恋の暴走ーロゼリス、まさかの誤解!
昼下がりの学院の廊下。
アーロンは腕を組みながら、ため息をついていた。
(……隣にいても、意味ねぇんだよな)
どれだけ近くにいても、ロゼリスの視線はいつも別の方向――つまり、ルチア様。
これまで我慢してきたが、そろそろ限界だった。
何かしら強い行動に出なければ、このまま一生「背景」扱いされそうだ。
(もう、何かしら“行動”を起こすしかねぇ)
そう心に決めて歩き出した、そのときだった。
「アーロン殿下ぁ♡ お暇でしたら、私とお茶でもいかがです?」
香水の甘い香りとともに、金髪の令嬢・ランビーズ嬢がアーロンの腕に絡みついた。
胸元は大胆に開き、視線を誘うような仕草。
その距離、近すぎる。
(……出た。苦手タイプ。
“男は色気で落とせる”って思ってる女……マジで無理なんだよな。)
とはいえ、第二王子として冷たく突き放すのも角が立つ。
どうにかやんわりかわそうとしたその瞬間――。
「ランビーズ嬢、殿下が困っておいでですわ」
涼やかな声が響いた。
振り向けば、そこにはロゼリスが立っていた。
姿勢は堂々と、表情は優雅に。
「なによ! あんたはアーロン殿下に婚約破棄した女なんだから黙ってなさいよ!」
ランビーズ嬢の棘ある言葉にも、ロゼリスは眉ひとつ動かさない。
「確かにそうですわね。ですが、皆様お忘れのようですが――私、これでも風紀委員ですの」
そう言って、ロゼリスはランビーズ嬢の胸元に手を伸ばし、器用にボタンを留めた。
「こんなに胸元が開いていては、殿方も目のやり場に困ってしまいますわ。
それに“服装の乱れは心の乱れ”とも言いますもの。どうぞお気をつけあそばせ。」
完璧な微笑と共に、優雅に一礼。
周囲の女子たちは「さすがロゼリス様……」とざわめき、ランビーズ嬢は顔を真っ赤にして逃げ出していった。
その一部始終を見ていたアーロンは、胸の奥がじんわり熱くなるのを感じた。
(……やっぱ、こういうところが好きなんだよ)
思わず、口が勝手に動いた。
「――俺は、ロゼリス以外に興味はない!」
…しん。
その場にいた全員の動きが止まる。
そして次の瞬間、爆発したような歓声が上がった。
「きゃーーっ! ロゼリス様への愛の告白ですわーっ!!」
「まさか、復縁宣言!?」
「ロマンチックすぎるぅぅ!!」
アーロン:「……は?」
ロゼリス:「……あっ!なるほど!!」
(なるほどってなんだ!?)
キラキラした瞳でロゼリスが言った。
「殿下、今のは“演技指導”ですのね!? 新しいロマンス劇の練習でしょう!?
“第二王子の愛の告白”なんて、素敵な題材ですわ!!」
「どんな劇だよ!!? 俺の人生、いつから舞台になった!?」
ロゼリスは完全に勘違いしたまま、真剣な顔でアーロンの手を取った。
「それでは、相手役を務めますわ! せっかくですから練習、いたしましょう!」
「れ、練習!?」
「ええ、“感情を込めて言葉を伝える練習”ですわ! さぁ、台詞をどうぞ!」
(やめろ、そのキラキラした目で言うな……!)
もう止められない。
ロゼリスはアーロンの手をぎゅっと握り、まっすぐに見つめる。
紅い瞳が真剣に揺れて――。
「……あなたを、愛していますわ!」
ー沈黙。
アーロンの脳内、真っ白。
心臓はとんでもない速度で暴れ、顔が一瞬で真っ赤になる。
(……待て。演技って言ってたよな? これ、演技なんだよな?
…でも声が甘すぎるし、距離近いし、息、当たってるし……やばい、これ……本気で倒れる……)
アーロンは咳払いをして、どうにか正気を取り戻そうとした。
だが、ロゼリスは満足そうに微笑んでいる。
「殿下、とてもよい練習でしたわ!
ああ、“演技”とはいえ、殿下の情熱が伝わってまいりました!」
「……演技じゃねぇんだが……」
「次はキースにも見てもらいましょうか? 感情表現の練習として!」
「やめてくれ頼むからぁぁぁぁ!!!」
ロゼリスは本気で“劇の稽古”だと信じて疑わない。
一方、アーロンは顔を覆いながら呟いた。
「……この恋、攻略難易度、地獄級だな……」
そして、遠くから聞こえてくる生徒たちの囁き。
「ロゼリス嬢、やっぱり殿下と復縁するのかしら……?」
「“演技”って言ってたけど、どう見ても本気の告白よね……!」
「次はキスシーンの練習かしら……!!」
それを聞いたアーロンの耳がさらに真っ赤になったのは、言うまでもない。




