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恋の回り道ー手を繋ぐ距離、心の距離

快晴。

王都の街並みが金色の陽射しに照らされ、石畳の通りがきらきらと光っていた。


(完璧な天気だ。今日は……最高のデート日和だ)


胸の奥が落ち着かない。

昨日まで頭の中で何度も繰り返した“デートプラン”を思い出しながら、俺は深呼吸をした。

花束よし。店の予約よし。服装も……まあ、兄上が選んでくれたから大丈夫だろう。


(大丈夫……きっと上手くいく)


そう言い聞かせながら、約束の場所――学院前の噴水広場へ向かう。


そして、そこにいた。


ロゼリス。

いつもより髪をゆるく下ろして、淡いクリーム色のワンピースを身にまとっていた。

陽に透ける髪が金糸みたいに揺れて、まるで光の中に立っているようだった。


「殿下、待たせてしまいましたか?」


「……いや、今来たとこだ」


うっかり見惚れていたなんて、死んでも言えない。

心臓がやたらとうるさい。

いつもは平然と話しているはずなのに、今日は言葉がうまく出てこない。


そんな俺の様子に気づいているのか、ロゼリスはふわりと笑った。


「それで、本日は“劇の資料集め”でしたわね?」


「……は?」


聞き間違いかと思った。


「え、いや……その……デート、だろ?」


「えっ……!? い、いえっ! だって、以前おっしゃっていましたでしょう?

“役作りには実体験が必要だ”と!」


「……やっぱり俺の恋路を地獄へ向かってる…?」


思わず頭を抱える。

ロゼリスはきょとんとしたまま、

「え? 違いましたの?」と首を傾げてくる。


(可愛い……けど違ぇ……!)


「……いい。とにかく行こう」


もう説明する気力もなく、俺は歩き出した。

けれど。


「――あれ? この道……でしたか?」


数分後。ロゼリスの声が上ずった。


「違うな。地図だと……あっちのはずだ」


「でも、あちらは公園ですわよ?」


「……え? じゃあ、こっち?」


「……こちらは……市場ですわね」


そして、気づけば俺たちは、王都の裏路地で立ち尽くしていた。


完璧なはずのデートプラン、開始3分で崩壊。


「……殿下、もしかして方向音痴でいらっしゃいます?」


「お、俺は地図が読める男だ! ただ、地図が間違ってるだけで!」


「ふふっ……それを世間では“方向音痴”と呼ぶのでは?」


くすくす笑うロゼリス。

その笑顔を見て、なんだかもう、迷ってることすらどうでもよく思えてくる。


「……まぁ、遠回りも悪くない」


「え?」


「たまには……こうして、回り道してもいいだろ」


そう言いながら、彼女の方に視線を向ける。

すぐ隣にいるのに、どうしようもなく遠く感じる。

けど、ほんの少しの勇気で、その距離を埋められるかもしれない。


手を伸ばせば、届く距離。

それでも、簡単には触れられない。


(……今、手をつなげば、きっと変わる)

(けど……もし、また“演技の練習ですわね?”とか言われたら……)


躊躇しているうちに、ロゼリスがくるりとこちらを向いた。


「殿下?」


「な、なんでもねぇ!」


焦って視線を逸らす俺。

だがその瞬間、ロゼリスの手が、ふいに俺の袖口をつまんだ。


「迷わないように……。少しだけ、つないでもよろしいですか?」


その言葉に、思考が一瞬で止まる。


指先から伝わるぬくもり。

かすかな花の香り。

その全部が、心臓に直接触れてくるようだった。


「……ああ、いいよ」


言葉に出すと、喉がかすかに震えた。

ロゼリスは少し照れたように微笑んで、俺の手を握り直す。


その手は驚くほど小さくて、でも温かくて。

たったそれだけのことなのに、胸がいっぱいになる。


(……この距離を、ずっと守りたい)


そう思いながら、俺たちは人混みの中をゆっくり歩き出した。


回り道のデート。

完璧なプランなんて、どこにもなかった。

けれど、手をつないで歩くだけで、

それが誰よりも完璧な時間だと気づいてしまった。



***


夕暮れ。

オレンジの光が石畳を染める。


ロゼリスはふと立ち止まり、手を離しながら言った。


「今日は……楽しかったですわ。次の“劇の練習”も、楽しみにしておりますね」


「……おい、それデートだって言ってんだろ」


「ふふっ、殿下ったら冗談がお上手ですのね」


やっぱり通じてねぇ。


だけど、それでもいい。

俺の隣で笑ってくれている。それだけで十分だ。


(いつかきっと、“演技”じゃなく“本当の想い”として届く日がくる)


そう信じながら、

アーロンはそっとロゼリスの背中を見つめた。


(恋ってやつは、まっすぐ進めねぇ。けど……それも悪くねぇな)

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