卒業の鐘が鳴る日――尊き別れと始まり
いよいよ今日は、ロイエンス学院の卒業式。
荘厳な鐘の音が学院中に響き渡り、朝の空気はどこか晴れやかで、少しだけ寂しい。
三年生のシルビア殿下は、純白のマントを羽織り、凛とした姿で中庭に立っていた。
「シルビア殿下!本日はご卒業おめでとうございますわっ!!」
ロゼリスは両手で大きな花束を抱え、キラキラとした目で近づいてくる。
(ああ……今日のシルビア殿下もなんてお美しい……!!
卒業式の正装が似合いすぎておりますわ……っ!!)
尊みで震えている。
アーロンはそんなロゼリスを見ながら思った。
(……尊みで震えてる姿すら可愛いって、俺もう本当にダメじゃねぇ?)
隣のルチアも、シルビアを見つめながら、どこか誇らしげで、それでいて頬をほんのり赤らめている。
「……シルビア様、おめでとうございます。」
おずおずと差し出された白薔薇の花束。
ルチアの手は少しだけ震えていた。
シルビアはその手を優しく受け取り、
静かに微笑む。
「ありがとう、ルチア。
……この日を迎えられたのは、君のおかげだ。」
その声は、いつも以上に優しく甘かった。
ロゼリス、即死。
「ふぉっ……!!尊……っ……!!」
その場で倒れかけるロゼリスを、
アーロンがひょいっと支える。
「おい、落ち着け。
まだ尊みで死ぬには早いぞ?」
「す、すみま……うぅ……!今日の尊みはレベルが高すぎますの……!」
アーロンは溜息をつきながらも、満更でもなさそうに微笑んだ。
式が始まり、学院の講堂は荘厳な雰囲気に包まれた。
三年生たちがひとりずつ名前を呼ばれ、
晴れやかに壇上へと上がる。
そして――。
「シルビア・ジークス殿下。」
呼ばれた瞬間、空気が変わった。
誰もが自然と背筋を伸ばす。
シルビア殿下は堂々と歩みを進め、卒業証書を受け取った。
その姿は、本当に王の器そのもの。
ロゼリスの目が潤む。
(あぁ……あなた様は……いつだって輝いていらっしゃる……!)
隣のアーロンは、そのロゼリスの横顔に目を細めた。
(ほんと……幸せそうだな、お前。)
式の後、中庭で写真撮影や別れの挨拶が行われる中――。
シルビアはルチアの前に立った。
「ルチア。」
「は、はい……シルビア様……」
「君が学院を卒業するその日、
僕は……君を王妃として迎えたい。」
堂々と、はっきりとした宣言。
ルチアは目を大きく開き、口元を手で覆う。
ロゼリス、再び倒れかける。
(キャーーーーー!!!!言ったぁぁぁ!!言いましたわぁぁぁぁ!!!)
アーロンはまたしてもロゼリスを抱き留める。
「お前……今日で何回倒れるつもりだ……?」
「尊みの供給が多すぎるのですわ!!
もはや私のHPがもちません!!」
そう叫びながらも、ロゼリスの瞳はキラキラと輝いていた。
シルビアとルチアの視線は絡み合い、周囲は拍手と祝福の声で包まれる。
その中で、アーロンはふと空を見上げて呟く。
(……ロゼリスが笑ってるなら、全部それでいい。)
満ち足りたような、優しい表情だった。
⸻
こうして、シルビア殿下の学院生活は幕を閉じた。
そして同時に――。
ロゼリスにとっては、
“とある事件”が起こる前触れの日でもあった。
ルチア誘拐事件の影。
リリネの暗躍。
アーロンの溺愛と焦燥。
ロゼリスの決意。
それらすべてが、静かに動き始める。
――卒業の鐘は、
新たな運命の始まりの鐘でもあった。




