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ロゼリスは、諦めない!!

誘拐されてから、どれほど経ったのだろう。


ロゼリスは、廃れた倉庫の窓から差し込む朝日を眩しげに見つめる。

もう何度目かもわからない朝の光。

けれど、今日もまた、静かに世界は明けた。


3月の冷えきった風が吹き抜け、骨の芯まで冷たさが染み渡る。

水も食事もろくに与えられず、体力は限界に近い。

それでも、ロゼリスは、手首を血に染めながらなお、鎖を叩き続けていた。


ガンッ ガンッ !!


床に、壁に、何十回、何百回と打ちつける。

痛みで手が震えても、腕が痺れても、止まらない。


(この鎖さえ解ければ……結界を破壊する術も見つけられますわ……!

幸い、人の気配はほとんどない……魔法さえ戻れば生き残れる可能性はある……)


ロゼリスは、ぎゅっと唇を噛み締めた。

(こんなところで死ぬわけには参りませんわ!!)


アーロン殿下に告げていない言葉。

婚約破棄はしません、と。

これからもおそばにいたいのだ、と。


そして

愛するシルビア殿下とルチア様の婚姻式を、この目で見届けるまでは絶対に。


(絶対に生きて帰ってみせますわ!!)


気力だけで立ち続け、鎖を打ち付ける。

何度倒れ込んでも、また立ち上がった。


そんな時


ギィィ……と、錆びついた扉が開いた。



闇の中から現れたのは、殺し屋クロウだった。

その目は、氷より冷たい暗殺者の目。


ロゼリスが鎖を叩いていた姿を見るなり


「……逃げる気か、小娘」


バキッ!!


強烈な拳がロゼリスを襲った。


飛ばされ、壁へ叩きつけられる。

全身に走る激痛、肺から空気が抜ける。


ロゼリスは、口端から血を垂らしながらも、なお立ち上がろうとする。


クロウは刃物を首元へ突きつけ、淡々と言い放った。


「逃げ出すことなど、最初から不可能なんだよ。

恨むなら自分の不幸な運命を恨むんだな」


ロゼリスの胸が冷たくなる。

だが、その瞬間、鎖が、ガラリと音を立てて地に落ちた。


クロウに殴り飛ばされた衝撃で、半壊していた鎖がついに折れたのだ。

ロゼリスは、すぐに手を前にかざし叫んだ。


「いまこそ出番ですわ!もふもふの力!!」


光があふれ、クロウを包む。


「な、何をぐっ……!!」


光の粒が吸い込まれるようにクロウにまとわりつき、彼の姿がぐにゃりと歪む。


「お、おい!?やめ――!」


次の瞬間、光が弾け

床にいたのは、一羽のぽてっとしたフクロウだった。


「……ホ、ホゥゥ!?」


クロウは自分の姿に気づいた瞬間、絶叫に近い声をあげ、そのまま慌てふためきながら飛び去っていった。


「ふぅ……生き延びられましたわ……!」


ロゼリスは息を整えつつ、よろよろと立ち上がる。

次は結界、それさえ破れれば、逃げられる。


「待っていてくださいませ、アーロン殿下……必ず戻りますわ」


ロゼリスは結界の前へと向かい、全魔力を込めて術式を叩きつけた。



その頃――エルバーノ邸。


リリネは怒りで頬を紅潮させ、侍女に怒鳴りつけていた。


「……クロウが、フクロウになって逃げたぁ!?

あの男にどれだけ金を払ったと思ってるのよ!!」


侍女は震えながら答える。


「ろ、ロゼリス嬢の魔法が……その、非常に特殊だったようで……」


リリネはヒステリックな笑いを漏らす。


「ほんっと、男って役立たずばっか!!

あれだけの金を使ったのに逃げるなんて……!!」


侍女はさらに続けた。


「ですが……お嬢様、ロゼリス嬢の魔法を侮っていたとはいえ……あの結界は、お嬢様の血で構築されたもの。

簡単には破れません。ご安心を……」


「当然でしょ? あれは私の“力”の結晶よ」


リリネは口角を吊り上げた。


「――結界が壊れるのが先か、ロゼリスが壊れるのが先か。

さぁ、どっちかしらね?」


狂気を含んだ笑いが部屋に響いた瞬間――


ドン! と強く扉が開いた。


エルバーノ家執事が、真っ青な顔で叫ぶ。


「お嬢様ッ! 大変です!!

シルビア殿下が――今回の誘拐事件の首謀者は“お嬢様ではないか”と疑っておられます!

先ほど王宮の使者が、あなたの動向を調査に来ました!!」


リリネの顔から血の気が引く。


「……なんですって?」


「我々は知らぬと答えましたが……殿下は確信しておられる様子で……」


ガタンッ!!


リリネは怒りで椅子を蹴り飛ばした。


「シルビア……ッ!!

本っ当にムカつく男!!

私が何をしたっていうのよ……全部あのロゼリスが悪いのよ!!」


肩を震わせながら狂気に染まった瞳で呟く。


「どれだけ疑われたって……ロゼリスが死ねば全部終わりよ」


リリネの甲高い笑い声が、夜闇に不気味に響き渡った。

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