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離したくない人

アーロンの心臓の鼓動は、規則正しく静かに胸を震わせていた。

ロゼリスは、その音に安心しきったように涙を流し続け、いつしか、そのままアーロンの胸の上で眠り込んでいた。


部屋に朝の陽光が差し込む。

ゆっくりと意識が戻ったアーロンは、まず胸元の重みとあたたかさを感じた。


(……これは……)


そっと視線を下ろすと、赤い髪が陽光を受けてきらめいている。

小さく上下する肩。

かすかな寝息。


ロゼリスが、彼にしがみつくように眠っていた。


その目元は赤く腫れ、長いまつげの端には乾いた涙の痕が残っている。


(……随分……泣かせてしまったみてぇだな。すまねぇ……)


アーロンは痛む背中をこらえながら、そっと手を伸ばし、ロゼリスの頬に触れた。

指が触れた瞬間、ぱちり、とロゼリスが目を開ける。

寝起きの潤んだ瞳が、アーロンの金の瞳と正面から重なる。


一瞬の間。

そして


「アーロン殿下っ……!!」


ロゼリスは弾かれたように、ぎゅうっとアーロンにしがみついた。

その抱擁は、あまりにも強くて、震えていて、切実で。


「意識が……戻ったのですね……っ!

よかったぁぁ……生きていてくださって、本当に……よかった……です……

殿下……大好きですわ!

愛しております!

もう絶対に離れないでくださいまし……私……殿下がいなければ……生きていけませんの……!」


必死な声が、胸の奥へ深く突き刺さる。

アーロンは驚きながらも微笑み、片腕で彼女の背を優しく抱き寄せた。


「……ずっと、そばにいてくれたんだな。ロゼリス。

ありがとう。

そして……泣かせて悪かった。お前を心配させたな……」


その言葉に、ロゼリスの瞳から再び涙がぽろぽろこぼれ落ちる。

アーロンはその頭を、ゆっくり、何度も何度も撫でた。


温かで、優しい時間。


そして


ぐぅぅぅぅぅ。

アーロンのお腹が、静寂のなかで豪快に鳴った。


「……」


「……ふふっ」


ロゼリスは涙の中、思わず吹き出した。


「アーロン殿下、お粥を用意してございますの」


小さな机の上には、湯気の立つ白粥。

ロゼリスが徹夜で作った、優しい香りのお粥だった。


アーロンが起き上がろうとすると、ロゼリスが慌てて支える。


「無理に動かないでくださいまし!」


「……悪い。まだ背中が痛むな。

なぁ、ロゼリス……お粥を食べさせてくれないか……?」


その甘い声音にロゼリスは一瞬固まり、すぐに頬を赤くしてこくりと頷いた。


「も、もちろんですわ!」


スプーンにお粥をすくい、フーフーと息を吹きかける。

その仕草を、アーロンはうっとりと眺める。


(……なんだよこれ……可愛すぎんだろ……)


目が合った瞬間、ロゼリスは優しく微笑んだ。


「アーロン殿下、はい……あーん」


「あむ……」


「お味はいかがです?」


「……美味い。めちゃくちゃうまい。

……お前が作ったもんなら何でも食える気がする」


ロゼリスの頬が、ほわっと桃色に染まった。


アーロンの傷は治癒魔術とロゼリスの手厚い看病で順調に回復しつつある。

だがその分、これから数日、アーロンは「看病」という名の甘々な時間を、ロゼリスと共に過ごすことになるのだった。

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