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恋の防衛戦線

(とにかく! 何がなんでもルチア様を今一人にしてはいけませんわ!)

ロゼリス・アーバートンは、朝から並々ならぬ決意を胸に学院へと登校していた。


前世の記憶によれば、今日、この日こそが、“トイレ水事件”発生日。

ゲーム内でリリネ嬢がルチア様に仕掛ける、乙女ゲーム界屈指の陰湿イベントである。


(今日から私は、ルチア様専属のボディーガードになるの!!)


教室の隅で、真剣な眼差しを放つロゼリス。

その視線の先では、いつも通り穏やかに微笑むルチアがいた。


「ルチア様、何があっても私から離れないでくださいまし!! 絶対にお守りいたしますわ!!」

勢いよく両手を握りしめ、真っ直ぐな瞳で言い切るロゼリス。


「え、えぇ? ロゼリス嬢、どうなさったの……?」


「いいえ! 今日はなんとなく……いえ、確信しておりますの! 貴女に危機が迫っていると!!」


あまりにも真剣なロゼリスに、ルチアは思わず頬を染めた。

「ありがとう……ふふ、ロゼリス嬢はかっこいいですわ」


(えへへ♡ ルチア様に“かっこいい”って言われた♡ 今日もう生きててよかった♡)


心の中で尊死しながらも、ロゼリスは周囲を警戒していた。

敵はあの腹黒令嬢リリネ嬢は何を仕掛けてくるかわからない。


◇◇◇


昼休み。

ルチアがふと、「少しお手洗いに行ってきますわ」と席を立った瞬間、ロゼリスは机を叩いて立ち上がった。


「私もご一緒いたしますわ!!」


ルチアの肩をがっちり掴み、目を輝かせる。

その勢いに押され、ルチアは苦笑しながら頷いた。


二人が学院の女子トイレへ入ると!

廊下には誰の気配もない。


(……来たわね。まさに“事件発生ポイント”)


ロゼリスの脳裏にゲーム画面がよみがえる。

ルチア様が三番目の個室を開けた瞬間、頭上のバケツから冷水が!


(つまり、罠は三番目の扉! ここでルチア様がずぶ濡れになるルートは回避よ!)


だが、ルチアは無邪気に言う。

「三番目が空いていますわね。ここに」


「ルチア様!! そこはダメですわ!!!」


ロゼリスは全力でルチアの腕を引いた。


「えっ!? ど、どうしたんですの!?」


「今日は“3”という数字が不吉だと占いに出ておりましたの! こちらの五番目をどうぞ!!」


半ば強引にルチアを五番目の個室へと押し込み、自分はほっと息をつく。

(ふぅ……完璧な作戦勝ちですわ……推し守護完了!)


その時だった。


カチャリ。

三番目の扉が、ひとりでに開いた。


次の瞬間――。


ザッバァァァァン!!


「ひゃっ……!!?」


ロゼリスの全身に、冷水が降り注いだ。


制服はびしょ濡れ、髪の先から水滴がぽたぽたと落ちる。

ルチアが慌てて扉から飛び出してくる。


「ロゼリス嬢っ!? だ、大丈夫ですの!?」


「る、ルチア様、ただ濡れただけですわ! お構いなくっ!」

震えながらも必死に笑顔を作るロゼリス。


だが、よりによってその場に現れたのは、アーロン殿下とシルビア殿下だった。


(ここ、女子トイレですわよ!! 殿下お二人とも!!)


シルビア殿下は心配そうにルチアの方へ駆け寄る。

「ルチア、大丈夫か? 怪我は?」

ルチアは顔を真っ赤にして首を振る。

「わ、私は大丈夫ですわ! でもロゼリス嬢が……!」


(推しが尊い……尊すぎる……尊みで心が溶ける……)


ずぶ濡れのまま、ロゼリスはぽぅっと二人を見つめた。

その時、不意に肩に温かい布がかけられる。


「……風邪ひくぞ」


顔を上げると、そこにはアーロン殿下。

彼の上着が、彼女の肩を包んでいた。


「ア、アーロン殿下!? 上着、濡れてしまいますわ!!」


慌てて返そうとするロゼリスの手を、アーロンが掴む。

「馬鹿っ……着てろ! お前、自分の格好を見てみろ……」


その言葉に、ロゼリスははっとして下を見た。

ブラウスは完全に透け、下着が見えている。

スカートの裾からは、水滴が滴り落ちていた。


「!?!?!?!?」


ロゼリスの顔が一瞬で真っ赤に染まる。

ぎゅっと上着を胸元で握りしめ、小さな声で呟く。


「……ありがとうございます、アーロン殿下」


その姿を見て、アーロンもわずかに頬を染め、視線を逸らした。


◇◇◇


その後

ルチアの付き添いのもと、ロゼリスは学院の保健室で服を借り、ようやく落ち着きを取り戻した。


鏡の前で濡れた髪を拭きながら、ロゼリスは深くため息をつく。


「……完全に“水被害イベント”、身代わり成功ですわね……」


けれど、その唇には小さな笑みが浮かんでいた。


「ルチア様が無事なら、それで良し。

推しが尊ければ、濡れた服の一枚や二枚……安いものですわ!」

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