凍てつく雪の中で
どれほどの時間が経ったのか。
廃墟の割れた窓から吹き込む冷気は、容赦なくロゼリスの体温を奪っていく。
ひどい空腹。
凍える寒さ。
意識は霞み、視界は白く滲んでいる。
それでも消えかけた心に浮かぶのは。
アーロン殿下の、優しい笑顔。
大切な推しカプの未来。
自分を必要としてくれる人たち。
(……あぁ、殿下……。
どうか……どうか、ご無事で……)
その想いだけが、ロゼリスを生かしていた。
◆
ロゼリスは一晩中、自身の魔力を結界へと注ぎ続けていた。
その魔法は特殊で、使えば使うほど体力を激しく削る。
すでに指も震え、唇は紫色になり、呼吸だけがか細く続いている。
「……っ……あと少し……ですわ……」
結界に、ようやくヒビが入った。
その瞬間、ロゼリスの胃がひっくり返るような吐き気に襲われる。
だが、弱音は飲み込んだ。
(こんなところで……終わるわけにはいきませんの)
アーロンに会いたい。
ルチア様とシルビア様の幸せを見届けたい。
婚約破棄を撤回する未来を、自分の口で殿下に伝えたい。
そのすべてを胸に、ロゼリスは、最後の魔力すべてを、結界へ叩きつけた。
眩い光が走り、結界は砕け散る。
(……これで……外へ……)
膝が抜け、床に手をつく。
しかしロゼリスは、這うようにして廃墟の出口へ向かった。
◆
外に出ると、そこは純白の世界。
雪は静かに降り続け、風は鋭い刃のように肌を刺す。
ロゼリスは一歩踏み出した瞬間、ふらりと足を取られ
雪の上へ倒れ込んだ。
「……あ……冷た……」
それ以上、体は動かなかった。
視界の隅で雪がゆっくりと降り積もる。
まるで世界が自分を静かに飲み込んでいくようだった。
(殿下……アーロン殿下……
……会いたい……触れたい……
抱きしめられたい……
今……この時も……
心から……愛しています……)
そのとき、雪を踏みしめる音が近づく。
ザッ……ザッ……
人影が近づき、ロゼリスの視界に黒い靴が映る。
見上げる力もない。
ただ、冷たい気配だけがわかった。
魔法の効力が切れ、人間に戻ったクロウがそこにいた。
「……逃げるとは。しぶとい女だ」
クロウはロゼリスの首元に刃物を突きつける。
その冷たい光は、まるで命の終わりを告げる刃。
(……あぁ……
本当に……ここで……終わりかもしれませんわ……)
ロゼリスはそっと目を閉じた。
頬を一筋、涙が伝う。
雪の白さに、その涙が静かに吸い込まれた。
そして意識は、ふっと闇に落ちた。




