恋のすれ違い警報発令!
剣術訓練の帰り道。
冷たい風が火照った頬を撫でていく。
ふと通りかかった商店街のショーウィンドウに、ひときわ目を引くものがあった。
ー白いリボンに、ルビーの宝石がひと粒。
光を受けて、まるで燃えるように輝いていた。
(……あいつに、似合いそうだな)
そう呟いた瞬間、自分でも驚くくらい自然に口から出ていた。
赤い髪、白い肌。
彼女がこの髪留めをつけたら、きっと綺麗に映える。
そんな想像をしていると――
「殿下、殿下ぁ〜? 珍しく真剣な顔して何見てるんです?」
後ろから、うるさいくらい軽い声。
振り返ると、ルミナスがニヤニヤ顔で立っていた。
「……うるせぇよ」
「おやぁ? あの髪留め、ロゼリス嬢に買って差し上げるんじゃないですか〜?」
「な、なんでそうなる」
「いや、もう顔に書いてあります。“彼女に似合いそうだ”って」
「……っ!」
図星を突かれて、思わず視線を逸らす。
そんな俺を見て、ルミナスはにやりと笑った。
「殿下、今さら照れてどうするんですか。婚約者でしょう?
今まで贈り物のひとつもしてないとか、あり得ませんって!」
「……うぐっ」
その言葉が胸に刺さった。
確かに、そうだ。
俺は今まで、ロゼリスに何も贈っていない。
(……そうじゃねぇんだよな)
ただ笑顔を“見る”だけじゃなく、
その笑顔の理由になりたい。
「……剣、持ってろ」
「はいはい、いってらっしゃい、恋する殿下♪」
からかいの声を背に、俺は髪留めを手に取った。
掌の上で、白と紅が交じるその小さな飾りは、
まるでロゼリスそのもののようだった。
(よし……これ、渡す)
⸻
翌日の放課後。
学院の校門を出ようとするロゼリスを、思いきって呼び止めた。
「ロゼリス!」
「殿下? どうなさいましたの?」
不思議そうに首を傾げる彼女の前に立ち、
ポケットから小さな箱を取り出す。
「こ、これ……お前にやる」
「……え?」
「お、お前に似合いそうだと思って、買ったんだ」
言い終えた瞬間、顔が熱くなる。
ルミナスの言葉を思い出して、
“素直に言え”と何度も心の中で繰り返した結果がこれだ。
ロゼリスは驚いたように目を瞬かせ、
次の瞬間、ぱぁっと笑顔を咲かせた。
「わぁ……かわいいっ!」
リボンの髪留めを手に取り、陽の光にかざして眺める。
その瞳が、まるで宝石よりも輝いて見えた。
「殿下が選んでくださったんですか?」
「あ、ああ」
「ふふっ……とっても嬉しいですわ。少し待ってくださいね」
そう言うと、彼女はその場で髪をほどき、器用に髪留めをつけた。
白いリボンに、赤い宝石。
揺れるたびに、ルビーが光を反射して彼女の頬を照らす。
「殿下、どうですか……? 似合ってます?」
ーその瞬間、息が詰まった。
(か、可愛すぎんだろ……!!)
視線を逸らすのも惜しいのに、
見ていると心臓が暴れすぎて呼吸ができなくなる。
「……あ、ああ」
ようやく絞り出した声は、情けないほどかすれていた。
「ふふっ、ありがとうございます。これ、大切にしますね」
「お、おう……」
ロゼリスは満足そうに微笑んで、くるりと髪を揺らす。
ルビーが陽の光を反射して、まるで小さな炎のように輝いていた。
⸻
ロゼリスが去った後。
遠くから見ていたルミナスが、満面の笑みで近づいてくる。
「おぉ、ちゃんと渡せたんですね、殿下!」
「うるせぇ」
「で、言いました? “君に似合いそうだから買った”って!」
「……言った」
「おぉ! 成長してるじゃないですか! で、ロゼリス嬢の反応は?」
「笑ってた」
「良かったじゃないですかぁ! これで殿下の株も――」
「……“殿下、友達からこんな素敵な贈り物をいただけるなんて嬉しいですわ”って言われたけどな」
「…………え?」
「“これからもお友達として仲良くしましょうね”って言われた」
「…………」
「……………南無」
「黙れ」
⸻
(……まぁ、まだだ。
あいつが“友達”って言うなら、
その先を俺が“恋”に変えてやる)
そう心に誓って、アーロンはそっと夕陽を見上げた。
ルビーのような光が、遠くで燃えていた。
読んでいただきありがとうございました!
ここでアーロン視点のストーリーは終わりになります!
次回からはロゼリスの推しカプの2人に嵐の予感!?
ロゼリスと同じ悪役令嬢がもう1人登場する予定です!
よろしくお願いします!




