薔薇交換ー交差する想いー
アーロンが差し出した赤薔薇は、舞踏会の灯を受けて淡く輝き、まるでロゼリスだけに想いを囁くように花弁を揺らしていた。
シルビア&ルチアという尊みの化身に夢中だったロゼリスは、突然視界に差し出された薔薇に「えっ?」と間の抜けた声を漏らす。
「ロゼリス」
低く、甘い声が耳に落ちた。
その一言で、ふわふわと夢見心地だった意識は現実へと引き戻される。
「ア、アーロン殿下!? こ、これは……」
ロゼリスの瞳がまんまるに見開かれる。
聖夜の舞踏会では、最初に薔薇を贈った相手が、その夜のダンスパートナー。
しかも一輪目の薔薇は、特別な意味を持つ。
アーロンは小さく笑うと、ロゼリスの震える手をそっと包み込み、赤薔薇を握らせた。
「最初の薔薇だ。……お前が欲しい」
耳元に落ちる甘い声音。
ロゼリスの脳内で、花火が何百発も夜空に打ち上がった。
(えっ……えっ……!?
もしかして……私を選んでくださった……!?
い、いえ、きっと婚約者だから気を遣って……いやでもこの目……!)
心の中で混乱しながら否定しようとするが、アーロンの瞳には真剣さしかなく、冗談の影など一片もない。
「ロゼリス。これは“恋愛実技試験”だろう? なら……最初に選ぶのは当然、お前だ」
「っ……!」
瞬間、頬が桃のように色づく。
周囲からはざわめきが起こった。
「見た!? 殿下、真っ先にロゼリス嬢に……!」
「壁姫、ついに本命の薔薇もらったのか……!」
ロゼリスは混乱し、口をぱくぱくと動かすばかり。
そんな様子を見て、アーロンの口元がわずかに緩む。
「お前からも……薔薇をくれないか? パートナーになりたいなら、交換するものだろう?」
“なりたいなら”と言いながら、断る余地を一切与えていない声音。
ロゼリスは胸元に抱えていた白薔薇を、震える手で差し出した。
「は、はいっ……アーロン殿下。こ、こちら……私の、薔薇ですわ……!」
アーロンはその薔薇を受け取り、満足げに目を細める。
「――これで、お前は俺のパートナーだ。誰にも渡さない」
「~~~~っ!!」
ロゼリスの顔は一気に湯気が噴き出しそうなほど真っ赤に。
(わ、わたくし……今日……もしかしなくても……
殿下の“特別”になってしまったのでは!? ど、どうしましょう……!?)
動揺で心臓が跳ね続けているのに、胸の奥のときめきは、それ以上に暴れ回っていた。
そんな中、アーロンはふと気づく。
ロゼリスの編み込んだ髪に、自分が贈った白いリボンのバレッタがついていることに。
中央のルビーがシャンデリアの光を反射し、まるでアーロンの瞳のように熱を帯びて輝いていた。
(こんなに……嬉しいものなんだな。
俺が贈ったものを、こんなにも可愛くつけてくれてるなんて)
アーロンはそっと、髪に触れる。
「……つけてくれてるんだな。すげぇ、似合ってる」
耳元で囁かれ、ロゼリスはさらに顔を染めた。
「こ、このドレスに似合うと思って……。贈ってくださった殿下にそう言っていただけて……とても嬉しいですわ。ふふ……本当に素敵なプレゼントを……ありがとうございます」
微笑んだその顔が、あまりにも眩しく可愛くて…
アーロンの心は、完全に恋で爆ぜた。
(……もう無理だ。これ以上は我慢できねぇ)
何も言わず、アーロンはロゼリスの手を取る。
「ア、アーロン殿下!? い、一体どこへ――!」
「静かなところだ」
ぐい、と強すぎない力で手を引かれ、ロゼリスは会場を抜けていく。
***
辿り着いたのは、人の気配のない学院のバルコニー。
満月が空に浮かび、その光が二人だけを優しく照らしていた。
寒い夜風が吹き抜けるはずなのに、アーロンの手は驚くほどあたたかい。
「ア、アーロン殿下……?」
振り返った瞬間、アーロンはロゼリスをそっと物陰に誘い、迷いなく顔を近づけた。
触れたのは、強引すぎず、けれど焦がれるほど熱い“キス”。
「っ……!!」
ロゼリスはフリーズし、全身が一瞬で真っ赤になる。
アーロンはその反応に小さく笑うと、あたたかくロゼリスを抱きしめた。
「……ロゼリス。俺、お前が好きだ。
お前が思うよりもずっと前から…お前に恋してる。
この気持ちはもう、抑えられねぇ…」
ロゼリスの心臓は、月明かりの下で暴れた。
二人の恋は、この夜、誰にも止められないほど急加速していく。




