ロゼリス、ルチア様にジェラシー!?止まらない乙女心
翌朝。
柔らかな朝日がカーテン越しに差し込み、ロゼリスの頰を照らす。
ぼんやりと目を開けると、視界いっぱいに、アーロンの整った寝顔。
(ど、どどど、どういう状況ですのーーー!?!?)
腰には、アーロンの腕がしっかりと回されている。
その温もりに、胸の鼓動が一気に跳ね上がる。
(寝顔まで美しいなんて……アーロン殿下は罪な男ですわ!!)
思わず、彼の金の髪に指を通し、その頰をそっと撫でる。
(前まではあんなに棘ばかりの殿方だったのに……いつの間に、こんなにも惹かれてしまったのかしら……。)
すると、閉じていたはずの赤い瞳がふっと開き、ロゼリスと目が合った。
「……おはよう、ロゼリス。いい朝だな。」
穏やかな笑みとともに、アーロンはロゼリスの赤髪に軽く口づけた。
「おっ……おおおはようございます!!殿下っ!!ちょっ、近いです!!朝から心臓に悪いですわっっ!!」
顔を真っ赤にして慌てふためくロゼリスは、布団を飛び出し、勢いよく部屋を出ていった。
アーロンはその背中を見送りながら、ふっと笑みをこぼす。
「……まったく。可愛い奴だ。」
朝日が二人を包み込み、王宮の静かな一日がまた始まるのだった。
***
王宮の大理石の廊下を、甘い香りが満たしていた。
バターと砂糖が焦げる香ばしさ。
今日の主役は、“王国一の菓子姫”ルチア。
シルビア殿下の誕生祭ケーキを作るために、彼女が王宮へ招かれていたのだ。
もちろん、その招待を仕組んだのはロゼリスである。
「き、緊張しますわ……シルビア様の誕生日ケーキを私が作っていいなんて……」
不安げにエプロンの紐を握りしめるルチア。
ロゼリスはすぐにその手を取って励ました。
「大丈夫ですわ! ルチア様のケーキは、食べた人を幸せにする魔法がかかっていますもの! きっとシルビア様もお喜びになりますわ!」
「ふふ……ありがとうございます、ロゼリス様。頑張りますね!」
ふんわりと笑うルチアの笑顔に、ロゼリスはうっとりした。
(はぁ……天使ですわ……! 尊い……)
そうしてルチアがキッチンでケーキ作りに励む頃。
ロゼリスは招待客リストの最終確認と、会場装飾の最終打ち合わせに追われていた。
王子アーロンはというと、朝から飾り付け担当の侍女たちと談笑していた。
普段は無愛想な彼が、珍しく柔らかく笑っている。
その光景を、廊下の陰からこっそり覗くロゼリス。
(うぅ……アーロン殿下、あんな柔らかい笑みを浮かべるなんて……! 私には見せたことがない笑顔ですわ……!)
胸が、ちくり。
初めて感じる、刺すような痛み。
「殿下〜、こちらの花飾りはいかがなさいますか?」
「うん、白薔薇をメインで。兄上の好みだ。」
微笑むアーロンに、侍女が嬉しそうに頬を染める。
その様子にロゼリスの眉がぴくりと動いた。
(な、なんですのその柔らかスマイルは!?
あんな顔をされたら誰だって恋に落ちてしまいますわ!!)
無意識に書類をぐしゃっと握りつぶすロゼリス。
胸の奥で、何かがじりじりと燃えはじめていた。
そこへアーロンの声が飛んでくる。
「ロゼリス、そっちの花の配置、頼んでいいか?」
「は、はいっっ! 喜んで承りますわ!!」
笑顔で返事をしながらも、内心は複雑だ。
(殿下が優しいのは素敵ですけど……誰にでもそんな顔をするのは反則ですわ……!)
午後。
嫉妬の火種は、ついに爆発する。
ルチアの試作ケーキの味見をしているアーロンの声が、廊下に響いたのだ。
「お菓子作りが趣味とは聞いていたけど、味も完璧だ。さすがルチア嬢だな。」
「そ、そんな……お褒めいただけるなんて光栄ですわ!」
ロゼリスは、廊下の影からそっと扉の隙間を覗く。
見えたのは――ルチアの指が、アーロンの唇についたクリームを優しく拭う姿。
(ひゃぁぁぁぁ!! ま、眩しい!!)
(ルチア様✕アーロン殿下……なんですのこの破壊力……!)
ルチアの笑顔、アーロンの優しい表情。
二人が並ぶその光景は、絵画のように美しかった。
(……まるで恋人みたいですわ……)
ロゼリスは胸を押さえた。
何かが締め付けられる。苦しい。痛い。
(どうして……? 私、何にこんなに動揺しているの……?)
夕方。
アーロンが部屋に戻ると、ロゼリスは何かを決意したような顔で立っていた。
「……ロゼリス?」
ロゼリスは、真っ赤な顔でアーロンに詰め寄る。
そして、壁ドン。
「アーロン殿下! 私以外の女性をそんな優しい顔で見ないでくださいまし!!」
アーロン、ぽかん。
ロゼリス、勢いそのままに叫ぶ。
「婚約破棄を言い出したのは確かに私ですわ!
ですが……貴方の瞳の中にいたいのは私だけなのです!!
我儘だとはわかっております……!
でも、他の女性に笑いかける貴方を見るのが嫌なのですっ!!」
涙ぐみながら、胸の奥のもやもやを全部吐き出すロゼリス。
アーロンはしばらく沈黙したあと、ふっと吹き出した。
「はは……そう来たか。」
「な、なんで笑うんですの!? 私は真剣ですのよ!!」
「悪ぃ。……まさかお前が嫉妬してくれる日が来るとは思わなかったからな。」
「わ、私はもちを焼いたりなど――!」
言い切る前に、アーロンが一歩近づく。
そして低く囁いた。
「……嫉妬してるくせに。」
その瞬間、ロゼリスは後ずさりし――机の足に足を取られて、ぐらりと傾く。
「危ねっ!」
アーロンが腕を伸ばし、ロゼリスの腰を抱き寄せる。
バランスを崩した勢いのまま、二人の唇が――重なった。
(───っっ!?!?!?)
ロゼリスの時間が止まった。
耳まで真っ赤に染まり、思考が飛ぶ。
だが、アーロンの腕の中で逃げられずにいるその隙に
そっと後頭部を支えられ、再び唇が触れる。
今度は、確かに“キス”だった。
息を呑むロゼリス。
唇が離れ、アーロンが小さく笑う。
「……嫌がらないってことは、そういうことでいいんだろ?」
真紅の瞳が優しく細められた。
それはからかいでも挑発でもなく、
ただ“愛しさ”を隠しきれない少年の微笑みだった。
ロゼリスの心臓はもう限界だった。
(も、もう……どうしてくれるのですか、アーロン殿下……!)
(こんなの、恋に落ちない方が無理ですわ……!)




