表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/69

春風に咲いた恋(Aaron side story)

いつも読んでいただきありがとうございます。

ここから数話はアーロン視点のストーリーを挟みます!

アーロンとロゼリスの幼少期、そして、ロゼリスに振り向いてもらうために奮闘するアーロンの頑張りを見守っていただけると嬉しいです!

よろしくお願いします!

夜風が静かにカーテンを揺らしていた。

王立学院の夜――

広い寮の一室で、アーロンはただ、天井を見上げていた。


昼間に学院で聞いたロゼリスの言葉が、何度も耳の奥で響く。


「……額へのキスは“友情の証”だそうですわ!」


「……はぁ?」


思わず声が漏れ、ベッドに片腕をかけて顔を覆った。

自分の唇を触れる。ほんの一瞬の額へのキス。

あの時、彼女は少し目を丸くして――

ほんのり頬を染めていた。


なのに、友情の証。

それで終わりかよ。


「……お前はほんと、鈍すぎる」


どれだけ近くにいても、

彼女の中の“俺”は、いつだって脇役のままだ。


額を掻きながら、アーロンは苦笑した。

だがその笑いの裏で、胸の奥に小さく疼く痛みを感じる。


その痛みが、やけに懐かしい気がして――

彼の脳裏に、あの日の春の記憶が浮かび上がる。



***


まだ、王都の空が柔らかい春色に染まっていた頃。

王太子としての務めにも慣れず、

人の視線に疲れていた幼いアーロンは、

護衛を撒いて城を抜け出した。


どこまでも続く人のざわめきと、春祭りの花の香り。

初めて触れる“自由”に、少しだけ笑みがこぼれた――その時。


「まぁまぁ! お一人で? 迷子ですの?」


ぱっと差し出された小さな日傘。

その下で、紅い髪の少女がきらきらと笑っていた。


「……迷子じゃねぇ」


「うふふ、強がりですわね。

でも大丈夫ですわ。わたくし、案内には自信がありますの!」


強引に手を取られ、導かれるままに歩く。

市場の喧騒の中、少女は屋台の菓子を買い、

アーロンの手に押しつけた。


「はいっ、これ! お砂糖の焼き菓子ですわ! 甘くておいしいんですのよ!」


「……王子に、ものを渡すな」


「まあ、王子様だったんですの!? ……でも、関係ありませんわ!」


その笑顔が、春の光を受けて、まるで一輪の花のように輝いていた。


転びかけたアーロンを支えたその手は、温かかった。

そして別れ際、少女は少しだけ背伸びして言った。


「またお会いできるといいですわね。

そのときは、“アーロン様”って呼んでもいいかしら?」


その言葉が、不思議と胸の奥で響いた。

初めて“殿下”でも“王子”でもなく、ただの“アーロン”として呼ばれた。


(……なんだ、この気持ち)


それが、少年が初めて知った“恋”という名の痛みだった。


けれど――運命は残酷で。

後にその少女が“アーバートン家の令嬢”だと知った時、

婚約という形で彼女と再び結ばれた。


だが、それは政治の駒としての婚約。

“自由に笑う彼女”は、もう遠くなっていた。


静かな夜に、アーロンは目を閉じた。

あの頃の笑顔が、今のロゼリスと重なる。


(……やっぱり、変わってねぇな。

あの頃からずっと、俺はお前に惹かれてたのかもしれねぇ)


認めたくなくて、

わざと意地悪をした。

挑発もした。

それでも、彼女はいつだって真っ直ぐに笑って――

誰か“別の誰か”の尊さを語る。


「……馬鹿」


低く呟いた声が、夜気に溶ける。

手のひらに残る、あの額の感触が離れない。


「友情の証、ね。

だったら――この想いは、何の証だ?」


胸の奥で鳴る鼓動がうるさい。

ロゼリスの笑顔も、声も、仕草も、すべてが頭から離れない。


アーロンはバルコニーの手すりを握りしめ、

冷たい月を睨むように見上げた。


「……見てろよ、ロゼリス。

今度こそ、“友達”なんて言わせねぇ。

お前を、ちゃんと――俺の方へ振り向かせてやる。」


夜風が、春の匂いを運んでくる。

あの日の少女の笑顔が、

再び、彼の心に花を咲かせていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ