恋が香る朝ー初めての登校デート!?
アーバートン邸の朝食の間。
重厚な食器の音が静かに響く。
向かい合って座るロゼリスとアーロン。
テーブルを挟んでいるのに、妙に距離が近く感じるのは気のせいだろうか。
(い、いつもは1人で食事ですのに……アーロン殿下がいると、なんだか落ち着きませんわ……!)
そんな内心を悟られぬように、ロゼリスはカップを持つ手をぎこちなく震わせた。
対するアーロンは、ナイフとフォークを流れるように使い、静かに食事を取っている。
その仕草ひとつひとつが、美しく、優雅で――思わず見とれてしまうほどだった。
(くっ……口が悪くて忘れそうになりますが、彼も第二王子……!
この所作、間違いなく王族のそれですわ……。うう、普通に美しい……!)
そんなことを考えながら、ロゼリスはつい彼の横顔をじっと見つめていた。
すっと通った鼻筋。整った唇。穏やかな瞳の奥に、柔らかい光。
アーロンが、ふいにこちらを見た。
視線がぶつかる。
ロゼリスの心臓が跳ねた瞬間
「……おい。」
アーロンが身を乗り出す。
ロゼリスはびくりと肩を震わせた。
「ソース、口についてるぞ。」
彼の指先が、ロゼリスの唇の端に触れ、ナプキンでそっと拭った。
「あ、ありがとうございます……っ」
距離、近い。
近いどころじゃない。
数センチ先にアーロン殿下の顔。
熱が一瞬で頬を駆け抜ける。
(な、なにを普通に紳士的なことしてくれてますの!?!?!?!?
こんなにもアーロン殿下って……魅力的な殿方でしたっけ!?(超失礼)
ゲームの時はルチア様とシルビア殿下しか見てなかったから気づかなかっただけで……いや、これは反則ですわぁぁぁ!)
ロゼリスの頭の中では警報が鳴りっぱなしだった。
◇◇◇
食事を終え、玄関先で靴を履くロゼリス。
外ではすでにアーロンが待っていた。
「……おい。」
ロゼリスが顔を上げた瞬間、差し出される手。
「一緒に登校するぞ。手、離すなよ?」
「へ……?」
そっと、手を取られる。
そのまま、指先が絡む。
(?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?)
完全に思考が停止した。
頬の熱が爆発寸前。
(な、なにが起こってますの!?アーロン殿下と一緒に登校!?!?!?
そ、そんなこと今まで一度もなかったですわよ!?!?!?
むしろ誘っても断られていたはずですわぁぁぁ!!)
混乱しながらも、アーロンに手を引かれ、邸を出る。
歩幅を合わせるたびに、彼の指がしっかりとロゼリスの手を包み込む。
そのたび、胸の奥がぎゅうっと熱くなった。
「あの、アーロン殿下……? い、いつまでこのままでいらっしゃるおつもりで……?」
「いつまでって、教室着くまでに決まってんだろ。」
「えぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
ロゼリスの叫びをよそに、アーロンは微笑んで前を向いた。
「お前、俺が見てないとすぐどっか行くだろ?
…俺だって、お前の瞳に入ってる時間が欲しいに決まってる。」
その言葉に、ロゼリスの世界が一瞬止まった。
(……へ? ……今、な、なにをおっしゃいましたの……!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?)
顔が真っ赤なままフリーズ。
結局そのままアーロンに手を引かれて教室まで連行された。
◇◇◇
―その姿は、学院中に瞬く間に広まった。
「ねぇ、見た!?アーロン殿下とロゼリス嬢が手を繋いで登校してたのよ!」
「復縁したんですって! あの2人、恋が尊すぎる……!」
生徒たちはキャーキャーと騒ぎ立て、廊下には花びらが舞う勢い。
しかし、当のロゼリスは――未だ脳内フリーズ中。
口を開けば「はひょ……」しか出てこない状態であった。
一方、アーロンは廊下の噂を耳にしながらも、少しだけ嬉しそうに微笑んでいた。
(……まぁ、悪くねぇ。やっと、あいつが俺を“殿下”じゃなくて“男”として見てくれた気がするしな。)
◇◇◇
放課後。
ようやく現実に戻ったロゼリスは、ルチアと並んで歩いていた。
「うふふ。でも、私……嬉しいのですわ。」
「まぁっ!何か嬉しいことでも!?シルビア殿下と、幸せなことでもありましたの!?」
ロゼリスの目がキラキラと輝く。
「ふふ、違いますわ。ロゼリス嬢とアーロン殿下が復縁したことが嬉しいのですわ。」
「……へ?」
「お二人が手を繋いで登校してきた時、とっても神々しかったですもの!
私、お二人の恋、応援してますわね!」
ルチアの純粋な笑顔に、ロゼリスは顔を覆った。
(ひゃぁぁぁぁぁぁ!!推しに応援されてしまいましたわっ!!
う、嬉しいっ……けど……けどっ……!!
アーロン殿下と“復縁”って言われても……!)
胸が、トクトクと鳴る。
息が、ほんの少しだけ速くなる。
(……もしかして私、アーロン殿下のこと……)
手を握られた感触が、まだ指先に残っている。
あのとき見た、真剣な瞳も
ロゼリスの頬が、ほんのりと桃色に染まった。




