甘くて近すぎる看病ー君に触れたくて
アーロンの傷は、王宮専属治癒師の魔術と、ロゼリスの必死の看病によって驚くほど順調に癒えていった。
だが、アーロンの心は、まったく休まる暇がなかった。
なぜなら。
「殿下! お熱を測りますわ!」
いつものように朗らかな声を響かせて、ロゼリスがアーロンへ近づく。
次の瞬間、彼女の額がアーロンの額に軽く触れた。
……触れた。
距離は指一本分どころではない。
息が触れそうなほど近い。
まるで、キスの直前のように。
アーロンは心臓が跳ね上がるのをどうにも抑えられなかった。
(ちょ、ちょっと待て……!!
こんな距離……男なら誰だって、理性が吹き飛ぶだろ……!!
俺は傷の治療中だぞ!?
いやでもロゼリスは真剣に看病してくれてるのに……なんで俺はキスしたいとか思っちまうんだよ!!)
ロゼリスはまっすぐで、純粋で、優しい瞳で見つめ返す。
「お熱はありませんわ! 良かったですわ!」
にっこりと笑うロゼリスに、アーロンは胸が詰まりそうになる。
(……ああもう……その笑顔ずるいだろ……)
気を紛らわせるように、アーロンは視線をそらす。
「起き上がるときは、必ずお支えします!ですから、無理に動かないでくださいましね!」
そう言って、ロゼリスは慣れた手つきで薬を煎じ始めた。
***
アーロンが刺された事件はすでに国王の耳に入り、王宮を巻き込んだ大捜査となった。
刺客は全員死亡しており、黒幕はいまだ掴めていない。
だが、被害がアーロンだけで済んだことは、不幸中の幸いだった。
兄である第一王子とルチアが口をそろえて言っていた。
「ロゼリス嬢の誘導が素晴らしかったのだ」と。
そしてルミナスは、ロゼリスが国王に直談判した話をしてくれた。
『アーロン殿下の傷が塞がるまで、殿下の私室で看病させてくださいませ!』
元々国王も呼び寄せるつもりだったらしく、むしろその“必死な願い”に驚いたという。
“お前は愛されているな”
国王からそう言われた時、アーロンは顔に出さないまでも、心の奥が一気に熱を帯びた。
ロゼリスが自分を愛してくれている、その事実は、何よりの回復薬だった。
(……本当に……ロゼリス……
今すぐ抱きしめて、キスのひとつでもしたい……好きだ……)
だが、やれば間違いなく怒られる。
『殿下! まだ傷が塞がっていませんのに!!』
と、ぷくっと頬を膨らませて。
その顔を想像するだけで、胸が苦しくなるほど愛しい。
アーロンはそんなことを思いながら、深い眠りへ落ちていった。
夜
「お薬、塗りますわね。痛かったら言ってくださいまし」
ロゼリスは穏やかに声をかけ、アーロンの背に巻かれていた包帯を慎重にほどいていく。
脱がされたシャツの下
矢傷の周りはまだ赤く痛々しい。
「すみません……少し沁みますわ」
綿に薬を含ませ、ロゼリスは恐る恐る指先を動かす。
触れる手は驚くほど優しくて。
「……大丈夫だ。ロゼリスがやってくれてるなら、全然痛くない」
その言葉に、ロゼリスはほっと息をつき、微笑んだ。
包帯を巻き直すとき。
その姿はさらに愛おしいものとなる。
ロゼリスがアーロンの背に腕を回し、身体を寄せて巻くからだ。
後ろから抱きしめるような体勢になる。
アーロンは背中どころか心臓まで痛くなりそうだった。
(な、なんでそんな近いんだよ……
心臓が爆発する……!!)
すると、ロゼリスがふいにぎゅっと抱きついてくる。
「アーロン殿下が無事で……本当に、良かったですわ……
こうして触れていると……安心できますの……」
アーロンの呼吸が、止まった。
(む、無理無理無理無理……!!
ロゼリス……そんなこと言われたら……俺の理性なんて一瞬で飛ぶぞ……!?)
着替えのときもロゼリスの動きは丁寧で、距離は常に近い。
シャツ越しに触れる指先。
肩や胸にかすかに触れる柔らかい感触。
そのすべてがアーロンを熱くさせた。
(ロゼリスが触れた場所……全部が熱い……
……どうなってんだ、俺……)
アーロンの鼓動は、傷よりも強く痛むほど激しくなっていた。
ロゼリスがそばにいるだけで。
胸が苦しくなるほどに、愛おしくてたまらなかった。




