聖夜の幕開けー冬の恋愛実技試験ー
ロイエンス学院では、ある噂が瞬く間に駆け巡っていた。
シルビア殿下とルチアが正式に婚約した。
その知らせは学院中を祝福の色に染め、ついにはロゼリスを中心とした“二人の恋の見守り隊”なるものまで結成されたほどだ。廊下のそこかしこで、ひそひそ声と笑顔が弾ける。
しかし、その祝いムードの中でただ一人、リリネ嬢だけは二人の姿を見るたび、鋭い視線を投げつけていた。
そんな中、ロゼリスはアーバートン邸の自室にこもり、机にノートを広げて、ゲーム内イベントの記憶を必死に掘り起こしていた。
(冬の恋愛実技試験……“聖夜の舞踏会”!
しかも、今回はシルビア殿下とルチア様が婚約して初の舞踏会!!
ということは……尊い……尊い瞬間が大量発生しますわ!!)
鼻息が荒くなる。
明日の舞踏会に向けて、彼女はやる気と妄想を最大限に膨らませながら夜を明かす勢いだった。
***
そして迎えた舞踏会当日。
会場は白と金を基調とした、まるで冬の宮殿のような華やかさだった。巨大なクリスマスツリーには大小の光がきらめき、天井から吊るされたクリスタルの飾りが揺れ、甘い音楽とともに会場を幻想的に彩っている。
その場に、肩に白いファーをのせ、赤と白のサテン生地がくっきり映えるドレスに身を包んだロゼリスが姿を現した。
編み込んで結い上げた赤髪には、アーロンが贈ったルビーのバレッタが静かに輝いている。
その可憐な姿に、会場にいた誰もが視線を奪われた。
……が、当の本人はまったく気づかず、ひたすらに会場入口へ向かってキラキラと目を輝かせていた。
(まだかしら、まだかしら……!
シルビア殿下とルチア様の初の“婚約者としての入場”、絶対に見逃せませんわ!)
まさにその瞬間、会場の音楽がふっと静まり、視線が一斉に階段へと向く。
白と金の燕尾服に身を包んだシルビア殿下。
そして、白いタイトドレスに金刺繍が流れるように施されたルチア。
二人は仲睦まじく手を取り、段差をゆっくりと降りてくる。
その光景は……絵画。
いや、絵画以上に美しい。
「っ……尊いですわ……尊すぎますわ……」
ロゼリスはハンカチを鼻に押し当て、震えながら二人を見守った。
***
そんなロゼリスを、会場の端でじっと見つめている男がた。
アーロン・ジークス殿下
ロゼリスが会場に入ってから、彼の視線は一度も彼女から離れなかった。
(……可愛すぎるだろ。なんだよあの天使。目、離せねぇ)
シャンデリアの光に照らされた白い肌。
彼女の赤髪をより美しく際立たせる赤と白のドレス。
その上、ふわりと揺れるファーの肩掛けがまた愛らしい。
ただ立っているだけで、一輪の薔薇のようだった。
しかもあの笑顔だ。
他の男たちが彼女に目を奪われているのも、見れば分かる。
(ロゼリス……お前は自分がどれだけ魅力的か、ほんっと分かってねぇ)
アーロンは胸の内で深く息をついた。
その手には一輪の白い薔薇が握られている。
(これをロゼリスに渡す。正式に、俺のパートナーとして……隣に立ってもらうんだ。
ロゼリスのパートナーは俺だけ。俺のパートナーも……ロゼリスだけだ)
決意を込めて一歩踏み出す。
シルビアとルチアをうっとり見つめるロゼリスの前へ
アーロンは、すっと赤薔薇を差し出した。
「ロゼリス。……受け取ってくれ」




