大パニック!?もふもふ消失と半裸の殿下事件
柔らかな朝日がカーテンの隙間から差し込み、ロゼリスの頬を照らす。
まどろむ意識のまま、彼女は隣に手を伸ばした。
もふもふ、あの、ふわふわを……。
しかし。指先に触れたのは、もふもふではなく、引き締まった、しなやかな筋肉。
ロゼリスはぴたりと動きを止めた。
ゆっくりと目を開ける。
「………………」
視界に飛び込んできたのは、上半身裸のアーロン殿下だった。
陽光を受けて輝く金の髪。
穏やかな寝顔。
そして、露わな鎖骨から胸筋へと続くライン。
!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?
(な、ななな、なんでアーロン殿下がっ!?!? し、しかも、は、半裸っ!?!?!?!?)
脳がフリーズした。
そして、思考が再起動すると同時に、ロゼリスは心の中で爆発した。
(あああっ!!魔法の効力が切れて人間に戻ったんですのね!?よかった……よかったけど……!!
ま、まだもふもふをもう少し堪能したかった気もしますわぁぁぁっ!!)
ロゼリスは混乱のあまり、枕を抱えて転がりまわる。
◇◇◇
ふと、隣を見るとまだ眠っているアーロン。
寝息を立てるその顔は驚くほど穏やかで、美しい。
(……本当に、綺麗なお顔をしているのですわね……。憎まれ口を叩かなければ、まるで王子様そのもの……)
つい、指先が伸びる。
頬を、そっと撫でた。
その瞬間。
ぱちり、とアーロンの瞳が開いた。
「――っ!?」
ロゼリスは反射的にベッドの上で飛び上がった。
「ふっ……そんなに驚かなくてもいいだろ。」
アーロンは片肘をついて微笑む。
「お前だって、あの子犬が俺だと分かって連れて帰ってくれたんだろ?」
そう言いながら、ロゼリスの腰を軽く引き寄せる。
「っ!?!?!? ち、ちかっ……近いですわ……!」
ロゼリスの顔が一瞬で真っ赤に染まる。
「そ、そそそ、それは承知してましたけれどっ! そ、そのっ、半裸なのは聞いてませんわっ!! 目のやり場に困りますのっ!!!」
両手で顔を隠して慌てふためくロゼリス。
アーロンは、少し照れくさそうに頭をかいた。
「あー……悪ぃ。服がないんだ。なんか借りてもいいか?」
「ま、待っててくださいましっ!」
ロゼリスは真っ赤なまま走り去り、執事キースの部屋から白いシャツを拝借して戻ってきた。
「し、執事用のシャツですが……よかったら、どうぞ……!」
アーロンは苦笑しつつシャツを羽織る。
ボタンを留める指先が妙に艶っぽく、ロゼリスはつい視線を逸らした。
(いけませんわ!目の毒ですわっ!!)
◇◇◇
そのタイミングで。
ガチャ。
部屋の扉が開いた。
キースが朝食の案内に入ってきた。そして、凍りついた。
ベッドの上に、頬を真っ赤にして座るロゼリス。
ボタンを留めかけのシャツ姿のアーロン。
…状況は最悪。
「……殿下。」
キースの声が静かに、低く響いた。
「もしや……純潔無垢なお嬢様を汚したわけではありませんよね……?」
笑顔だが、背後に闇が立ち上る。
「き、キース!?ち、違うの!!これは誤解でしてっ!!」
ロゼリスは半泣きになりながら、昨晩の出来事を必死に説明した。
「なるほど……魔法の影響で子犬に……。ですがお嬢様、たとえ婚約者同士とはいえ、未婚の男女が同室とは……旦那様に何と申し上げればよいか……」
キースは深い溜息をつき、額を押さえた。
「ご、ごめんなさいキース!でも、本当に何もありませんの!ね、殿下!」
「ああ、何もない。俺だって、結婚前にロゼリスに手を出すほど非常識じゃねぇよ。」
アーロンの真っ直ぐな言葉に、ロゼリスの胸が不意に高鳴った。
(……っ、な、何よその言い方。まるで本当に“そういうこと”を考えたみたいじゃないですの……)
頬が再び熱く染まるロゼリスを見て、アーロンは口元を緩めた。
「……顔、真っ赤だぞ?」
「う、うるさいですわっ!!」
◇◇◇
キースはやれやれと肩をすくめた。
「……まぁ、朝食の準備ができております。お二人ともお着替えを終えてリビングへお越しください。」
そう言って静かに扉を閉めた。
残された二人。
静寂。
「……いろいろと迷惑かけたな。悪かった。」
アーロンが真剣な眼差しで言う。
「いえ。そもそも、殿下に間違えて魔法をかけてしまった私が悪いのですわ。でも……どうして殿下があの場所に? 私の魔法、半径一メートル以内でないと発動しませんのに。」
ロゼリスが首を傾げると、アーロンは少し照れくさそうに目を逸らした。
「お前が……魔獣に襲われそうだったから、助けようとしただけだ。」
耳の先が、わずかに赤い。
「……まさかお前が、あんな魔力を持ってるとは思わなかったけどな。」
「……ふふっ。そうだったのですね。ありがとうございます、殿下。」
ロゼリスは微笑み、そっと頭を下げた。
その笑顔に、アーロンの心臓が静かに跳ねる。
二人の間に流れる空気は、昨夜までの“もふもふ同居事件”よりもずっとあたたかく、近かった。




