ロゼリス、壁姫としての名を馳せる 〜アーロンの独占欲が爆発!?〜
今日はいよいよ、シルビア様の誕生祭の日!
ロゼリスは、気合い十分で拳を握りしめていた。
(今日は、シルビア様がルチア様に愛を囁き、婚約指輪を交わす尊すぎるイベント!
なんとしてでも、愛の守護者である私がリリネ嬢の悪意を華麗に取り除いてみせますわ!!)
鼻息、強め。
昨夜アーロンに「俺のそばから離れるな」と言われたことなど、
今のロゼリスの頭からはすっかり消えていた。
そして、壁にぴたりと背中を貼りつけ、深呼吸。
(ふっ……これで完璧に壁と同化しましたわ!)
まるで訓練された忍者のように周囲を観察する。
(今のところリリネ嬢の姿は見えませんわね……。それにしても、純白のドレスに身を包むルチア様はまるで女神!
その隣で微笑むシルビア様とのツーショット……尊すぎて拝み倒したいですわ……!)
うっとりと目を細めていると――リリネ嬢が登場した。
黒と赤のドレスを纏ったその姿は、悪役令嬢そのもの。
(黒と赤まで完璧に着こなすとは、さすがリリネ嬢……!)
などと感心している場合ではない。ロゼリスはスッと動き、物陰に隠れる。
リリネ嬢は仲睦まじいルチアとシルビアを睨みつけている。
(ケーキが出てくるのは終盤ですわね……。このまま監視を続行いたしますわ!)
その頃
アーロンはスピーチを終え、貴賓たちへの挨拶を済ませながらも、辺りを落ち着きなく見渡していた。
(ロゼリスの奴、どこに行ったんだ……。そばにいろと言ったのに。
まったく、目を離すとすぐいなくなる。自分の魅力に気づいてなさすぎなんだ。ロゼリスは俺のものだってのに……!)
そこへ、ルミナスがワイン片手に近づいてくる。
「殿下、誰をお探しで? ……もしや、壁姫ですか?」
「壁姫?」
アーロンが眉をひそめると、ルミナスはにやりと笑った。
「そんなのロゼリス嬢に決まってるでしょう。最近は、壁に張り付いている姿をよく見かけますからね。
俺が命名しました! “壁姫”! 今や社交界ではちょっとした有名人ですよ!」
「名を馳せてるだと……? それはつまり、男どもがロゼリスを……?」
アーロンの赤い瞳に、ギラリと独占欲の光が宿る。
「そりゃあそうですよ。あんなに可愛いですし。ちょっと奇行が多いだけで人気ありますからね。」
「……っ! ロゼリスは、俺の婚約者だ! ロゼリスは俺のものだ!!誰にも渡す気はない!」
ルミナスは頭を抱えてため息をつく。
「殿下、独占欲強すぎですって。重い男は嫌われますよ?」
「独占欲が強くて何が悪い。……ロゼリスが可愛すぎるのが悪いんだ。俺をここまで魅了して、責任を取ってもらう。」
ルミナスは苦笑する。
(あんなにロゼリス嬢を煙たがっていた殿下が、今やこの有様か。……まぁ、見てて微笑ましいんですけどね。)
「壁姫――いや、ロゼリス嬢なら、さっき向こうで壁とお友達になってましたよ?」
「……っ!」
アーロンはルミナスが指差した方向へと、すぐさま駆け出した。
一方、
アーロンが怒涛の勢いで近づいてきていることなどつゆ知らず、ロゼリスは壁姫モード全開で任務を遂行中。
そして、ついにルチア作の特製ケーキが登場した。
頂上には、見事な白薔薇の飾り。
リリネ嬢は、そのケーキを見てニヤリと笑う。
(あの笑み……まさかっ!)
次の瞬間、リリネ嬢がケーキのワゴンに足をかけ、次の瞬間、
(今よっ! 華麗にリリネ嬢を受け止め、ケーキの崩壊を阻止ですわ!)
ロゼリスは疾風のように駆け、転びかけたリリネ嬢をすっと抱き留め、
同時にワゴンを押さえ込む。見事な体さばきだった。
「おっと、危なかったですわね、リリネ嬢♡」
周囲からはどよめきと拍手が湧き起こる。
「なんと華麗な動き!」「まるで舞踏のようだ!」
リリネ嬢はわなわなと震え、顔を真っ赤にして会場を後にした。
(ふぅ……。これでケーキ事件は無事阻止完了ですわね。いい仕事しましたわ〜。)
そうして迎えた誕生祭のクライマックス。
シルビアがルチアの手を取って、中央へと進み出た。
「今宵は僕の誕生祭にお集まりいただき感謝致します。
僕、シルビア・ジークスはここにいるリーナス・ルチアルーアンと婚約を結ぶことを誓います!」
歓声と拍手。
ルチアは涙ぐみながら指輪を受け取り、シルビアの薬指に同じものをはめる。
(あぁ……この神聖な婚約指輪シーン……尊すぎて心が浄化されますわ……。尊いの極みですわ……。今日も生きてて良かったですわ…。)
うっとりと二人を眺めるロゼリス。その姿はもはや恋する乙女。
そんなロゼリスのもとに、ひとりの影が差した。
見上げれば、アーロンがやや不機嫌そうに手を差し出している。
(アーロン殿下、なんだか少しお怒りですわね……!?
はっ! 昨夜、“そばにいろ”と言われたのに、勝手に動いたから!?)
「その……アーロン殿下、申し訳ありません。
そばにいろと言われたのに、私、勝手に行動してしまって……。」
しゅんとするロゼリスを、アーロンはぐっと引き寄せた。
彼の腕がロゼリスの腰をしっかりと包み込む。
「また、ルチア嬢と兄上を見てたんだろ?」
耳元で低く囁く。
「これからのお前の時間は、俺がもらう。……俺しか見えないようにしてやるから、覚悟しろ。」
真っ赤になったロゼリスは、胸の鼓動を隠せずにいる。
(そんなこと言われたら……本当にアーロン殿下しか見えなくなってしまいますわ……。)
そして二人は、煌びやかな光の中でステップを踏み出した。
その姿は、まるで新たな恋の誕生を告げるように、誰よりも眩しかった。




