって……」
胸が締めつけられるように痛んだ。
初めてもらった贈り物。大切にしていた宝物。
だが、すぐに頭を振り、無理にでも笑顔をつくる。
「だめです! 今日はアーロン様のめでたき日!
私まで浮かない顔をしていたら、アーロン様が心配なさるもの……!」
ロゼリスはドレスの裾を軽やかに揺らし、パーティー会場へ向かった。
そして、アーロンはすでに会場に到着していた。
普段は下ろしている金髪はきりりと上げられ、白いスーツに身を包んだ姿は息を呑むほど美しい。
(髪を上げたアーロン様……ギャップ萌えというものですわね……)
そう思いながら駆け寄る。
「で、殿……いえ、アーロン様! お待たせしてしまってすみません!」
その瞬間、アーロンは固まった。完全に、目が離せなくなっている。
「……アーロン様? 私、似合ってません!? ああ、どうしましょう…!?」
あわあわするロゼリスを、アーロンはぐっと腰を抱き寄せ、耳元で熱く囁いた。
「なぁ……このまま婚約式なんて放って、お前を攫ってもいいか?こんな綺麗なお前を他の奴らに見せたくねぇ……」
「そ、それは! だ、だめですわ!
今日はアーロン様のお誕生日! 盛大にお祝いしたいのです!」
きらきらの瞳で訴えるロゼリスに、アーロンは息を吐き、ふっと笑った。
そして彼はロゼリスの背後に立ち、そっと髪に指を滑らせる。
「……っ? アーロン様?」
次の瞬間、髪に見覚えのある白いバレッタが留められた。
ルビーが光を受けて淡く輝く。
「!!」
ロゼリスは息を呑んだ。
「これ……どこに……? ずっと、ずっと探していたのです……。私の大切な宝物……」
アーロンはロゼリスの赤い髪を優しく撫で、低く囁く。
「お前が誘拐された道に落ちてた。
お前が大切にしてたの、すぐ分かったよ……。
……守れなくてすまなかった。だけど、また返せてよかった」
そしてそのまま、髪にそっとキスを落とした。
ロゼリスの頬は一瞬で赤く染まる。
「だって……アーロン様が初めてくれた贈り物ですもの……思い出が詰まっているのですわ……」
そう微笑んだ途端、ロゼリスの唇は、アーロンの熱を帯びたキスで奪われた。
「っ!? んん……!」
後頭部に添えられた手に逃げ場はなく、角度を変えながら、深く甘いキスが降りそそぐ。
「はぁ……っ……ア、アーロン様……!
すぐにパーティーが始まるのに……こんな……心臓が持ちませんわ……!」
赤く染まった顔で抗議すると、アーロンは笑いながらロゼリスの頬に触れた。
「これはお仕置きだ。何度か“殿下”って呼んでただろ?それにお前が可愛すぎて、抑えられなかった」
そして指を絡めとり、ロゼリスの手を強く握る。
「……俺以外の男なんて、見なくていい。
今日もこれからも、お前はずっと俺だけにドキドキしてればいい」
そのままアーロンはロゼリスの手を引き、パーティー会場へと歩き出した。
ロゼリスは胸に手を当てながら、小さく微笑む。
(……今日、アーロン様をお祝いできること。
そしてまた隣に立てること。
これほど幸せなことはありませんわ……)
白と赤の薔薇が揺れるドレスをまとい、ロゼリスはアーロンの隣を歩き出した。




