恋の嵐、接近中!
放課後、学院の中庭にある噴水広場。
ロゼリスは机の上に広げた“尊みノート”に、今日の出来事を走り書きしていた。
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【本日の尊き出来事】
ルチア様、昼食時にシルビア様のスープをそっと冷まして差し上げる。
シルビア様、「ふふ、ありがとう。ルチア」と微笑。
その瞬間、尊死。はい、尊死。
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「ふふ……やっぱりルチア様とシルビア様は尊いわ……!」
今日も安定の平和。
アーロン殿下の額キス事件(※本人はまだ“友情の証”だと思っている)はさておき、
ロゼリスの心は、推しカップルの尊さで満たされていた。
だが、その幸せな学院生活は、唐突に崩れ去ることになる。
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翌朝。
学院の講堂に響く、教頭の朗々たる声。
「本日より、エルバーノ伯爵令嬢――リリネ・フォード嬢が転入します!」
(……はぁ?)
ロゼリスの手にしていたペンがカツンと床に落ちた。
聞き覚えのある名前。
忘れもしない、この乙女ゲーム『運命と君と』の重要人物。
(ま、待って!?リリネって……“あの”リリネ!?)
この世界の元になったゲームでは、攻略対象ごとに恋敵が変化する仕様だった。
アーロンルートでは、ロゼリス自身が悪役令嬢として恋敵になる。
そして――シルビアルートでは。
(恋敵は……リリネ・フォード!!)
忘れていた記憶が一気に蘇る。
腹黒女神の名を、プレイヤーたちがどれだけ恨んだか。
原作でも彼女は、“微笑む悪魔”と呼ばれていたのだ。
(やっば……この流れ、完全に原作イベント“元婚約者転入ルート”ですわ……!)
ロゼリスは机の下で拳を握りしめた。
リリネは、シルビア様の元婚約者。
その上、ルチア様に「あなたはお似合いじゃありませんわ」と平然と毒を吐く悪女中の悪女。
『シルビア様は、今でも私のことをお想いなの。
貴女のような平民が、シルビア様の隣に立てるとでも?』
前世でプレイした時、ロゼリス(中の人)はコントローラーを投げた。
(あの悪女ではなくて!?いや、私も悪役だけども!!)
尊みの天秤が大きく傾ぐ予感に、ロゼリスは真剣な顔でノートを取り出した。
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【緊急尊み任務】
任務名:「リリネの介入を阻止せよ」
目的:ルチア様とシルビア様の恋の尊き均衡を守る。
状況:リリネ嬢、学院に潜入中。
危険度:★★★★★
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「ふふふ……油断しましたわね、リリネ嬢。私がいる限り、二人には手出しはさせませんわ!」
ロゼリスは立ち上がり、机を叩いた。
目に宿るのは、恋愛守護神(※自称)の炎。
「――愛の守護者、ロゼリス、出動ですわ!!」
その声は噴水広場にこだました。
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中庭の窓辺から、その様子を見下ろす青年が一人。
アーロン・ジークス第二王子。
彼は呆れたようにため息をつく。
「……また何か、やってるな、あいつ」
隣にいたルミナスが笑った。
「恋の守護神モード、発動中ですね」
アーロンは目を細め、ロゼリスの姿を見つめる。
風に揺れる金髪の髪。燃えるような情熱の瞳。
その胸の奥で、ひとつ小さな予感が生まれていた。
(――これから、面倒なことになりそうだ)
恋の嵐は、静かに近づいていた。




